一転して、和やかなムードを、緊迫したモノに変える・・・

オンドゥ13分署署長のマリアが、リリアに対して放った一撃は、それだけの意味が含まれていました。

 

しかし、マリア本人の口からは、そうした事は、今に限っての事ではないことが明らかとなり、

またそれは、市子もそう感じていたのでした。

 

それにしても・・・なぜマリアは―――・・・

 

結局の処は、そこに突き詰められてしまうのですが・・・

そうした理由を、やはり同じくして、マリア本人から聞かされた者達は―――・・・

 

 

 

マ:そうですね・・・取り分けては、リリア―――あなた自身の、「自己危機管理能力(                  )」が、どの程度なのかを「試した」のと・・・

  あと、「鍛えて」あげていたのです。

リ:は?え?? 私の・・・「自己危機管理能力(                  )」―――??

 

マ:そう・・・自分に、危険が及んでしまった後からでは取り返しが付かない・・・

  ならば、その前に―――そうした「危険」を、事前に察知する能力が備わっていれば、誰も哀しむことなんて、ありはしないのです。

 

  特に、リリア―――あなたは、自分自身よりも、仲間達の身を案じてしまう・・・

  喩えそれが、自分達に降りかかる災厄の程度が、同じであったとしても・・・

  その結果、自分が身を(てい)して護った(ひと)(ごと)、命を落としてしまうのは、それはそれで仕方のない事なのかもしれませんが・・・

  ただ・・・あなただけが命を落としてしまった場合―――助けられた人の気持ちとは、どうなるのでしょう・・・

 

  それに、そのことはまた、あなた自身にも云える事なのです。

  代わりに、市子さんやイリスさん、蓮也さんがあなたの身代わりになって、命を落としてしまった場合・・・

  あなただったら、どうしますか―――

 

 

 

その時、そんな事を云われて初めて、リリアの(なか)に感じるモノがありました。

 

「そうだ・・・もし、私の友の身に、なにか万が一の事が起こってしまった場合には―――・・・」

「私は、その事について、赦しはしないだろう・・・。」

「それにまた、私は・・・私自身を、赦しはしないだろう・・・。」

 

リリアは、自分の「仲間」であり、「友」である、市子やイリスや蓮也・・・それにジョカリーヌを見つめながら、

自分の身に、「もしも」のコトが起こった場合の事を、深く考えるようになりました。

 

そしてすぐに、マリアの方を見返し―――・・・

 

 

 

リ:それが―――あんたが、私達がここに着いてから今まで、私に仕掛けていたことだ・・・って、云うのか。

マ:そうです・・・。

  ならばどうすれば良いか―――答は既に出ていると思いますが。

 

リ:けど―――そうなるまで・・・だったら私は、今まで何回死んでいたんだ?!

 

 

 

何かの偶然・・・ひょっとすると、「(まぐ)れ」―――なのかもしれない・・・

リリアが、地球への帰還(か え)り際に気付いたと云うのも、或いはマリアが、リリアに気付かれる程度に、加減をしてくれたからなのかもしれない・・・

 

しかし、マリアは―――・・・

 

 

 

マ:そうね・・・ざっと、600回は死んでいたと思いますよ。

 

 

 

「手を抜く」―――と云う事は、マリアの(なか)に、存在はしない・・・

今もまた―――「判ったから」と云って、油断をしている隙に、背後(う し)ろに回られそうになった・・・

 

そこでリリアは、ある思いに至ったのです。

マリア自身が云っていた「回数」は、実際には大まかなモノで、本当には「それ以上」だった―――のかも、しれない・・・

 

けれど、そう・・・

ならば、リリアがその反応に至ったと云う事は、リリアの(なか)の「自己危機管理能力(                  )」が、引き上がっていった・・・と、云う証し。

つまり、先程マリアが云っていた、「鍛える」部分の成果が、これだったのです。

 

では逆に、マリアはどうやって、その「戦闘技能(      )」を身に付けたのか・・・

その事には、また、「あの一族」との、興味深い話しが出てきたのです。

 

 

 

マ:フフ・・・その事は、余り思い出したくないんですけどね―――

  あれは、そう・・・私自身が初めて、敗北感を味わった時のこと・・・

  身体を動かせないでいる私を見下しながら、「あの人」はこう云ったの・・・。

 

  「あんた―――それだけのモノを持っておきながら、()だ目に頼ろうってかい、勿体ないねぇ・・・」と―――

 

リ:・・・ああ、なんだか、エルムさんだったら云いそうな科白(せ り ふ)だよな。

 

マ:そこで私は訊きました・・・「ならば、目に頼らないならば―――どうすれば良いのか・・・」を・・・。

  そして、これから私が行う「口伝」は、市子さんもある程度、判っているモノだと思います。

 

 

 

そこでマリアは、話しました・・・

自分の内に残る、唯一の「敗北」の歴史を。

 

そしてそれは、エルムに敗れるまで、無敗だったマリアを、更なる武の高みへと押し上げた、「口伝」の存在だったのです。

しかも、これからマリアが、リリア―――更にはイリスや蓮也に対して行う「口伝」を、市子は既に会得しているともしていたのです。

 

だとすれば・・・その「口伝」とは―――・・・

 

 

第百三十七話;『考えるな、感じろ(Don’t  think  feel)

 

 

そもそも「口伝」とは―――武道の極致たる「奥義」を得たり、または授けたりする時に、判り易く噛み砕かれたヒント・・・並びに、ワン・ポイント・アドヴァイスの様なモノ―――

そして、その時マリアが、リリア達に対して行った「口伝」も、或る意味では、公爵エルムからマリアに授けられたモノだったのです。

 

しかし・・・そうしたモノを、リリア・イリス・蓮也に先んじて、市子のみが会得していたと云うのは―――・・・

 

 

 

市:なるほど・・・口にて云い現わすと、そう云う事になるのですね。

 

リ:へえ? 何のこと・・・

 

市:私は・・・以前まで「座頭」をしておりました。

  それも、本来は眼が見えるのに、敢えて自ら視界を塞いで・・・

 

リ:あ・・・ああっ―――!!

蓮:なるほど・・・つまり、経験がモノを云ったのだと―――

 

リ:云われてみれば・・・そうだったんだよなぁ〜〜

  市子は、盲目の癖に、私よりかは強かったもんなぁ。

市:フフッ・・・でも、その境地に至るまでに、苦労は絶えぬモノでした―――

  多分、今、その時と同じことをやれ・・・と、申されましても、巧くはいきませんでしょう。

 

 

 

そう・・・市子は、このお話しの当初では、盲目の女性―――「座頭」として登場をしていました。

けれど、手強さと云えば、その当時のリリアをしても、敵うモノでもなかった・・・

 

盲目で―――目を瞑っているのに、中々決まらない、自分の剣撃・・・

これでは、(いたずら)に体力を消耗し、尽きて動けなくなった処を・・・

だからリリアは、市子との対決の最中であるにも拘らず―――また、自分から申し出たと云う事にも拘わらず、途中で放棄をしてしまったのです。

 

つまり―――この事を整理していくと、リリアと初めて出会った頃の市子の力量は・・・現在のリリアと同じだった―――

それに、リリアも昔のままではない・・・あれから、色んな経験を得て、あの当時より腕を上げている・・・と、するならば、

全く(もっ)て、あの当時に自分が及んだ行為とは、「無謀」の何者でもなかった事が云えるのです。

 

けれど、この度マリアに鍛えられた事により、また一段階・・・更に上のレヴェルに達することができた―――

その事に、リリアは感謝をしつつ、オンドゥを後にしたのです。

 

 

そして―――帰還の途に着いた艇内では・・・

 

 

 

リ:は〜・・・私って、隙がない様で、あったんだなぁ―――・・・

  けど、その事が判っただけでも、めっけもんだったな。

 

イ:それより―――市子さんて、凄かったんですね!

  私、見直しました。

 

  それにしても・・・市子さんは、どうやってその技術を、身に付ける事が出来たのでしょうか。

 

ジ:―――その事を、簡単に云ってしまえば・・・恐らくは「情報量」の違いだろうね。

 

リ:情報量の・・・違い?

 

ジ:そう―――

  ほら、私達人間には、元々「五感」と云うモノが備わっている。

  その(なか)で、最も情報量が多いのが、「視覚」―――

  リリアと云う人は、どんな格好をしていて、どんな髪の色をしていて、どんな眸の色をしているのだろう―――

  一瞬にしてだけども、目から取り入れる情報と云うのは、重要なことなんだ。

 

  そして、次に多いのが、「聴覚」―――

  これは、耳から入る「音波」や「音声」等の、「信号」を(もと)に、相手との相関距離を測ることもできる。

 

  そして次が「触覚」―――

  目や耳が利かない暗闇の中で、次に頼れるのは、「手」で「触る」・・・と、云う事。

  多分市子は、「聴覚」と「触覚」・・・それとあと、「六感」が鋭かった―――と、云えるだろうね。

 

 

 

地球に戻るまで、ジョカリーヌの巡宙艦(クルーザー)「サガルマータ」で、今回の出来事を噛み締めるリリア達・・・

 

確かに―――ガラティアやジィルガにも云われたように、宇宙には、自分よりも強い奴がいる・・・

しかも、そんな奴から、強くなる手解(て ほ ど)きを受けるなんて―――・・・

 

でもリリアは、そんな事は少しも恥ずかしくないことだと思いました。

それよりも、現在の自分の強さに慢心する事こそ、「恥」だと思うようになり、

更に自分の腕を磨く決意を、新たにするのです。

 

 

そんな事とは変わって―――オンドゥでは・・・

ある(しら)せを、クラウドマンから受け取ったのです。

 

 

 

ク:マリア・・・耳に入れておきたい事が―――

マ:なあに・・・

  (!!)それは―――本当?!

 

ク:確かな筋からです・・・

マ:そう・・・判ったわ―――

 

 

 

その「(しら)せ」は、殊の外重要だったとみえ、マリアに耳打ちをすることで、その機密性―――重要性が垣間見れようと云うモノ・・・

 

それよりも、気になってくるのは・・・その「(しら)せ」の「内容(な か み)」―――

 

しかしそれは、次のマリアの言葉に、裏打ちをされていると云っても、過言ではなかったのです。

 

 

 

マ:メイベルが・・・ミリヤ様と一緒に―――地球へ・・・

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと