彼女は「暗殺者」―――世の「闇」を跋扈する者・・・なのに・・・
なぜか、「蜘蛛」や「百足」の様な、「多節足動物」の類は、大の苦手でした。
ですが、それこそが、彼女が「人間」足らしめた、最後の「砦」ではなかったでしょうか。
不覚にも、現実の生き物ではない、創り出された虚構の生物―――現実では有り得ない巨きさの蜘蛛を前に、意識が跳んでから数時間後・・・
メイベルが目を覚ました時には、さあるお屋敷の寝間に寝かされていたのです。
そしてそこで、こうなってしまった経緯を思い出すメイベル・・・
すると、そこへ―――・・・
し:―――あっ・・・起きてた・・・
あの、大丈夫ですか。
メ:・・・あなたは―――
し:あ・・・ボク、加東しの。
今は故あって、この家の「お庭番」と云うのをしているの。
メ:「お庭番」・・・? それに・・・「ボク」?―――って、あなたは・・・
し:あはは、「お庭番」・・・て云うのは、まあ―――用心棒みたいなことかな。
それに、ボクが「ボク」って云うのは、ボクの家の事情もあったんでね、そ云うのって中々抜けないんだよね〜。
メ:ウフフ―――面白い人。
私はメイベル・・・メイベル=ヴァイオレット=フォルゴーレ。
今はワケあって、ミリア様のメイドをしているわ。
し:「メイド」・・・?
メ:ウフフ―――そうね・・・どちらかと云えば、あなたと同じ・・・
時々、「お手伝い」さんみたいな事をしているのよ。
要介抱のお客人の様子を見に来たのか、しのがこの部屋へ・・・
すると、すっかり元気になったメイベルを見て、安堵したのです。
そしてそこからは、互いの事をよく知ろうと、互いの情報を交換したのです。
二人とも、立場は違えど、現在は「主」のある身・・・
それに、しのは、自分が「忍」であることや、メイベルは、「暗殺者」であることは、互いに打ち明けなかったのです。
それに・・・もしかすると―――
彼女達は、その事を打ち明けずとも、互いに解っていたのかもしれません。
どこか自分と同じ「臭い」を放つ―――そんな「危険」の察知は、「闇」を生きて行く上で、最優先しなければならない事項でもあったのです。
それはともかく、これからの事を話し合うのに、主要人物が集まっている部屋に行くことになるのですが・・・
し:はあ〜・・・
メ:どうしたと云うの。
し:え? ああ―――いや・・・
メ:・・・もしかすると―――あなたの主と私の主・・・上手く打ち解けていない―――とか?
し:へえ〜判っちゃうんだ・・・そう云う事。
ボクもさ、流石にあそこにいられなくって・・・
メ:それでエスケープしてきた―――と・・・
フフ、同情します。
なんと―――やはり、しのがメイベルに接触をしてきたと云うのも、秋定とミリヤの折り合いが悪く、なんとか口実・・・
前の、たまもが召喚した「土蜘蛛」にて、目を回してしまったメイベルの様子を見舞ってくると云う事で、抜け出す事が出来ていたのですが、
半ば押しかけ同然で、こちらの事情を話していないだろう―――と、云う事で、今一度話し合いの機会を設けようとしたのです。
しかし、なんとなんと―――折り合いが悪かったのは、秋定とミリヤ・・・ではなく・・・
し:あら?蝉ちゃん・・・
秋:げ・・・しの。
し:(〜つて・・・)まだ―――なの・・・
秋:しゃあねえだろ、気拙いのなんのって・・・
メ:あの〜あなたは確か―――・・・
そう・・・当家の主人である、鷹山秋定は、二人分のお茶とお茶受けを用意して来た・・・
までは良かったのですが、それもまた「口実」だと云う事が判るのです。
気拙さこの上ない部屋の雰囲気に、耐え切れなくなった秋定は、
前に、しのが逃げて来ているこの部屋に、外から内の様子を窺う始末・・・と、来れば、
大方、「誰」と「誰」の折り合いが悪かったか、察しが付くと云うモノ。
そう・・・見かけの上では、幼く見える二人―――
しかもこの二人は、互いが顔を見合わせた途端、口も利かなくなると云った次第で・・・
これにはさすがの秋定も、白旗を揚げて逃げ出さずには居られなかったようです。
それに、また再び、部屋に戻ろうと機会を窺おうとすると、何やら先程より険悪な雰囲気になりつつあるのを感じ、
そこで已むなく、しのとメイベルと云う協力を得て、部屋へと入ったわけなのですが・・・
秋:あ・・・あの〜〜お、お茶出してなかったもんで〜〜ここに置いときます・・・
し:(蝉ちゃん〜・・・)
ね・・・たまちゃん―――もうそろそろ・・・
た:―――全く・・・風情を解さん奴らは、これだから困るモノよ・・・
ミ:ええ・・・本当に。
それより、先程から鳴いていらっしゃる、この可愛らしい声の主は・・・どなた。
た:ふむ―――・・・これは、「蟋蟀」殿じゃな。
それより秋定、先程のお主のひっくり返ったような裏声の所為で、蟋蟀殿や鈴虫殿が、鳴くのを止めてしまったでないか。
この責任―――どう取るつもりじゃ。
秋:あ・ん・だ・とおお〜!!
人が心配してりゃあ、二人して虫の音の観賞会たぁ、いい度胸してるじゃねうか!
ミ:本当に・・・騒がしい男ね、あなたって。
そんなのでは、好意を寄せている女の子のハートを掴むのは、難しくってよ。
秋:にゃ・・・あんだとお〜?!
たっ―――たま・・・お前、いつのまに!!?
た:勘違いをするではない。
わしとこの方が口を利いたのは、これが初めてじゃ。
秋:はあ? だったらなんでぇ・・・おいらがしのの事を好きなのが―――判ったんでぇ・・・
そう・・・たまもやミリヤが、言葉を全く交わさなかったのは、何も別段、二人が第一印象で、お互いの事を悪く感じていた・・・と、云うわけではなく、
それどころか、二人とも共感し合える、「何か」を感じ合っていたからなのです。
いや・・・それにしても、他の誰にも漏らしたことのない秘事(周囲りにはバレバレなのにw)を―――明らかにされてしまい、
自分でも無意識の内に口走り、隣りにいたしのから・・・「もうっ、蝉ちゃんのばがっ」―――と、赤面しながら肘鉄を喰らってしまう秋定に、
暫し和みの一場面が、垣間見られたようです。
ともあれ、未知なる土地から、何かしらの用件で、自分達に接触を図って来たと見られるお客人を前に、
その用件を聞いてみる事にすると・・・
第百三十九話;一葉の写真
た:さてと―――お客人、そなたらの用向きを聞いてやりたいところなのじゃが・・・
生憎と、こちらも事情と云うのが、立て込んでおりましてのぅ・・・。
ミ:いえ・・・然したることではありませんの。
ただの「人探し」・・・とは云っても、私ではなく、この子の―――なんですけれどね・・・。
た:「人」・・・はて―――心当たりがあれば善いのじゃが・・・
ミ:―――メイ・・・
メ:はい・・・。
―――こちらの人物になります。
この時、情報提供として差し出されたのは、一葉の写真・・・
痩躯にて―――目鼻立ち良く、どことなく中性的な感じのする人物・・・
髪の毛は、青と白が織り混ざった「メッシュ」で、眸は金色に輝いているように見えた・・・
とどのつまり、この二人は、遠路遥々―――この人物の行方を捜す為に、常磐にやってきた・・・
それともう一つ、知っておくべきは・・・この人物は、二人にとってどんな因果関係なのか―――
すると・・・
た:―――で、この者は一体何者なのじゃ。
メ:平たく・・・一口で云えば、私の「同業者」にて「商売敵」・・・
秋:「商売敵」・・・つうことは、あんたは、何かの商いをしてるって云うのかい。
メ:フ・・・商い―――ではありません・・・この者に、この私は―――
し:―――あれ? この顔、見たことあるよ。
メ:本当ですか!!
し:う・・・うん―――
ボク達も、「道鏡」ってヤツの事を調べてたら・・・こんな恰好をした奴が・・・ここの紙屋町付近に―――・・・
「生き別れの兄妹」でもない、「前の恋愛関係」でも、「堅い契りを交わした友人」でもない・・・
それは―――「商売敵」・・・
けれど、秋定達からしても、メイベルの奇妙な服装・・・「メイド服」に、何かしらの「商売」を関連付けるのは、相当に難しかったようで、
メイベル自身が探している、「テュポーン」なる人物と、「ウイッチ」であるメイベル自身が何者であるのかを、明かせようした時・・・
それまで、しのが探りを入れていた、「道鏡」なる人物への聞き込みを重ねていた時分に、この写真と同じ様な格好をした人物を見たことがあると、
しのの方から情報の提供があったのです。
しかし―――・・・
た:―――むっ?! 色絵が・・・
秋:ちぃ・・・ご丁寧なこった、九魔の奴らめ―――
おいらの家にまで上がりこむたぁ、いい度胸してるじゃねえか!!
し:ボク、急いで取り返して来るよ―――!!
突如、目の前から消え去った、一葉の写真・・・
しかし、このような業が出来得るのは、一つの職業を措いて、他にはいない・・・
それこそが「忍」―――
他人の目を欺いて、自分に課せられた任を完遂するのが、彼らの本分・・・
しかし、しのも黙っているわけにはいきませんでした。
それと云うのも、こんな事をしでかしてしまったのは、自分の「里」の連中でもあったのですから・・・。
それにしても、不思議なのは、しのの「里」でもある「九魔」―――そこの「頭領各」でもある、「段蔵」の名を、しのが継いだ・・・にも拘らず、
そんなしのの思惑とは、まるで反対の事をしている里の者達・・・つまり、「異分子」が思ったよりもいて、しのの事を認めないばかりか、反対派の工作ばかりを仕掛けていた・・・
ならば―――そんな連中に認めさせてやればいい・・・
そんな事もあり、早速、追撃に向かおうとしていたのですが・・・
その前に、その行為は中止させられてしまったのです。
=続く=