異国にての、騒動の中心となっていた人物の事を、リリアは良く知っていました。
いえ・・・リリアのみならず、現・テラ国王である、ソフィア=エル=ホメロスも、「道鏡」の顔を見れば、必ずや「知っている」と云うでしょう。
そう、「道鏡」こそは、彼自身の欲求の赴くままに、隣国へ戦を仕掛けていた張本人・・・ゼンウ=メフメト=ゲルトフォルグ―――だったのですから・・・。
それが、以前から全く噂を聞かなくなった存在が、現在、市子や蓮也の故郷である、常磐を混沌に導こうとしていたとは・・・
だからこそ、余計にリリアは腹立たしくなり―――
リ:ケッ! 前々から、いけ好かない奴だとは思っていたけど、どうやらお前の根性、相当にひん曲っているようだなぁ!
道:フン・・・なんとでも云うがいいわ―――オレ様は、貴様の悔しがる顔が見れれば、それでいいのだ!!
自分の国と、他の国が、覇権を掛けて争い闘うのは、「存亡」や「栄枯盛衰」の意味からでも判る処であり、
リリアも、そこの処は仕方がない事だと、或る意味割り切っていました。
けれど・・・今回は違う―――
今回は、そうした理ではなく、自分達によって敗れ、滅んでしまった「憂さ」と云うモノを、晴らす為に行っているのに過ぎない・・・
それに、常磐の現状を知る上でも、この上に争乱を招いて、混沌とさせる意味合いがない為、リリアの怒りは頂点までに達しようとしていたのです。
そして、リリアの感情の高ぶりが、頂点に達した時にのみ顕れる現象―――
市:(!)リリアさん―――・・・
蓮:(鬼の眸―――・・・)
道:くっくっくっ・・・そうか―――そうよなぁ・・・
憎かろう―――殺したかろう! だが、オレ様は、そうなるのを待っていたのだ!!
た:(!)なに・・・?!
(あやつ―――リリアが「鬼の眸」なるのを、故意に??)
いかん・・・待てリリア! あ奴は何かを企んでおるぞ!
リ:ごちゃごちゃとうるせえ―――!
企んでいようがいまいが、私はこいつに一撃を入れないと、気が済まないんだよ!!
普段のリリアは―――両の眸が「ターコイズ・ブルー」をしていましたが、極端に感情が高ぶってしまうと、
遙かな昔、先祖にかけられた「呪い」により、子孫であるリリアも―――左の眸だけが、「魔族」のような・・・
眼球の白目の部分が黒く染まり、虹彩が燃え盛る焔の様に、真紅く染まっていた・・・
そんな、「左右非対称の眸」が、周囲の人間からは不気味がられたモノでしたが、
現在では、「左右非対称の眸」になると、発現する確率が高くなる、「或る能力」が付与されていたのです。
そう・・・リリアだけしか創り出すことのできない、リリアの剣―――
し:あっ―――あれは・・・
市:(「无楯」・・・しかも、今回は偶然ではなく、意識して―――されど・・・)
蓮:リリア殿―――ご用心召されよ!
己の慢心こそが敵・・・「敵」は、目の前のみにはあらじ―――ただ、己の内にこそある・・・と、そう心得よ!
リ:判ってんよ―――蓮也♪
さっさと、こんな奴なんか片付けて、しのやたま達を、安心させてやらなくちゃなぁ!
『なるほど・・・この「彼」が、今のこの子の、心の支えになってやっているのか―――』
『これは興味深い―――けれど、それは偶々・・・「彼」が、この子の側にいたから・・・』
『けれど―――だったら、代わりに「彼」ではなく、この「私」だとしたら・・・?』
その場に―――認識をされていないながらも、確実にその場に存在し、これまでの一部始終を、傍観していた者がいました。
しかし、「その能力」は、現在その場にいた誰よりも、優れている・・・と、云っても過言ではなかったのです。
それが、「彼の者」の「能力」―――
その場にいるのだけれど、誰にも認識されない・・・
而して、「彼の者」は、闘争の渦中にいるにも拘らず―――況してや、作用すらもされず・・・
ただ、その場に佇み、しばらく事の成り行きを傍観し続けていたのです。
それはそうと、愛しき者からの助言により、少しばかり冷静になれたリリアは、「无楯」を青眼に構え―――
道鏡の気と、波長を合わせた時―――
リ:ぉぉぉおおおりゃああ―――!
道:(!)小癪なぁ・・・ふんっ―――!
(!!)ぬぅおっ?! こ・・・これは―――!!
「この世に存在する総てを「无」に帰す・・・しかしながら、その刃は、有視にて存在しうるように見える」
この・・・余りにも「矛盾」した定義から、リリア自身の「剣」は、「无楯」―――と、さある「死せる賢者」は命名しました。
そしてこの時、リリアが掛け声と共に斬りかかった時、反射的に道鏡は、その右腕で払ったモノでしたが、
その右腕は・・・傷みすらなく、消失してしまっていた―――つまり、「无」へと帰されてしまったのです。
『ふぅん―――あれが噂に聞く・・・』
『中々素晴らしい―――あの顕現と、「私」の顕現が融合した時、どんな風になるのか・・・』
『これは、想像しただけでも、ワクワクしてくるよね―――』
そして、今の現象を見て、関心にいたる「彼の者」―――
そう・・・「謎」めいた存在は、紛れもなくリリアと、「无楯」に興味を示していたのです。
それに―――・・・
『フフフ・・・それにしても、最初に見かけたときより、魅力的になっている―――』
『あの頃は、ただ自分の技能を磨くだけだったのに―――』
『だけど今では、自分の仲間達の為に、自分の顕現を使おうとしている―――・・・』
『・・・決めたよ、「僕」は、近々、君に逢いに行く事にしよう―――』
「謎」めいた存在は、どうやら過去に、リリアと会っていた事があるらしく、
その場で、しばらく会っていなかったリリアの成長ぶりに感心し、近い未来に逢う事を心に決めて、
完全に、その場から存在しなくなってしまったのです。
それよりも、リリアの創り出す刃に、直接合わしてしまってはいけない―――と、判断した道鏡は、
以前までは全く使わ(え)なかった術で、リリアに対抗しようとしたのです。
道:ぐぅ〜・・・おのれ―――おのれ、おのれぇ!!
このまま、滅されてたまるか―――喰らえぃ!!
市:あ・・・きゃっ―――!
た:ぬぅ・・・全方位に対しての手段に切り替えおったか・・・
秋:ヤロウ〜味な真似を―――っと、なんだ?こりゃ・・・
平:薄い・・・光の膜の様な―――?
し:これ・・・って―――(まさか、「あの時」の?!)
蓮:これは・・・まさしく「晄楯」! リリア殿・・・お主・・・
リ:へっ―――云ったろう・・・あんた達は、何があっても私が護る!
それに、こんのヤロウ〜・・・一番やっちゃいけない事を、やってくれたようだな!
それなりの覚悟・・・出来てんだろうな―――・・・
全方位に及ぶ、エネルギー光弾による攻撃―――
しかしそれは、リリアのみを標的に定めたモノではなく、云わば、周囲にいる仲間達に、被害が及ぶモノだったのです。
けれどこの攻撃を、またしてもリリアの能力で防ぎ切った―――・・・
須らく総ての事象を遮断し、防御する万能の盾―――「晄楯」・・・
そして、またしてもの、非道なる行いに、情状酌量の余地なし―――と、看做したリリアは・・・
第百五十三話;奪い去られた記憶
道:かっ―――! はあぁぁ・・・
秋:あいつを・・・一刀の下に・・・
蓮:(お見事!)
た:あやつ・・・やりおった・・・
し:す・・・凄いや、リリアさん―――!
ただ、リリアは―――自分の剣を、相手に届かせるだけで良かった・・・
その為には、避けられないよう―――逃げられないよう、素早く動くのみ・・・
けれど、そうした事は、「今の」リリアには、さほど難しくはなかったのです。
ですが・・・異変は、既にその時より起こっていたのでした。
すれ違いざまに、一刀の下に斬り下げた・・・までは良かったのですが、
そこからリリアは、中々動こうとはしませんでした。
けれど、そう・・・その時既に、リリアは、道鏡からの―――何かしらの作用を、受けてしまっていたのです。
では・・・「何かしらの作用」―――とは・・・?
そして、友の異変に、逸早く気付いた市子は―――・・・
市:(?)リリア・・・さん?
リ:・・・うっ―――く・・・! ぅわあああ〜〜っ!!
市:(!)ゼンウ―――お前、リリアさんに何を?!!
道:フフフ・・・ククク―――・・・
オレ様が・・・そいつに敵わぬ事など・・・最初から判っていた・・・
だがな・・・オレ様は・・・そいつに負けたままでは・・・癪だったのでな・・・
た:なんじゃと? 負けると判っていて、尚・・・ならばお主、故意に・・・
道:その・・・通りよ・・・オレ様が、こうして生き恥を晒しているのは・・・
リリア―――貴様に一矢報いる為よ・・・
だから・・・オレ様が・・・滅び逝く瞬間・・・「呪い」を―――こいつの記憶を、総て奪う「呪い」を!!
かけ・・・て―――・・・
「无楯」による浸食は、斬りつけられた時から既に始まり、道鏡自身の存在が消え逝くまで、
自分がリリアに何をしたのかを、道鏡は―――ゼンウは・・・語りました。
それこそが、リリアの記憶を奪い―――消す・・・と、云う「呪い」を、課した事だったのです。
つまり、今、リリアが苦しみ抜いているのは、その「呪い」が作用しているという証拠・・・
そして、この地に措ける、爪痕をしっかりと残してやったり―――と、云う、「したり顔」と共に、
道鏡の存在は、この世から完全に存在しなくなり・・・そして同時に、リリアに作用していた「呪い」も終了したものと見え、
その場に倒れ込むリリアが・・・
その事を心配し、側まで駆け寄ってくる仲間達―――なのでしたが・・・
市:リリアさん―――しっかり! リリア―――・・・
リ:う・・・うぅ〜ん・・・
市:(!)リリアさん―――・・・良かった、無事なようですね。
「呪い」による衝撃が強かったためか、しばらく気を失っていたモノでしたが・・・
市子の呼び掛けに、どうにか反応をし始めるリリア・・・
けれど・・・しかし―――・・・
市子は、信じられない言葉を、親しき間柄だと思っていた者の口から、聞かされることとなったのです・・・。
リ:あ・・・
―――え? あ・・・あなた・・・は? 誰・・・
そ・・・それに―――ここは??
市:(!)リ・・・リリアさん―――・・・
リ:「リリア」? それ・・・誰の事なのです?
存在を消滅させた者の云うように、そこにいた「女性」は、自分の近くにいた「友人」や、現在いる場所―――
そして、自分の事が判らない・・・などと云う、一種の「記憶障害」に陥っていたのでした。
=続く=