穢戸から少しばかり離れた古刹に、ユリアとスターシアはいました。
その時ユリアは、今後の事態の進展を取り計らう為、気を鎮めて瞑想をしていたのです。
現在、常磐にて進行中の陰謀を防ぐため、彼女は、ある「超一流のプロ」に、主謀者の暗殺を依頼しました。
これで、この件は落着・・・と、行きたかったのですが、そう思い通りにはならなかったのです。
それと云うのも・・・自分と同じ立場である、「南の評議員」リリアがいた、同じ場所に、
ある「とんでもない大物」に出くわしていたからなのです。
そしてユリアは・・・瞑想を終え、ゆっくりと閉じていた瞼を開くと―――
ユ:・・・ラゼッタ、あなた、何を以て「最強」とするか・・・ご存知?
ス:うん? お前にしては、妙な事を訊いてくるモノだな・・・
しかし―――そうだな・・・
一口に、「最強」とは云っても、周囲りに敵う者がいなければ、それが―――・・・
ユ:そうですね・・・「それ」も、或る意味では、「最強」なのかもしれません・・・。
ス:(・・・。)では、お前の「最強」とは、なんなのだ―――
瞑想を終えるなり、突飛もない事を訊いてきたユリアに、それでもスターシアは、真面目に答えを返したモノでした。
而して、その問いも―――「最強とは、何たるか・・・」
その定義に、スターシアは、永年追及して来た「信念」を答えました。
するとユリアは、「それも答えの一つだろう」と、返してきたのです。
その返事に―――ユリアの肚の奥を読めなかったスターシアは、ならば、ユリア自身が「最強」としている定義を訊き返したのです。
すると―――・・・
ユ:偏に・・・わたくしが提唱する「最強」とは―――強大なる力を、周囲に悟られない事・・・
この宇宙を、覆い尽くす程の強大な力―――・・・
ラゼッタ、あなたも想像してごらんなさい、以前のわたくしやサウロンが、あなた達がその命を賭して護ろうとしていた「民」だったなら・・・と。
ス:・・・なにを―――云っているんだ・・・お前は・・・
ユ:この喩えでは不十分でしたか・・・。
ならば―――もし、あなたや大公爵ほどの実力者が、あの街の雑踏に・・・
それも、あの「月詠」の所持者であるミリヤに気取られることなく、ミリヤに最接近出来たのだとしたならば・・・
ス:(!)そんな・・・莫迦な―――
いや、それ以前に、ミリヤの周囲りには、ミリヤの脇を固めている連中がいる・・・そんなに生易しくは―――・・・
ユ:「それ」を出来る者が、現在この地球に来ているのです・・・。
そのユリアからの解答を得た時、スターシアは、すぐさま「誰」の事を云っているかを理解しました。
自分達が、なんの目的をして常磐へ赴いたのかを、ミリヤに詠み取って貰う事で、自分達の影響力と云うモノを示唆しようとしていました。
ところが・・・そこで、思わぬ人物を目撃してしまったのです。
なんでも、「その人物」は、リリアが断っても、「押し掛け」同然で、リリアについてきたのだと云う・・・
飄々とした態度で、やもすれば、無責任な発言も厭わなかった・・・
けれどユリアだけは、「その人物」の外見に惑わされず、「彼」の本質と云うモノを見抜いていたのです。
その「存在」こそは・・・宇宙に君臨する「主」―――
なれど・・・衆生と同じ存在「感」を、周囲に与えてしまう、特異な能力を持つ者―――
他人はそれを―――・・・
第百六十二話;ユビキタス
そう・・・「神は遍く」―――普遍にして、数多に影響を及ぼせる者こそ、「神」のなせる御業でしかないのです。
けれど・・・「神」はいつしか、その御座を降り、本当の衆生に代わり果てようとしていた・・・
しかしそれでは、宇宙全体が、成り立ちゆかなくなり、どうにかこの事態を、速やか且つ秘密裡に処理しようとしていたのです。
それと云うのも・・・「春禺」の主の不在が、立ち所に知れたとしたなら、宇宙の崩壊は、目に見えて進行しているのでしょうから・・・。
それが、「現在」では、綻びすら顕れていない・・・とは云え、「猶予」も余り残されてはいない―――・・・
つまり、ユリアは、最悪の事態の考慮と、善後策を、盟主・ガラティアに捻出して貰おうとしていたのです。
閑話休題―――常磐は穢戸・・・吉原の播磨屋では・・・
依然、三匹の鬼と、リリアの睨み合いが続いていました。
そしてしばらくして、このままでは事態が好転しないと思ったのか、三匹の鬼達は、背を向け・・・この場より去ったのです。
それで、ようやく安全が確保されたモノだと感じた途端―――
リ:よ・・・よかっ―――・・・
市:(!)リリアさん? リリアさん―――しっかり!!
脅威が去ったと感じた途端、それまでリリアを支えていた緊張の糸が緩み、その場にヘたれこんで気を失ってしまったのです。
それで、慌てて市子が近寄るのですが、ただでさえ発現が困難な御業を、仲間の窮地に出現させるなど、
精神にも過大な負担がかかり、疲労が襲ったのだろう―――との、たまもの見方に、一同は納得するのでした。
すると、そんな時に・・・ユリア達が、三度播磨屋を訪れてきたのです。
その事には、当面、たまもや市子達の態度は、冷やかなモノでしたが・・・
ユリアが、或る変調を感じ取ると―――・・・
た:(!)そなたは・・・見損ないましたぞ、斯様な一大事に、救いの手を差し伸べてくれぬとは・・・
ユ:ウフフ・・・わたくしの存知あげぬ時に、殊の外重大な・・・(―――!!)
市:あなた様方は、私やしのさんが朱天童子の事を調べていた時、それでも私達よりは吉原の近くにいた筈・・・
それをどうして―――・・・
ユ:(・・・。)
・・・その事は、お詫びを申し上げるより、ほかはないでしょう―――ですが・・・
ならばわたくしも、一つ訊きたい事があります。
あの「少年」は・・・「ポール」と名乗る者は、どこへと行ったのです。
ユリアが感じいていた「変調」―――それは・・・
謎の少年「ポール」の「不在」でした。
しかも、ユリアの顔から余裕が失せてしまうほどに、「彼」の現在位置特定並びに、把握が急務だったのです。
それに、たまもや市子・・・さらには、しのや秋定、果ては蓮也までも、今しがたユリアに指摘されるまで、
「彼」の存在は、意識の外に置かれてしまっていたのです。
そしてそう・・・「これ」こそが、「彼の者」が持ち得る、「ユビキタス」最大の特徴・・・
「彼」のことを、盟主より聞かされているユリアでさえも、存在認識自体を曖昧なモノにしかねない、「最強」の顕現・・・
けれど・・・どうした処で、「彼」が、自分の持つ能力を発現させた時点で、「彼」の存在など、掴める人間は、この世には存在しないのです。
そして・・・「彼」の捜索を諦めて、ユリアが、再びリリア達と離れた処で―――・・・
謎:フフ―――フフフ・・・味な真似を、してくれるよね。
ユ:(!!)あなた・・・は―――!
突如、背後にてせせら嗤う者の声―――
けれど、そう・・・その者こそは、先程まで、自分達が血眼になって、行方を捜していた人物「本人」―――
しかしそれが・・・いつの間に、自分に接近していたのか―――
いや・・・そも・・・
よく考えてみれば、「彼」の持つ顕現こそは、こう云った事に特化した能力―――
しかも・・・「彼」は、ユリアが焦っている動機など、既に看過しているかのようでした・・・。
高鳴る鼓動―――張り詰める緊張―――
だから、ユリアでさえも、この事を訊くので精一杯だったのです。
ユ:あなたは・・・なんの目的で、地球に―――?
ポ:いやだなあ―――考え過ぎだよ。
僕は只、いつもやっている事に少し嫌気がさしてきちゃってね。
ああ―――勿論、「ダミー」は置いてきているよ。
けれど・・・バレちゃうのも、時間の問題かもねw
ス:おのれ・・・なんて無責任なっ―――!
ユ:止しなさい! ラゼッタ―――!!
ポ:おやおやw
けれど、「無責任」・・・なんて心地よい響きなんだろうね。
いつも僕が、「あの場所」でしている事は、「それ」とは全く正反対なのにね・・・。
ああ、そうそう―――そう云えば、僕が今もって尚、「ここにいる目的」なんだけど・・・
昔―――この惑星で出会った娘に、どうしても告白たいことがあってね・・・。
ユ:「告白」・・・?
(!)すると・・・あなたは―――・・・
「あの」ユリアでさえ、闘わずして敗北を認めざるを得ないほどの実力者・・・
その人物が、未だ以て尚、地球に留まっている理由こそ、「それ」でした。
「宇宙に君臨する主」でさえ、恋患う事がある・・・
そして、現在の「主」は、「これ」を機会に、過去に見初めた女性を「妃」として、迎えようとしている・・・
それはそれで、とてもめでたい事だとは思われるのですが―――・・・
現在、その「渦中の人物」は、過去の記憶を総て失くしており、
しかも、自分が持ち得る強力な能力を解放したお陰で、精神に負担がかかり過ぎて気を失っているあり様・・・
果たして、この成り行きは、いかなる処に収まりつくのでありましょうか。
=続く=