漆黒の暗闇の内に、リリアは佇んでいました。
そこで彼女は、辺りを隈なく見渡し、本当に自分一人なのか・・・を、確かめようとしました。
すると―――しばらく前方に向かって歩いていると、何か発光する物体を見つけたのです。
当初は、その「発光する物体」が、何なのだろうか・・・と、思ってはいましたが、
何より、「漆黒の暗闇」と云う状況に、自分以外の何者かが居てくれた事に、思わずリリアは、その歩を早めたのです。
そして、近付くにつれ、段々と、その「発光体」が、人間の女性である事が判って来たのです。
・・・が―――どうも、その「人間の女性」・・・リリア自身が良く知る人物の様に思われたのです。
それもそのはず、よく見れば・・・自分と同じ背格好―――(とは云え、今の処は「背中」しか見えてはいないのですが・・・)
それでもリリアは、勇気を出して、その「人物」を呼び止めてみると・・・
リ:あの―――っ・・・ちょっと、すみません・・・。
あなた、ここが・・・(―――!) ああっ・・・あなた・・・は?!!
声を掛け、良くすれば仲間になって貰って、ここがどう云う処なのか―――と、ここからの脱出方法等を、協力して貰えないモノかと、話しを持ちかけようとしましたが、
その謎の人物が、リリアの声に反応をして、振り向くと・・・リリアは只、驚くしか他はありませんでした。
それと云うのも―――その人物こそは、「自分自身」・・・だったのですから。
いや、しかし―――そんな不思議な話しもないモノ・・・
この世には、「自分は一人しかいない」・・・のだとすると、リリアの目の前にいる、リリアに全くよく似た容姿を持つ、この「人物」は・・・?
すると、この人物から―――・・・
謎:あなた・・・仕様のない子ね。
間違って、こんな処に入り込んじゃったのね。
リ:あ―――あの・・・あなた・・・は??
謎:ウフフフ―――驚いちゃった?
私は・・・
リ:私の名は、リリア=クレシェント=メリアドール―――云ってみれば、あなたの「ご先祖様」になるのかな。
リ:あなた・・・リリア=クレシェント・・・メリアドール?!
聞いた事があります! 確かあなたは、「ナグゾスサール」と云う人に、呪を掛けられて・・・
リ:・・・ふぅん―――そこの処は、覚えているのね・・・。
リ:えっ―――? あっ・・・でも、どうして・・・
リ:フフフ―――気付かなかった?
私は、「マエストロ」と云う方に頼んで、私が亡くなった後でも、私の血を継いでいく子たちに、万が一の事がないように・・・
もし、万が一の事に陥ったとしても、助けてあげられるように、こうして深層心理に潜ませて貰っていたの。
けれど・・・そのシステムは、本当に「万が一」―――出来れば、私と同じ不幸な目には、遭って貰いたくはなかったのだけど・・・
それが今回、あなたが私と同じ目に遭ってしまった・・・って、云う事の様ね。
そう・・・リリアに似ていて当然―――
その「人物」こそは、リリアの先祖である、「リリア=クレシェント=メリアドール」―――その人だったのです。
それに、先祖のリリアは、未来の子孫たちに、「万が一の事」が起きないよう、自身たっての願いで、
「マエストロ」に、自分の凝似人格を潜在化させてもらうよう頼んでいたのです。
つまり、このシステムは、一種の「保険」の様なモノで、子孫たちに危険の影響がなければ、それに越したことはないのですが、
現在のリリアが、「道鏡」からの呪いによって、以前の記憶を失わされた事により、こうしてリリアの深層心理に現れた―――と、云うのです。
そして―――・・・
リ:大丈夫―――目を閉じて・・・心を落ち着かせて・・・そして、これから私が云う言葉に、耳を傾けて頂戴・・・
現在のあなたは、強いのかもしれない―――けれど、その「強さ」への過信は、やがて慢心を呼び寄せ、あなた自身を危うくさせるかもしれない・・・
けれど、それがあなた自身だけなら、それでも構わない―――あなた自身の大切な人を、損ねてしまったら・・・あなたは、自分自身を許さないだろうから・・・
その事を、充分理解し・・・また、注意しなさい―――
「イデア」である、「先祖のリリア」は、現在のリリアにそう諭すと、次にはリリアの目の前から消えていました・・・。
それをきっかけに、リリアが目を覚ますと、そこは播磨屋の、自分が寝泊まりしている部屋なのでした。
今のは・・・夢―――?
でも、夢だとしても、リリアは心強い助言を受けたと感じ、気持ちを切り替えると、床から起き上がって、仲間達がいる部屋へと行ってみるのでした。
しかし、そこでは―――・・・
し:依然として、大江山に張られた結界は、破られていない模様です。
それに―――・・・
た:うぅむ・・・あの「茨木童子」まで出たとなると、少々厄介じゃな。
秋:それに・・・「前鬼」と「後鬼」も、ああして敵に回ったとなりゃ―――
蓮:先ずは、そちらから・・・と、成り申すか。
市:一筋縄ではいかぬようですね・・・
秋定以下「妖改方」と、蓮也・市子を加えた五名が、車座になって、今後の対策について話し合いをしていました。
・・・と―――そんな処に、床から起きてきた、リリアも加わり・・・
リ:あの・・・皆さん、何を話し合っているのですか―――
市:リリアさん・・・もう、よろしいのですか。
リ:はい―――皆さんには、ご心配をおかけしたようですけど、私は元気です。
一様にして、リリアの無事の復帰を喜ぶ市子―――でしたが・・・
たまもは、病み上がりにも等しいリリアに、厳しく当たるのでした。
た:空元気でなければ良いがの―――
それに、剣を振るえぬ今のお主は、わしらにとっても足手纏いじゃ・・・下がっておるがよい。
市:そんな・・・玉藻前様―――この前は、リリアさんのお陰で・・・
た:それもまた・・・「まぐれ」でなければよいのじゃがの―――
それにな、市子殿・・・現在闘える者は、限られておる。
しかも、向こうときたら、更なる戦力の増強を図ってきておるのじゃ。
そんな時にな・・・わしは、ようよう―――博打には奔れんモノぞ・・・
厳しい―――けれど、今のたまもの弁は、現実を物語っていました。
今、リリアが加勢をした処で、戦力の増強には、なっていない―――
加えて、相手方陣営は、「茨木童子」「前鬼」「後鬼」と云う、新戦力を加え、更にその格差は広まろうとしていたのです。
そんなたまもからの弁に・・・リリアは、梢気かえるモノかと思えば・・・
リ:・・・うん、判っています―――
今の私は、どうした処で、あなた達のお役には、立てられそうもない・・・
でも―――・・・でもね・・・
私は・・・私なりに、あなた達の事を、援けたいと思っているんです。
なんとも、健気にも聞こえる、リリアのその言葉は、聞く者の心に響き―――時には、目頭を押さえる者もありました・・・。
しかし―――そこからの議論は、平行線を辿る一方で、有効的な手立てが浮かばないモノとみた、たまもは、一息入れる事にして、
小一時間後に、また同じ部屋に集まるようにしたのです。
そんな時・・・ある思いがあったリリアは、意を決して、その事を、当事者である者達に訊こうとしました。
では、その「ある者達」とは―――・・・
第百六十三話;蟠
リ:あの・・・市子さん、ちょっとよろしいですか。
市:―――はい、なんでしょう。
自分と気の合う人間―――よく自分の事をフォローしてくれたり、いつも話しかけてくれる、この国の人間・・・市子。
その彼女に、リリアは、ある・・・自分の胸の内にある「思い」を、打ち明けてみたのでした。
しかしその事は・・・現在の常磐にも繋がる、この国の歴史の事が、深く関わり合ってくる事を、まだリリアは知らずにいたのです・・・。
では―――リリアの胸の内にある「思い」とは・・・
リ:そう云えば以前―――市子さんは、「私とあの方とは、喩え「想い」があったとしても、伴に添い遂げるような事はないでしょう・・・。」そう云っていましたよね。
どうしてそんな事が云えるのか・・・二人とも、私から見ても、普段はあんなに仲が良さそうにしているのに・・・
なんとも、殊の外リリアが気にしていたのは、「市子と蓮也の仲」なのでした。
しかもそれは、リリアが記憶を失っているからなのかもしれない・・・
いや―――記憶を失う以前でも、実は、彼女と彼との関係は、どこか一線を引いていた感じでもあったのです。
それはどうしてなのか・・・その違和を拭うのには、やはり本人達から直接聞くに越したことはない・・・と、リリアがそう判断したからなのです。
そして―――市子の方も・・・
このまま、何の説明もせずにおけば、この後も執拗に、同じ質問がなされるだろうと思い、自分達の事について、ようやく語る気になったのでした。
市:仕方がありません・・・私も、なるべくは、この事には触れたくはなかったのですが―――・・・
リ:あ・・・ごめんなさい―――
市:いえ・・・。
それに、リリアさんには、私達の「家」の事は、関係ありませんからね。
リ:え・・・「家」―――?
市:そうです・・・。
それには先ず、リリアさんには、この国・・・「常磐」の歴史について、ある程度理解をして頂きたいのです。
「私達が生まれた国・・・「常磐」は、現在に至るまで、二つの大きな「内乱」を経てきました。」
「そして、最終的に起こされ、現在の国の体制に、大きな影響を与えたのが、「関ヶ原騒乱」と云います。」
「ですが―――・・・歴史を紐解いてみれば、この「関ヶ原騒乱」が起こされた、そもそもの原因も、
その因を辿れば、「最初の大乱」とも呼ばれている、「応仁の乱」が、引き金となっているのです。」
彼女達の「家」の確執は、実際には、今に始まった事ではありませんでした。
2500年もの前、この国全土を巻き込んだ、「最初の大乱」こそが、そもそもの原因―――
と、宛ら市子の口調は、歴史を紐解いていく「講談師」にも似たり―――だったのです。
そして、そこでリリアは、今まで知らなかった、この国の歴史の事―――彼女達の家柄に関しての出来事を、知って行くこととなるのです。
=続く=