た:むっ―――・・・色絵が?!
し:ボク、急いで取り返して来るよ!
自分達が気を取られている隙に、まんまとせしめられてしまった、たった一つの「証拠物件」・・・
しかもそれが、自分の「里」である、九魔の仕業ならば―――と、すぐさましのは、追おうとしましたが・・・
ミ:―――お待ちなさい。
し:えっ? でも・・・
ミ:そう、急ぐ必要はございません。
秋:おいおい、大した余裕だな。
メ:まさか・・・ミリヤ様?
た:フッ―――お人のお悪い、既に気付いていたと見ゆる。
ミ:この私に、隠し事なんて無意味・・・何しろ人と云うモノは、何かを考えていなければ、生きてはゆけないのですからね。
そう云うとミリヤは、静かに目を閉じ・・・瞑想状態に入りました。
そう、早い話し―――ミリヤは、この家の天井裏で、こちらの隙を窺っていた鼠達には、いち早く気付いていたのです。
けれど、すぐにそこで、その存在の事を披露するのでは、余りにも芸がない・・・
そんな事をしてしまうのは、所詮、二流・三流のすることであり、この能力の真価を、十分に活かし切っているとは云えないのです。
そう・・・つまりは、鼠達に、わざと「証拠物件」を取らせ、彼らのねぐらに案内して貰えば良い・・・
それが―――ミリヤが持つ、或る能力の、最大の特徴・・・
ミ:―――ここより・・・北東の方角・・・そちらに、「金」に「沢」の文字をあしらった、建物はございませんか・・・。
秋:「金沢屋」か―――そう云やぁ、数週も前から、かなり浪人連中を雇い出している・・・って、噂だったなぁ。
メ:では、そちらに―――奴が・・・
ミ:そう結論ばかりを急ぐのではないわ、メイ・・・
ただ、あの連中は、寄り道すらせず、真っ直ぐにそちらに向かっただけ・・・
なにも、あなたの本命が、そちらにいるとは限らないでしょう。
た:ほほう―――さすがは、わしが見込んだ御仁よ。
既に策を巡らせておいたとはな。
して・・・失礼じゃが、御名の方は?
ミ:あら―――これは、私とした事が・・・
そう云えば、お互いご紹介がまだでしたわね。
私は、ミリヤ=アゲット=ロックフェラー・・・「月詠」と云う、感応を持つ、能力者ですわ。
た:ほう―――先程披露してくれたあれが、「月詠」と申しますか・・・いや、中々のモノですな。
わしは、たまも・・・こう見えても、3200年を生きる、化け物じゃ。
ミ:あら、道理で―――お互い、気が合うはずですよね・・・。
た:ほ・・・では、そなたも―――
ミ:ええ、見かけは幼くありましても、実態はさほどに似たり・・・ですよ。
なぜこの二人が、気が合ったのか・・・
それは、お互いが似た者同士―――だったからではなかったではないでしょうか。
自らの持つ能力故に―――また、業の深さ故に―――それ故に、実戦の戦闘要員には、成り得ない彼女達・・・
しかしその実は、自らの能力の使い道を知っているだけに、中々戦闘には加われない・・・それもまた、似通っていたと云えたでしょう。
それはそれとして、自分達と対抗する者達の居場所は判明したのですが、
よく考えてみれば、鷹山家も、相手方に知られている・・・と、云う事もあり―――
た:それよりも―――じゃ・・・当面は、わしらの身の隠し所を、模索せねばのう。
秋:―――だったら・・・やっぱ、あそこしかねえんじゃねえのかなぁ・・・
た:うう〜む・・・それについては、わしは構わんが―――しのやミリヤ殿が・・・のう。
ミ:私なら、一向に差し支えありませんが・・・。
し:え・・・いやぁ―――けど、ミリヤ様・・・ボク達が、これからどこへと移るのか・・・存じてないですよねぇ?
メ:・・・なにか―――曰くつきでも?
だからこそ、秋定を除く女性全員を、とある場所に移す事の協議がなされたのです。
・・・が―――しかし・・・
たまもにしのは、以前からその話が持ち上がっていただけに、その場所がどんなところかは知っていました。
けれど、ミリヤにメイベルは、常磐の人間ではなかったので、到底伺い知れる事はなかったのです。
なのに・・・そんな事を、余り知りもしないミリヤからは、「GOサイン」・・・
だからこそしのは、その場所がどんなところか、ミリヤとメイベルに説明してあげたのです。
そう・・・「木を隠すなら、森の中」―――
第百四十話;吉原艶上
メ:ヨシ・・・ハラ??
し:そ―――まあ、平たく云っちゃうと、女の人と〜〜男の人が〜〜・・・
メ:(!)い―――いわゆる、「売春街」ですか!!
だっ―――ダメです!ダメですっ!
ミ:あら・・・好いじゃない、メイ。
私は、どちらかと云うと・・・「大」賛成なのだけれど。
メ:ミ・・・ミリヤ様ぁ??
ミ:だって―――ほら、「若い燕」達のエキスは・・・
た:わしら年寄りには、たまらんでのう〜〜♪
ミ:ですよねぇ〜〜♪
――フ・フ・フ――
た:で〜〜どうする〜? お主ら・・・
ミ:確か―――私の命令・・・「絶対」の筈・・・でしたわよねえ〜〜メイ・・・
メ:(ひ・・・)わ―――私達・・・
し:ひょっとしなくても・・・狙われてりゅ??
そう―――実はしのも、その場所・・・「吉原」に行くのは、頑なに拒んでいたのです。
なぜならば―――その場所とは、男と女の色恋模様・・・それが、金銭によって取り交わされる場にして、
公も、暗黙の了解をしている・・・と云う、少しばかり特殊な事情の場所だったからなのです。
それに、今までたまもが、しのの側に付いていたのは、大事な親友を、狒狒爺連中に手篭にされるのが、我慢ならなかった・・・
―――はずなのに??
ならばどうして、その時ばかりは、自分の欲望に素直になり、或る人物と一緒に、賛同してしまっていたのか・・・
でも―――?
秋:お前ら・・・正気じゃねえな。
それより、おい、たま―――お前気が付いているか、今のお前・・・中納言にそっくりだぜ。
た:おお、それはいかん・・・わしも長丸の奴と同じうになるとは・・・迂闊であったわww
ミ:ところで―――誰なのです、その・・・「中納言」とか、「長丸」とか云われる方は。
た:それはな、秋定の裏稼業「妖改方」の元締めにして、「天下の副将軍」と悪名名高い、あやつのことよw
目尻を下がらせ・・・口元はにやけ・・・
そんな表情を、或る人物に准える秋定。
しかも、その人物の特徴を述べて行くのに、その通称を聞いて、「よもや」と思われた方も多いのではないでしょうか・・・
されど―――それが現実にして事実・・・
時の常磐、副将軍ならずとも、中納言の位に就き、幼名を「長丸」と名乗っていた人物こそ・・・
ご存知、「水戸中納言光圀」その人だったのです。
しかしながら、なぜこの人物が、殊の外、仲間から悪い云われようなのかと云いますと・・・
し:あのじっちゃん、恐ろしく手癖が悪いからなぁ〜〜
ほら、ボクが道鏡について、探りを入れてた時に・・・
秋:あにぃ?! また、あの狒狒爺に・・・
し:うん・・・触られちゃったぁ〜〜
ボク、もう蝉ちゃんのお嫁さんになれないよ〜〜
秋:あんのクソ爺!! 今度と云う今度は活かしちゃおかねぇ!!
仲間の女の子に手を出すとは、大した無節操ぷり・・・
それに、しのと秋定のやり取りを見ている内に、どことなくしのが、その場所に行くのを嫌う理由が、判ってきたミリヤではありましたが、
それでも四六時中、相手側から襲われると云う危険を回避するため、已むなく吉原行きを採択するのでした。
=続く=