GPL王者の「必殺技(オリジナル・フェイバリット・ホールド)」・・・この技が、完全に極まったのを見て、会場に集まっていたドーラのフアンや、解説席の二人は、

この試合が、最早ドーラのモノだと、確信をして疑いませんでした。

 

それとは裏腹に、リング上では・・・(いま)だ余裕すら見せるエルムと、彼女を逃すまいと、必死に力を入れるドーラの姿が・・・

 

けれど結果は、既に明白なのでした。

 

 

 

ド:あ・・・あ・あ!!(そ―――そんな・・・! 私の、血と汗と涙の結晶が!!)

エ:丁度お時間の様だ・・・この後、待たせている人がいるもんでね―――・・・一気に決めさせて貰うとするよ!!

 

 

 

一世一代で、一つの団体の「王者」にまで昇りつめた者の、「極め技」・・・

そこには、並大抵ではない苦労がありました。

 

何度も・・・幾度も・・・試行錯誤を重ねて、ようやく出来上がった、「自分だけの技(オ リ ジ ナ ル ・ ホ ー ル ド)」―――

それは、「レスラー」にとっては、「ベルト」や、王者と云う「称号」と、同じくらい・・・やもすれば、それ以上に「大切な宝物」の、はずなのに・・・

 

それが今、音を立てて崩れて行く―――・・・

 

そこには、GPL王者の誇りと共に、大切なモノまで失った、若き王者の姿があったのです。

 

それでも容赦なく、無敵・無配の王者は、牙を剥いて襲いかかってきたのです。

(いま)(かつ)て、誰にも破れた事のない―――まさしくの「究極技(フェイバリット・ホールド)」を(もっ)て・・・

 

 

 

リ:あ・あ―――・・・あれは?!!

ヱ:フフ―――もうこの試合、決まったも同然ね・・・。

  あの技から逃れた者を、私は一人として知らない・・・

  あれこそは、シュターデンの「必殺技(オリジナル・フェイバリット・ホールド)」―――その名も、「パロ・スペシャル」!!

 

 

 

相手の背後から、()し掛かる様にして組みつき、振り落とされぬよう、自分の両足を、相手の両足に絡め、

そして仕上げに、相手の両手首を持ち上げ、背後に捻り上げる―――

この技を完成させる為に、必要なのは・・・驚異的なバランス感覚―――

しかもこの技は―――・・・

 

 

 

ド:うぅっ―――・・・こ、これは!!

エ:どうだい―――この私の「必殺技(オリジナル・フェイバリット・ホールド)」の感想は・・・

  この技はね、全くと云っていいほど、私自身の力を必要としないのさ。

  あんたが藻掻(も が)いてくれれば藻掻(も が)いてくれるだけ―――その抵抗が、そのままあんたの身体に返ってくる・・・そう云う「技」なのさ。

 

 

 

けれど―――かと云って―――この技から逃れようとする時に、どうしても力を入れなければならず・・・

またその際に身動(み じ ろ)ぎすれば、それだけ・・・ドーラ自身に、その反動が返ってきたのでした。

 

そして今では、上体をリングに()(つくば)らせ―――しかも、曲る限界まで曲げられた為か、次第に両腕の感覚までも失われてきた・・・

逃れるタイミングも―――術も失ったドーラの口からは、最早この一言を絞りだすのに、精一杯でした・・・。

 

 

 

ド:ギ・・・ギブ―――ギブ・アップ・・・

 

 

 

自分から敗北を認めた宣誓を、審判(レフェリー)が聴くに及び―――試合終了を知らせるゴングを要請・・・

試合時間45分に及んだこの試合は、UFP王者エルムの勝利によって、幕を閉じたのです。

 

 

そして閉会式―――

普通ならば、互いの健闘を分かち合い、しかも「頂上決定戦(タ イ ト ル ・ マ ッ チ)」でもあった為、どちらか一方の「チャンピオン・ベルト」の異動があって然るべき―――だった、の、ですが・・・

 

そのセレモニーの最中・・・ドーラ・エルム両者の健闘を讃え、「来賓(ゲ ス ト)」で来ていた「フロンティア理事」からの祝辞もあり、

ドーラの「GPLチャンピオン・ベルト」が、エルムの手に渡されようとした時に・・・

 

 

 

ジ:好い試合でした―――よく頑張りましたね。

ド:ありがとう・・・ございます・・・。

 

ジ:エルム、君も―――

エ:テヘヘ~・・・なんだか照れちゃうわぁ~♪

 

司:それではこれより―――GPLチャンピオン・ベルトの異動を・・・

エ:ちょ~いと待った―――

 

司:―――はあ?

エ:そいつは、最初(は な)っから受け取るつもりはないよ。

ド:で・・・ですが―――では、どう云うつもりなのですか??

 

エ:フ・・・単ぁん純な話しさ、二つもベルトを付けてると、重たくって仕様がない。

ド:そ―――そんな理由で?!

  ではあなたは・・・私の団体の、先人達の苦労と栄光を―――・・・

 

エ:そ~れが、「重たい」って、云ってるんだよ。

  それに、あんたは「筋」もいい―――もちっと、(試合の)量をこなせれば、「統一王者」も夢じゃないだろうさ。

 

 

 

なぜかエルムは―――ドーラのベルトを、受け取る事を拒んだ・・・

しかもその理由も、「重たい」から、だとか・・・

 

けれどその理由を、ドーラは、自分達の団体の先人達を、侮辱しているのではないか・・・と、したのですが、

逆にエルムは、「その事」自体が「重たい」と、していたのです。

 

エルム自身も、一つの団体が、ここまで大きくなるのに、その苦労は並大抵ではない事を熟知していました。

 

いや・・・それよりも、「宇宙プロレス」を、この時代に復活させる事が、どんなにか至難だった事か・・・

その事は、一つの団体を立ち上げ―――その名声を不動のモノとするよりも、大変だったに違いはなかったのです。

 

だからこそ、エルムは判っていた―――「二つも重いモノは必要はない」とした言葉は、そうした事を判っていたからこそ云えたのです。

 

そうした事を、エルムを部下に持つジョカリーヌから説明を受け、エルムに対する闘争心を掻きたてるドーラでしたが・・・

やはり「けじめ」として、自らが失った地位は「空位」にして、新たなる再出発をする誓いを、その場で立てたのです。

 

 

それはさておき―――・・・

先に会場を後にしたエルムはどこへ・・・?

 

それは―――次の闘争相手がいる・・・あの場所へ・・・

 

 

 

第百三十二話;もう一つの闘争

 

 

 

エ:ちょ~いと、お邪魔させて貰うよ―――

 

署:誰・・・あっ?!! UFPのエルム・・・??

  でも・・・確かあなたは―――・・・

 

 

 

オンドゥにある13分署の入口に、この惑星で行われた試合会場から、そのまま来たと思われるUFPのスター選手、エルム=シュターデン=ヴァルドノフスクが顔を覗かせていました。

その事に、通常業務で試合会場に行けなかった署員達は、驚きもしながらも、大変喜んだモノでした。

 

それもそのはず、「表敬訪問」にしろ、エルムほどの「超」の付く有名人は、滅多とこんな惑星には訪れないのですから・・・。

しかも、フロンティア理事に続く「VIP」の来訪に、今回の当直連中のボルテージは、否が応でも盛り上がり・・・

 

 

 

署:す~~・・・すっげえ!! オ―――オレ・・・本物初めて見たぜ!!

署:そ・・・それに―――理事さんにしろ・・・ああ~~夢なら醒めないでくれぇ~!♪

 

 

 

けれど、周囲(ま わ)りの、こうした盛り上がりには、目もくれるではなく―――

エルムは、本日二人目となる、自分本来の「目的(え も の)」を物色していたのです。

 

そう・・・こんな「監獄惑星」の分署に来たのは、署員達の「慰問」目的ではない・・・

エルムは、(れっき)とした「ある目的」をして、この13分署を訪れていたのです。

 

しかし―――署内には、自分の求めている「目的(え も の)」が見えなかったため・・・

 

 

 

エ:―――ねえ・・・ちょいと・・・ここの署長サンいらっしゃる?♪

署:えっ? ああ―――はいはい、うちの署長ですね?

  しょ・・・少々、少々お待ち下さい―――!!

 

 

 

そう・・・エルムが、「宇宙プロレス」の試合があった会場から、13分署まで足を運んだ、たった一つの理由こそ―――

13分署署長・・・マリアに会いたいがため―――なのでした。

 

それに、「宇宙港」であった、「因縁劇」を知らない署員は、ただエルムから促されるまま―――署長であるマリアに取り次ぐのですが・・・

 

 

 

マ:―――なんですって?! あの人が・・・

 

 

 

なぜエルムが、自分に会いたがっているのか―――マリアには心当たりがありました。

それもそのはず、直近(ちょっきん)にて、心当たりがあり過ぎるくらいの事を、しでかしてしまっていたのですから―――

 

いや・・・しかし・・・それは最早、口実でしかない―――

 

恐らくエルムは、気付いてしまったのだ・・・過去に自分と会った時の、あの出来事の事を―――・・・

 

けれど―――・・・

 

 

 

マ:う、宇宙港での事は、申し訳ございませんでした・・・

 

エ:・・・フフッ・・・フフフ―――

  私が、そんなちっぽけな事で、あんたから謝罪を受けようなんざ、これっぽっちもありゃしないよ・・・。

 

マ:・・・では―――なにを・・・?

 

エ:決まってんだろう? 「闘争」―――だよ・・・

  なぁンなら♪ ここでおっ(ぱじ)めても、構わないんだけどねぇ~~♪

  あんたは・・・どうなんだい―――

 

 

 

こんなにも他人(署 員 達)がいると云うのに―――(はばか)りもせず、自分の趣向を述べるヴァンパイア・・・

それに、自分が「秘密組織」の一員である事を、バラされては敵わないと思い、

マリアは場所を変える選択をしたのです。

 

しかし・・・今になって思えば、そうなる様に、エルムに誘導させられてしまったのだ―――と、思うしかありませんでした。

 

ですが、エルムにしてみては、マリアが「ディーヴァ」の一員であろうが、なかろうが・・・そんな事は、関係はなかったのです。

種族の特性上、「闘争嗜好」なのだから、時・場所を(わきま)えず、(ただ)ちに始めてしまっても構わない―――

けれど、そこで・・・敢えてエルムは、マリアからの意見を聞く事にしたのです。

 

なぜならば―――・・・

 

今度は、はっきりと確認できた―――・・・

エルム自身の師である「マエストロ」から、伺った事のある「ブレスレット」―――

形状も、寸分(たが)うことなく、マリアの左腕に輝く―――「ドゥルガー」としての証しを・・・

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと