異国での騒動の元凶は、ここに潰えました。
しかし、その勝利の代償は、意外にも高くついてしまったのです。
そう・・・リリアの、記憶の消失―――と、云う・・・
リ:あ・・・っ―――あなた・・・
市:はい?
リ:それは・・・ひょっとして―――いやっ!近寄らないで!!
かつては、自分の身に降りかかる火の粉は、自分自身で振り払い、
騒動の渦中にも、好んで介入し、解決にまで導いてきたモノでしたが・・・
その場にいたのは、最早そんな影すら見せない、「普通の女の子」―――なのでした。
それを証拠に、ここであった騒動で、何者かの返り血を拭わないまま、リリアの近くにいた市子に怯え、
しかも、彼女とは親しき仲であったにも拘らず、そんな事さえ忘れてしまった―――と、云う態度を示してきたのです。
それに、リリアの事を気遣って、側に寄って来た者達でさえも・・・
リ:ひ・・・っ! あ・・・あなた達―――私をどうしようと云うの?
だ・・・誰か―――誰か私を助けて〜!
全員、一様にして手に武器を持ち、鬼気迫る雰囲気を抑えないまま―――自分に近づき・・・また、どうにかしようとしている。
そう感じたリリアは、普通の女の子の様に怯え、また、涕を流しながら助けを乞うたものだったのです。
そんな様態を見るに至り、かの剛毅な女傑も、こんな可愛らしい一面もあったものだ・・・と、思うのでしたが、
今は取り敢えず―――・・・
た:やれやれ、仕様のない・・・しの、軽く当て身を入れてやれ。
し:うん・・・
リリアさん―――・・・
リ:い―――いや・・・近寄らないで! 近寄ったら・・・舌を噛んで死んでやるんだから!!
し:(・・・。)それはちょっと困ります。
だってボク、未だあなたにお礼を―――
リ:えっ? 私に、おれ・・・い―――・・・
し:・・・ごめんなさい。
このまま、事態が好転しないままでは―――と、思ったたまもは、一旦リリアを気絶させて、事態の収拾に努めようとしました。
その事に抜擢されたのは、しのでしたが・・・彼女もどこか、乗り気ではありませんでした。
けれど、しのが近づいてくる度に、強い拒絶反応を示したモノだから、已むなくリリアの鳩尾に軽めの当て身を行い、
ようやく聚楽第から、撤収することができたのです。
それはそうと・・・「大江山」に向かったミリヤ達は―――
「ある容疑者」を確保するため、この惑星へと来た仲間の二人と合流し・・・
ミ:二人とも御苦労さま。
へ:へいへい・・・本当に―――ね・・・。
まさか、ここに来る途中、「エフェメロプテラ」の奴らに、邪魔されるとは思わなかったわ。
ま・・・私達が相手じゃ、「足止め」にもならなかったけどねw
マ:けれど・・・彼らは何のために、こんな処まで?
ミ:その質問には、私が―――・・・
どうやら、その組織・・・「エフェメロプテラ」の首魁である「ゲルツェン」と云う輩が、
親しくしていた「シュトゥエルニダルフ」を支援するため、地球に向かっていたようね。
けれど・・・不運にも、私達「ディーヴァ」に出くわし、その出鼻は挫かれた・・・
ヘ:けど―――目覚めた奴さんが、一足早くついてた「エフェメロ〜」なんとか・・・ってとこの、「お土産」を展開してしまって・・・
マ:「最新式のセキュリティシステム」―――つまり私達は、これを構築するまでの間、まんまと「足止め」されてしまった・・・と。
はあ〜〜こんな時、ジゼルがいてくれたらね〜。
メ:申し訳ございません―――私が、「テュポーン」に逃げられてしまった所為で・・・
へ:そーよっ! 本当に様様だわ・・・恐らく、その「テュポーン」が、「エフェメロ〜」なんとか・・・ってとこの、構成員だったかどうかまでは判らないけど―――
メ:ヘレン、お言葉ですが、奴は私と「同業者」です。
へ:あ〜そう! けどね、結局はそいつの協力もあって、事態がかなりややこしくなってるじゃないのよ!
メ:それは・・・申し訳ないと云っているじゃありませんか!
ミ:止めて頂戴―――仲間内で、争っている場合じゃないでしょ。
起こってしまった事は仕方がない・・・ここは、対策を練る為、退くと云うのも、一つの手と云えるでしょう。
それに・・・あの人ならば、あるいは―――
マ:ミリヤ様―――心当たりがあるとでも?
ミ:ええ―――以前に一度、マエストロから、「ある能力」・・・「无楯」の事について聞いた事がありましてね―――
実は、ここに来るまでの間、その人とご一緒していた事がありますから・・・。
マ:それは、ひょっとすると―――・・・
ミ:フフフ・・・私も、態々こんな辺境の地に、足を運ばせた甲斐があろうと云うモノです。
それでは、参りましょうか―――・・・
彼女達「ディーヴァ」は、これから「大江山の朱天童子」を退治する為、山の入口付近に集結していましたが、
そこから「足踏み」を余儀なくされていました。
それと云うのも、今回、メイベルと直接対決した、「テュポーン」なる人物が、「シュトゥエルニダルフ」の下に逃げ帰った後、
これからの事態を想定し、予め彼が持ち込んできたとされる、「最新式のセキュリティシステム」を起動させた事が、原因だったのです。
(しかも「テュポーン」は、一連の作業が終わった後、この地より離脱・・・と、云う処を鑑みてみると、どうやらその「一連の作業」こそが、「テュポーン」が請け負っていた依頼と考えられる。)
それに、「最新式のセキュリティシステム」と云われている、「バリア・システム」は、文字通り「大江山」全体を覆うように展開―――
「関係者以外は立ち入り禁止」・・・と、云う、少し厄介な代物だったのです。
ならば・・・こうした代物の解除には、うってつけの人材がいる―――と、云いたいところだったのですが・・・
今回の任務では、その人物は来てはいなかった・・・
だからこそ、ミリヤ達は、標的のすぐ近くまで来ていながら、地団駄を踏むしかなかった―――と、思われたのですが・・・
そこでミリヤは、以前マエストロから聞かされていた、「ある能力」・・・
あらゆる総ての現象を、「无」に帰してしまう―――そんな、畏るべき能力を持っている人物の事を知っていた為、
こうした、自分達の行き詰った事態を打破してくれるものと思い、一時的に「彼女」のいる場所へと退くことにしたのです。
けれど・・・その人物は今―――・・・
第百五十四話;再構築し始めるもの
気を失っていた状態から立ち直り、起き上がってみると、リリアは、自分が知らない場所に、寝かされていた事に気付くのでした。
いや、しかし―――この時点で、「リリア自身が知らない場所」と、云うのは、
現在のリリアは、記憶の障害があり、以前まで自分がしていた事とか、況してや、自分自身のことすら忘れてしまった・・・判らなくなってしまった・・・
だから、現在リリア自身がいる、この場所―――常磐の穢戸と云う街にある、「色街・吉原」の「播磨屋」・・・
この場所の事も、一時的に判らなくなってしまっていたのです。
それに、その一室には、リリアだけではなく―――・・・
リ:(!)だ―――誰? そこにいるの・・・
男:―――・・・。
リ:(男の人・・・?)あの―――あなたは・・・
男:―――・・・・。
リリアが、他人の気配を感じ、そちらに目をやってみると・・・
そこには、沈黙を貫き、リリアが気絶から回復するのを、正座して待っている男性がいるのを、認識したのです。
そこでリリアは、反射的に、その男性の素性を聞こうとするのでしたが、その男性は、一言も発せずに立ち上がり、
リリアに静かに一礼をすると、その部屋から出て行ってしまったのです。
そんな・・・寡黙ながらも、礼儀を弁えている男性の対応に、リリアは―――・・・
リ:(あ・・・っ、はぁ・・・素敵な男性―――
・・・って、あれ? 私、どうしちゃったんだろう・・・私、あの男性の名前すら知らないのに・・・
ヤダ―――どうしよう・・・)
その男性の事を想うと、胸の内が熱くなり、顔が火照ってくるのが判るくらいに、その男性の事を「異性」として、意識してしまっている自分がいるのを、自覚してしまっているのです。
それからしばらくすると、その男性が部屋を出てから、数分と経たないうちに、今度は―――・・・
リ:あ・・・っ―――子供? 可愛い女の子が・・・どうしたの?
子:やれやれ、わしの事も忘れてしもうたか。
だがなぁ〜「女の子」と云うのは、あんまりだぞいw
それにしても・・・ふぅ〜む―――・・・
リ:あの・・・なにか?
子:ん? いや、なに―――お主は、そのままの方が良いかな・・・そう思うてなw
リ:(「そのまま」・・・)あの・・・あなたは、違う私を存じていらっしゃるのですか?
子:―――・・・。
リ:え・・・っ?!
子:・・・いかにも―――わしは、そうなってしまう以前の、「そなた」を知っておる。
その時のそなたは、そんなにも女子のような、モノの云い方はせなんだ。
リ:そう・・・なんですか―――
見かけの上では、「女児」にも見える存在が、リリアの側まで近寄って、見分をしました。
そしてそこで、色々な事を知らされたのです。
その一つに―――現在の、女の子らしいままの方が良いと云われ、以前の自分が、現在の自分とは全く違っている事を知り、リリアは衝撃に撃たれてしまいました。
けれどそのお陰で、自分が何者か・・・までは、朧げながらも判っては来たのですが―――
リ:それより・・・あの・・・私の名前―――
子:そなたの事は、皆、「リリア」と呼んでおった。
「リリア=ディジィ=ナグゾスサール」―――それが、そなたの名前じゃ。
リ:「リリア」・・・そうなのですか―――それが、私の名前なんですね・・・。
あの、それとあと一つ―――先程の・・・寡黙で、素敵な男性は・・・なんと云う名なのでしょうか。
子:ほ〜―――ほ・ほ・ほ♪ ほうほう、そかそか・・・
いやなに、どうやら、記憶の方は奪い去られても、好いておる感情そのモノは、奪い去られてはおらんと見えるのぅ。
リ:え? あ―――・・・やはり、私・・・あの男性の事を・・・
あれ?やだ・・・また・・・どうしよう――――
子:かっかっか―――w 初のう♪初のう♪
そなたとならば、仲良うやって行けそうじゃ♪
以前のそなたとわしとは、顔を突き合わせる度に、蹴飛ばすなどして、喧嘩ばかりしておったものじゃからなぁ〜。
リ:ええっ?! そんなことを・・・
どうもすみません、ごめんなさい・・・私ったら、あなたみたいな可愛らしい女の子を―――
子:じゃから! 「子供」ではないと云うに―――・・・
まあ良い、疲れも残っておるじゃろうから、湯にでも浸かってくるがよい。
とある事を知るに及び、たまもは、まだ希望はあるものと確信しました。
それが、先程から、リリアが異性として意識をしていた男性・・・
そう―――「千極蓮也」の事は、その記憶が喪われていようとも、そうした恋愛の感情までは、失われていないモノとしたのです。
それに・・・またあの男性―――蓮也の事を想い、頬を紅潮させてしまうリリア・・・
そして同じく、女児の形をしている存在から、以前までは、事ある毎に、いがみ合っていた事も、判っては来たのですが・・・
それを見た、たまもは、ある思いにまで至って来たのです。
以前までは・・・感情の箍等により、云い出し難かったことが、あったのではなかったか―――と・・・
それが、今は・・・記憶を失っている事により、そうした感情の箍が外れ、口にまで出すようになっているのではないか―――と・・・
その事を証明するかのように、リリア自身とは関係がないはずの、常磐の世情に首を突っ込んできている事に、
たまもは一定の理解を示したのです。
それに・・・たまも自身でもそうなのだから、こんな自分よりも以前に、好い付き合いをしてきた「あの女性」との、関係の修復をしてやろう・・・と、
たまもは尽力してみる事にしたのです。
そう・・・リリアの事を、一番に気遣い、近くで介抱に努めようとした、「あの女性」―――・・・
「細川市子」を、リリアは、一時の感情だけで遠ざけてしまった・・・
その時には、平然とした表情をしていましたが、たまもは、市子が内心穏やかではなかったであろうことを、感じていたのです。
なぜならば・・・自分が一番、そうなった時の事に関しては、詳しかったから・・・
だからこそ、彼女達の関係の修復に、一役買おうとしていたのです。
=続く=