リ:え・・・っ―――?
突然―――自分が起こそうとした行動とは、裏腹な事を云われ、完全に虚を衝かれてしまったリリア・・・。
けれど、そう―――その人物が発した事は、まるで自分達が、過去に会っていたかのような発言だったのです。
それを確かめる為に、リリアは今一度、ポールに訊いてみた処・・・
リ:あの・・・今、なんて云ったの?
「やはり君は、どこも変わらない」・・・?
私―――と、あなた・・・
ポ:多分、記憶が確かな時でも、判らないはずだよ。
それだけ昔で、「会った」と云っても、ほんの「瞬間」、運命が交錯しただけだもんね。
「そう・・・あれは、随分と昔の事―――」
「その当時の僕は、まだ自分が何者なのかも知らなくて、昔からの馴染みと、悪さや馬鹿ばかりしていたんだ」
「けど・・・ある時、妙に偉そうな奴が僕の前に現れて、僕に「ある役目」を押し付けようとしたんだ。」
「勿論、初めは抵抗したよ―――喩え無駄とは判っていてもね・・・。」
「けれど、判ってしまうと、受けないわけにはいかなかったんだ。」
「だって・・・考えてご覧、僕一人の所為で、人一人が死んでしまう処を、目の前で見せられてしまうと・・・
「それもね・・・僕や、死んでしまった人に、過失があったわけじゃなく―――僕が、「役目を果たさなかったから」・・・と、云う、「事実」を突き付けられてしまったんだよ。」
「けどね・・・半ば、強制的にやらされているのも同然だったから、次第に嫌気がさしてきちゃって―――」
「そんな時だったんだ・・・逃げるように、この惑星へと来たのは―――」
今、明かされる・・・謎の少年「ポール」が背負った、過酷な運命・・・
彼自身が話す、身の上話は、半分が嘘―――なのかもしれない・・・
けれど、後のもう半分が真実だと云う、可能性も否定できないのです。
それと云うのも・・・言葉やその瞳に、妙に真実味が込められている―――と、リリアが感じたから・・・
だから、謎の彼の話しに、思わず聞き入ってしまったのです。
リ:ふんふん―――それで・・・それでどうなるの?
「そこで僕は、小さな一人の女の子に出会ったんだ。」
「その子は、「女の子」でも、男の子と一緒に遊んじゃうような、元気な子でね・・・」
「ああ―――そう云えば、同じ年頃の女の子も、同じグループにいたけれど、その子とは性格が正反対みたいだったね。」
「でも、仲は良かったみたいで、別のグループが、その女の子をいじめている処を、庇ってあげたりして・・・「本当は、優しい子なんだ」って、感心しちゃったよ。」
「でもね―――本当に驚いたのは、その子が一人ぽっちになっちゃった時、皆の前ではあんなにも威勢が良かったのに、一人になった途端、元気がなくなっちゃって・・・」
「本当は、寂しがり屋なんだ・・・って、思ったよ。」
「ああ―――そうそう、それから後の事なんだけれども、その日一日あった事を、お父さんに云うんだけれど、
なぜか、一人になって、寂しさのあまりに涙ぐみそうになった事は、云わなかったよね・・・。」
「本当は、根が優しくて―――寂しがり屋で―――それで、ちょっぴり意地っ張りで・・・」
「・・・え? 誰の事かって?」
ポ:それは、君の事だよ―――リリア・・・
リ:え?私の事??
そ・・・それじゃ、今まで私が小さかった時の事を・・・
ポ:そうだよ・・・僕は、本当の君の事を知っている。
記憶を失ってしまう前の君は、どちらかと云うと、本来の自分と云うモノを見せまいとしている・・・
僕の眼には、そんな風に映るんだ。
リ:そ―――そんな事を云われても・・・
私・・・以前の事なんか判らないよ!
ポ:(・・・。)そうだよね―――ちょっと昔の事を話せば、なにかの「きっかけ」になるかと思ったんだけれど、そんなに巧くはいかなかったか・・・あっはははw
まるで・・・今までの話しを、冗談交じりだったかのようにしてしまう、謎の少年「ポール」・・・。
しかしリリアは、そのままには受け取りませんでした。
以前までの記憶は失ってしまった―――これが事実だとはしても、リリアが以前までに経験してきた事までは、消えてはいなかったのです。
その事を証明するかのように、次第に・・・リリアの頭の内にかかっていた、靄の様なモノは、薄らいでいこうとしているのでした。
そして、これが「きっかけ」―――
途中で抜けた「ポール」を見つけて、戻ってきたリリアの表情は、いつになく冴えた感じではありませんでした。
そこの処を、市子や蓮也、たまもに見咎められはするのですが・・・
異変は、そんな時に襲ってきたのです。
少しばかりの騒音と、煙・・・そして、木材が焼けるような匂いと熱とが、リリア達がいる「播磨屋」・・・吉原界隈に蔓延し―――
秋:(!)火事か―――!
蓮:なんと・・・物騒な。
た:いいや・・・この感じ、ただの火事ではなさそうじゃな。
「火事と喧嘩は穢戸の華」―――と、言葉遊びにもある様に、「火事」自体は、さして珍しくもありませんでした。
が・・・この時たまもが感じていたのは、明らかに「人の手」ではない―――つまり、「妖」によって、起こされたモノだと感じ、
急いで播磨屋の外に出てみると・・・
秋:げ! なんだありゃ・・・「茨木童子」じゃねえか!
なんだって、洛中にいる奴が、穢戸なんかに??
た:静まれぇぃ! その様な事、あ奴らにしてみれば栓無き事―――
この上は、ここにおる者で鎮めるぞ!!
見上げれば、播磨屋の屋根よりも、巨い鬼―――
その姿を見た途端、「妖改方」である秋定は、その怪異が、「羅生門の鬼」―――こと、「茨木童子」である事を認識したのです。
しかもこの鬼は、かの「朱天童子」とも繋がりがあるらしく、彼の者からの協力要請に応じた―――との、見解も拭えなかったのです。
そんなことよりも・・・現在、播磨屋に居残っていたのは、リリアと蓮也と秋定とたまもと、謎の少年「ポール」のみ・・・
しかも、戦力となれるのは、蓮也と秋定のみ―――と云う、非常に心許ない状況だったのです。
(因みに、他の者は・・・と、云うと、長谷川平蔵は「火盗」の常勤、しのと市子は、「大江山」関係の情報収集、ミリヤ達「ディーヴァ」は、その「大江山」付近での工作の最中、
ユリア達は、所用で常磐を離れていたようです。)
いくら悪しき妖怪を討ち鎮める「妖改方」とは云え、明らかに体格差のある敵を、たった二人で・・・と、云うのは、
やはり、かなりな無理があるらしく、次第に劣勢に追い込まれてしまったのです。
しかも・・・実はこの時、「敵」は茨木童子だけではなく―――・・・
それと云うのも、別の方向から、蓮也の背中めがけて、何者かの爪牙が・・・
しかし―――・・・
市:蓮也さん―――危ない!!
蓮:市子殿・・・忝い。
市:お礼は後ほど―――戻る道中、妙な胸騒ぎを覚えたモノですから、急いで戻ってみれば・・・
やはり朱天童子、一筋縄ではいかぬようです!
この、蓮也の一大事を救ったのは、吉原の騒乱を敏感に感じ取っていた市子としのなのでした。
とは云え、蓮也の背中を襲った爪牙の主は、やはり同じ「鬼」である、「前鬼」「後鬼」であり、
いくら市子やしのの加勢を得た処で、所詮は「焼け石に水」の様に思われたのです。
ですが―――・・・
助勢を得られたのも束の間、見上げるような鬼三体に詰め寄られ、万事休すの事態・・・
そして、一世に襲いかかる、鬼の爪牙―――・・・
最早、絶体絶命―――と、誰しもが思ったその時・・・
リ:止めてえぇっ―――! その人達を、殺しちゃダメえぇっ―――!!
第百六十一話;リリア復活??
現在は、記憶を失くし、「戦力外」だと思われたリリアでしたが・・・
存外に、「経験」の方までは、失われていなかった・・・
愛する人や、友のため・・・護ろうとする「刃」が、今―――復活を果たしたのです。
蓮:リ・・・リリア殿―――? 「それ」は・・・?
市:(「晄楯」? いや―――違・・・)・・・まさか?!
た:おお―――おお! あれこそはまさしく!!
彼らが危機に晒されようとした―――その時、紛れもなく、リリアの手の中には、「楯」から変化した、「剣」があるのみでした。
しかも、驚くべき事に、その時のリリアの眸は「常態」のまま・・・つまり、両方とも「ターコイズ・ブルー」だったのです。
けれど・・・記憶の方は―――と、云うと・・・
リ:・・・その人達を傷つけると云うのならば、この私が赦しておけません!
痛い目を見たくないのならば、すぐにこの場から立ち去りなさい!
もし―――この時、リリアの「記憶」が戻っていたのならば、先ず、鬼達を立ち去らせるような真似はしなかったでしょう。
何よりも「武力」を愛し、何よりも騒動を好む・・・
そして、なによりも、彼女は最強の武器を持つ、「戦士」なのですから。
=続く=