リリア達が、大江山の鬼の館に突入する、数分前―――
茨木童子を始めとする鬼達は、頭である朱天童子の采配を仰ぐ為、彼の下に参じたのでしたが・・・
既に朱天童子は、何者かによって殺害されていたのです。
第百六十八話;事件の真相
しかも、その手法も、陽を見るより明らか―――
そう・・・こめかみから流れ出る、彼の血―――
座台に巨躯を据え下ろし、肘掛に頬杖を突いている、その態のままで、彼は絶命をしていたのです。
しかし、鬼達には、納得がいかない・・・不思議な事でなりませんでした。
確かに、ただでさえ、堅牢な城塞のような「館」に、何者も侵入不可能な、最新のセキュリティ・システムを導入し、
弓や矢・・・況してや、銃などと云う、飛び道具が通用するはずがない―――
だからこそ、多寡を括っていたのに・・・
けれども、そこに遺された痕は、「そう」だと云わざるを得ないほど、明瞭だったのです。
では、一体誰が・・・どのようにして―――
それは、朱天童子死亡より、遡る事5分前・・・
大江山の近くにある、山の中腹―――とは行っても、「館」からは、5kmは離れている場所にて、
その者は、大江山を張り巡らしている、バリアが消失する機を、今や遅しと待ちかまえていました。
(「大江山を張り巡らしている、バリアが消失する機」―――つまり「彼女」は、自分が金で雇った者をして、システム自体に大きな影響を与えようとしていたのです。
爆弾を仕掛け、その混乱に乗じて、必殺の一弾を撃ち込む手筈・・・だったのでしたが―――)
ですが、爆発が起こる以前に、なぜかシステムが沈黙してしまい、バリアは消失してしまった・・・
その事を、当初は戸惑っていたモノでしたが、この機を逃しては、二度と好機は巡って来ないモノと、すぐさま頭を切り替え、
「彼女」は・・・深呼吸を一つして、精神を集中させると―――相棒である銃の引き金を引き絞り・・・必殺の弾丸を放ったのです。
するとその弾丸は―――火薬による推進力は、最初の頃にはあったけれども、なぜか、地球の重力・引力に敗けることなく、距離を稼ぎ続け、
しかも、あろうことか、前に立ち塞がる障害物を寸での処で躱し、やがては目的の場所―――シュトゥエルニダルフのこめかみを、貫くに至った・・・
こんな・・・物理的法則に逆らう様な事が、どうして―――・・・
けれど、それこそが、不可能を可能にした、「彼女」の固有能力―――「魔弾の射手」なのです。
(この能力のカラクリについては、後述させてもらうことにして・・・)
それにしても、こんな離れ業をやってのけるのには、尋常ではない集中力が、必要なのでした。
そう・・・標的を射抜く為だけの―――「集中力」・・・
しかし、その「瞬間」は、周囲にまで注意が行き届かなくなるのは、否めない事でもあったのです。
つまり・・・その場所には、「彼女」―――「ピース・メイカー」と、あともう一人・・・
だとしたら、「誰」―――?
あの、優れた感知能力・・・「月詠」を持つミリヤでさえ、「ピース・メイカー」の居場所を、特定できずにいたと云うのに・・・
それに、ミリヤには判らなかったからこそ、狙撃地点が割り出せず、「ピース・メイカー」の周囲には、人員を割く事が出来なかったのに・・・
なのに・・・なぜ・・・その人物は、「ピース・メイカー」が、この場所から、シュトゥエルニダルフを狙撃することが判ったのか・・・
それは―――・・・
ヘ:依頼は・・・遂行したようね―――
フ:(・・・。)あなたには、判っていたようね―――ヘレン・・・
自分の得物である、銃の撃鉄を起こし、フランソワの後頭部に、銃口を押し当てるヘレン・・・
そう―――ヘレンだけは、フランソワが、この地点から狙撃を行うモノと、そう確信をしていたのです。
それにしても・・・どうして―――・・・
ヘ:ええ―――判っていたわ・・・
なんたって、私とあんたは、同じ釜の飯を食った仲―――なんだものね・・・。
そう・・・この二人は、互いの事を、好く知っていました。
しかしそれは、現在の彼女達の“表”の職業―――「グレゴール修道会の修道女」・・・ではなく、
それ以前からの知りあい―――
あれは、現在から700年も前、彼女達は、「宇宙連邦軍」の一部隊で、初顔合わせをしていました。
(その当時のヘレンの階級は、「伍長」―――片や、フランソワの方は、「UP」から転身して来た「曹長」・・・)
それが、何の因縁か―――数日前に、地球の玄関口である、「月の裏側」で、ばったりと出くわしてしまった・・・
それにヘレンは、フランソワが、どうやって生計を立てているか、知っていたのです。
そう・・・彼女―――フランソワ=エヴァ=ベアトリーチェこそが、「ピース・メイカー」であると云う事実を・・・
だからヘレンは、フランソワの狙撃地点を割り出す事ができ、そこで待ち伏せていたのです。
・・・が―――
ヘ:(!!)くっ―――!
フ:形勢は、逆転の様ね・・・。
それにしても、「らしく」ないわね。
私が知っている「あなた」なら、声を掛けずに始末したモノを・・・。
「何か」・・・高速で回転する「何か」―――が、彼方である大江山より「戻って」きた・・・
しかし、そう・・・その「何か」とは、先程、フランソワがシュトゥエルニダルフを仕留める為に、放った「弾丸」―――そのもの・・・
でも―――常識的な物理法則ならば、遠くの彼方に取って行ったモノは、元には戻って来ないはず・・・
そう―――「何も仕掛けがなければ」・・・
つまり、「弾丸」には、予め「何かの仕掛け」があるからこそ、またフランソワの手元に戻ってきたわけだし、
数々の障害物を避け、標的を射抜く事も出来たわけなのです。
では、気になるのは、その「仕掛け」のことなのですが―――・・・
それよりも、立場が逆転してしまい、一転して危うくなったヘレンは・・・
ヘ:―――フフッ・・・ついていないわね・・・。
思えば、ここの宇宙港で、あんたを見かけたときから・・・
いや―――もっと昔に、軍で一緒になった時から、私の運も尽きていたのよね・・・。
ヘレンは―――地球の宇宙港「月の裏側」で、準備のために、一旦自分の住んでいる惑星へ戻ろうとしているフランソワを見かけていました。
そして直感で―――現在では、「超一流のプロ」として名の通っているフランソワが、何の目的で地球入りしたのか気になり、
ヘレン独自のルートで、今回のフランソワの標的の事を知り得ると、単独で行動を起こそうとしたのです。
しかし、あと少しの処で隙を衝かれてしまい、今では、ヘレンの身の上が危うくなっていたのです。
ですが―――・・・
ヘ:(!!)どうしたの・・・フランソワ―――どうして私を・・・!
フ:今回―――依頼の邪魔をする者の排除に関しては、内容には盛り込まれていないわ。
それに・・・今回のあなたは、任務から外されている―――そんな者を除いた処で、私の能力の浪費になるだけだわ。
それだけを云うと、女は―――木々が発する靄や霧と共に、姿を眩ませたのです。
そして、「ディーヴァ」達も、自分達の惑星に戻る為、「月の裏側」に来た時・・・
既に戻っているモノと思われたヘレンの姿を見て―――・・・
マ:あ・・・ヘレン―――ヘレンじゃないの!
どうしたの、あなた・・・こんな処で―――
ヘ:(・・・。)私が、こんな処で何してようが、あんたたちには関係のない事でしょ―――
それに、ジゼル―――
ジ:ふひやい?!
ヘ:あんた、何、私の顔をジロジロと見てんのよ―――文句があるなら、口に出して云いな!
ジ:ひえぇ〜ん―――誤解ですぅ〜!
ヘレンさんこそ、どうして私にだけ、そんなに辛く当たるんですか〜〜!
ヘ:フンッ―――! あんたの顔が、気に入らないからよ!
ジ:や・・・八つ当たりぃ〜〜!
マ:止めなさい―――ヘレン・・・みっともない。
どうして未だに、ヘレンが地球にいるのか―――マリア達、他の「ディーヴァ」には、知る由も有りませんでしたが、
チームのトラブルメーカーが起こす騒動に、まとめ役のミリヤにしてみれば、頭が痛かった事のようです。
しかも―――・・・
ヘ:ええい―――くんなろ〜!
ジ:痛ったぁ〜い・・・ミリヤ様〜―――
マ:あっ・・・なんてひどい事をするの―――
ヘレン、何もジゼルを殴ることなんてないじゃない。
ヘ:るっさいわね〜〜むしゃくしゃしてんだから、仕方がないでしょ!!
マ:(ヂャイアンかい! おまいは!!)
ミ:ヤレヤレ・・・仕様のない人ね、ヘレン―――
でも、今回は私達も、割りを食った方なのよ。
未だ、腹の虫の収まらないヘレンは、定期航路便の座席についても、前の座席に座っているジゼルにちょっかいを掛けたり―――など、迷惑の掛け放題だったのです。
そこでミリヤは、今回割を食ったのは、ヘレンだけではないとし―――自分達も、ユリアによって辛酸を嘗めさせられたのだと、説明をしたのでした。
そして、自分達に共通するモノと云えば―――・・・
ミ:恐らくは・・・「ピース・メイカー」の仕業・・・。
あんな芸当ができる者を、私は他には知りません・・・。
けれど、誰がその現場を押さえたと云うの―――?
彼女の一番近くにいた、ヘレンでさえ、この様だと云うのに・・・
「ピース・メイカー」・・・「平和の使者」だと、誰かが云う―――
しかし、その「名」とは裏腹に、彼の者が齎すのは、「死の便り」だとさえ云われているのです。
しかも、彼の者が「超一流」だとする所以は、その鮮やか過ぎる手並みも然ることながら―――
どちらかと云えば、事後の処理のクリーンさ・・・つまり、中々、足を付かせない処にあったのです。
だからこそ、その事を知っていたユリアは、狙撃の依頼をし―――彼の者は、それに応えた・・・
けれども、「ディーヴァ」は、「ディーヴァ」の仕事を、させて貰えなかった・・・
一見して、無敵の集団と思われている「ディーヴァ」ですが、こうして見れば、付け入る隙がある―――・・・
その事を知らしめた、良くも悪くも、一つの事例でもあったのです。
=続く=