第百六十六話;彼女達の一番長い日
大江山の鬼―――朱天童子を退治すべく、山全体に張り巡らされたセキュリティ・システムを沈黙させる為、
その付近で、大江山のマザー・コンピュータに干渉しようとしている、「サラスヴァティ」目掛け、
茨木童子・前鬼・後鬼・・・そして、新たな鬼達を加えた迎撃部隊が、襲いかかろうとしていました。
そしてまた、それを阻止しようと、有志の者達が鬼達の迎撃に当たり、
ここに、闘いの火蓋は斬って落とされたのでした。
それぞれの増員により、戦火は拡大―――また戦力も互角となり、激戦ともなってきました。
それに、この闘いには、「時間制限」が設けられていました―――
ジゼルが、大江山のマザー・コンピュータにハッキングをし、自らが開発したウイルス・ソフトを注入することにより、
システム自体を沈黙させる時間―――それが、凡そ5分・・・
それまでジゼルを護れるかどうかが、この闘いの要点ともなって来たのです。
ですが・・・この時、思いも寄らなかった事態が―――
それと云うのも、あと20%で、ウイルスの感染が完了しようとしていた時―――・・・
ジ:(!)・・・どうして―――
ミ:どうしたの、ジゼル・・・もしかして、失敗をしたの―――?
ジ:・・・いえ、感染は順調なはずなのですが、なぜか―――セキュリティ・システムが沈黙をしてしまいました。
それにしても・・・なぜ・・・どうして・・・あと20%で、ウイルスに感染していたと云うのに。
大江山のマザー・コンピュータが、ジゼルの作成したウイルス・ソフトに感染するまで、あと20%を切った処で、
なぜか、大江山を覆っていたバリアが消失してしまった事を、ジゼルは不思議に思ったのでした。
けれどそれは、マザー・コンピュータが、ウイルスに感染したと「みなし」、沈黙をしてしまったのでは―――と、ミリヤは思うのでしたが、
ジゼルにしてみれば、その条件だけでは、こうはならないと説明をしたのです。
それに・・・こちらの人物も、この事態を重く見ていました。
そう・・・大江山の中央管制室を爆破し、同じく、バリア・セキュリティ・システムを無効化しようとしていた・・・
フ:(・・・おかしい―――まだ、爆破のスイッチを押していないと云うのに・・・何が起こっているの?)
自身が持っている、爆弾のスイッチを押すまでもなく、システムが無効化してしまった事を、フランソワは直感しました。
しかし、そう―――・・・
つまりそこには、ウイルスによって感染されたコンピュータもなく、また、爆発物によって、破壊されたシステムもなかった・・・
けれども、現実としてそこにあったのは、無効化されたセキュリティ・システム・・・ただ、それだけがあったのです。
ではなぜ、そう云う事態になってしまったのか―――
ただ一人、ユリアだけは、その原因が判っているようなのでした。
ユ:(そう・・・あの「彼」が、直接動く―――こう云う事だったのですね・・・。
確かに、こうすれば、事象そのものに干渉するわけではない―――それに、「彼」の顕現からすれば・・・)
こうした離れ業を、やってのけれる人物が、この地球に来ている事を、ユリアは知っていました。
誰彼に知られることなく、その場に居続ける事が出来る能力―――「ユビキタス」・・・
(誤解を招かない為に一つ・・・ここに記した能力は、「ユビキタス」が可能とする、「能力」の一部であり、安易に、その事のみが、「ユビキタス」であるとは、思ってはならない。)
そして同じ頃・・・大江山の、中央管制室では―――
ポ:いやぁ・・・悪いね、ちょっと茶目っ気を出させてもらったよ。
そして、お次は・・・
フフフ―――待っててね・・・すぐに、そちらに向かうよ・・・
あの、謎多き人物―――ポールが、自らの顕現を発揮し、大江山に仕掛けられていたセキュリティ・システムを沈黙させてしまった・・・
今まで、誰にも成し得る事の出来なかった事を、その人物は出来てしまった・・・
しかも、「誰がやったのか」さえ、不明確にさせる「おまけ」までつけて・・・
ですが、ポールの本当の目的は、また別の処にあった・・・
つまり、システムを沈黙させる事は、彼にしてみれば、「ほんのついで」にしか過ぎなかったのです。
では・・・ポールの、本当の目的とは―――・・・
その事を成し遂げる為、「彼」は一瞬にして、「彼女」の下へと跳んだのです。
そう・・・今は、何も出来なくて、小さくなって震えている、リリアの下へ―――・・・
ポ:―――やっ・・・お待たせ。
リ:(!)あなたは・・・
ここは危ないよ! あんな怖い化け物が・・・
ポ:大丈夫―――怖がらないで。
これから、あんな連中が、怖くならない「おまじない」をしてあげるから。
リ:・・・えっ? 「おまじない」―――?
ポ:そ!
ちょっと目を瞑っててね・・・すぐ終わるから・・・
大江山の鬼達は、邪魔者達を排除するために、「ディーヴァ」や「妖改方」の戦士達と、激しく火花を散らし合っていました。
その鬼達の爪牙は、幾度となく、彼らの指揮官に当たる、ミリヤやたまもを掠めたモノだったのです。
それは同じくして・・・リリアの下にも―――
そんな危険地帯であるにも拘らず、ポールは迷うことすらなく、リリアの下に駆け付けてくれた・・・
それは、彼女を護るため―――?
いえ・・・そうではなく、リリアに「おまじない」を掛けるため―――・・・
そして彼は、自分の右手の人差し指を、リリアの額の中央に近づけると・・・
そこから軽く突く様に、押したのです。
すると、リリアは力なく、その場に倒れ込んだ・・・と、前後して、今度は戦場に響く、一つの銃声―――
そんな状況下で、地面にうつ伏した友を見た市子は、すぐにこう思うしかありませんでした。
市:(・・・。)リリア―――さん・・・?
そ・・・そんな・・・リリアさん?!
何者かによって、暗殺されてしまったのは、リリア―――
けれど、そんな自分の想いが、間違いであって欲しいと、市子は願いました。
それに、この様子を見た、ミリヤやたまもも―――・・・
ミ:メイベル―――すぐさまユリアを確保! 色々と訊かなくてはならない事があります・・・。
た:しの―――すぐにリリアの死を検めるがよい! それにしてもユリア殿・・・お主、大それたことをしてくれたモノよの。
ミ:(・・・。)なぜ、この期に及んでも口を開こうとはしないのです。
まあ―――弁解をした処で、証拠は十分にある・・・あなたが超一流のプロに依頼をし、その標的である死体がある限りは・・・ね。
ですが―――ユリアは一言も喋らず、ただ・・・彼方を見つめていただけなのでした。
それも、既に死体となっている、リリアなのではなく―――大江山の頂上の方角を・・・
しかも、実に驚くべき事が、死体となっているリリアの様子を確かめていた、しのからなされ―――・・・
し:リリアさん・・・
・・・え? そ―――そんな!!
た:どうしたしの! リリアのヤツはどうなっておる! 状況だけを述べい!!
し:・・・ない―――傷なんてないよ・・・血なんて、流れていないんだよ!!
「そんな莫迦な―――」それが、しのの状況説明を聞いた者達の反応でした。
しかしながら、状況証拠だけは残されていた・・・
突然地面にうつ伏し、それが、遠隔射撃によるモノだと云う事は、数秒遅れで戦場に響いた銃声が、総てを物語っているのでした。
しかも、超一流のプロに依頼をしたと云う、事実までも握り、またその実行者を尋問している・・・
加えて、容疑を掛けられている人物は、これまで同様に黙秘を貫き続け、標的だと目されているリリアではなく、遙か見当違いの方向を見つめていた―――
・・・と、云う事は?
しのの状況説明が本当ならば、どうしてリリアは地面にうつ伏しているのか―――
そんな疑問を余所に、当の本人は―――・・・
リ:・・・ぅ―――・・・
し:(!)リ―――リリアさん?! 良かった・・・リリアさん、死んじゃいないよ。
意識を取り戻し始めたのか、呻き声を一つ上げるリリア・・・
その事で、リリアが死んでいるのではない事を伝えた、次の瞬間―――
リ:〜てってぇ・・・あんの、ゼンウのクソ野郎・・・今度あいつに会ったら、ただじゃ済まさねぇ・・・
し:リ―――リリアさんが・・・戻ったぁ!!
リ:あ゛? なんだ―――しのじゃないか・・・それにしても、ここはどこなんだあ〜?
以前までの記憶を失い、お淑やかで、しおらしかった時の口調とは違い、ちょっと乱暴で、どこか悪役が使うかのような、そんな荒いモノになっていた―――
いや・・・「戻って」いた・・・。
それに、その事によって、リリアの記憶が元に戻った事を、皆一様にして知るのでした。
=続く=