その場所は、元は「花の御所」と呼ばれ、往時には、その建物の絢爛豪華さや、街並みの華やかさを喩えて、「華の都」と呼ばれていました。
第百七十一話;帝との交渉
そして、その「御所」に住まう方々も、この国―――「常磐」の皇族の方々であり、総じてその場所は、「皇居」とも云われていたのでした。
けれど、長く続いた戦乱によって、嘗て「華の都」と讃えられたその場所は荒廃果て、
現在、常磐に君臨しているはずの「帝」も、肋屋同然の住まいでは心許ないだろうと、宛らにして思われたのです。
けれど・・・これだけはしておかなければならない―――
現在となっては、嘗て常磐を二分した「戦乱」も休息状態となり、「終息」させる実権も失くしてしまった・・・
その「戦乱」を引き起こした両軍の総大将筋の家柄、その「二家」を、最近になって継いだ二人が、共に歩み寄り、
この無益だった「戦乱」を終息すると云う宣言を、常磐の帝の御前でする為、花の御所を訪っていたのです。
而して、「細川家」と「千極家」の当主となった二人は、恭しく現在の帝に伏礼し・・・
市:私共は、双方が歩み寄り、論を重ねた結果、ここに応仁の乱の終息宣言を致したく、罷り越しました・・・
蓮:つきましては、陛下にはこれまでのご迷惑を謝すと共に、民心に平安を齎して貰うよう、公布を―――「勅」を発して頂きたく、
こうしてお頼み申しあげておる次第でございまする。
現・細川宗家惣領―――細川市子と、現・千極家当主―――千極蓮也は、
自分達よりも先々々代の先祖が、自分達の身の栄達と、保身を兼ねるだけの、「大義の莫い戦」を引き起こしたことを、
現・帝の御前で、奏上・・・謝罪をしました。
けれどそれは、市子や蓮也―――果ては、現・帝にしてみれば、関係のない事。
でも、そのことを「する」か「しない」かだけでも、民草の心は安んぜられるものと判断した、ある人物の思惑でもあったのです。
そして、その人物も・・・二人の供として、現在の宮中に参内をしていたのでした。
しかし・・・それにしても、これまでにいくつもの難関が、自分達の前に立ちはだかったモノだった・・・
その人物は、宛らにして、そう思ったモノでした。
それと云うのも、市子が細川の惣領となる時分に、何かしらの障害が発生したようで・・・
その、そもそもの原因が、これまでに惣領になる事を渋っていた市子が、この時期になって急に主張を変えた事―――・・・
臣:今更になって、その様な事を仰せとは・・・少々虫が好すぎるのではござらぬか。
臣:然様―――そなたも、所詮は名家の権力欲しさに、変心したのであろう!
臣:それみたことか―――ならば、何も意地を張り通す所以など、なかったのでござる!!
口々に囃し立て、罵る、旧・細川宗家の家臣達・・・
「ああ・・・だからこそ、私は、この者達の上には、立ちたくなどなかったのに・・・」
口にこそはしませんでしたが、市子が判断を鈍らせていた根本が、そこにはありました。
過去の失敗を教訓とはせず、省みない者達・・・虚栄心だけが育ち、忠義の欠片もなくなった者達・・・
そこの処を知っていたからこそ、今まで市子は、細川の惣領となる事を拒み続けてきたのです。
では、なぜ―――そんな市子が、このような批判に晒されると判っておきながら、細川宗家を継ごうとしたのか・・・
その原因の一つが、市子の好き好敵手にして、最大の理解者―――・・・
リ:うるせぇ! このごんたくれ共が・・・うだうだ抜かす奴ぁ、この私が成敗してやるぜ!!
当初市子は、この交渉は難航するだろうと思っていました。
それはそうでしょう―――今まで渋っていた事を、今になって、掌を返すかのような事を、しようとしているのだから・・・
けれど、そんな市子の心配を余所に、第一にこの提案をしてきた、市子の友―――リリアは・・・
「だったら、私とたまが、一緒について行ってやる。」
その弁は、市子に強い安心感を与えると共に、また同時に、強い不安感を与えてもいたモノでした。
そして「今」は―――その「最も強い不安」が、顔を覗かせた瞬間・・・
口々に、自分の友を悪し様に云う、有象無象共に、終に業を煮やしたリリアが、
鬼どもを退散させた時のような形相で、旧・細川宗家の家臣達を睨みつけ、一時場は、凍りついてしまったのです。
しかし、そこで―――・・・
た:それをしても構わんが〜市子殿の事を考えんか。
それに各々方―――あれだけ拒んでおった市子殿が、なぜ今になって・・・
その事について、不思議に思いませんかな。
まあ―――そもそもじゃな・・・先頃まで、市子殿の決意とは、揺るぎのないモノじゃった。
今までの様に、頑なに、「細川の惣領とはならぬ―――」この一点張りじゃったのを、それがなぜ・・・なのか、
その大元の原因が、こちらにおはす―――・・・
「常磐」は、南の大陸―――エクステナー大陸を構成する、一地域に過ぎぬ・・・
その、南の大陸にある、数多の地域の意見を掬いあげ、この大陸を統一しておる「テラ国」の女王陛下に奏上申し上げる役割を持つ、「評議員様」なのじゃ。
ま・・・口の悪さは、ついておる「おまけ」の様なものじゃが・・・な。
市子の背後に控え、事の成り行きを見守っている―――「家来」・・・かと思っていたら、寧ろそちらの方が、「大物」だった・・・
そして、一緒にいる「たまも」なる女児からの説明で、なぜ今の時期になって、市子が細川の惣領になろうとしていたかの意図を知るに至り、
ようやく、先程まで口しか口にしてこなかった家臣達は、皆、平伏したモノだったのです。
これで、第一段階目は済んだ―――モノと思いきや、それからのリリアは憤懣やるかたなく、
強い者には媚び諂う者達の事を、悪し様に云い立てたりもしたのです。
リ:〜ったく・・・なんか市子が、嫌がってたのが判った気がするよ。
それについちゃ、悪い事をしちまったな・・・。
市:いえ・・・でも、リリアさんの云っている事も、判る気がするのです。
それに・・・不幸な事に、私は細川の家に産まれて来てしまった―――
先人達の行いとは云え、その家に生まれてきたからには、私にもそれなりの責務があると云うモノです。
リ:市子は偉いなぁ〜私とは段違だ・・・
た:まぁ、確かにのw
だがの、リリアよ―――その市子殿を以てしても、応仁の終息の事までは及びもつかなんだ・・・
そこを考えると、お主もまた、大したものじゃよ。
リ:な・・・なんだよ〜〜て、照れるじゃんかよ!!
お―――お前のふわふわの頭、くしゃくしゃにしてやんぞ!
た:や―――やめんか!こん莫迦ちんが!!
折角整えておると云うのに・・・
リ:う・・・うう〜〜・・・。
で、でもなあ―――お前の頭を見てると、もふもふしたくて我慢できねぇんだよ・・・
た:(・・・。)ヤレヤレ、仕方のない―――じゃが、今は抑えい。
あとで好きなだけ、触らせてやるから・・・
リ:へえ? ふんとに〜?! ひゃっほい―――!♪
白くして、それが時折、光の加減にて「銀」にも見える、たまもの頭髪―――
しかも、狐の毛皮の様に手触りが好く・・・そんな、自分にはないモノを、リリアは愛でるのが好きでした。
(けれど、リリアがたまもの事を気に入っているのは、「それ」だけではないのですが・・・)
ともあれ、「計画」の第一段階目は、終了―――
あと残るは、この常磐の頂点に君臨する、「帝」を説得できるか・・・に、あるのですが―――
そこでまた、新たな問題が、発生しつつあるのでした。
=続く=