我々が住む―――蒼き水の惑星・・・「地球」。
それを、自分の目と鼻の先で見てきた事の、感動の余韻そのままに・・・リリアは空中庭園から戻ってきました。
第十七話;感動の余韻の内に
そして―――いつもと変わらぬ光景・・・
本当に・・・つい先ほど見納めた「美しいモノ」が―――
今ここにこうして在る―――
それは―――奇蹟・・・
そして、自分がその美しい惑星に、生を受けたことも、また奇蹟―――・・・
今まで、自分が悩み迷っていた事などは、この惑星の美しさからすれば、本当にちっぽけな事―――
世の中には、全くもって凄い事があるものだ―――
それまでは、そんな事にすら関心を抱かなかった自分でさえ、この「地球」の虜となるのだから・・・
今―――リリアの内では「大変革」が訪れていました。
今までは、長年「面倒臭い事」と割り切っていた、次代のオデッセイアの君主となる事を、早急に・・・それも自分自身の判断で決めなくてはならない―――
確かに・・・国一つを治める事は、生易しい事ではない・・・
それは、自分の父を見ていても判っていたことだったし、それでも敢えてその決断に至ったと云うのは、
もうそんな事で悩み迷うのは、雄大且つ壮大な地球を見た後のリリアにとっては、悩み迷う対象ではなくなってきたことを示してもいたのです。
その代わりとして、今のリリアの頭の中にあったのは―――・・・
リ:・・・なあ―――どのくらいの時間をもらえる・・・。
ジ:えっ? なにがだい。
リ:その・・・さ―――私が・・・エクステナーを一つにするのに・・・だよ。
ジ:ふぅん―――けれど、確か君は「面倒臭がり屋」じゃなかったかな。
リ:その事はもういい・・・あんなモノを見させられて、変わらない方が可笑しいよ―――
「なるほど・・・彼の報告の通りだ―――良く見ている・・・。」
「けれど、あと一息―――」
空中庭園に上がる前と後とでは、はっきりとその主義・意識を違わせてきているリリアを見て、ジョカリーヌは内心悦びました。
けれど、決して両手放しで―――と、云う事ではなかったのです。
ようやくここにまで漕ぎ着ける事が出来た―――
パライソ・・・いや、ガルバディアを中心にして、「西」と「東」は安定してきた―――
それも・・・ジョカリーヌの「友人」の、多大なる功績のお陰で―――
あとは・・・「北」と「南」―――
その内の、「南」のエクステナー大陸を、全面的に任せられるだけの人物を、ジョカリーヌは求めていたのです。
けれども、嬉しさ余って勇み足を踏んでしまっては、これまでの努力が水泡に帰する畏れもなくはない為、
ジョカリーヌは慎重に・・・それも、度が過ぎると云ってもいいくらいの慎重さをもって、最後にリリアを試してみるのです。
ジ:フフフ―――そうか・・・どうやら君も、この地球の美しさに心を奪われ、私の理想に力を貸してくれると云うのだね・・・。
・・・けれど―――あの人の事はどうするんだい。
リ:は? 「あの人」―――?
ジ:確か・・・君には、一人の「親友」と呼べる幼馴染がいたよね―――
君の国、オデッセイアの隣りにある「サライ国」の女王・・・ソフィア=エル=ホメロス―――
彼女の事は、どうするのかな―――・・・
その大陸を一つに纏めると云う事は・・・自分の国以外の他の国を排除―――つまりは版図に加えなければならない・・・
それに、国の領土を拡げる為の戦争を起こすと云うのは、その為に斃れて逝った者達の怨みも、同時に背負い込まなければならない・・・
そのことは、やもすると国を治める事よりも、重責かもしれない・・・
それでも協力をしてくれると云うのならば―――・・・
ジョカリーヌは、今リリアに投げかけたモノと同じ趣旨の質問を、これまでにも幾百・幾千人にしてきました。
けれど結局―――ジョカリーヌの、危険を臭わせるかのような言葉の魔力に負け、それまでの者全員がここで脱落をしてしまっていたのです。
遙かなる理想を追い求めるのには、或る意味潔癖なままでは務まらない―――
半ば穢れを識る事で、華やかなる事の裏側に、隠されたる辛みも分かち合わなければならない―――
そのことを、ジョカリーヌはこれから自分に協力をしてくれる人物に説こうとしていたのです。
しかし・・・そんなジョカリーヌの心情を、知ってか知らずか―――リリアは・・・
リ:ああ―――そのことなら・・・大丈夫。
あいつは根っからの「お嬢様」だからな、だから・・・この私がやろうとしている事に気付きもしないさ。
但し―――気付いた時には・・・もう手遅れ〜ってなことになってるかもなw
なにか・・・余程いい企み事でも思いついたのか―――
そこには、どこか大胆不敵な発言をする、次代のオデッセイア国王の姿があったのです。
しかも―――この時、丁度お誂え向きに・・・
ジ:―――どうした・・・
使:はい・・・先頃、戦端が拓かれておりましたアンカレスが―――大人しくなった模様にございます・・・
リ:何・・・アンカレス―――私の国の地名だ! それで?
使:・・・この方は―――?
ジ:ああ・・・紹介しておこう、この人はオデッセイアの姫君―――リリア=デイジィ=ナグゾスサール・・・
そして彼は―――私の知人の部下であるベェンダーだ。
べ:オデッセイアの―――・・・
リ:それより―――! アンカレスの連中は無事なのか??
べ:ええ、恐らくは・・・と、云いますのも、攻め手であったはずの兵力―――約5,000が、自分達の拠点を陥落とされて、散り散りになって行くのを視認していましたから・・・。
リ:な・・・ええ〜っ? あの・・・プロメテウスの連中を―――蹴散らしたのか??
ジ:だから―――云っただろう、心配するほどの事でもなかったんだよ。
それにしても―――おかしいねぇ・・・終わったと云うのなら、帰ってきてもいいはずなんだけれど・・・
あの二人が帰ってきたという報告は、まだ私の耳には届いていない―――
べ:ああ―――それに関しましては・・・あの辺りを観光するとか・・・しない・・・だとか―――そう云う事を小耳にはさみました。
恐らくは、早く帰り過ぎても、する事がないからでしょう。
ジ:フフフ―――全く・・・悪い子たちだ、一体誰に似たのやら・・・
あとできつぅ〜いお灸を用意しておくべきだろうね―――
ジョカリーヌとリリアが空中庭園から戻ってきたのを見計らったかのように、一人の巨漢が待ち構え、ジョカリーヌにある報告をしてきました。
その巨漢こそベェンダー・・・その姿は、ここ数年来変わらず―――の、あの「ビューネイ」のモノだったのですが・・・
それより、その彼が齎した一報こそ、リリアの国―――オデッセイアの北端の地・・・アンカレスで拓かれていた戦役の経緯についてのことだったのです。
そしてその地名には、やはり同時期に、ジョカリーヌが軍事面において一番信頼を置いている例の二人を派遣しており、
以前ジョカリーヌがリリアに云っていたように、「心配しなくてもいい」―――・・・その言葉通りに、
自分達が地球と宇宙を行き来している間に、済ませられてきた事を知ったのです。
ところが―――・・・
もう用は済んでしまったのだから、早く帰ってくればいいものを・・・今にして、未だに帰ってきていない理由を密告者から聞き、
皮肉のこもった口調で・・・更に笑みまで湛えて、彼女達の処遇を考えていたのです。
しかし―――・・・実は、ベェンダーの齎した報告は、こればかりではなく・・・
べ:―――それは宜しいのですが・・・
ジ:・・・判っている―――恐らく私でもそうしただろう・・・。
この時、同時にベンダーが齎した報告に、リリアは息を呑みました。
それと云うのが・・・「プロメテウスのサライ侵攻」―――
それに、ベェンダーが分析するのも、この度のアンカレスは様子見で、本命はサライの方ではないか・・・と、していたのです。
しかも、その事を伺わせられるほどの大遠征軍を組んでおり、ほぼ主力が投入されているとの見方も強かったのです。
そんな事態を聞かされると、リリアは居ても立ってもいられなくなり―――・・・
ジ:―――待ちなさい、どこへ行く・・・
リ:―――もう・・・止めたって無駄だよ。
私には・・・征くべき処があるから―――
ジ:私の話しは、最後まで聞きなさい―――それに、君を帰さない・・・と、私は一言も発してはいない。
リ:―――それじゃ・・・
ジ:帰るといい―――君の国へ・・・そして、君の思うがままに動くといい。
但し―――動くからには、自分の意志と責任を明確にしてからにしなさい。
それから、そう云う事をする以上、これ以後オデッセイアはパライソと対等と判断し、我が国の将士一兵たりとも関与する事を禁ずるものとする。
リ:フッ・・・上等―――奴らの相手をすると云うのなら、それくらいの覚悟を決めてかからないといけないからね・・・
ジ:・・・その意気だ―――
ベェンダー、彼女をオデッセイアまで送って差し上げなさい・・・それと―――判っているね・・・
自分の国オデッセイアと親交のある国―――サライがプロメテウスの侵攻の脅威に晒されていると聞くや否や、リリアは気を急いて戻ろうとしていました。
その事でジョカリーヌから注意と指導を受け、これより以後、リリア自身の意志と判断で責任を持った行動をすると云うのならば、
パライソ国はオデッセイア国と対等な立場で交流をするという、異例の取り決めを交わしたのです。
而してその裏には、対等とみなす以上―――余計な加勢は無用と判断してはいたのですが・・・
実はそこには、大きな「含み」が存在していたのです。
=続く=