一つの因果律が収まり―――再び平安が、その惑星に訪れようとしていた時・・・
またも、事件性のある出来事が、その惑星で起きようとしていました。
ともあれ、ヱリヤとエルムの二人は、次の目的の惑星を目指して、足早にオンドゥを旅立ち、
やがて、ジョカリーヌやリリア達も、地球へ帰還る準備をしていたのでした。
大変短い期間ながらも、互いに・・・内に宿す「ナニか」を感じ取り―――
またこれからも付き合って行く為に、そしてまた―――この機会が「最初で最後」にならない為、敢えてお互い、「サヨナラ」を云わずに置く・・・
それは―――また一つ、「友誼」が確立した瞬間でもあったのです。
リ:それじゃ・・・またな―――
マ:ええ―――・・・
互いに、近い「ナニか」・・・存在の意義や、定義とでも云うのでしょうか―――
それを持ち合わせている事を知り、固い握手を交わす両雄・・・リリアとマリア。
そして、これから地球に帰還ろうとする前に、とある事に気付いたリリアは・・・
リ:ん〜じゃ・・・ま、帰るとすっかぁ―――と、その前に・・・
そう云えば、ここには確か、ちょいとヤバめの修道女がいたよなぁ・・・あの人、どこへ行ったんだ?
マ:ああ・・・ヘレンの事ですか―――
あの人は・・・裏の稼業柄、今はそちらの用向きで、ここにはいないんです。
イ:裏の・・・「稼業」?
マ:はい―――
ヘレンは、現在、普段通りでは、ハタルドゥーミ教会の修道女をしていますが、
実は・・・ヘレンは、元からある職業に就いているんです。
そして、その職業とは―――・・・喩えそれが、「善人」であろうと、「悪人」であろうと、その「首」に掛けられた「賞金」があれば、
その「業種」の人間にとって、「そんな事」は、然程問題ではない・・・
それに―――だからヘレンは、常に己の背に、「血塗られた逆さ十字」を負って、『賞金稼ぎ・クルセイダー』として、宇宙の闇を暗躍しているの・・・。
「聖職」にありながら、己の手を血に染めて、明日を生き抜く者の理を知るにつれ、リリア達は固唾を呑みました。
「善」もなく、「悪」もない・・・ただ―――そうした人間を突き動かしているのは、飽くなき「お金」への執念・・・
以前は、こんな事になるまでは、傭兵稼業に就いていたリリアには理解出来ていました。
しかし・・・「理解出来ている」と、「納得している」―――とでは、明らかに違う・・・
お金の為に、親しき者や愛する者を売れる・・・殺せる―――・・・
そんな連中の末路を、その目で見てきた者にとっては、あの修道女の未来も、そうなるモノだろうと思い、
マリアに忠告してくれるよう、頼もうとするリリア・・・ですが、そんな彼女より逸早く、ジョカリーヌの方から・・・
ジ:フフ・・・けれど、現在この惑星が、ここまでになってしまったのは―――彼女のお陰もあるのじゃないのかな。
リ:え? どうして―――・・・
ジ:だって、ほら、ここは「監獄惑星」だろう。
それにね、「賞金稼ぎ」と云う者は、必ず「賞金首」を、最寄りの「警察署」等に引き渡して、そこで「換金」をするんだ。
そして、やがては・・・「賞金首」達は、「監獄」や「刑務所」に護送されて、「更生」されていく・・・
しかも、お誂え向きに、この惑星には―――・・
リ:―――あっ!!
ジ:どうやら、判って来たようだね。
そう・・・ヘレンさんは、この惑星に居住している関係で、彼女自身が捕獲した「賞金首」を、必ず「こちら」へ廻して来る・・・。
リ:・・・でも、そう云うの―――って、一つやり方を違わせれば・・・
マ:そこの処は鋭いですね。
けれど、ある事実として、未だここから「出た」者はいないんですよ。
市:えっ??
蓮:なんと―――・・・
イ:それ・・・って、どう云う事ですか?
ジョカリーヌとマリアからの説明を受け、「賞金稼ぎ」達と、「警察署」、「刑務所」の事実関係を知らされるのですが・・・
良く考えてみれば、この惑星―――オンドゥには、「警察署」と「監獄」が、共合して成り立っている・・・
それに、ヘレンはまた、特殊な事例として認められている―――
つまりヘレンは、「オンドゥ専属」の「賞金稼ぎ」であり、この惑星の住人・・・つまり「囚人」が、ここまで膨れ上がったと云うのも、
一つにはヘレンの功績があったからなのだともしていたのです。
しかし、そこをリリアは、だとしたら―――「出所」をした元囚人が、喩え何もしていなくても、ヘレンに捕まり・・・
その結果として、オンドゥの住人達は減らないのでは―――と、疑ってしまうのですが・・・
リリアの疑問に返答たマリアの一言に、リリア達は耳を疑わざるを得ませんでしたが―――
この男からの一言に、またも波紋は広まりつつあったのです。
第百三十六話;天国と地獄
ク:その事は、至って簡単―――
だからこそここは、私達にとって「天国」であり、また「地獄」なのです。
リ:なに云ってんだ―――お前は・・・もう少し判り易く説明しろって!
ク:こんなにも判り易く・・・また、噛み砕いたモノはないと云うのに・・・本当に頭が悪いですねぇ、あなたって人は・・・。
ですが、まあいいでしょう。
元々、「監獄」と云う処は、悪事を働いた者を捕え、その根幹となっている考え方を、改めさせる為の「更生機関」であり、
また、マリアの様に、半永久的に閉じ込めておく為の、「拘束機関」でもあるのです。
そんな処が・・・果たして、私達の様な犯罪者にとって、「天国」―――とは、これまたいかなる所以に・・・?
ただ一つ、面白い事が云えるのは、ここは「監獄の惑星」―――
そんな処に付きモノと云えば、「脱獄」「脱走」は欠かせないモノなのですが・・・
なぜか今まで―――そうした「計画」・・・つまりは「未遂」すら起きていない事実が、現状としてあるのですよ。
お判りですか・・・だからこそここは、私達にとっての「天国」であるのと同時に―――既に「地獄」・・・そのモノなのです。
オンドゥ13分署副署長・クラウドマンにより、その事についての大まかな説明がありました。
しかし、余りにも「大まか」過ぎたので、すぐにまたリリアが癇癪を起しそうになるのですが―――
そこでクラウドマンは、そうした者でも判り易くなるよう、更に噛み砕いた説明を行ったのです。
その説明の内には、「今まで」―――「強制的」な意味を含める「脱獄」にしろ「脱走」にしろ、そうした案が、囚人達の間で広まらなかったと云うこと・・・
(ですが、以前の―――あの・・・この惑星の「宇宙港」であった出来事は、どう説明をするのか・・・
しかしそれは、この一言―――「署長・マリアの憂さ晴らし」・・・これに尽きたのではないでしょうか。)
それに・・・実は、この事には、「もう一つの意味」も含まれていたのです。
その「意味」を、今度はジョカリーヌから聞かされ・・・
ジ:だとしたら・・・一つ―――なぜ、囚人である彼らは、「檻」の内に入っていないんだろう。
それに、ここは「出戻り」の率も、他よりは高いんだ。
リ:は? 「出戻り」??
ジ:そう―――つまり、この監獄惑星に留まっている期間が過ぎて、「釈放」されても、またここへと戻ってくる確率の事・・・。
なんて云ったらいいのかな、非常に皮肉なことなんだけど、この惑星は「監獄惑星」であるにも拘らず、囚人である彼らにとって、住みやすい環境になっているんだよ。
リ:そんなこと―――って・・・
ジ:だからこそ、ここは彼らにとって、「天国」であるのと同時に、束縛していると云う意味では「地獄」でもあるんだ。
例えば―――どうかな・・・フロンティア理事である私が、ここの模範囚達に、「恩赦」を与えたとする・・・
この場にいる君達の内で、ここから出所たいと云う者はいるかな。
「へっへへ―――冗談だろ、喩え頼まれたって、この首は縦には振らねえぜw」
そんな事を云いながら、喜々として答える、この惑星の住人達・・・
「そうか―――・・・だからなんだ・・・。」
「だからこそ、こいつらは、この監獄から脱獄だ「さ」ない・・・」
「いや、脱獄だ「せ」ないんだ―――・・・」
「檻」や「牢」などは、狭い場所で―――尚且つ不衛生でもある為、人間が卑屈になってしまう・・・
だからこそ、無理をしてもその場所から出たい―――「脱獄」や「脱走」は、最早囚人には、なくてはならない感情の筈・・・なのに―――
そんな感情を排除させるなんて・・・
リリアは、考えを突き詰めて云った上で、ようやくその理解にまで辿り着きました・・・
―――と、その時・・・
リ:(!!)――――っ・・・な、なにを?!!
また―――後頭部に、「ナニか」を感じた・・・
けれどその時は、素早く反応をし、自分の項にある後り髪に触れようとしていた「拳」を、反射的に防御していたのです。
それにしても、驚いたのは・・・リリアにそんな事をした―――いえ、「していた」人物・・・
それがなんと―――・・・
イ:マ・・・マリアさん?? それにしても、いつの間に―――・・・
市:(やはり・・・)
自分が敬愛して已まない義姉に向かって、やもすれば、当たってしまえば気絶どころでは済まされない一撃を放っていた人物こそ、オンドゥ13分署署長・マリア・・・
その彼女に、イリスは動揺を覚えるのですが・・・反面、市子だけは確信に至っていました。
そう・・・市子だけは、マリアを疑っていたのです。
それも、「現在」だけではなく―――それよりもずっと・・・
リ:な?! なにするんだよ―――マリア!!
マ:あら? ようやく気が付きましたか。
リ:な・・・なんだってえ〜?!
すると・・・あんただったのか! ずっと私にちょっかい掛けてたの―――
するとマリアからは、「そうですよ」と云わんばかりに、優しく微笑むだけなのでした。
それにしても・・・リリアだけではなく、イリスも、蓮也も驚かされたのは、まさに「距離」と、その「時間」・・・
リリアとマリアとの間は、その時には「8人分」空いていたと云うのに・・・しかも、正面で向き合っていた・・・にも拘らず、
一瞬の内に、この女性は・・・リリアの背後ろに回り込み、項にある後り髪に触れようとしていた・・・
しかも、こうした事は、今を以てリリアが気付くまで、繰り返されていた・・・と、云うのです。
それにしても―――やもすれば、周囲に誤解を与えてしまいそうなマリアの行動の原理に、疑問を感じずには居られなかったのですが・・・
それは次第に、どうしてマリアが、そうした行動に及んだのかの理由が、明らかにされようとしていたのです。
=続く=