不意に、身体を貫く―――血塗られた刃・・・
そして、亡骸を持ち去ろうとする者を、呼び止める―――秋定の声・・・
それは、「金沢屋」で起こった騒動が、ほぼ鎮まりかけた時に、起きた出来事なのでした。
第百四十三話;金沢屋騒動次第
その僅か一時間前・・・金沢屋前に集結した、秋定を筆頭とする、「妖改方」の面々に加え、
この現場に、秋定達が血眼になって求めている情報を、持っていそうな人物がいるとして、
その情報を提供・・・並びに、協力までしてやろうとする、「橋川小夜」なる人物が、
いつ突撃をしてもいい様に、その機会を見計らっていたのでした。
秋:ぃよっしゃあ―――いっちょやったろうぜ!!
平:この際、雑魚共は構わん方がよいか・・・
しかし、邪魔立てをするようなれば、斬って棄ててよろしいか。
秋:あたぼうよ! 容赦なんざ要らねえ・・・行くぜ!しの!!
し:うんっ!
小:へっへ―――景気の好い話しだぁ〜ね♪
各々が、自分に云い聞かせるようにして発奮し、士気の上昇が、全員に行き渡ったと感じた時、突貫は実行に移されました。
その際に、自分の想い人の為に―――と、意気込み、緊張して硬くなっているしのに対し、
小夜は、「肩の力を抜いて―――でないと、周囲りが見えなくなっちまうよ・・・」と、助言してあげるのでした。
その事にしのは感謝をし、緊張を解した状態で、先行する秋定や平蔵に続こうとした処、今度はたまもから・・・
た:しの―――気を付けよ・・・
し:うん―――判ってるよ・・・たまちゃん。
小夜とはまた違った助言―――
しかし、この時たまもは、「何」に対して「気を付けよ」と云ったのか・・・
実は、たまもも、ミリヤと同様の不安を、小夜に抱いていたのです。
けれども、今回の件に限っては、しのの主張もあることだし、ならばせめて、自分が彼女の・・・
友の支えになればいい―――そう思っていたのです。
しかし・・・現場に赴いてみれば、次第に色濃くなってくる不安―――に・・・
たまもは、しのへの助言を、「(小夜に)気を付けよ」と、云っていたのです。
それにしても・・・奸智・策略に長けた二人が、同じくしての見解―――小夜を、「要注意人物視」していたのでしょうか。
それはともかく、突貫を開始させて、モノの五分程度で、粗方の雑魚・・・この度、金沢屋が雇い入れた浪人連中は、秋定と平蔵によって、血の海に沈められましたが、
やはり手強かったのは、古参の用心棒―――しかもこの者達は、秋定が以前から思っていた通り・・・
秋:けっ―――やっぱ、人じゃなかったようだな・・・
だがな、こんなへっぴり腰の連中じゃあ、斬り応えがなかったんだよ!
妖改・・・鷹山秋定、血道を斬り拓く!!
『剣の道 修羅の道 幾度か斬り結び 生き残ることこそ 無敵也―――』
いつぞか・・・誰が詠んだかは知らぬ「狂歌」にもあるように、彼らの征く途の跡には、血の河が流れ、屍の山が築かれていました・・・。
それを、「修羅道」と呼ばずして、何をしてそう呼ぶべきか―――・・・
今もまた、修羅と化した五人が、更なる化生の、巣窟の奥へと進む―――・・・
そして、その修羅達を待ち受けていたのは・・・
暗:何者だ・・・お前達は。
秋:妖改方、鷹山秋定―――故あって、手前を討ち参らせに参った・・・神妙にしやがれぇ!
いつぞか・・・一瞬だけ垣間見た、手配の色絵―――つまり、「写真」の特徴に、酷似した者が、秋定達を待ち受けていました。
青と銀が入り混ざった長髪に、切れ長の眼―――長い爪に、まるで歌舞伎役者を思わせる、「隈取り」の様な印を、顔に施していた・・・
色白で―――しなやかかつ、強靭な肉体・・・
それは、今までに相手をしてきた雑魚達とは、明らかに一線を画した実力の持ち主である事を、秋定達は直感的に感じていました。
そしてその事は、秋定に平蔵・・・しのの三人がかりで、攻め立ててみた処で、愈々以て明るみになったのです。
平:ぬぅ・・・中々にやりおる―――
し:ならボクが・・・あいつの足を止めてみせる!
秋:しの、余り無茶をやらかすんじゃねえ!
おい、たま、お前があいつをどうにかしろ!
た:判っておる・・・
ぬうん!――=式神・牛頭=――
三人が、交互に攻めかかっても、相手は余裕すら見せていました。
そのことからでも判る様に、相手は相当の手足れ・・・つまりは、「その道の人間」―――
だからなのか、たまもが、間接的に戦闘の支援を行い、相手に一瞬の隙を作らせるように働きかけたのです。
すると―――・・・
暗:ほほう・・・このような辺境の惑星にも、存外に手強い者もいたモノだな・・・。
だが、私の本来の目的は、お前達と闘り合う為ではない。
お前達の相手は、本来の目的が果たせた後、存分にしてくれよう!
秋:へっ―――云ってくれるねぇ・・・
けどな! おいらにしてみりゃ、そんなのは後だろうが先だろうが、同じことなんだよ!!
暗:抜かせ・・・お前達など、この私が本気になれば、相手にもならん―――!
その証拠を、今から少しだけ見せてくれよう・・・――=グリフィス・スクラッチ=――
八方より襲いかかる爪撃―――
しかもその攻撃は、通常の爪による攻撃だけではなく、毒や麻痺を伴う、特殊な攻撃―――
それに、少し掠っただけでも、効果は覿面に現れ、秋定や平蔵は、一時的な行動不能に陥らされてしまったのです。
しかし、しのだけは俊敏性を活かし、どうにか免れ―――二人の治療をたまもに託すと、自分は相手の跡を追って行ったのです。
とは云え・・・秋定と平蔵の二人を、動けなくさせるだけの実力を持つ者に、どうしてしの一人が太刀打ちできるモノか・・・
そう判断した秋定は、もう一人の無傷である小夜に、しのの助勢になってくれるように頼んだのです。
・・・が―――
秋:頼んだぜ・・・小夜―――
小:ああ、任しときな。
た:・・・良いのか、あ奴に任せて―――
秋:仕方ねえだろ・・・おいら達がこんな様で、後に動ける奴と云やあ、お前を除けば、敵でも味方でもない、あの女だけだ・・・。
それに、奴が敵だった場合、動けねえおいら達を、ほっぽとく道理もありゃしねえ。
た:確かに・・・それはそうじゃがのぅ―――・・・
秋:だったら、おいら達の治療を、ちゃっちゃとやって、しのの奴を助けに行ってやってくれよ。
た:ならん! それだけはならん・・・ならば、お主の治癒を最優先させ、お主がしのの助けになってやってくれ。
たまもは・・・小夜の事を、信用はしていませんでした。
敵にも精通し―――また自分達の側にもいると云うのは、味方にも精通しつつある・・・とも云える。
それに、自分達が相手としなければならないのは、昨今の「道鏡」だけではない・・・
もしかすると、小夜は、第三勢力の手の者・・・なのかもしれない・・・
「妖改方」と、「道鏡」と云う、猛獣同士が傷付け合い、お互いが弱って来たところを―――「漁夫の利」で占めるかもしれない・・・
それでも、今、動けないでいる自分達に。止めを刺さないでいる―――と、云うのは、
未だ一縷の望みはあるモノとし、秋定はそれに掛けてみることにしたのです。
それでも、たまもは小夜を、信用するわけにはいきませんでした。
ならば、自分達の手当てを軽めに済ませ、たまもが実戦の場に出てみては・・・と、秋定は促すのですが―――
たまもは、自身のことだから、判っていました。
以前、ユリアと云う人物から、珠玉の欠片の様なモノを手渡され、
たった一度だけ・・・古の自分―――「三大悪妖怪」と畏れられた頃の、「玉藻前」に戻った事があり、
その時には、現在の自分には失われている、強大なまでの力・・・
「生殺与奪」が思いのままに振るわれるそれに、自分が酔いしれていた事に―――
だから・・・自分は―――自分の意志で、闘ってはならない・・・
そうなれば、必ずや、大きなリスクを伴いかねない―――
その事を思えば、自分の友の事を想い続けている秋定に、後の事を託すことにしたのです。
そして、体内に残る、毒・麻痺を浄化させると、しのと小夜の後を追った秋定―――ではあったのですが・・・
現場に遺されていたのは、凄惨たる状況―――・・・
しかも、たまもの不安も、的中してしまう―――と、云う、まさに最悪を描いた状況になってしまっていたのです。
=続く=