地球にいる「ディーヴァ」達が、畏るべき暗殺者や、宇宙の統治者不在の疑惑を知ってしまっていた頃・・・
こちら、監獄の惑星である「オンドゥ」では、また別の事態が進行しているのでした。
ですが、この事態の進行と云うのも、実に際立って表だったモノではなく、寧ろ水面下で起きていた事なのです。
その「キーパーソン」となり得たのが、やはりこの男―――・・・
ク:ほう―――念願かなって、ようやくお会いになられましたか。
それは、真以て、重畳の至り・・・
それで、いかがです―――あなたが思っていた通り・・・ほう、それはそれは・・・真以て、絶好の機会ではありませんか。
ですが・・・余り急いては、事を仕損じる恐れもあります、努々・・・お忘れになられぬよう・・・。
その男―――こそ、オンドゥの副署長でもある、ヨヴ=ヴェクター=マクドガル・・・またの名を、「クラウドマン」。
その彼が、自分の携帯式通信装置を使って、何者かと交信をしていたのです。
それにしても・・・その内容は、彼の別称と同じく、雲の様に掴み処がありませんでしたが、
どうやら相手に、何らかのアドヴァイスをしていた感じにも、見て取れなくはなかったのです。
それに・・・どことなく、相手を気遣う、恭しさも感じ取れた・・・
果たして、彼の交信相手とは、一体誰なのでしょうか・・・
さて、そんな様子を余所に、地球の常磐では・・・
リリアが、外からお客を連れ、播磨屋へと戻ってきたのです。
いや、しかし―――・・・
その表現も、少々違っていたようで、云うなれば、相手の方が、勝手にリリアについてきた―――と、云うべきが、妥当だったようです。
それにしても、その「少年」は、周囲りに、なんら物怖じすらすることなく・・・
第百五十九話;ある「少年」への疑惑
し:―――あっ、リリアさん・・・誰なんです?その人・・・
リ:いや・・・ついてこないで―――って、云ったのに、勝手についてきちゃって・・・
少:やあ―――初めまして、君・・・この人のお友達?
だったら、僕とも仲良くしようよ~。
し:(なんだよ・・・こいつ、いきなり馴れ馴れしく・・・)
それより・・・なんの用なんですか―――
少:うぅ~ん、そんな風に突っぱねる―――「ツン」とした態度の君も、魅力的だよね~。
ところで―――どう? これから僕と、将来設計の事について、話し合わない
し:(・・・は?)な―――何バカ云ってんだよぅ・・・ボ、ボクには、ちゃんと心を許した人がが・・・
少:ふぅん・・・君も、この人と同じなんだ―――
だったらさぁ、君が心を許した人・・・って、どんな人?
し:(い゛い゛い゛っ!)い・・・いいじゃんかよぅ~~どして、あんたなんかに、そんなこと―――
丁度この時、播磨屋の手伝いの為、店の軒先を掃除していたしのが、対応にあたったのですが・・・
思いがけない口説き文句に、普段そうした事になれなかったしのは、ただたじろぐばかり・・・
そうする内に、軒先が騒がしくなっている事に、しのの想い人でもある、この人物のご登場―――・・・
秋:なんだい―――なんだい―――店が開くのは、まだ当分先だぜ?
それに・・・見りゃ、まだ餓鬼じゃねえか、お前さんがこんな処に来るのは、まだ十年早えぇよ、
帰って、母ちゃんのおっぱいでも吸ってな。
少:・・・君の、その云う通りにしてあげたいんだけどね―――実は僕・・・両親の事は、余り知らないんだ。
リ:(えっ・・・)
秋:はぁん? そうだった・・・のか・・・そいつは悪い事を云っちまったみたいだな・・・。
少:ううん―――べつに、気にする程の事でもないよ・・・
第一、僕の母は、僕を産んですぐに他界したらしいからね・・・
それに・・・父の方も、僕が放浪の旅に出ていた時に、亡くなった―――って、そう聞いているし・・・
なんだか、とても他人とは思えないような出来事―――
母を、自分が生まれてすぐに亡くし、父も、自分が旅をしていた間に亡くしてしまった・・・
そんな履歴の持ち主は、あの人物を措いて他に考えられないのです。
ですが・・・現在―――リリアは、以前までの記憶を一切失っており、とても自分の両親の事までは・・・
―――と、そう思いきや・・・
リ:へぇ・・・あなたも・・・私と同じ・・・なんだ。
し:え? でも、リリアさん・・・確か、以前の記憶は失っているんですよね。
リ:えっ?あっ・・・そうだった・・・でも、どうしてなんだろう・・・
急に・・・そんな感じが・・・して・・・ううっ―――
し:(!)どうしたんですか―――?!
リ:あ・・・頭が・・・痛い―――痛いよぅ・・・
し:大変だ・・・蝉ちゃん! 至急、たまちゃんや市子さん達を呼んできて!
思いがけない事に、リリアも、両親を既に亡くしている事を、思い出したのです。
ですがリリアは、宿敵を倒した間際に、彼の者から記憶の一切を失くす「呪」を貰い、
ここ数日は、ずっとそのままだったのです。
ですが、ここにきて、思いがけないやり取りに、記憶の断片を取り戻したかのように見えたのでしたが、
しかしすぐに、頭痛の症状を訴え出したのです。
その様子に、自分では取り付く島がないと判断したしのは、急遽たまもと市子と蓮也を呼び寄せた処―――・・・
リ:すみません・・・御心配ばかりおかけして・・・
市:いえ、いいのですよ―――今はゆっくりと、養生をなさってください・・・。
た:しかし・・・それは本当なのか、しのよ。
し:本当だよ・・・それに―――
秋:おう、それならおいらも聞いていたぜ。
た:ふぅむ・・・それより―――この兆候は、「善き」と見ていいモノなのかのぅ・・・
過去の事例を見てみても、記憶を失くした者が、それを取り戻した―――と、云う実例は乏しく、
何をして、その「兆し」なのか、たまもでも見当はつきませんでした。
そうして悩んでいる内に、久しく播磨屋から離れていた者達が、戻ってきたのです。
ミ:―――あら、どうされたのです、皆さん・・・怪訝そうな顔をされて。
た:いや―――実はな、ミリヤ殿・・・
ミ:(!)―――そちらの方は・・・?
た:ああ、どうやらこの度、リリアにくっついてきた者らしい。
そう云えば・・・まだ名前を聞いておらなかったな。
自分達が、播磨屋から離れた時よりも、一層深刻そうにしていた事を、ミリヤは見逃しませんでした。
しかし、その事よりも、一際異彩を放っていた、あの「少年」が、ミリヤの視界に飛び込んできたのです。
それに・・・気が付いた事に、たまも達は、自分達がその少年の名前を、まだ誰も知らなかったと云うこと・・・。
だから、たまもが代表をして、訊ねてみた処・・・
少:ええっ? 困っちゃったなぁ~~なんだか照れちゃうよね。
だって、こんなにも僕好みのお姉さんや娘さん達に囲まれて、何やら問い詰められようとしちゃっているんだものね。
ミ:(・・・。)真面目に答えた方が、自分の為だと思いましてよ―――・・・
少:それも、ちょっと困っちゃったなぁ・・・
でも、そうだね―――じゃ、取り敢えず、僕の事は「ポール」と、云う事にしといてよ。
ミ:(!)あなたねえ―――
た:ミリヤ殿・・・まあ、何も進展しないよりは、「まし」じゃ・・・。
この「少年」―――自称を「ポール」と云うそうですが・・・この彼には、珍しく噛みついて見せるミリヤ。
日頃は、ヘレンやマリア・・・そして時には、メイベルに指示を与えるミリヤには、常に「責任」と云う、重いモノを背負っていました。
そんな彼女からすれば、この「ポール」と云う小僧の、なんとも「無責任」な発言にやり切れなくなり、
いつになく感情的になってしまっていたのです。
そうしている内にも、またもう一組・・・この播磨屋に戻ってきたのです。
ユ:あら、皆様お揃いのようで・・・。
ミ:(!)あなたは―――・・・
・・・今まで、どこに行ってらしたのです。
ユ:ええ・・・少しばかり、異国の地を巡っていましたモノで―――
ミ:そうですか・・・。
そう云えば、ヘレンとメイは、こんな辺境の惑星で、「超一流のプロ」と会ったそうですよ・・・。
ユ:あら―――まあ・・・怖い。
それで、お二人は無事なのです?
ミ:・・・まあいいですわ―――何れ判る事でしょう・・・。
ミリヤ達も知られない処で、密約を交わした疑惑を持たれた―――ユリア・・・
しかし、この時は、核心に迫るやり取りはせず、やがては物別れに終わったのです。
・・・が―――その直後・・・事態は思いも寄らない方向に・・・
それは―――ユリアが、あの「少年」・・・ポールを見た時・・・
ユ:(!!)あな―――た・・・
ポ:・・・やあ、お久しぶり。
いや―――ここは敢えて、「初めまして」・・・と、云うべきかな。
「なぜ・・・この人物が、この場所に―――?」
「いや・・・それよりも・・・わたくしが抱いていた不安が、現実のモノとなろうとしている・・・?」
「幸いなことには・・・この人物の事を、詳しく知っているのは、今の処はわたくしのみ・・・」
「・・・ここは、慎重に事を運ばなければ―――・・・」
「それに、依頼の件も気にかかります、最悪・・・不測の事態は避けなければ。」
ユリアが、この場で会ってしまった人物・・・「少年」の事について、これほどの思索を巡らせていました。
しかしこの事を、他人の思考を読み取る事に長けたミリヤが、見逃そうはずがなく―――
けれども、ミリヤは経験上、こう云った事を、今すぐに表沙汰するのは、得策ではない・・・と、
後日改めて、「ディーヴァ」のメンバー全員で、協議する方針を取ったのです。
それにしても・・・なんとも意外なのは、ユリアが、この「少年」と、面識があった―――と、云うこと・・・
そしてその事は、「ポール」自身からも、宜しく触れていた事でもあったのです。
けれど、ユリアも、今後起こり得る事態の事もあり、この地に留まることとなるのですが・・・
その気持ちは、薄氷を踏む思いでは、なかったでしょうか。
その事は、播磨屋に設けられた、ユリア達の部屋にて―――・・・
ス:珍しい事もあったモノだな・・・お前が、あんなにも動揺をするとは。
ユ:ラゼッタ―――・・・
それにしても彼は・・・どうしてこの場に・・・
ス:どうしたと云うのだ・・・
ユ:・・・あの「彼」こそ、今回わたくし達が、その動向に、一番注意を払わなくてはならない存在なのです。
それに・・・「ピース・メイカー」との、依頼の時期も重なっています。
もし「彼」が―――「仏心」を出してしまった時、「ピース・メイカー」のサイト・スコープに、収まらなければ良いのですが・・・
先ずそこで、ユリアが一番重きを置いていたのは、自称「ポール」を名乗る、少し無責任な「少年」・・・
云わば、この「彼」の、「生」「死」に関わる事案であり、この「彼」に会うまでは、依頼した件の「見届け人」に過ぎなかったのですが・・・
ならば「彼」は―――あのユリアが、そうしなければならないほど、「重要人物」なのか・・・
それに、それほどの人物ならば、なぜこうして、この地に来てしまっているのか・・・
謎が―――謎を呼ぶばかり・・・だったのです。
=続く=