たまもの治癒で、体内にあった毒と麻痺を取り除いた秋定は、単独で先行したしのを助ける為、彼女の後を追いました。
しかし―――・・・秋定が行きついた先で、目にしたモノとは・・・
傷付き、血を流し・・・微動だにしないしのを肩に抱えあげ、現場から立ち去ろうとする、あの人物・・・
秋:―――小夜!! 手前ぇ・・・しのに何をしやがった!!
小:おおっと、ようやく来たかい―――
なぁに、ちょいとこのお嬢ちゃんに、用があるんでね・・・
そう云うと―――小夜は、次第に像をぼやかし、彼方の闇へと消えたのでした。
そう・・・小夜は、予てから、たまもやミリヤが抱いていた不安の通り、自分達に牙を剥いてきた・・・
それも、「道鏡」の手先と目されている、「暗殺者」を、追い詰めていた時に・・・
それに・・・しのも―――・・・
しのは、この「暗殺者」からの反撃を躱せられていたので、逃げていた彼を、確実に追尾していました。
そして、しのの支援をしてやろう―――と、同じく、二人の後を追った人物が一人・・・
それが、未だに、味方とも・・・敵とも判らない、得体の知れない人物―――橋川小夜だったのです。
し:あっ―――小夜さん・・・
小:随分と、手間ァ取らせたね・・・今、助けてやるよ―――
その時までは・・・味方だと思っていた―――
その時の言葉は・・・自分を助太刀する為に、掛けてくれたモノだと思っていた―――
だ・が―――・・・
し:あっ・・・ぐぅっ―――・・・
小:―――・・・。
し:さ・・・小夜―――さん?
小:フッ・・・済まないねぇ―――お嬢ちゃん・・・
あたら、味方だと思っていただけに、最も注意を払わなければならない背後を、最も注意をしておかなくてはならない、人物に向けてしまっていた・・・
しのは・・・背後から忍び寄る、自分を貫く兇刃に気付きもせず、刺し貫かれていたのです。
しかも、見れば・・・自分の血が、彼の者の武器を、朱に濡らしていた・・・
刃にこびりついた朱が変色し、濁りのある薄気味悪い黒になりつつある兇刃―――・・・
霞み始める目の前・・・失われていく、体力に気力・・・
その時しのは―――
「ああ・・・ボクの生は、ここで終わるんだ―――・・・」
そう思うようになり、その場に昏倒してしまったのです。
そんな彼女を肩に抱えあげると、しのが直前まで追っていた「暗殺者」も思う処となり・・・
暗:お前―――どういうつもりなのだ・・・
小:フッ・・・簡単な事さね。
そちらさんの陣中にお見舞いするのに、手土産の一つでもあったほうがいいだろ。
まだまだ信用するには足らない―――とはしながらも、現実に自分達の障害になろうとしている者達の、仲間の一人を入手できたことに、
彼らへの牽制くらいには使えるだろう・・・と、思案を巡らせる「暗殺者」・・・
丁度その時に、体調を快復させた秋定が、既に死んでいる(?)しのを抱えあげ、この現場より立ち去ろうとしている、小夜と「暗殺者」を目撃してしまった・・・
この目撃情報は、小夜が、この機会をして、自分達より離反してしまった動かぬ証拠となり、
「金沢屋」であった騒動は、結果としては、穢戸に動乱を引き起こそうとしていた、不平浪人達を取り締まっただけのモノに終わってしまい、
その大元となっていた、中心人物を取り逃がしてしまった―――と、云う、苦い結果に終わってしまったのです。
そして・・・現在、根城としている、吉原の「播磨屋」に戻って来た秋定達は・・・
た:な―――なんじゃと?
ぬうぅ〜〜っ・・・あれほど気を付けよ―――と、云っておいたのに・・・
秋:すまねえ―――おいらが不甲斐ないばっかりに・・・
ミ:それよりも、思ったより収穫がありましたわね。
やはり、あの小夜とか申した者・・・敵に回ったとは。
それに、あなた達が目撃した人物―――
メ:どうやら、間違いはないようです。
平:彼の者の事を、ご存知であるか?
メ:はい。
ヤツこそは、この私と同業者・・・暗殺を生業とする者―――「テュポーン」・・・
ミリヤ様、これで、向こう側の陣容が、はっきりとしてきたわけですね。
ミ:そうね・・・それに、彼らはもうこの地にはいない―――
ここより北北西の方角、70kmの地点に、高い楼閣の建造物があるのをご存じではありませんか。
た:ふぅむ・・・亥子か―――・・・洛中のある方角の様じゃが・・・はて?その様な建物があったモノかのう。
光:いや・・・一つだけあるぞい。
た:なんじゃと?
光:それも、正確には「あった」じゃ。
遠:御前・・・もしやすると―――
光:いかにも、その通りじゃ・・・過去にあった大乱によって、焼け落ちたとされておる―――「伏見城」・・・
それが、復活しておるとなると、いよいよというわけじゃな。
こうなったら、ワシらも早く態勢を立て直さんといかん、判っておるのう―――秋定・・・
秋:ああ―――・・・判ってるさ・・・
しのの仇、このおいらが、奴らを鏖にしてやる!
一見すれば、敗北したかのようにも見えましたが・・・成果は思っていたよりもありました。
たまもにミリヤが、不信とみなしていた人物の裏切り―――・・・
この事が判っただけでも、収穫はありました。
何よりも一番怖いのは、油断していた時に、急に裏切りなどの行為に遭ってしまった時、無防備な背後を狙われると云うこと・・・
これで―――自分達は、これから背後を気にしなくて済む・・・
今回のしのの犠牲は、無駄ではなかった・・・と、する反面、大事な友を喪ってしまった事に、たまもの感情は揺らいでいたのです。
けれどその事実を、どうにか理性で抑え、気丈に振る舞っていたのです。
そして、次に判った事とは、やはり秋定達が追っていたのは、自分が追っていた「テュポーン」である事に、
内心、逸る気持ちを抑えられないメイベル・・・
そして、最終的に―――現在、秋定達「妖改方」が追っている、「道鏡」一党の本拠が判明したのです。
その場所と云うのが・・・この穢戸と比肩するくらいに、「魔力」「霊力」の集中する地であり、
たまもを含める「三大悪妖怪」ならずとも、その地を、自分の本拠にしようとした事がある・・・洛中の「太極殿」―――
実はたまもは、道鏡は、その場所に本拠を構え、自分達と敵対するモノだと思っていたのに、
優れた感知能力を持つミリヤによって、その場所とは別の・・・違う場所を指定されたのです。
その場所を聞き、光圀は眉を曇らさざるを得ませんでした・・・。
それと云うのも、光圀本人が携わっている、或る事業―――常磐の歴史を編纂する際に、判っていた事実・・・
この国には、かつて、二つの大きな内乱があり、最後の大きな内乱―――その前哨戦として、
その場所・・・「伏見城」で、多くの兵や将が、虐殺に遭っていた―――と、云う事実・・・
しかもその場所は、未だに怨み辛みなどが、渦を巻いている場所でもあり、一部の噂でも、魑魅魍魎の類が跋扈しているとも云われていたのです。
とは云え、これで相手方の陣容もはっきりとしてきた―――と、云う事で、光圀は、秋定にある許可を下したのです。
その許可とは・・・妖魎討伐の際にのみ、帯刀・使用を赦された、曰くつきの業物―――「怨獄刀・備前長舟兼光」・・・
当代随一と呼ばれる、退魔の刀を取りに、実家である鷹山家へと戻ってきたのは良かったのですが・・・
第百四十四話;天より振る禍・・・一難去って、また一難
秋:・・・しのぉ―――・・・
た:そう・・・己を責めるではない・・・
秋:るせぇよ・・・これが、責められずにいられるかってんだ!
た:それ以上云うな! ・・・口にしてはならん。
そのことは、わしとて同じじゃからのう。
友であり・・・また、愛しき者を救えなかった―――
そのことに、二人して悔恨の涕に暮れる、秋定とたまも・・・
二人とも、判ってはいたのですが、そこはやはり「自分が・・・」と、思う気持ちの方が強く、
今更ながら、不甲斐ない自分自身に―――と、自責の念に駆られていたようです。
・・・が―――
こんな二人に、また同時に・・・ある禍が降りかかろうとは。
自らが罪としている部分を曝け出し合い、ひしと互いを抱きしめ合いながら、復讐を誓いあう秋定とたまも・・・
それはそれで、美談だったのでしょうが―――しかし、そんな余韻に浸る間もなく、二人がいる鷹山家めがけ、天空より墜ちたる一つの物体が・・・
しかもこの物体―――成層圏・・・所謂、大気圏を突き抜けると、一気に加速をし、大気との摩擦によって、焔まで巻き上げていたのです。
そんな物体が・・・木造家屋に直撃でもしたら・・・
しかし、その「したら」と云う表現も、実に気休めにも似たモノで、甘ったるい「予測」に「願望」―――に、過ぎなかった・・・
現実には、もっと厳しい、過酷なまでの試練が待ち受けていたのです。
それと云うのも―――この物体・・・
鷹山家の屋根を直撃―――ぶち抜くと、床や軒を、破壊するだけ破壊し、ようやく・・・庭園にある庭石にぶつかって、停止したのです。
それにしても・・・楕円形をして、しかも貫通力のある、この「物体」・・・
果たして何なのでしょうか―――
=続く=