今上の帝に伏礼をし、永き間続いた戦乱の終息宣言をする二人―――
元々は、その二人が引き起こした戦乱ではありませんでしたが、
「誰か」が「いつか」は、「けじめ」を付けなければならないと感じた、「南」の意思を纏める役目の人物から諭され、
現在、その戦乱―――「応仁の乱」の、東西両軍の総大将である、細川市子と千極蓮也により、一つの「けじめ」がつけられようとしていたのです。
しかし―――・・・
貴:ふん―――今更何を・・・
そもそも、そちらの先祖が争い合わねば、麻呂達も害を被る事などなかったのでおじゃる。
貴:いかにも―――
それを、その様な安い頭を下げて、赦しを乞うなぞとは・・・まさに、厚顔無恥とはこのことぞ!
貴:申し上げまするぞ、陛下―――
この者達は、元は陛下の家来だった者達・・・それが、何時しかの恩義を忘れ、陛下を蔑にし、
陛下をこのような棘宮に押し込めた、張本人に等しき者・・・故に、赦されてはなりません―――騙されてはなりませんぞ・・・
今上の帝は、簾の向こうで、どんな表情で二人からの奏上を聞いていたのか・・・その事は、伺い知ることはできませんでしたが、
帝の取り巻きである貴族達は、市子や蓮也を、悪し様に云いたい放題・・・
それに元々、「応仁の乱」の起因ともなったのは、当時の細川・山名両家の権力争いも、そうだったのですが・・・
実は、彼ら、宮中の貴族達の間でも、醜い争いがあり、そうした二種の争いが、一つに要約され・・・
終には、常磐を二分してしまう、大戦乱に陥ってしまったのです。
そう・・・つまりは、彼ら(の先祖)も、強ち関係がないわけではないのに、市子や蓮也のみを罵倒するのは、筋違いだとも思えるのですが・・・
そこを、市子と蓮也は、耐えました―――・・・
彼らの様な、自分の忠義を尽くすに値しない連中だと割り切れていたから・・・
自分の信義や、忠義を尽くすべき人物は、他にいる―――その事を、知っていたから・・・
けれど、この人物にして見れは、別―――
実に素直で、自分の友が、批難の矢面に立っているのを、我慢できない人だから・・・
リ:ん゛〜のぉ・・・云いたい放題云ってくれやがって―――
おい! お前ぇ・・・な、なにしやがる!!
た:お主一人が憤慨した処で、どうにもならん・・・
―――に、しても、相変わらずじゃの・・・宮中は。
市子や蓮也が伏したままなので、その家来と見られていたリリアも、そうしていたモノなのですが―――
自分達(の先祖)の事を棚に上げ、一方の原因ともなった、細川・千極の両家の事を悪く云い立てる有り様に、
完全に頭に来ていたリリアは、また「あの時」同様・・・市子が、細川宗家を継ぐ際に行った手に倣って、怒鳴り声を一つ上げようとした時・・・
隣りにいた、たまもが、何かを云い掛けようとしていたリリアの頭を押さえつけ、中断させてしまったのです。
それにしても・・・「家来」「従者」の一人であると目されていた、「白髪の女児」が、「古今変わらじ・・・」と、云うのは、果たして―――
た:今上の君に申し上げる―――
わしも、今はこのような姿なれど、昨今の宮中の「儀礼」「典礼」「習慣」から、厠の煤の位置まで通じていると、自負しております。
それに・・・な、わしも、2800年前の宮中にて、権力の中枢を握っておったが故、おいたが過ぎて追われてしまう始末でしての・・・
貴:なに? 2800年前??
貴:なにを莫迦げたことを・・・麻呂達をからかうのは、よすでおじゃる!!
貴:いや・・・しかし―――確か、2800年前には・・・
普段以上に穏やかにしている・・・けれど、その実は、リリア以上に憤慨していた「白髪の女児」は、
嘗ての自分が、乱れた宮中の風紀の中心にいた経緯を語り、今上の帝の取り巻き貴族達を、不審がらセたモノだったのです。
ですが・・・確かに、2800年ほど前、宮中を恐怖の底に陥れた「側室」がいた事を、彼らは知っていました・・
そして、その「側室」は、義憤により立ち上がった若武者の追儺により、宮中より追い払われた・・・
けれどそれは、大昔の出来事の事だったのです。
ですから、それが・・・この現在に、「現実」のモノとなって、現れ出ようとは―――・・・
第百七十二話;夢・幻の如く也
玉:ほ・ほ・ほ・ほ―――実にも、僥倖とはこのことよ・・・
わし一人に罪を被せ、都から追い出した当時の愚者の愚息共よ! わしの積年の怨みがいかほどのモノか・・・思い知るがよい。
貴:ぬ・・・ぬほっ?! お―――お主は・・・もしや「玉藻前」?!
貴:な―――なんと??! で・・では、あの・・・?!!
貴:ひ・・・ひょええ〜〜〜お、お助けを!!
玉:ふ・ふ・ふ―――いかにも、わしは玉藻前じゃ・・・
そして、こうなる時を、どんなにか待ち焦がれていた事か・・・
さて・・・わしの怨み、存分に晴らさせてもらうとしようぞ・・・
貴:た・・・たれかある〜〜! で―――出会え〜出会え〜〜!!
玉:ふん・・・雑魚共は、こ奴らが相手してくれるわ―――
ぬぅん! 『オン・ダキニ・ササハラキャンテイ・ソワカ』――=跋扈陣=――
「我がダキニの神よ、畏れ敬い奉り申し上げる」
その文言と共に出現したのは、「土蜘蛛」や「蛟」等の、妖魎の類・・・
それが、宮中の警護に当たっている「検非違使」を相手にして、玉藻前の悲願成就を手助けしていたのです。
そして、ここに来て自分達の命運尽きたるを覚り始めた貴族達は、
先程まで批難を浴びせ続けてきた、市子や蓮也に、助けを求め始め―――・・・
貴:た―――助けよ! 麻呂達を助けるのでおじゃる!
蓮:―――・・・。
市:―――・・・。
貴:ぃひいい! は―――早うせぬか!!
ま、麻呂達が死んでもいいのでおじゃるか?! 麻呂達が死ねば、たれがお主らの事を・・・
蓮:・・・醜い―――
貴:は? へ??
蓮:実に、醜い―――そう申し上げておるのでござる。
それに、拙者達には、お主らに忠義を尽くす義理などあり申さん。
貴:そ・・そんな事を云わずに〜〜!
そ―――そうじゃ、特例じゃ! 特例を発せようではないか!!
そち達が、玉藻前を討った暁には、そち達の云い分・・・聞き届けてやろうぞ!!
市:(情けない・・・)
しかし―――いかが致したものでしょう、蓮也さん・・・。
蓮:ぜひにも及びますまい、我ら当初の目的は、そちらにおはす・・・
然らば、御免―――! ――=活殺無塵剣=――
蓮也が振るった豪剣一閃―――それによって、玉藻前以下、数多の妖魎は討ち払われることとなったのですが・・・
ところが―――
貴族達が、次に気が付いた時には、玉藻前が襲撃する以前の宮中の様子があっただけであり・・・
―――と、云う事は・・・?
貴:な―――なんじゃ・・・どうしたと云うのじゃ・・・
ま、麻呂達は、今まで何を・・・
蓮:先程致しました約定―――果たして頂きますぞ・・・
貴:ナニ? いや、しかし・・・あれは―――
(!!)そなたは―――?!
た:おや、夢から醒めたモノと見ゆる。
しかし、悠長なモノじゃな、大事な接見の場にて、夢見心地でいられるのじゃから・・・な。
貴:こ―――こやつ・・・玉藻前ぞ! たれかある―――たれかある〜〜!!
リ:玉藻前? なんだ―――それ・・・
貴:し、知らぬのか?! 2800年ほど前、宮中はもとより、常磐を恐怖に陥れた・・・
リ:おいおい―――しっかりしてくれよ?w
大体、なんだって、そんな昔の奴が、この現代に甦ろうってんだ。
夢でも見てたんじゃねえのか?w
それこそは―――夢か現か幻か・・・
今まで、貴族達が見せられていたモノとは、何者かが作為的に見せていた「幻術」だったのです。
しかしながら、貴族達の脳裏には、「家来」「従者」の様に思われていた、一人の「白髪の女児」が、突然態を変じ―――
美しき大妖魎である、「金毛白面九尾・玉藻前」となって現れた事に、通常の判断が困難となり、混乱を招いてしまっていたのです。
しかし・・・幻が解けてしまえぱ―――そこは、通常の空間・・・
今まで自分達が、狼狽―――醜態を晒してしまったのを、恥入るモノと思われたのですが・・・
貴:な・・・なんじゃ―――「夢」か・・・
なれば、あの約定も、「夢」か「幻」よ、な?
玉:(・・・。)
ン・ククク―――やはりそうきおったか・・・では、「幻」が、「幻」ではないように、してしんぜようぞ・・・
未だ懲りない者もいたモノと見え、先程交わした約束事は、無効だ―――と、云った途端、
その者の前にだけ、再び玉藻前が現れ、彼を、永久の闇へと誘ったのでした。
ただ・・・今度ばかりは、「幻」が「幻」ではなかった―――
現実に遺されていたのは、「一人欠けた、貴族達」・・・
そこで彼らは気付くのです。
ここにいる者は、「現」も「夢」も「幻」も、自在に操れる者―――
その事を知りながらも、この「白髪の女児」と一緒にいる者達は―――・・・
そこでようやく、自分達では到底敵わないモノと判ると、彼らの要求を呑まざるを得ない―――と、云う、判断に至ったのです。
=続く=