行くも、退くも、留まるも地獄―――ならば、「仲間」と云う言葉を信じ、敢えて吉原行きを決定するミリヤ達。
しかし・・・未だに、「妖改方」の本部が、「色街」と云われている吉原なのか・・・見当が付きにくかったのですが、
その事については、道中たまもから・・・「色恋沙汰の起こる場所には、必ずや情念が渦を巻き、それに群がり来る連中の多寡は、知れたものではない」―――
との説明があり、そこの処から見ても、ならば意図的に情念を集中させてしまえる場所を創ってしまえば良い・・・
つまり、好餌に群がりくる獲物を、一網打尽にすると云う、深い慮りだったのです。
それと、あともう一人―――永らく、賭博屋の用心棒を務めていた、橋川小夜某が、
この一行の「吉原散策」を聞きつけ、今は夜の、「不夜城」吉原・・・
小:はあ〜〜あ、いつ見ても派手だねぇ・・・。
た:まあの、「不夜城」と云うのも、強ち間違いではあるまい。
メ:し・・・しかし、私達がこれから身を寄せる場所・・・本当に大丈夫なんでしょうか。
秋:なあに、心配にゃ及ばねえよ。
「あそこ」を襲う様な奴ぁ、余程の莫迦か阿呆しかいやしねぇ。
た:そうじゃなw なにしろ、素手でトラの穴に入る様なモノじゃからなw
前を向いても・・・後ろを向いても・・・果てまたは、東を向いても、西を向いても―――夜なのに、煌々とした灯りがつき、芳しい香り漂う街・・・吉原。
この街で働く者の割合は、圧倒的に女性が多く、客層には男性が多い―――と、云うのも、
この街で見初めた「女郎」と、好い仲になりたいと思っている男性が多かったからであり、
それに、既に褪め上がっている関係よりも、新しい関係を求めている男性達も数多くいたから・・・。
だからこそ、そこで複雑多様な「情念」が、生まれ出てくるのです。
しかも、これから自分達が身を寄せる処が、「播磨屋」と云う、ここ吉原でも随一の老舗であり大店が、
敵の集中を受けないモノか・・・と、心配する声も出てきたのですが、そこは心配無用―――・・・
つまりは、「播磨屋」に陣取っている大物二人が、余程の強者だと云うのです。
第百四十一話;嗚呼・・・珍生バラ色、苦あれば楽あり
ともあれ、目的地に着いた一行は・・・
秋:お―――い、来たぜ〜!
番:はいはいはい・・・
ああ、これは若旦那、本日はお連れさんもご一緒で?
秋:ああ―――・・・それよりな・・・おカネさんいるかい。
番:ええ、いらっしゃいますよ。
それと御前も、お見えでいらっしゃいます。
秋:そうかい・・・そいつはまた、結構なこって―――・・・
吉原一の大店「播磨屋」―――それに、吉原一の遊女であり、「大夫」の名を聞くなり、しのは一抹の不安に駆られました。
しかし、それは無理もないこと・・・吉原一の、老舗の大店が抱え、しかも一番の稼ぎ頭の女郎を指名する―――と、云う事は、
自分が知らない間に、自分が想いを寄せる男は、その女郎に骨抜きにされてしまっている―――・・・などと、
ついつい好からぬ思考になってしまっていると云っても、無理らしからぬと云った処の様です。
しかも―――・・・
小:ヒュ〜ヒュ〜♪ あんたも罪作りなやっちゃねぇ〜♪
その「おカネ」―――っての、会うにしても、予約が一カ月先まで一杯だって話しじゃねぇの。
それをさぁ・・・いっやぁ〜〜今日来ただけで、すぐに会える〜〜っちゅうのは・・・
秋:るっせぇぞ、小夜・・・おいらだって、本来ならこんな処にゃ来たくなかったんでぇ。
た:・・・相当、ツケを溜まりこましておる―――とか?w
秋:やかましい!! しのの前で、余計な事をしゃべくんじゃねえ! あらぬ誤解を・・・
ミ:―――少し、遅かったようですわね・・・
し:蝉ちゃんのばがぁ〜〜!!
周囲りの取り巻きは、囃し立てる一方で、これでは誤解をしない方が無理・・・と、云った処で、
終ぞ、しのより強烈な張り手を喰らい、右頬に赤い手形を残してしまう秋定だったのです。
それはそれとして―――丁稚の案内で、「おカネ」なる女郎の部屋まで通される秋定一行・・・
すると・・・部屋の入口まで来てみれば、この部屋の内で交わされている、「大人の情事」に触れてしまったのです。
「さらり」とした、衣擦れの音―――「ぬちゃり」と聞こえる、粘り気のある音―――そして、時偶に漏れる、「あン」と云う、艶のかかった艶めかしい声・・・
その事を想像しただけで、卑猥且つ淫靡な―――それでいて、悶々とした「勘違い」を、してしま・・・
メ:い、い、い、淫行―――絶対反対〜〜!!
女:あ〜〜ン―――・・・おいひ・・・
・・・ん―――?
爺:な〜んじゃい、お主らは。
し:なっ・・・とう??
秋:紛らわしいんだよ!あんたらは!!
た:ふ・・・まだまだ若いのう―――w
ミ:それにしても・・・羨ましくもあります。
そんな「妄想」―――「音」だけで、してしまえるのですものね。
それに・・・メイも、相当たまっていたみたいね。
そう・・・大いなる「勘違い」が、ここに―――w
それと云うのも、吉原一の人気を誇る「大夫」の褥では、恐らくその大夫らしき美艶の女性と、大夫の客だと思われる老獪な爺様が、
二人で・・・水戸特産の、「納豆」を食していたのです。
それを、「淫行」だのと口走ってしまえるだなんて・・・いやはや、独断と偏見は、身を滅ぼす因とは良く云ったモノで、
先程、その言葉を口走ってしまった張本人は、顔を真紅くさせてしまい、「すみません」の言葉も小さくなってしまう始末、
これでは、主人のミリヤに、あらぬ誤解をさせてしまうのも仕様がない―――と、云った処の様です。
(斯く云う、たまもやミリヤ、秋定に小夜は、この部屋に着くまでに、なにやら「臭い」がしていたから、そんな「勘違い」は、しなかった模様。)
(つまる話し・・・この部屋で、「年齢制限」を掛けなければならない様な、如何わしい行為が行われていると思っていたのは、メイベルとしのだけだった・・・と、云うオチw)
閑話休題―――・・・
ならば・・・彼らがこの部屋に来るまでの間、納豆の試食会を行っていた、この老男若女は??
爺:なんじゃい、遅かったのう。
お前達が来んから、新製品の試食を、こ奴にして貰っておったのだぞぃ。
メ:トコロデコノヒトタチハ??
秋:ああ、紹介しなくちゃなんねえようだな・・・。
こっちの狒狒爺が、「妖改方」の元締めやってる、「徳川中納言光圀」って云う助兵衛爺だ。
光:ばっくわも〜ん!! 秋定ぁ―――このワシに向かって、狒狒爺だの、助兵衛爺だのとはなんじゃ〜い!!
ええい、目にモノを見せてくれる―――この、いんの・・・
た:そのような、汚らしいぬしのふぐりなど、見とうもないわい・・・長丸。
そこで秋定は、未だ知られていない「妖改方」の幹部の一人・・・「元締め」である、光圀公を紹介するのですが、
何やら不潔なモノを、己の股座から取り出そうとしていたので、そこはたまもから、きついお灸をすえられて、行為までには至らなかったようです。
それはそうと・・・こちらの大夫は?
秋:でぇ〜〜こっちが、おいら達に直接指示を与えている「組頭」―――「遠山左衛門尉景元」・・・って、お人だ。
遠:お初に―――・・・
し:(?)あれ・・・?でも、確かこの人の名前―――・・・
メ:どうしたのです?
し:・・・うん、聞き間違いじゃなきゃ、この穢戸の「北町奉行」―――・・・
遠:フ―――・・・なるほど、さすがは、段蔵の娘・・・と、云った処ですかな、御前。
し:・・・え?
メ:男??
そう・・・「妖改方」の「組頭」こそ、とあるモノで有名な「北町奉行」―――遠山左衛門尉景元・・・またの名を、遠山金四郎と云われており、
しかも、ここ・・・吉原では、「おカネ」の源氏名で呼ばれている大夫でもあったのです。
それにしても不可解なのは、どこからどう見ても「女」―――・・・
胸の発達も、しのよりかはあり、なにより「男」のはずなのに、吉原界隈では、一番の人気を誇る美貌の持ち主・・・
しかし、どこをどう細工したのか、渋い低音も聞かせてくるとは・・・
そのことに、何が何やら・・・さっぱり―――の、しのとメイベルに・・・
た:ほっほっほっ―――しのよ、世の中にはお前の与り知らんことばかりぞ。
まあ、モノは試しじゃ、金四郎の股座を確かめてみい。
し:・・・え? い・・・いいんです―――か??
そ・・・それでは―――・・・
(?)(??)・・・・(!!!)
ひっ・・・ひええっ?!!
メ:ど・・・どうしたのですか??
し:こっ・・・この人―――蝉ちゃんみたいに、ごつくて逞しいモノを持っているのに・・・ボクのもある!?
メ:(??)何を云っているのです―――もう少し具体的に・・・
「彼」には、或る身体的特徴がありました。
見かけの上では、見れば見る程に、匂い立つ女・・・なのに―――見えない部分の一方では、未だ初心なしのを、驚かせるだけのモノを持っていたのです。
そのしのの曰くには―――しの自身が知る「男」・・・秋定と同じか、太くて逞しいモノを持っていると云うのに、
(しのが「基準」とする、「秋定のモノ」を、どうしてしのが知っていると云うのは、「下衆の勘繰り」と云うモノであろうww)
握ったその手を、そのまま下方に忍ばせてみれば・・・自分と同じモノを持っていた―――
それに、しのが口にしていたのは、余りにも説明的なモノが欠いていた為、メイベルも理解までは出来なかったのですが・・・
ミリヤからは一言―――「フフ・・・欲張りな人ね」
しのが、何が云いたかったのか―――それと、ミリヤがしのの思考を詠んだ時、判明する処となった「おカネ」の秘密とは・・・
それが、これから明らかとなってくるのです。
=続く=