オデッセイア北端の地―――アンカレスの騒乱を鎮圧させて帰還してきた蓮也は、今、歓待の渦中にいました。

 

波のように押し寄せるプロメテウス軍を、落城一歩手前の砦にて奮戦し、敵の攻勢を押し止めた上、

包囲の一角を破った勢いを借りて、そのまま対岸のプロメテウスの砦を陥落させた―――・・・

 

その功績を「知勇兼備」と持て囃され、一躍蓮也はオデッセイアの英雄にまで昇りつめたのです。

 

けれど・・・当の本人は素直に喜べませんでした。

なぜならば、かの地であった出来事を知っているから―――・・・

 

かの地を―――アンカレスを、その身を(てい)して護り抜いたのは、自分ではない・・・

どこの隊に所属しているかは判らない―――たった二人の・・・それも女性。

 

つまり、この平安を(もたら)せたのは、謎の女性達のお陰だ―――と、蓮也は声高(こわだか)に云いたかったのですが、

彼の凱旋を知ると、皆が彼を取り巻き、口々に彼の事を褒め称えた―――

そこで蓮也は思ったのです、今ここで正体不明の者達の事を云ったとしても、すぐには信じて貰えないだろう・・・

ならば蓮也自身で彼女達の素性を調べ、正体が判った上で自分の勲功を譲る考えでもいたのです。

 

第十八話;凱旋

 

こんな―――お祭り騒ぎな様子を、その輪の中に入って愉しんでいるこの二人は・・・

 

 

 

ヱ:はあ〜〜あ・・・しかし、つまらないわ―――もう終わってしまったじゃないの・・・。

エ:ぜぇ〜たく云うもんじゃないよ―――お前サマ。

  私らってば、そんな事で重宝されてたのに、今じゃすっかり治まっちゃったもんだから、(ひま)を持て余してた私らを、あの方の温情でここに来させてもらってんだからさ―――

 

ヱ:そうなのよね・・・それにしても失敗しちゃったわ、久しぶりだったものだから、つい嬉しさ余っちゃって―――相手の砦を潰してくるのではなかったわ。

エ:でもまあ―――いいじゃん、皆嬉しそうなんだし・・・

 

 

 

実は―――この二人こそが、今回の功労者。

けれど二人は、今回の凱旋の中心にはいなかったのです。

 

第一、彼女達は自分達の君主から明文化された命令と云うものを持たず、その上自分達が所持していた将軍職の証しを返上して、祖国とは別の地の戦乱に関与していたのです。

つまり―――今の二人は、云わばどこの勢力にも所属していない「流れ者」同然の身分だったのです。

 

けれど、彼女達が有する「武」は、恐らく・・・いや確実に―――エクステナー全土にある全武力を結集したとしても、遙かにそれを凌いでいた・・・

ただ、祖国に戻らないと云うのは、(ひま)で退屈な日々を送るのが苦痛だと判っていたから。

 

だから・・・治まりきっていないこの地では、自分達を高揚させる何かがあってくれると非常に申し分ない―――と、思っていた彼女達がいたのです・・・が、

どうやらその思いは、果たされなかった模様です。

 

 

そんな中・・・パライソへ行っていたリリアが戻ってきました。

歓喜に沸く群衆を見て、自身も笑みをほころばせるのですが、事態を知っていたので、その中をかき分けて居城であるノーブリックに着いたリリアは、

今回パライソから一緒についてきた巨漢と共に、城の大ホールにて祝杯をあげる武将や国吏達に、こう声をかけたのです。

 

 

 

リ:蓮也―――ご苦労だったな。

蓮:リリア殿―――・・・

 

リ:それに、お前達もよく頑張ってくれた、その事にはまず御礼を云おう。

  だが・・・事態はそう軽くない、今のこの喜びを台無しにしないようにしなければならないんだ―――

 

 

 

今のリリアの弁舌を聞いて、オデッセイアの各将に各官は耳を疑いました。

けれど・・・ただ一人、蓮也は違いました。

 

彼は、自分が認める女性が、少し見ない間に飛躍的に成長した事を感じていたのです。

だからこの時、目先の勝利に捉われず大局的に物事を見通しているかのような発言に蓮也は―――・・・

 

 

 

蓮:流石は・・・それでこそリリア殿にござる。

  して―――これよりはいかがされるおつもりなのです。

 

 

 

リリアは―――ジョカリーヌからの言葉を噛み締めていました・・・

 

「一個人としての言葉は軽いかもしれないが・・・君主としての言葉は、実は重い。」

 

「君主」―――そう・・・今、リリアはこれまで随分と先送りにしてきた、この問題に取り組む為オデッセイアへと戻ってきたのです。

 

自分としては、まだやるつもりはなかった・・・けれど、いつかはやらなければならない事―――

この国に住む民達の、快活な顔を持続させるには、避けては通れない道―――

その契機を与えてくれた事には感謝をしましたが、リリア自身が国王や女王を名乗るのはどこか違っていると感じていたのです。

 

国を統治する者は、そんな呼ばれ方をしなくても、大志を抱いてさえいれば(おの)ずと自分に従う者はついてきてくれる・・・

その(ことわり)は、リリアが幼い頃―――たった一度だけ目を通した事のある本にありました。

その本に書かれてある数々の(ことわり)は、幼い頃のリリアに少なからずの影響を与え、今では総ての内容が(そら)んじて云えるまでに熟読していたのです。

 

そう・・・リリアは、幼い頃既に君主としての資質を備え、(かく)たる理想をもっていたのです。

 

だからリリアは―――まだその時には、敢えてオデッセイア国王や女王は称しませんでした。

 

 

しかし―――・・・

 

 

 

リ:そうだ・・・な―――取り敢えずは、何もしないことだ・・・。

官:何もしないこと・・・に、ございますか―――?

 

リ:そんな過激な反応はしなくてもいい。

  私自身、今この大陸で何が起きようとしているかくらいは判っている。

  そのうち・・・そのうち―――だ・・・

  そのうち、あいつから必ず接触がある―――私達は、それを待ってさえいればいいんだ・・・

 

 

 

リリアは既に、何かを感じ―――そして知っていました。

だからこそ簡潔な言葉で示して見せたのかもしれません。

 

そうしている内にも、リリアが云っていた「ある相手」からの接触がありました。

そう―――・・・

 

 

 

兵:―――報告です。

  サライの国より伝令が参りました。

 

リ:そうか―――来たか・・・思ったより早かったな。

 

 

 

今―――隣国サライからの伝令が来た事を告げる衛兵・・・

その事を他の将官達は(いぶか)しんだモノでしたが・・・リリアだけがこの事を―――

サライ国がオデッセイア国に、ある要請をしてくる事を知っていたのです。

 

 

時は・・・寒風が吹き―――これから秋を・・・

そして、戦争ともなれば冬将軍を迎えるのはまず間違いない―――厳しい季節を覚悟しなければならないのでした・・・。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと