世間には、未だ自分が知り得ないことばかりなのだ・・・しのは、そう思うしかありませんでした。
しかし、しのがそう思うのにも、無理らしからぬ処があったのです。
今、自分の目の前にいる人物こそは、「女」である事は確か―――なのに、「男」でもあったと云うのですから。
それに、そのことを端的に要約した説明が、ミリヤの方からなされ・・・
ミ:ウフフフ―――・・・まああ、欲張りな人もいた事ですわね。
メ:え? ミリヤ・・・様?
ミ:その人はね、「女」であるのと同時に、「男」でもある―――つまり、「両性具有」なのよ。
私も、これまでに数多く見て来たけれど、その中であなたは一番だわ。
遠:フフ・・・見ず知らずの御仁に、そこまで云われるとは―――冥利に尽きると云った処ですかな。
で・・・お前さん達、揃いも揃って、ここの女郎にでも、なりに来たのかね。
た:そんなワケはなかろうに、お主もきっついことを云うのう―――金四郎。
遠:―――っはっは! そいつは仕方あるまい、俺だって、望んでこんな身体に産まれて来たワケじゃないからな。
秋:それよりお奉行―――「道鏡」の件なんだが・・・
思わずも、その美女の、「男」な仕草に、開いた口が塞がらない・・・と、云った状態の、しのとメイベル。
それもそのはず、「両性具有」と云うのは、滅多と表沙汰となるモノではなく、
もしそうだとしても、その個人が亡くなるまで、秘事としていたこともあったからなのですが・・・
ではなぜ、その大夫は、自分達に明かすに至ったのか―――
それは、「仲間内に秘密を作るようでは、安心して背中を預けられない・・・」
その、たまもの説明に言及していたのではないでしょうか。
それはそれとして、ようやく本題に入る事になり―――
光:ふぅむ・・・「道鏡」のう。
またあやつも、不憫な生涯であったと云うが、お前さんならどう見たてておる・・・玉藻前。
た:まあ、確かに・・・その最期を知っておる者からすれば、情状酌量の余地はない―――と、までは云えまい。
が・・・あ奴のしでかしたこととは、わしと同罪じゃからな。
遠:しかも、寸での処で、帝の地位を手に入れられるところまで行ったというからな・・・奸智にも長けておると見なければなるまい。
た:ところで・・・やはり根城としておるのは、「太極殿」なのか。
遠:それを証拠に・・・ここ最近、朝廷からの音沙汰は無きに等しい―――
ここはもう、帝は奴に取り込まれているかもしれんかなぁ・・・。
先ずは、これまでの・・・「道鏡」の行動の経緯―――
過去の罪状は、まだ情状酌量の余地がある・・・と、思われるのですが、
現在の彼の所業は、未だ確定までには至らないモノの、看過出来るモノではない―――と云うのが、「妖改方」の、上層部の見解だったのです。
そして、もう一方のこちら・・・ミリヤとメイベルの訊きたかった事―――
しかし、物的証拠は、相手方に奪われていた為、大まかな特徴を云ってみた処・・・
第百四十二話;突撃前夜
小:そいつの居場所なら、知ってるぜ・・・
メ:―――本当・・・ですか。
小:ああ、ちょいと探らせていたんでね。
秋:小夜・・・お前ぇ、一体・・・
小:詮索するだけ、野暮・・・ってなもんだぜ。
それに―――「女」ってのは、ミステリアスな方が魅力的なのさ。
なんとも喰えない人物・・・橋川小夜某―――
別段これと云って、味方になってくれていたわけでもなさそうなのですが、
メイベルの目的に関しての情報提供をするのに至り、秋定も、小夜なる人物が、自分達と行動を共にしている事に、疑問を抱き始めたのです。
しかし彼女は・・・彼からの追及を、巧みに躱して行くのでしたが・・・
それでも尚、秋定は―――
秋:そう云やあお前―――爺やお奉行に会わせろと云ってたな、なんの目的だったんだよ。
小:フフン―――あんたらとつるんでた方が、私のお役目も、やり易いと感じたんでね・・・。
まあ尤も、今回注目している「道鏡」ってのは、中々手強そうだ。
面白そうじゃないか―――なぁんて、思ったりしてな。
メ:(!)あなた―――・・・
小:ん〜? なんだい―――・・・
小夜が、自分達と行動を共にしている理由・・・
そもそも彼女は、なんの目的があって、妖改方の上役二人に会わせて欲しいと云っていたのか・・・
それについて、小夜が云っていた事に、逸早く反応するメイベル―――
そう・・・メイベルは知っているのです、嘗て、自分に苦杯を嘗めさせたことのある人物の―――口癖を・・・
そして、その「口癖」と同じ様な事を・・・今、この人物が口にした―――?!
だから、メイベルは、冷静ではいられなくなり、すぐさまその事を問い詰めようとするのですが・・・
メ:あなた・・・「侯爵」と、なんの関係が―――・・・
小:ン・な、怖い顔をするなよ・・・思わず泣いちゃいそうだw
メ:真面目に答えて下さい!
小:(・・・。)知らないねぇ〜コウシャクだか、コンニャクだか・・・
それに、この私が知っていた処で、お姉さんはどうするつもりだったんだい。
小夜も然る者―――どうやらこの手の追及は手慣れていたモノで、躱したついでに、質問を投げ返してきたのです。
それに、その質問の答えに、どう返してモノやら・・・と、逆に窮してしまうメイベル。
もし―――「関係がある」と云うのなら、本来の、この惑星へと来た目的よりも、この人物と手合わせをしてみたい・・・と、願っている自分がいる―――と、する一方で、
もし―――「関係がない」と云うのなら、ここで無駄な労力を消費するのは、差し控えたい・・・と、する自分がいる―――・・・
ただ自分は、置いて行かれたくはない・・・
その為に、「侯爵」にリベンジを果たす為に、更なる強さの高みに到達する為に、この惑星に訪れているとされている、
自分と同じレベルの、「テュポーン」に勝つ為、今は一時的に、秋定達と行動を共にしているだけ・・・
そう、自分に言い聞かせるようにするのですが―――
しかし・・・
小:・・・ふぅん、そうかい・・・判った。
た:どうか、したのか・・・。
「今・・・一体誰と会話をしていたのか・・・。」
「この私に、気取られることなく、そんな事が出来るとは・・・」
他人の思考を詠み取ることができる、優れた感応―――「月詠」を所有しているミリヤは、戦慄をしていました。
こんなにも近くで―――それも、自分に感知されるでもなく、見えない相手と、何かしらのやり取りをしていた者・・・
そんな者が、突如こんな提案をしてきたのです。
小:ちょいとあんたらに訊いてもらいたいんだが・・・
ちょっと以前に、あんた等の間でも話題になった「金沢屋」に、無頼の輩が集まりだしている・・・
そのこと自体は、もう既にご存知なんだろうが―――たった今入った情報によると、そこのお姉さんが探している奴と・・・道鏡の手下が来ている「らしい」・・・。
さぁて、どうする―――行くも行かないも、あんたら次第・・・なんだけれどもねぇ。
た:なるほどのう―――この上なく、都合が好過ぎる・・・と、云うのは、この際置いておくとして―――そう云うお主はどうするのじゃ。
小:私? 行くに決まってんだろ―――これほど、美味しそうな話は、他にはないからねぇ〜。
唐突―――と云えば、余りにも唐突・・・
しかし、聞けば、誰もが耳を傾けたくもなる、そんな旨味のある話しに、所詮選択の余地などなく・・・
しのにたまも、秋定に平蔵―――と、妖改方側は、ほぼ主戦力が出撃するようでしたが・・・
メ:では、私も、勿論行かさせて―――
ミ:・・・待って、メイ―――
メ:ミリヤ様?
ミ:行っては・・・駄目・・・
メ:どうしてなのです?
あの情報が確かならば、今回はまたとない機会に・・・
ミ:あなた―――人間ではないわね・・・
この私の感応にかからないなんて・・・こんな経験は初めてだわ。
だから私は、この人を信用することは出来ない・・・残念だけど、今回は諦めて頂戴、メイ・・・
一方のこちら―――メイベルは、ヤル気が満々で、彼らと一緒に出向くつもりではあったようなのでしたが・・・
なぜか、メイベルの主であるミリヤから、中止の意向が固められたのです。
しかし―――ではなぜ、ミリヤがメイベルの出撃を止めさせたのか・・・
それは・・・ミリヤも疑問には感じていた、小夜某の正体・・・
生きている者は、それが喩え、「人間」であろうが、「魔物」であろうが、思考なくしては生きてはいられない・・・
そのことは、既に死んでいる、「不死者」でも同じこと・・・生への渇望と同時に、嫌悪する―――
それが一瞬、小夜が、何者かと会話をしていた瞬間に、一体彼女が何を考え、慮りを巡らせているのか・・・知れる処ではなかった・・・。
その事に、不気味さを覚えていたからなのです。
それはともかく―――こうして五人は、今回の事象点ともなり得なくもない「金沢屋」前に結集し、突撃の機会を待つのでした。
小:さぁ〜て、そろそろ頃合いかねぇ・・・。
平:本当に、確かな情報でござろうな。
小:ま、疑り深い―――ってのはいいことだが、余り木ばっかりを見てると、森でさえも見失っちまうぜ。
ここは一つ、男なんだからさ・・・肚ぁ括って、やっちまおうや。
なんだ―――かんだ―――と、云って、巧い言葉に乗せられられ、突撃を開始しようとする、妖改方の面々・・・と、+一名。
決定力には、やや欠けるモノの、その事を信じざるを得なければならない程の殺気と、緊張が漲っている家屋を前に、心の準備も整えられ、やがて実行に映るのでしたが・・・
ミリヤが抱えていた不安は、現実のモノとなってしまい―――
それは、今回出撃したメンバーの一人に、「禍」となって降りかかってきたのです。
=続く=