さても―――前回までの、リリア達の足取り・・・つまり、外宇宙にての活躍譚はさておいて、

一方、地球に残された者達は、どうだったのでしょうか。

 

 

時と場所を一転させ―――ここは、地球にある南方の大陸・・・「エクステナー大陸」にある、東の最果ての国、「常磐」・・・

その、「穢戸(え ど)」と云う都市にて、闇夜を駆け抜ける「影」ありき、而してその実体は―――・・・

 

 

 

岡:いたぞ! あそこだ―――!

同:追え! 今度こそ逃がすな―――!

 

 

 

穢戸(え ど)の治安を取り締まる為の組織―――「奉行所」の、現場担当・・・「岡っ引き」と「同心」、

その彼らが、穢戸(え ど)の夜を騒がせる(くだん)の「影」を見つけ、追い込む為に笛を鳴らす・・・

すると、「御用」と書かれた提灯を手に持ち、(およ)そ数十名の現場担当者達が、足早に「影」を追って行ったのです

 

しかし、身軽な「影」は、屋根伝いに逃れ、まんまと奉行所の連中を、()いた・・・モノと思われたのですが―――

 

 

 

同:あっ・・・これは、来られていたのですか。

与:うむ・・・して、「紫電」は―――

 

同:はっ、予測通り、同じ方角に―――・・・

与:然様か・・・あいや、判った。

 

 

 

当時の穢戸(え ど)は火事も多く、また盗賊も徘徊していた・・・

そんな穢戸(え ど)を護るため、それらを専門に取り締まる部署が、一つ設けられたのです。

 

そして―――「彼」は、その「専門」・・・

 

庶民や、弱き者達の前では「仏」の様に優しいけれど・・・(こと)、盗賊達の間では、「鬼」の様に畏れられた・・・

 

そして今も、「紫電」なる賊の一人を追い詰めた時に・・・

 

 

 

平:火付盗賊改方―――長谷川平蔵である! 神妙に縛につけい!!

 

 

 

ご存知「鬼平」―――その彼が、最近代替わりをしたと云う「ある者」を、袋小路に追い詰めたのですが・・・

それにしても「紫電」とは―――・・・

 

それよりも、流石の「鬼の平蔵」をしても、「紫電」には逃げられてしまったのです。

それと云うのも・・・次第に薄らいでゆく―――紫電の像・・・

また彼らは、紫電が創り出した、巧みな幻影に、惑わされたのです。

 

 

しかし、どうして・・・「紫電」―――リリアの仲間であるはずの加東紫乃は、奉行所から追われる様な仕業を、起こしてしまったのでしょうか・・・。

 

その理由とは―――・・・

昨晩の出動も空振りに終わり、また一段と意気を下げる、「北町奉行所」の岡っ引きや同心達・・・

そんな彼らを見かねてか、「火盗」を束ねる平蔵も、次第に思う処となり、

今は―――とあるお屋敷・・・「鷹山家」の門前に来ていたのです。

 

 

 

第百三十四話;常磐の「闇」

 

 

 

平:御免―――

秋:おう、誰かと思ったら・・・火盗の―――じゃねえか。

  どうしたい、今日は非番かい。

 

平:実は・・・少しばかり思う処があって、参った次第―――少々よろしいか。

 

 

 

なぜ・・・「北町」の平蔵が、「南町」に所属している鷹山秋定(たかやまときさだ)の屋敷を訪ねていたのか・・・

それは―――ここ毎晩の様に出没()る・・・或る意味では下手人には、「当たり」を付けていたから・・・

ではどうして、平蔵は、鷹山家お庭番・加東紫乃を、「紫電」と断定していたのか・・・

 

それは―――・・・

 

 

 

平:―――・・・。

秋:―――・・・。

 

 

 

正座で向かい合ったまま、沈黙は小一時間続きました。

それと同時に―――重い空気・・・尋常ではない、緊張感が存在するモノだと判るのです。

 

ですがそれは・・・そのことが、現在、巷で騒がれている程、軽々しくはない事を物語っていたのです。

 

そして・・・沈黙は、破られる―――・・・

この男の・・・この、一言によって―――

 

 

 

秋:・・・昨晩、月は出ておりましたかなあ―――

平:いや・・・出てはおりませなんだ。

  ―――と、してもです! いくら探りを入れる為とは云え、こうも徘徊(う ろ つ)かれては迷惑至極!

 

秋:・・・だとさ―――何か、云いたい事でもあるかい。

 

 

 

平蔵からの厳しいまでの一言・・・それに、彼は、「紫電」が何者であるのかを知っていたのです。

それもそのはず・・・平蔵「も」、また―――・・・

 

すると、同居人からの促しを受けたからか、弁解をする為に襖を開けた―――と、思ったら・・・

 

 

 

た:すまぬのう、平蔵・・・今、あ奴は空井戸よりも深う反省をしておる。

平:たまも殿・・・いや、しかし―――

 

た:一応、そう云う事にしておいてくれんかな・・・。

  あ奴も、お役目上―――深く潜り込まねばならん為、お主らの前に出ることも、()むを得まいとした事であろう。

  それに、あ奴に無理を申し立てたのは、他ならぬこのわしじゃ。

 

平:うぅ〜む・・・ですが―――・・・

た:・・・文句なら、「中納言」のタヌキにでも云えい。

秋:おいらたちが、ンな事出来るかよ―――出来ねえからこそ、親分もここへ来て、愚痴をたれてんじゃねぇか。

 

平:いや―――(それがし)は・・そのような・・・

秋:へっへっへっ―――おいらにしちゃ、「狒狒爺(ひ ひ じ じ い)」だが、長谷川の旦那にとっちゃ「天下の副将軍」だからなぁ・・・

 

平:た―――鷹山殿!!

 

た:まあよい・・・今件の事は引き続き、しのに探らせるとして、平蔵も、その辺の処置の方・・・宜しく頼むとするぞ。

 

 

 

しのの失態を弁解する為に現れたのは、「玉藻前」こと、たまも―――

しかも平蔵は、彼女の事もよく心得ていたのです。

 

それでは、そんな彼が、鷹山家を訪れたのは、いかなる理由があって・・・?

もう、お判りでしょうか―――実は、この場にいた全員、「他人同士」なのではなく・・・

「妖改方」と云う、「秘密組織」の構成員達なのです。

 

それに、平蔵が苦言を呈したのも―――

現在・・・しのに探らせている情報を、持ち帰っている途中で、「火盗」の網にかかってしまった・・・と、云う事―――

 

しかも、その事が昨晩だけならばまだしも、立て続けに・・・とは、流石の平蔵も苦言を呈しておかねばならなかったようです。

 

 

それにしても、朧げながらにして、今まで謎だった「妖改方」の構成も、今回で、ある程度判明して来たのです。

この程、新規参入をしてきた「加東段蔵(し の)」に、「たまも」・・・実際に妖を狩る、実働部隊の―――「鷹山冶部少輔秋定(たかやまじぶしょうゆうときさだ)」「長谷川平蔵」・・・

そんな彼らを統率している「中納言」なる人物―――

(しかし、この人物の実態も、或る程度、秋定(と き さ だ)により明らかにされているのではないでしょうか・・・余りにも有名な、「天下の副将軍」とは・・・)

 

つまり、彼らこそは、「穢戸(え ど)」を―――いや・・・常磐の闇夜を、妖シから護る、平安の為の部隊でもあったのです。

 

それにしても、珍しくしのがヘマをやらかしてしまった、「今件」とは・・・?

 

 

 

秋:長谷川の旦那なら帰ったぞぅ―――

し:はぁ・・・すみません―――

た:なに、そう悄気(し ょ げ)るではない、相手が一枚も二枚も上手(う わ て)じゃった証しじゃ。

 

秋:ン〜なに、手強い相手なのかい―――今回の相手は・・・

 

 

 

しかし―――たまもは、敢えてそこで返答をしませんでした。

なによりも、その為の確証を得る為、しのに探らせていたのですから・・・。

 

そんな矢先に、この失態―――

だからこそ、段々と、たまもの(なか)でも、「疑惑」が「確証」に変わりつつあったのです。

 

それに・・・今回の相手は、1000年も以上前に、折伏をされている・・・

自分達、「三大悪妖怪」がいなくなった後の、常磐の「闇」を、統べようとした者・・・

 

それも、たまも自身と同じく、朝廷に取り入り、あともう一息で「天皇」の地位を、得損(え そ こ)なった者・・・

 

玉藻前が、取り入った時には、「鳥羽院」であり、「男性」でしたが・・・

その者は、「称徳院」と云う、「女性」・・・つまり、女帝に取り入り、自らが、常磐を「表」から「裏」から支配しようとした男・・・

 

『道鏡』―――それが今回の、しの達の相手だったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと