白く―――草も木もない、四角い「ジャングル」・・・それが、彼女達の闘いの場でした。
互いに身体を鍛え、技を磨き―――そして、観る者を魅了する・・・
確かに、「プロレス」と云うモノは、エンターテイメント要素の高い「ショー・ビジネス」でもありました。
ある程度の「筋書き」があり、最後には「善玉」が勝つ・・・
しかし、「例外」が一つあるとしたなら、それは「これから」行われるのです。
第百三十話;序盤戦
実:さあ〜〜今回も始まってまいりました。
会場は早くも、興奮の坩堝と化してきております―――司会と実況は、わたくしが担当しております。
さて―――解説さん、今回の「試合」は、「UFP」「GPL」の、「頂上決戦」・・・と、なっておりますが、いかがでしょう―――
解:そうですね〜〜―――GPLの王者であるドーラは、最新気鋭の実力者・・・パワーもテクニックもあって、恐らくは彼女こそが、現段階での「最強王者」と呼ぶに相応しいでしょう。
片や、UFPのエルムの方は、全盛期時代ほどのキレは、なくなっていますからね〜〜。
実:そうですか〜〜・・・さて、そうしている間に、両者の入場です!!
今回オンドゥで行われる「試合」は、UFP・GPLの、両王者対決。
けれど、今回行われるのは、これだけが総てではなかったのです。
銀河に散らばる、違う試合会場―――5つにて、この両団体の選手による「交流試合」がセッティングされ、
何れも、熱い火花を散らしていたのです。
そう、つまりは・・・オンドゥでの試合は、今回6つあると云われている試合の内の一つだったのです。
それにまた、各試合会場には、「多元中継」も実施していた―――いわゆる、一つの会場でも、他の会場での試合内容が、判る仕組みになっていたのです。
そうしている内、オンドゥの会場では、ドーラとエルムが入場する際の「曲」が流れてきました。
そのまず最初に―――現在の「宇宙プロレス界」において、敵う者はいない・・・まさしく「最強の王者」に相応しい、「ロック調」の「入場曲」・・・
それこそが、GPL王者である、ドーラ=クジャナ=エイブラムスの「曲」なのです。
片やエルムは―――・・・
その、エルムの「入場曲」を聴き、彼女の事を旧くから知るヱリヤは、こう呟いたのです・・・
「ふふ・・・そう、それが「今の」あなたなのね―――」
「これは、本当に愉しみになってきたと云うモノだわ・・・。」
「なんと云っても、あの・・・「幻」で「伝説」にもなっている、『東洋の巨人』のモノなんですもの―――」
「入場曲」とは、単に観客の興奮を、否が応でも焚きつける為のモノだけではない・・・
闘争者自身の、精神の高揚を・・・いわば、「闘争心」を、より昂ぶらせる為にある―――
そして、今現在のエルムの状態が、どの程度であるのか、旧知の間柄であるヱリヤは、知る事が出来たのです。
そう・・・あの「入場曲」こそは、偉大なる王者の、高潔なる魂が、そのまま曲調になったモノ―――
そして、奇しくも、エルム自身が手塩にかけ、育ててきた愛娘から、「ピン・フォール」を奪った試合で使用したモノ・・・
最早、「八百長」だの、「手加減」だの・・・と、云う「見せかけ」は、微塵にもない―――
おそらく、エルム本人が「その気」になれば、試合時間の「最短」を記録するかもしれない・・・
それだけの雰囲気が満ちていたのです。
実:さあ〜〜解説さん―――いよいよ、正規の一大決戦と云っても、差し支えのない試合が始まりますね。
さて、この試合の行方、どう思いますか。
解:そうですね〜〜やはり、ドーラ優位の下に、試合展開はされるのではないでしょうか。
なにしろ〜・・・
実況・解説席にて、なされている二人の会話を聴き、ヱリヤは一笑に附しました。
「全く・・・判っていない人達もいたモノね。」
「シュターデンが、どれだけ「本気」なのかも知らないで・・・」
その少女の呟きを、隣りに座って観戦していた、リリアは聞き逃しませんでした。
そこで、どうしてそんな事が云えるのか―――と、訊いてみると、ヱリヤは目を細めて・・・
これから面白い事が起きるのを、さも知るかの如くに、「まあ・・・よく観ていなさい」と、リリアに語りかけたのです。
そしてリング上では、これから公正な試合が行われるよう、「審判」による、厳正なボディ・チェックが行われていたのです。
しかし・・・その最中であっても―――両者は、互いの息が相手にかかるくらいの近距離にて密接し、相手を睨みあいながら、無言の内で挑発を行っていたのです。
しかも審判が、自分達のコーナーに戻るよう促せても、両者は譲る処が見られない・・・
それに、観客からの声援も、最早彼女達の耳には、届いている様には見受けられなかった―――・・・
その事を素早く察知すると、審判は試合開始の「合図」を―――「制限時間・無制限一本勝負」のコールと共に打ち鳴らしたのです。
けれどしばらくは・・・エルムとドーラの睨みあいは続いたのです。
そして・・・次第に、ドーラの独白が―――
ド:私は・・・新人の頃は、あなたの事を大変尊敬していました―――
この、「宇宙プロレス界」を創設し、人気を不動のモノとしたのですから・・・。
だから―――いつかはあなたと手合わせをしてみたかった・・・これは、私の本心です。
けれど、それは昨日まででした・・・私が目標としてきた人は、無礼極まりない人だったのですから!
未だ「善玉」の色が濃いドーラは、試合の時は勿論のこと、普段でも「潔しであれ」が信条でした。
だから、前日あった会見場でのやり取りは、ドーラにしてみれば、「礼儀知らず」の何者でもなかったのです。
けれど、これだけ相手から云われても、エルムからは何の反応もありませんでした。
それは、前日の、自分の行為に恥じていたから―――ではなく、「本気」「真剣」だからこそ、何も語る必要がなかった・・・
そして―――・・・
実:さあ―――リング上では、両者睨み合ったまま、一歩も動きませんが・・・コレは一体―――・・・
おっと?! 今動きがありました―――
解:どうやら、相手の動きを窺っていたみたいですね〜。
きっかけは突然に―――リング中央で、エルムとドーラはガッチリと組み合い、互いの力量を試し始めたのです。
それにしても、ドーラは不思議に思いました・・・。
それを物語るモノが、彼女の内に去来したのです。
「なぜ・・・「宇宙プロレス」の創始者である、この人が―――」
「なぜ・・・現在に措いても、これほどの強さを―――」
「重い・・・この、両肩に圧し掛かるかのような感覚は、今まで私が対戦して来た、どの相手からも感じた事はない・・・」
「紛れもない・・・この人は、強い―――」
「だからこそ、判らない・・・前日の、この人の態度が―――・・・」
会見場での、いかにも自分を侮ったかのような態度とは、まるで裏腹・・・
それは、「宇宙プロレス」を創設した「古株」とは思えないほどの「力量」・・・
だからすぐに察したのです、エルムが未だ「現役」であると云う事を。
けれど、それを知ったとしても、ドーラは一歩も退きませんでした。
それは、自分が「GPLの王者」でもあったプライドも、そこにはあったからなのでしょう。
だからドーラは、エルムと組み合った時から、どうすれば自分が優位に試合を展開できるか、思案を巡らせたのです。
そして―――・・・
実:おおっと―――試合が一気に動きました! 早い展開です!
GPLの王者ドーラ、エルムとがっちりとリング中央で組み合い、そこから至近距離での・・・「フランケン・シュタイナー」〜!
さすがは最強の王者―――と、云ったところでしょうか、解説さん、エルムに反撃の糸口さえ与えさせませんね!
解:そうですね〜〜それに、こうした展開は、ドーラが最も得意としていたモノですからね〜。
もしかすると、ドーラは早期決着を狙っているかもしれませんね。
実況・解説席では、口々に相手の事を囃し立てている者達がいる・・・
全くもって、耳障り甚だしいモノだ―――
彼らは知らない・・・「真の王者」の強さと云うモノを・・・
なぜ、エルムが―――「宇宙プロレス」を創設した「古株」が、どうして未だに「現役」なのか・・・
それは、単純に「強いから」―――と、云うだけではなく、創設当時から発展してきた、数々の「技のノウハウ」と、云うモノを知り尽くしていたから・・・
そのことは、どう極まれば、相手は失神し―――どう躱せば、その技から逃れられるか・・・
それは同時に、現在の状況の様に、完全に極まっている「寝技」から、逃れる術も心得ていた―――
けれど、それでも・・・エルムは反撃をしなかったのです。
なぜなら・・・エルムは知っていたから―――今ここで、反撃をしても、「観客は湧いてこない」と、云う事を、熟知していたのですから。
=続く=