「ディーヴァ」の、サヴ・リーダーである「ラクシュミ」―――ミリヤ=アゲット=ロックフェラーからの要請を受け、
「サラスヴァティ」である、ジゼル=ぺルラ=オーチャードが、地球の玄関口である「月の裏側」に着いたのは、
要請を受けてから6日目―――と、云う、稀に見る速さでした。
そもそも、以前にマリアが云っていたように、いくら迅速に動けたとしても、地球到着までには、7日前後を要するだろう・・・と、していたのに対し、
それよりも1日早い、6日で―――とは、どう云った理由からなのか・・・
その事については、ジゼル本人からの、説明があり・・・
ジ:その事に関しましては、マエストロ様の配慮があったからに、他なりません。
それに、重要事項は、なるべく早くお伝えした方が良いに、越した事はありませんから。
ミ:「重要」・・・つまり、そうしなければならない程だと、マエストロ様がお考えになったから、
あなたも、超法規的に動けたと・・・。
ジ:そう云う事です。
マ:では・・・「重要事項」―――って・・・
「重要事項」―――つまりそれは、現在、現場で動いている、ミリヤ以下4名に齎されなければ、
彼女達の生命にも関わる程の、重要性が盛り込まれた情報・・・
その事を、既にジゼルは掴んでおり、どうしても直接、彼女達に伝えなければならないのだ―――と、
「マエストロ」・・・ジィルガに、直談判をしたのです。
それにしても、彼女達は、手紙などを電子化して、電波で送受信できる技術を持ち合わせていると云うのに・・・
どうして今回は、手間のかかる「アナログ」な手段を取ったのか―――
それは・・・便利になればなるほどに、不便になってくる―――・・・
いくら技術が向上し、発達をして便利になっても、犯罪に手を染める者達の手口も、それに倣って巧妙になり、
セキュリティを厳重にした処でも、「秘密」を見たい者は、どんな手口を使ってでも見てしまう・・・
だから、「ハッキング」の先駆者でもあった、ジゼルが行き着いた結論は、
「情報を、見せたい人物本人に、ジゼル自身が対面授受」―――と、云う、前時代的ながらも、確実性のある方法を選択したのです。
それよりも・・・気になるのは、ジゼルが掴んでいた、「重要事項」―――なのですが・・・
ミ:(・・・これは―――)「フロンティア」の幹部が、プロを雇った・・・と?
ジ:はい―――
一応、名は伏せられていますが、「幹部」と云うのも、かなりの上層の方だと・・・
それよりも、危惧しなければならないのは、どの程度のプロ・・・と、云う事になりますが、
私が掴んだ処によると、「紛れもない超一流」―――と、だけ・・・
マ:ふぅん・・・それだと、限られてくるわね。
それで―――?現在この近辺で、動いている「超一流」は・・・?
ジ:それは、「ウイッチ」も「テュポーン」も含めてでしょうか。
マ:ええ―――・・・
ジ:でしたら、計五名が、太陽系方面に来ている事を、確認しています。
その中で・・・私が、最も注目しているのは―――・・・
第百五十八話;二つの情報
それは・・・宇宙開拓事業団「フロンティア」に籍を置く、幹部の一人が、超一流のプロを雇ったと云うこと・・・
しかも―――彼女達「ディーヴァ」の知られない処で、ある密約が交わされた事を、皆さまはお忘れでしょうか・・・
その為に、「幹部の一人」の部下である、「東の評議員」が、常磐へと訪れていたのですから。
それよりも、ジゼルが、ここ最近、太陽系方面で、何らかの依頼を請け負っている、超一流のプロの事を調べた処、
「情報屋」としての、ジゼルの勘に引っかかった者の事を、述べたのです。
すると―――その人物の名を聞いた途端、主人に暇を告げる間もなく、駈け出していた人物が・・・
それを止める為、主人であるミリヤが、名を呼ぶも―――メイベルは制止を振り切り、一路「月の裏側」を目指したのです。
処一方―――「月の裏側」では・・・
「ディーヴァ」の「パールヴァティ」である、ヘレン=サピロス=カーネギーは、仲間達と離れて行動をしていたのです。
(こう云った表現の仕方では、多大に誤解を産むと思われるので、敢えてヘレンの為に弁護を・・・
彼女が、この時、仲間達と離れて行動をしていた―――と、云うのは、ヘレンは、裏の稼業上「バウンティ・ハンター」であり、「不意の遭遇」を予期して、「月の裏側」を張り込んでいた形跡が見られる。)
すると・・・「宇宙港」の受付に、見るからに敬虔な修道服を纏った「修道女」が、向かっているのが見えました。
そんな「修道女」は、この近辺に、布教活動の為に訪れ―――その帰りに、この宇宙港を訪れた・・・とも、思われなくもないのですが、
なんとヘレンは、そんな彼女の前に立ちはだかり、徐に―――・・・
ヘ:フ―――フフフ・・・驚いたわ。
まさかこんな辺境で、同じ「グラスゴー修道会」の人間に、出くわす事になるとはね・・・。
あんな、金儲けにしか頭にない連中が、こんな辺境にまで、布教活動―――なんて・・・ちょっと考えられないわよね。
そう・・・ヘレンは、その「修道女」に対し、「同じ修道会の人間」だと云ったのです。
それに、ヘレンも、その修道会に属しているモノだから、そこの執行部のやり方を知っているのです。
だから、そこで皮肉を云ってやったのですが・・・
なんと、その「修道女」は、「我コト関せず」と云ったように、ヘレンを素通りし―――搭乗の際の受付の窓口へと、進もうとした処・・・
ヘ:―――ちょっと、待ちなさいよ!フランソワ・・・
いくら眼が盲えないからと云って、無視はないでしょ!
フ:(・・・。)あら―――その声は・・・
誰かと思いましたら、シスター・ヘレンではありませんか。
ヘ:白々しい―――・・・さっき声を掛けた時点で、判っていたんでしょうに・・・。
フ:それにしても、奇遇です・・・
あなたも、この地へと、布教活動に訪れていたのですね。
なんと云う、神の思し召し・・・
きっと、主が、こうなる様に、お導きしてくれたのかもしれませんね。
その人は、全盲の人―――・・・
「盲目」という点では、このお話しでは、市子が有名なのですが、彼女の場合は、彼女自身の意図によって、そうしていたのに対し、
この人物・・・フランソワ=エヴァ=ベアトリーチェは、生まれながらにして盲目・・・
その人物こそは、美貌の人―――
年齢不祥ながらも、その人物が歩くと、振り向かない男性はいない・・・
しかしヘレンは、フランソワが、どんな人物なのか・・・裏の稼業柄、知っていたのです。
そう・・・ヘレンと、フランソワこそは―――・・・
ヘ:私の前で、誤魔化すのは止めて貰いたいもんね・・・。
第一、あんたがこんな辺境に現れてる・・・ってことは、ひょっとすると、現在私達が関わっている事態と、何か関わりがあると見ていいんでしょうね。
フ:(・・・。)果て―――なんのことやら・・・私には、さっぱり・・・なんの見当もつきません。
元々、ヘレンとフランソワとは、現在、彼女達が所属している「グラスゴー修道会」以前にも、面識があったのでした。
片や―――UPから出向して来た、軍幹部候補生・・・
片や―――実戦で叩き上げてきた、下級将校・・・
云ってしまえば、「キャリア」と「ノンキャリ」ではありましたが、二人は互いに通ずる処があったらしく、プライベートでも親しくしていたのです。
ところが・・・フランソワの方は、その後100年経った頃、軍を退役・・・
風の噂では、「ゲリラ組織」に加わり、その活動に専念していると云うのです。
そんな事よりも、ヘレンは、なぜフランソワが、自分に何の相談もなく、勝手に軍を辞め、自分達の体制を、批判する様な事を始めたのか・・・
その理由を、いつかは訊いてみようとしていた処―――その機会が、不意に出来た事に、本当は嬉しくて仕方がなかったのです。
しかし今は、互いが違う目的で、この地球を訪れている・・・
だからこそ、憶測で物を云うべきではなく、ヘレンも―――フランソワが頑なに、目的の事を何も云わずに去ろうとした処、
彼女を見送るしかなかったのです・・・。
そう・・・喩え、フランソワの目的が、なんであるのか―――明確に判ったとしても・・・
それと入れ違いざまに、今度は地球から、メイベルが―――・・・
メ:ヘレン! 今までここに、「レェラァ」が―――
ヘ:・・・ああ―――奴さんなら、たった今出た便で、帰ってったわよ・・・。
メ:そんな・・・っ―――では、どうして、もう少し引き留めてくれなかったのですか!?
ヘ:だって―――あいつは・・・「修道会」の用で、ここに来てた・・・って云ってたんだもの・・・。
実は―――メイベルも、フランソワとは深い繋がりがありました。
そう・・・メイベルは、「ウイッチ」と名乗るまでに、「ゲリラ組織」に所属していた事があり、
フランソワも、同じ「ゲリラ組織」に、所属をしていた―――・・・
そこで、彼女達は運命的な出会いを果たし、フランソワが抱いていた思想や理想―――戦闘技術の特筆すべき点に、興味を抱いたメイベルは、
いつしかフランソワの事を、自分自身の「師」と、仰ぐようになっていたのです。
だから・・・今回フランソワが、何らかの理由で、地球に訪れている事を、ジゼルから知らされたメイベルは、
嬉しさのあまり、居ても立ってもいられなくなり、果ては、制止するミリヤの声さえも振り切り、「月の裏側」を目指した・・・
これが、今回のお話しの、冒頭にあった展開だったのです。
それよりも・・・実は、「フランソワが、地球に来ていた」―――と、云うのが、ジゼルが握っていた「重要事項」なのではなく・・・
ミ:全くもう、あの子ったら―――帰ってきたら、お仕置きが必要な様ね!
マ:まあまあ、ミリヤ様・・・
それよりジゼル、その情報だけでは、さして「重要」とは思われないのだけれど・・・
ジ:さすがですね―――そうです、実は・・・
ジゼルが、その時、明かした名・・・「Peace Maker」―――またを、「平和の使者」・・・
けれど、UPに所属していたマリアや、そうした立場で、彼の者と何度か接触した事のあるミリヤは、知っていたのです。
依頼されれば・・・どんな不可能な事案でも、可能にしてしまう―――畏るべき「死刑執行人」・・・
彼の者に、「組織」という概念はなく、また、それに所属することを嫌った・・・
また、そうする事の、裏の背景には・・・
彼の者が、「UP」「宇宙軍」「ゲリラ組織」・・・と、転々と渡り歩いてきたからこそ、「内部対立」などの、穢れた構造を、知ってしまっていたから・・・。
ならば彼女は、信じるのは自分一人のみ―――だとし、あまり目立たない「修道会」に籍を置き、
自分の教義に照らし合わせた上で、依頼を遂行する・・・。
無論、依頼人との間には、嘘や偽りは、あってはならないし、背信行為も不許可・・・
けれども、任務上知ってしまった情報は、絶対に漏らす様な事はなかった・・・
そこには、ただ、単に金儲け目当ての連中よりか、信用性があるとし、また彼女も、依頼人の期待に応えてきたのです。
しかし―――そんな・・・「ピース・メイカー」であるフランソワが、地球に来ていた・・・と、云う事が、
ジゼルが、ミリヤに直接伝えようとしている程、「重要」ではないと、マリアが感じていた処・・・
果たして―――ジゼルが掴んでいた「重要事項」とは・・・
ジ:・・・実は、現在の「春禺」の状況なのですが―――
ミ:(!)「春禺」・・・とは、もしかして「天帝」が―――
ジ:ミリヤ様、滅多な事を、口にするモノではありません・・・
ただ―――・・・
・・・真に、申し上げにくいのですが、ここ数日に亘って、公務のキャンセルが、相次いでいるようなのです。
ジゼルの掴んでいた、その情報こそは、得てして危険性を孕んでいたモノでした。
それに、「天帝」とは、この宇宙を統べる者―――の、事であり、
そんな、容易に、「不在」を口にして好い存在ではなかったのです。
けれど、ジゼルが口にこそ出さないまでも、「そうだろう」と、強く感じていた背景の一つに、
「相次いでいる公務のキャンセル」が、そう思わさざるを得なかったのです。
=続く=