この度―――自分達がこなせなければならない任務に、支障が出来た為、どうにかその支障を取り除いて貰おうと、
あらゆる事象を「无」に帰す能力を持つ人物を頼る為、穢戸にある吉原の「播磨屋」に向かった、「ディーヴァ」の一行でしたが、
頼るべき人物の身に降りかかっていた災厄を知り、愕然としてしまったミリヤは―――・・・
ミ:な・・・っ! こ―――これは・・・どう云う事ですか? 悪ふざけもいい加減に・・・
た:まあまあ―――ミリヤ殿、そなたがどう思っているかくらいは、わしには痛いほど判っておりまする。
だから・・の? もう少し広ぉ〜い眼で・・・
ミ:そんな悠長な事をやっていられますか!
ああ・・・リリアさんの、「无楯」こそが、現在の事態を打破できると思っていたのに〜・・・
リ:あ・・・あの―――私、何か悪い事でも・・・
ミ:・・・しましたわよ、充分に―――
リ:あ・あっ・・・そ、それは大変失礼な事を―――
だ、だったら云って下さい、私、悪い処は直しますから!
ヘ:あ〜らら、完全に毒無くなっちゃって―――可愛いったらw
マ:ヘレン―――余計な事云わないの!
ヘ:だぁ〜ってさぁw ミリヤも、あんなの満更でもない癖にw
マ:あっ―――バカっ!
ミ:・・・聞こえていましたわよ―――ヘレン。
第一、今は任務の最中でしょうに・・・不謹慎たら有り得ないわ!
ミリヤが愕然としてしまったのは、彼女達が「播磨屋」の暖簾をくぐった直後に訪れました。
車椅子に乗り、ゴシック・ロリータ調の服飾を召す美少女・・・
つまり、外見上で可愛く見えるモノに、現在のリリアは興味津々でした。
しかも、自分を見るなり、飛びついて「愛でモード」に突入するリリアに、
これでは、何かが起こっていない方が可笑しい・・・と、そう推察したミリヤは、
この内では、一番話しの判りやすそうなたまもに、事の次第を聞いてみた処・・・
現在のリリアは、敵が最期に放った「呪い」によって、その記憶の総てを失ってしまった事を、知ってしまったのです。
ですが・・・そんな話しの展開に納得がいかなかったミリヤは、先程の科白を口にしてしまったのです。
そう―――彼女達にしてみれば、大江山に張られた「結界装置」を取り除いて貰う為、
「无楯」を持つリリアを頼ってきていたのですから・・・。
だから、これが「悪い冗談」の類だったら、すぐさま止めて貰いたい―――
それは、現在のミリヤの、素直な心境でもあったのです。
しかしながら・・・そうは云っても、ミリヤも葛藤をしていた部分もあったのです。
それが、先程のヘレンの科白にも裏打ちされていたように、実は・・・ミリヤも無類の可愛らしいモノ好き―――
今は、「ディーヴァ」としての任務の手前もあり、厳しい事を云うしかなかったのですが、
恐らくその時、普段通りだったならば―――ミリヤも、リリアを「愛で」ていたに、相違はなかったのです。
閑話休題―――
今回の「切り札」と云うモノを失ってしまったミリヤは、最早頼れるのは一つしか見当たらなくなり・・・
ミ:・・・こうなれば仕方がないわ、ここはやはり、ジゼルに頼むしか―――
マ:やはり自然とそうなってしまいますか・・・しかし、最低―――
ヘ:一週間は、有にかかっちゃうわよねぇ〜
ミ:そうなのよ・・・そこなの―――
余り、時間的猶予を、相手に与え過ぎてしまうと、次の手立てを考える余裕を与えてしまう・・・
そうなってしまうと―――
た:なるほどのう〜〜それで、リリアを頼った―――と・・・
いや、判りますぞ、ミリヤ殿のご無念。
ミ:判って頂けますか?! ああ〜・・・やはり、持つべきは、感性を同じくする人ですよね。
今回、ミリヤが焦っていたのは、理由があるからでした。
それと云うのが、今回の標的に挙げられている、「シュトゥエルニダルフ」と云う悪党は、
とても用心深く、コト自分を護る感性については、並みならぬモノを持っていたのです。
だから・・・「今回」と云う機会を逃しては、「シュトゥエルニダルフ」はまた、次なる複雑な手立てを講じてくるに違いはない・・・
それ故に、ミリヤは焦っていたのです。
そんな時―――ふと、ミリヤが零した言葉に、市子は何かを感じていました。
そう・・・「同じ感性を持つ者」―――
そうだ・・・「彼女」ならば、或いは―――・・・
市:あの・・・私に、妙案が浮かんだのですが―――宜しいでしょうか。
ミ:ええ・・・藁にも縋りたい気持ちだから、云ってみて下さらない。
市:もしかすると・・・なのですが、リリアさんの「アレロパシー」―――「イリス」さんなら、或いは・・・
蓮:おお! それは全くの妙案。
確かにあの方は、リリア殿と「共有性」があり申したな!
市子の思いつきだと云う、「リリアのアレロパシー」・・・イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマス―――
彼女とリリアを対面させることで、或いは、リリアの記憶が戻るのかもしれない―――と、した処、
市子のその案に、曇っていたミリヤの眉も晴れてきた・・・
そう―――ミリヤも、「アレロパシー」の事については、知っていたのです。
だからこそ、市子の案に、俄然乗り気になってくるのですが―――・・・
秋:だけどよ・・・その御仁に、どうやって話しをつけんだい?
話しの流れからして、随分な遠くにいる感じだが―――飛脚じゃ、一月余りかかるんじゃねえのか?
し:もう〜蝉ちゃんたら・・・現実的な事を云うんだから・・・
秋:い、いや―――だってよ・・・
た:まぁ、待てい―――確かに常磐は、連絡を付けようとしたら、それしか手段はない・・・。
しかし・・・じゃ、ジョカリーヌ殿や、あとユリア殿の処では、「電波」なるモノに載せて、やり取りなどを交わしておったぞ。
マ:それは本当ですか?!
でしたらミリヤ様、取り敢えず「ストライダー」で、そのどちらかと連絡はとれそうです。
上手く行けば、「イリス」と云う人を捜索できる可能性が・・・
市:イリスさんならば・・・確か、リリアさんと同じく「北の評議員」の筈です。
それに、位置的には、「東の評議員」である、ユリアさんの方が近いかと。
今まで、リリアと一緒に行動して来た事が、功を奏したものと見え、
各大陸の情勢に精通していたモノと見られた、市子とたまもから、的確な助言がありました。
そして、それにより、事態は大きく動いて行くこととなるのです。
マリアは―――ユリアなる人物と連絡を取る為、一時、地球の玄関口ともなっている、月の裏側に戻り、
そこに停泊させてある、今回、マリアとヘレンが地球に来るために乗って来た、「ディーヴァ」達の艦・・・「ストライダー」から、
ユリアのいる「ロマリア大陸」へと、電信文を送ったのでした。
すると・・・その一時間後には、返信の電信文―――ではなく、
ユリアと、その目付け役として、スターシアがその場に現れたのでした。
第百五十六話:ユリアの目論見
その圧倒的な美貌―――その圧倒的な存在感の前に、あのミリヤですら声を失っていました。
それに、ユリアの「お目付け役」として随伴している、「スターシア」と呼ばれる人物も、どこか気の置けないように見えた・・・
それもそのはず、彼女達は―――・・・
それにしても、ただ「連絡を乞いたい」・・・と、云っただけの、マリアの電信文に、
なぜ、ユリアとスターシアは、実際に常磐にまで足を運んだのか・・・
それは―――・・・
ユ:あらあら、どうしたのです、皆さん・・・急にお静かになられて・・・。
ス:お前も人が悪いぞ―――ユリア・・・
それにしても、「噂」は本当だったようだな・・・。
マ:・・・「噂」? 何の話しです。
疑問の残る、その人物の科白を繰り返し聞いた処でも、その人物は答えを返すでもなく、
ただマリアに一瞥をくれると、ユリアの方に向かってアイ・コンタクトを投げかけたのです。
すると、ユリアからは―――
ユ:わたくしたちが、今回ここに来たのは、「ウロボロス」の首領である、ベラスケス=トロン=シュトゥエルニダルフを、抹殺する為に―――です。
ミ:「抹殺」?!!
ちょっと待って下さい・・・私は、そんなオーダーは聞いていません。
ただ・・・奴は、生かして捕え、法の下に裁かれなければならないと―――
ユ:それは一体、誰がお決めになられたのですか。
ミ:(・・・。)「マエストロ・デルフィーネ」・・・これで十分ですか。
ユ:なるほど・・・でしたらば―――
わたくしに今回下りたオーダーは・・・「彼女」の「姉」からです。
ミ:(!!)「姉」・・・と、云う事は、「死せる賢者」である、「あの方」からの―――?!
ユ:聞き分けがよく、なによりです・・・
それでは、参ると致しましょうか・・・。
思いも寄らない―――・・・
自分達が追っていた獲物を、「抹殺」する為、ユリアとスターシアは、常磐へと来たのだと云いました。
しかし自分達は、獲物を捕えた後、法的手続きを以て、処罰を与えさせなければならない―――
これは、シュトゥエルニダルフの存在を、存続か―――滅亡か―――だけを取って見ても、相反するモノであり、
云ってしまえば、獲物の争奪戦でもあったのです。
けれど・・・当初ミリヤは、無論、引き下がるつもりなどなかったのですが・・・
ユリアの口から出た、事の他の大人物―――「死せる賢者・ガラティア」を前にして、言葉を失うしかなかったのです。
なにより、その人物こそは、自分達の組織「ディーヴァ」を創設した、「マエストロ・デルフィーネ」よりも高位な存在であり、
ユリアなる人物が与えてくる、プレッシャーも尋常ではなかったのですから。
―――ただ・・・そのオーダーが、本当かどうかまでは、ミリヤ達が知る次元ではなかったのです。
しかし―――・・・
ス:―――おい・・・
ユ:・・・フフ―――どうしたの、ラゼッタ・・・怖い顔をして・・・。
ス:あまり、ガラティア様の名を、濫用してはいかんぞ。
それに、「マエストロ」に、今回の事が知れたらどうするつもりなのだ―――
ユ:フフ―――ジルならば、構いませんよ・・・。
彼女ならば、判ってくれます。
ス:随分な自信だな―――それより、本来の目的・・・忘れてはいないだろうな。
すると、彼女の口元は、「ええ、勿論―――」とでも云いた気に、優しく綻んだだけなのでした。
ですが・・・それでは―――・・・
そう―――まさしく、「ガラティアからの依頼」による、「シュトゥエルニダルフの抹殺の件」は、全くの「ブラフ」であり、
今回は、ユリア独自の見解で、シュトゥエルニダルフを抹殺しようとしていた―――・・・
つまりこれは、許可なくして、地球へ降り立とうとする「連中」への、或る意味での「見せしめ」に、利用しようと考えていた事でもあったのです。
=続く=