「お見苦しい処を」―――と、たまもは、今上の帝にお詫びをすると、簾の向こうの顔が、「くすり」と、お笑いになられたように感じられたモノでした。
当今になるまでに、様々な「帝」を輩出して来た常磐の皇家・・・
内には、非常に強い権力を有し、「君主専制」宛らの帝もいましたが、ここ昨今は、「関白」や「太政大臣」と云った様な、帝の家臣達が実権を握り、
今上の帝も、云わば「傀儡」の様な、お飾りにも等しい存在だったのです。
そんな処に・・・の、この騒動―――
今まで、自分を蔑にしてきた者達の、無様な態様を見て、さぞかし胸が空かれた事でしょう・・・。
それからと云うモノは、とんとんと話が進み、須らく市子や蓮也からの提起は受け入れられ、
ここに、永きに亘った戦乱―――「応仁の乱」は終息したのでした。
そして、(一応)今回の目的を果たし終えたリリアは・・・
市:お戻り―――に、なられるのですか・・・そうですか・・・。
リ:ああ―――落着しちまったからな・・・。
その事の報告も含め、一度ユーニスに戻らなくちゃな。
それに・・・「あれ」もあるしな。
市:「あれ」・・・?
リ:ほら―――私、「評議員」てのになってるだろ。
その・・・さ、「集まり」が近くあるんだって。
まあ・・・今回戻るのは、その為でもあるのさ。
市:そうでしたか・・・。
私も、細川を継がなければ、あなたとご一緒出来たのですが・・・
それに、蓮也さんも―――
リ:そいつは云いっこなし。
大体「それ」―――って、私が云い出しっぺなんだしさ。
はは・・・けど―――なんか、勿体ないことしちゃったかも・・・な。
今回の件は、一応の落とし所は着いた―――ものの、いざ自分の周囲りを見てみれば、いつしか自分一人になっている事に、リリアは気付きました。
その事に、「後先を考えずにした」ことについては、省みらざるを得ませんでしたが、
収まり処を見た処、自分の判断は間違ってはいなかった―――と、一応自分を納得させたのでした。
それに、今までに強い仲間意識を育んできた市子と、別離れる前に挨拶を―――と、決断した時にも、相当の勇気が要ったモノでしたが、
恋愛感情を抱いている蓮也には、会わずにおこうとしたのです。
なにより―――ただでさえ、市子の時でも、惜別の涕を堪えるほどに、辛いと云うのに・・・
彼との別離れの際には、堪え切れそうにないから―――・・・
彼らとの別離れは、確かに辛いモノがありましたが、だからと云って、これからの同行者は模索していないわけではないらしく、
リリアが常磐を去る前に、ある屋敷を訪れたのでした。
第百七十三話:旅の同行者
それは―――常磐は、穢戸の南町にある「武家屋敷」に・・・
秋:おっ―――なんでぇ・・・誰かと思えば、お前ぇさんだったかい。
はあ?しの?? いるよ―――ああ、たまもの奴も一緒に居るぜ。
その事を聞くと、少しリリアの表情は晴れやかになりました。
そう、リリアが「鷹山家」に来ていたのは、「ある人物」を、旅の同行者に選んだから・・・。
それに、今回ばかりは、どう転ぶか判らない―――それに「今」は、出発点にすぎない・・・
それからの結果は、これからの自分の交渉次第―――そう、自分に言い聞かせるようにして、二人に会う事にしたのです。
しかし、これが中々―――・・・
その時は丁度、しのは忍び道具の手入れ―――たまもは、その傍らで、煎茶を啜っている処でした。
リ:あ〜―――・・・あの・・・さ、い・・・好い天気・・・だよ、な。
し:あっ、リリアさん・・・大変でしたね、色々駆けずりまわったりして。
ボクや蝉ちゃんに、一言掛けてくれれば―――・・・
リ:いや・・・まあ―――別に大したことじゃなかったからな・・・。
リリアとしのの関係を知らないモノでも、どこかたどたどしさがあった―――
それに、リリア自身も、傍から見ていても、仲の良かったしのとたまも―――
けれど・・・これから自分がしようとしている事は、この仲の好い二人を、強制的に引き裂こうとしている・・・
それも、自分の都合だけで―――・・・
その事を判っていたからこそ、どこかもどかしさだけが残ってしまい、そして終には―――
し:あの・・・さ―――リリアさんも、自分に素直になった方が良いよ・・・。
リ:・・・しの―――
し:それに・・・さ―――そう・・・割り切らないと、リリアさん自身・・・ううん―――ボク自身が辛いよ・・・
一人の忍の少女は、リリアがどうしてこの屋敷を訪ねて来ているのか・・・薄々感づいていました。
その事を押し隠し、どこかで話しの切り出しを模索しようとしている、そのもどかしさに、
リリアが鷹山家を訪れた本来の目的を、これから交渉している本人から質されてしまったのです。
そんな、忍の少女から、背中を後押しされたリリアは―――
リ:お前達の仲は、私自身が知らないわけじゃない―――だからと云って、私には、これから必要だと感じたから・・・
だから、この通りだ―――しの、お前の大切な友を奪ってしまう事を、許してくれないか・・・
普段は、そう云う事をしない―――させたりする事を厭う人間が、率先して、自分よりも年端のいかない、一人の少女にしたモノでした。
それが、「伏礼」―――またを、「土下座」・・・
けれどリリアがそうしたのは、しのから強制的にするよう、暗示を掛けられたり―――だとか・・・そう云うのではなく、自然とそうなってしまっていたのです。
それにしても、互いが相手の顔を見せない状態・・・
そこには恐らく、相手のしのは、自分を蔑んだ目で見ているのかもしれない・・・それとも、怨みの籠ったモノかもしれない・・・
けれど、そこには別に、そうしたモノなどなく、とは云え、しかし―――・・・
し:・・・ふうん―――そか・・・判っちゃったんだね、リリアさんにも・・・。
リ:・・・しの―――
し:それじゃ、仕方ないや・・・。
けど、これだけは云わせて、たまちゃんああ見えて、凄く繊細だから―――それに不器用だから、時々誤解を招く様な事をしたりするかもしれないけれど、
そこは、これから側にいてあげられるリリアさんが、たまちゃんの事を信じてあげなければダメ・・・
それが出来ないようなら―――・・・
リ:・・・判ってる―――
それでもし、こいつが「玉藻前」に戻ってしまう様になった時、私が一番真っ先に、こいつを止めてやるさ。
し:えへへへ・・・
それじゃ・・・宜しく頼むね―――
たまちゃん、これからリリアさんの事を、頼むよね・・・。
た:・・・ヤレヤレ、わし本人を放っぽといて、二人して盛り上がりおってからに。
それにしても、好きモノよのう―――お主。
しのには―――判っていました・・・それに恐らく、たまも自身も・・・
リリアが鷹山家に訪れた、本当の目的を―――
それが、たまもを、「旅の同行者」とすること・・・
けれどもその事は、固い絆で結ばれた親友の仲を、引き裂く―――と、云う、残酷なモノでもあったのです。
しかも、リリア自身が、親しい間柄だと思っている、しのの親友を、しのから強引に奪おうとしている―――
しかし、リリアはこうも思うのでした。
これからの事は、たまもの様に、智慧の回る者を側に置かなければいけない・・・
今までは、力でモノを云わせ―――だから、市子や蓮也の様に、武芸に秀でた者と、行動を共にしていたわけなのですが、
ここ最近で、その事に限界を感じ始めていたのです。
これからは、「策略」には「策略」を―――・・・
そのためには、今までにも的確な助言を与えてくれた、たまもの存在が重要であるとし、
自らの強い意思表示をする為に、たまもの親友であるしのの前で、深々と頭を下げたのです。
それに・・・実はしのも、間際まで非常に迷っていたモノでした。
しかも、今回のリリアの意図していた事も、判っていた・・・
けれども、自分の親友を、そんな簡単に譲るわけにはいかない―――
その一方で、リリアがたまもの事を、非常に強く求めていた事を、知らないわけではありませんでした。
ただ・・・気付かない「フリ」を、していただけ―――
そして、自分と同等か、それ以上に必要としているのを、見極めようとしていたら―――
その「想い」が・・・必死さが受け止められたから、それにリリアの人となりを知っていたから、たまもの事を託してみようと云う気になったのです。
けれど・・・そうは割り切っても、やはり惜別の涕と云うモノは、溢れてくるモノで―――
そんなモノで、顔をくしゃくしゃにしながらも、しのは、自分の親友と、今生の別離れを惜しんだモノだったのです。
―――そして、今は旅の空・・・
常磐からユーニスへと戻る道中、これからの事を話し合う二人は・・・
リ:さあ〜て・・・これから色々と頼りにしてるぜ、たま。
た:とは云ってものう―――さしずめ、なにをするつもりじゃ。
リ:そだな―――・・・取り敢えずは、ユーニスに戻って、ソフィアにこれまでの報告を・・・
その事は、まあ良い―――お前を、これから必要とするのは、「評議会」で・・・なんだ。
た:おお―――お主が、「南」のそれであるあれか・・・
して、今回は何が話し合われるのじゃ。
そこで、普段とは違い、真剣な顔つきになるリリアの姿が―――
これまでの「評議会」は、外宇宙との交渉のための準備が、主に話し合われていましたが、
これからは―――・・・
そう、そこが重要―――
総ては「これから」・・・
「地球」の意図している事を、宙外から来る連中に、いかにして判って貰うか・・・
そのための「大方針」が、話し合われるのだろう―――と、リリアは予感していたのです。
=続く=