倒した相手からの「呪」を受け、それまでの記憶を一切なくしてしまったリリア―――

男勝りだった性格や、何より、「()(じゅん)」と云う、リリアならではの、固有(ユニーク)な特殊能力でさえも、失われてしまったモノでしたが、

実は、リリアには、また新たな特殊能力と云うべきモノが、開花し始めていたのです。

 

その顕著な例として、(あらわ)れ始めたのは、リリアが記憶を失ってから「5日」―――と、云う、時間が経った頃でした・・・。

 

では―――リリアに、新たに備わったと云う、特殊能力と云うのは・・・

 

 

その日、リリアが、仲間達と一緒に夕食を()っている時間帯に・・・

「何か」に気付いたのか、部屋の片隅を「じっ・・・」と、見つめているリリアを見て、たまもが―――・・・

 

 

 

た:・・・どうした、リリア―――なんぞかおるのか。

リ:・・・あっ?! い・・・いいえ、すみません―――

 

 

 

普段通りに、夕食を済ませるのであれば、部屋の一点を見据えたりはしない・・・

しかも、手も口も完全に止まり、食事が進んでいないのを見て、たまもが声をかけると、慌てて箸を進めるのですが・・・

5秒も経つと、またすぐに、手と口は止まってしまうのです。

 

そんな様子に・・・隣りに座っている市子も気になり、リリアに声を掛けてみた処―――・・・

 

 

 

市:あの・・・どうかしたのですか、リリアさん―――

リ:・・・ねえ―――市子さん・・・あの隅に・・・誰か・・・いますよね―――

 

 

 

思いも掛けないリリアからの答えに、一同そちらの方に目を向けてみるのですが、誰かがいるような感じではありませんでした。

 

それは、同じ夕食の席にいたミリヤでさえも、リリアのみが見えている、正体不明の何者かの事は、判別できずにいたのです。

 

そこでミリヤは、メイドのメイベルに、そこに誰がいるのかを確かめさせようとした時―――・・・

 

 

 

リ:わっ―――立ち上がって・・・え?私の方へ向ってきてる・・・?

 

 

 

そのリリアの発言を聞いた時、「それ」がリリアの気の所為(せ い)などではなく、

(おのれ)の意思を明確に持って、そうしようとしている存在である事を、たまもは理解したのです。

 

そして、リリアに、「ある特殊能力」が備わった事に気付くと・・・

 

 

 

た:(ふむ・・・総ての記憶が失われたからなのか、今のこ奴に働いておるのは、紛れもなく「霊感」・・・

  総てを失いし時より、また新たなる能力に開花(め ざ め)よるとは―――()にも、面白き奴よ・・・)

  だが・・・今は、鎮まるがよい―――

 

 

 

古来より、玉藻前は呪術に通じ、政治的謀略や、陰謀を張り巡らせる名手でしたが、

今では、「友」であるしのの希望もあり、そうした能力を、「悪事」にではなく、「善事」に使用し、

時には、「邪霊」等を払う事もしていたのです。

 

そしてそこでも―――自分が得意とする、十八番(お は こ)の「陰陽道」を駆使し・・・たのですが―――

 

 

 

リ:・・・何をやってるんですか? たまちゃんさん―――

 

し:(えっ・・・)

 

リ:あっ―――ダメですよぅ。

  これは私のです、あなたにはあげません。

 

 

 

別の解釈をすれば、「一人芝居」をしている感も、否めなくはないリリアの言動でしたが、

当の本人は大真面目らしく、彼女しか見えない相手に、自分の食事を横取りしないよう、注意をしていたのです。

 

それよりも・・・たまもが使う、術の威力と云うモノを知っていたしのは、

先程たまもが行使した、術の効力が無い事に、大変驚いたモノでしたが・・・

術を行使した本人は、自分以上に驚いているモノと思い、慰めようとした処・・・

 

この時、たまもが感じていた事は、意外にも、リリアが見えるようになったのは、また「別の何か」なのではないか・・・と、思うようになったのです。

 

 

 

第百五十七話;接触(コンタクト)

 

 

 

そんなリリア達と、別行動を取っていたユリアとスターシアは―――・・・

指定された別の時間帯、場所にて、「何者」かと待ち合わせをしているのでした。

 

しかし―――・・・

 

 

 

ス:・・・遅い―――

  聞いていた処によると、時間にはきっちりとしている人間だと云う事なのだが―――・・・

 

 

 

夜の公園のベンチに座り、約束の「誰か」を待っている美女・・・

これが、「逢引き」ならば、艶っぽい話しになってくるのですが・・・

 

今回の彼女達が帯びていた目的は、残念ながら、「そう云う事」ではなかったのです。

 

それにしても―――指定されていた時間を過ぎても、中々姿を現さない「待ち人」に、スターシアが少しばかり苛立ちを募らせると・・・

 

 

 

謎:『・・・もう既に来ている、話しを始めて貰おう―――』

 

ス:(!!)

ユ:(・・・。)

  ―――もう既に来られていましたか、ですが・・・なぜ今となっても、わたくし達の前に、姿を見せて頂けないのです。

 

謎:『あなた方が、私を信用していないのと同じ様に、私もあなた方を信用していない。』

  『そんな関係上、のこのこと姿を見せる程、私は自信家ではないのでね・・・。』

 

ユ:ウフフ・・・なんとも用心深い方―――

  こちらが依頼する用件は、ただ一つ・・・速やかなる、シュトゥエルニダルフの抹殺―――

  ですが、こちらで握っている情報では、()の者は、最新式のセキュリティ―――「インモラル・ハザード」の、「タイプE」を採用し、わが身の保全を図っているそうです。

  それに、この「バリア・システム」の(なか)にいる状況では、外部からの攻撃・干渉など、一切受け付けないのだと云います。

 

謎:『・・・では、そのシステムが沈黙する瞬間は―――?』

  『それと、期限はいつまでなのだ。』

 

ユ:沈黙する瞬間は・・・残念ながら、現段階では把握できておりません。

  ですが、こちらで調査をして、なるべく早急に情報をお伝えいたしましょう。

  それから「期限」の方なのですが・・・「なるべく速やかに」―――と、だけ・・・

 

謎:『・・・判った、こちらの用意が整い次第、依頼に取りかかる事にしよう。』

  『その前に―――この依頼、「どの立場」からなのだ。』

 

ユ:・・・その事を云わねばなりませんか―――

  「フロンティア首席幹部・ガラティアの側近」―――これではダメですか・・・

 

 

 

「いや、それで結構」―――と、その人物が云うと、その場には、彼女達二人以外の、人の気配と云うモノは感じられませんでした。

 

そしてここで、前回、ユリアとスターシアが、エクステナー大陸の常磐へと来た理由が、明確なモノとなったのです。

 

そう・・・彼女達は、自分達の直属の上司である、ガラティアからの密命を受け、

現在常磐で進行しつつある事態を考慮した上で、ある思い切った手段に踏み切ったのです。

 

それが・・・対象者、ベラスケス=トロン=シュトゥエルニダルフの、「暗殺」―――

 

しかしこれは、決して他人に知られてはならないことであり、だからこそ、人気(ひ と け)のいない場所を指定して、「ある人物」に会っていたのです。

 

しかも、この人物・・・依頼人である、ユリアやスターシアの前に姿を見せないばかりか、

やり取りを交わしている時の声まで、コンピュータで合成させたかのような「音声」を使用するなどしての、念の入り様・・・

こんなにも、用心深いのは、過去にも(るい)を見ないと感じたスターシアなのでしたが・・・

 

 

 

ス:しかし・・・これで良かったのだろうか―――

  ジョカリーヌ様のお膝下である地球で、それも「暗殺」の依頼とは・・・

ユ:・・・良いのですよ、ラゼッタ―――

  それに、ジョカリーヌでは、こうした思い切った行動に踏み切れない分、「陰」の部分であるわたくしが、それをこなさなくては・・・

  それに()の者は、依頼人の背信行為や虚偽がない限りは、総てを完璧にこなしてくれると云いますからね。

  ですから、今回、「解除」や「破壊」が困難とされている、例のシステムをいかに克服するのか―――

  そこが最大の焦点であり、また、興味のある処ですけれどね・・・。

 

ス:ふぅむ・・・しかしなあ―――

ユ:・・・それに、リリアさんの噂を耳にした時、わたくし達の盟主は、この手段に踏み切ったと思われるのです。

  それと、あと―――・・・

 

ス:(うん?)―――どうしたのだ。

ユ:・・・この事は、()だ噂の段階で、はっきりとした事までは云えないのですが―――

  「彼」のことです・・・。

 

ス:(!)「彼」・・・が?!

  ―――まさか・・・すると、では、「あそこ」は、今・・・

 

 

 

その事に対し、ユリアがゆっくりと(うなず)くと、あのスターシアの表情から、「余裕」と云うモノは消え去っていました。

つまりは、それほど、重大な事態が、自分達の知らない間に進行しつつあり、

ただ、その事を唯一知るガラティアが深慮し、部下であるユリアを動かしたのだ・・・と、スターシアは理解したのです。

 

とは云え・・・ユリアの方も、具体性に触れるモノの云い方はせずに、匿名性の強いモノを口にしただけだったのですが・・・

その時、彼女達だけが知り得ていた、「重大な情報」とは、一体なんだったのでしょうか・・・

 

 

それはそうと―――・・・

一方の常磐では、リリアが、不思議な感じのする「少年」に、出会っていたのでした。

 

しかも、この「少年」・・・リリアにしてみれば、「初対面」ではないらしく―――

 

 

 

リ:あっ―――あなた・・・

  どうしたの、今日は随分と、主張がはっきりとしているわよね。

 

少:えへへ―――だって僕、恥ずかしがり屋なんだもの。

  それに・・・お姉さんの事が、気になっちゃって・・・

 

リ:えっ??! も・・・もう〜―――からかわないでっ!

  私には・・・ちゃんと心に決めた人がいるんだから・・・

 

 

 

そうは云いつつも、ここまではっきりとした好意を、相手(異性)から告げられた経験のなかったリリアは、

頬を紅潮に染めてしまうのでした。

 

しかし・・・そう―――

「彼女」と「彼」は、この時が初対面ではありませんでした。

 

それはリリアの言質にもあったように、「今日は主張がはっきりとしている」・・・

つまりは、前日の夕食時に、リリアだけがうっすらと認識で来ていた「存在」こそが、この「少年」だったのです。

 

では・・・気になるのは、この日を境に、主張をはっきりとしてきた、「謎の少年」にあるわけなのですが―――・・・

 

これから事態は、驚くべき展開に進んで行くこととなるのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと