「絶大」を誇れると云っても過言ではない、「人心を操れる能力」・・・
けれどその能力も、所詮は「万能」ではありませんでした。
なぜならば、そうした異能を、自分のモノにしておきたいとはしながらも、余りに危険を伴うので、
「ならば・・・」と、云う事で、「時間制限」を設けることにした―――
その上で、その異能を持つ人物を、「自分の監視下に置く」と云う名目で、
マエストロ・デルフィーネは、終に自分モノにしたのです。
そして今・・・「絶大」を誇れる能力の、無敵時間は終わりを告げる―――・・・
定められた、時間制限の終了と共に、無防備となったミリヤとたまもに、襲いかからんとする、道鏡の手下達・・・
ミ:うっっ・・・く―――・・・
た:ミリヤ殿!
ミ:メイ・・・あとは首尾よく・・・
天蚕糸が切れた凧の様に、車椅子に凭れ掛るミリヤ・・・
あれから、随分と数そのモノは減らす事は出来たモノの、自分達二人を害するのには、充分な戦力は残っていた・・・
それに自身は、過去の様に強力な力を有してはいないし・・・「ならば今が「百年目」―――」と、たまもは肚を括るしかないと思っていました、
しかも現実に、残った者達は、自分達の仲間を、こんな目に遭わせた者目掛け、一斉に襲いかかろうとまでしていたのです。
しかし―――・・・
魔:ぎゃほわぁ〜―――!
た:ナニ?(まだ・・・何かおるのか??)
不意に、隊列の後方から、この者達の仲間と思える者の、叫び声が上がりました。
まだ・・・人心を操る作用が、解けていない者がいたのか―――
それとも・・・城内に進入したはずの、仲間の誰かが、こう云う事態を想定して、戻ってきてくれたのか―――
いや・・・違う・・・
この感覚は―――・・・
身の毛も弥立つ、この感覚は、「そうではない」と云う、たまもの直感は、見事なまでに中っていました。
そう・・・そこには―――
全身に、他の生き物の血を浴び、その浴びた血が、所々で黒く変色して、斑模様になっている、一匹の、獰猛な大型の肉食獣が―――・・・
今まさに、獲物を捕えて食している、恐らくはこの妖魔達の仲間の腕や足を、口からちらつかせながら、自分達の方に、にじり寄って来たのです。
しかも、たまもは、この魔獣の正体を知っているらしく・・・
た:(な・・・っ―――なぜじゃ?! なぜ「トウテツ」が・・・こんな処におる??
それにこやつ・・・わしらをも喰らわんとしておるのか―――?!)
その捕食獣こそ、「トウテツ」・・・
獰猛にして、危険極まりない魔獣―――・・・
そんな魔獣の視線は、明らかに自分達二人を捉えており、現在、口の内にある「獲物」を、腹の内に収まらせたら、
次は自分達の番なのだ・・・と、そう思わせるには、充分過ぎるのでした。
だからなのか―――この魔獣の注意が、自分達から逸れたと思った者達は、
当初の、本来の自分達の標的が、目の前にいると云うのにも拘らず、一目散に逃げようとした―――
・・・の、でしたが―――
魔:あびゃあ゛あ゛〜〜っ!! こ・・・こっち来たぁ〜〜!!
魔:だあ゛〜じぃ〜げぇ〜でえ゛え゛え゛〜〜!!
魔:たぶらわ゛っ―――!!
なんとこの時、目を疑いたくもなる事態が・・・
最後のひと呑みをし―――口の内が空になると、この魔獣は、目の前の「獲物」には見向きすらせず、
ただ―――逃げ惑う者達を、捕食し始めたのです。
そして・・・総てを平らげてしまうと、満腹・満足したのか、魔獣は、彼方へと消え去って行ったのです・・・。
それはそうと、処変わって―――敵の待ち受ける、伏見城内に侵入した者達は・・・
秋:ち・・・桃山の城も、随分と悪趣味になっちまったもんだなあ。
蓮:太閤殿が創られた時は、絢爛豪華とさえ云われたそうだが、やはりこうなってしまうと・・・
リ:なに云ってんだ、あんたら・・・悪党の巣窟ってのは、大体こんなもんだろ。
市:いえ・・・確かに、蓮也殿の云われるように、この城は、贅を尽くした建物だったのですが・・・
然る大乱の折、この城は、争い合っていた勢力の一軍が立て篭もり、然る後に全滅・・・
つまり、この城は、一夜にして、死臭漂う怨霊達の棲み処となってしまったのです。
リ:お・お・脅かすなよう〜〜市子ぉ〜〜・・・
だっ・・・だったらなんで―――今更こんなのが残って〜??
蓮:だから、そうならぬよう、天下平定の後には、この一帯は焼き払われたはず―――
だったのではござるが・・・これもやはり、「道鏡」なる者の仕業なのでござろうな。
一見しても、普通の建物ではない・・・
壁や床には、恐らくは大乱当時のモノと思われる、血のりがこびりついており、そこかしこで呻き声も聞こえるようだった・・・
嘗ての、絢爛豪華な様式など、見る影も失せ―――「怨霊の巣窟」と云う表現が、妥当とも思えてきた・・・
それに、こうしたことも、やはり今回の禍の因ともなっている、「道鏡」なる者の仕業ではないか・・・と、誰しもが思った時、
ただ一人、メイベルだけは―――・・・
メ:死んだ者は・・・黄泉帰ってはこない・・・
喩えそう見えたとしても、そんなモノは、所詮はまやかし―――幻想に幻影です!
それに・・・こんなモノで、私の足止めをしようなどと―――笑止千万!
「依頼」によって、数多の命を殺めてきたからか、メイベルは実に冷めていました。
現在は「ディーヴァ」の一人であり、ミリヤのメイドをしている彼女も、その経歴を辿れば・・・「暗殺者・ウイッチ」―――
「現実としての生命」を、多く剥奪して来た彼女にしてみれば、「現実ではない生命」の、幽霊・死霊・屍人等は、容認できない存在だったのかもしれません・・・。
それにしても、ミリヤの異能のお陰もあってか、邪魔する者もなく―――五層あるうちの、三層まで着いた時・・・
思いも寄らない事態が―――・・・
なんと、メイベル・秋定―――リリア・蓮也・市子を、綺麗に分け隔てるように、格子が彼らの行く手を阻んだのです。
けれど、そうした状況に陥っても、彼らの当初の目的―――
秋定は、しのを救うこと・・・メイベルは、自分の同業者である「テュポーン」を討つ為、先を急ぐことにしたのです。
第百四十九話;俟ち受ける者
それにしても・・・こんな回りくどい真似をする者は、一体何者―――と、そう思っていたら・・・
リ:あっ・・・今頃になって―――
たくぅ〜どこのどいつだ、こんな真似をしやがったの・・・
市:あっ・・・あなたは―――?!
蓮:サヤ殿・・・?
するとやはり、あの噂は―――
まるで・・・こう云う状況にしたかったかのように、この階層の、どこにいるか判らなかった、「噂」の・・・疑惑の人物が―――
そして、彼女自身に付き纏う「噂」の真相を確かめる為、その真偽を質そうとしたところ―――・・・
サ:「噂」は、所詮「噂」・・・ちゃんと裏は、取ってあるのかい。
蓮:ではなぜ―――秋定と拙者達を、分けなすった。
サ:・・・関係―――ないからねぇ・・・。
リ:「関係ない」? なんでだよ―――充分・・・
サ:大体さぁ〜・・・あんた達がこんな処にいること自体、「関係ない」んだぜ?
リ:そんなことはない―――だって、私達は・・・
サ:はいはい―――そこは判ってんよ・・・「ジョカリーヌ様に云われたから」・・・だらう〜?w
市:そうです―――それなのに、なぜ・・・
サ:「因縁ある者同士」―――でなければ、あとあと厄介な事になってくるからねぇ〜。
殊の外、この城を与る「テュポーン」てのは、先ずあんた達には「関係ない」・・・。
そこを―――あのメイドっ娘や、秋定の奴は、「因縁」を創っちまってるからねぇ〜〜。
今回の件ばかりは、リリア達には「関係がない」事を説明する、サヤ―――
確かに、云われてみれば、月の裏にある、フロンティアの中継基地兼宇宙港から、緊急脱出用の小艦艇を使って、この地に墜ちて来たリリア達ではありましたが・・・
その動機としては、しのやたまもの事を「仲間」だと思っているリリアが、彼女達の窮状を知り、助勢をしたかったからに過ぎないのです。
そのことを、改めて云われてしまうと、流石に返す言葉が見つからなかったのですが・・・
ならばなぜ、サヤは、自分達の目の前に―――?
リ:ちょっ・・・と、待って、だったらなんで、サヤさんが―――
謎:「子爵様―――」
サ:おう・・・終わらせてきたかい。
謎:「悉く・・・」
蓮:(?!)何者でござる―――!?
サ:はっはっは―――警戒させちまったかい。
いいぜ・・・出てきな―――マダラ。
市:(!!)こっ―――この存在は・・・!!
自分を含め、この場には四人しかいないはず・・・
―――なのに・・・
どこからか、五人目の声が聞こえてきた・・・
まさか・・・本当に、怨霊の類が出てきたのでは―――と、周囲を警戒していたら、
主の呼び掛けにより、主の影から・・・突如出現して来た存在がいました。
全身に、他の生き物の血を浴び、その浴びた血が、所々で黒く変色して、斑模様になっている、一匹の、獰猛な大型の肉食獣―――「トウテツ」・・・
その獣の、終ぞ、今しがた完食し終えたばかりと見える獲物の血を、舌なめずりして拭う様を見て、
この獣の主であるサヤは―――・・・
サ:で―――どうだった・・・喰い応えは・・・
マ:「感想を正直に?」
サ:ああ―――云いな・・・
マ:「・・・腹の中を充たすのには十分でしたが―――味は最悪です・・・」
「もう二度と・・・このような命は、ご容赦願いたい。」
サ:だが・・・護るよう仰せつかっていた対象は護れたんだ―――
それで良しとしようじゃないか・・・
そう・・・今、この場にいる捕食獣こそ、先程、ミリヤやたまもに襲いかかろうとしていた者達を、平らげたトウテツだったのです。
しかも・・・今の二人のやり取りから判る様に、この獣は、当初から、ミリヤとたまもを、「捕食」の対象から、意図的に外していた・・・
ただ主人から、大事な客人の身に、降りかかる火の粉を払いのけるよう、云い聞かせられていた・・・
つまり「今」も、その事後の報告をする為に、この場に現れたに過ぎなかったのです。
=続く=