その宙域で、指折りの富豪との交流を経たアイドルは、その証として、その富豪から譲られたロリータ調の衣装を纏い、今回のステージでも観客の総てを虜にしていました。

 

その(なか)には、アイドル・プリンに衣装を与えた、ミリヤ本人の姿も確認できていました。

 

その見かけよりも成熟し―――多くの経験を得て来た幼き者・・・

だからなのか、昨今騒がれているアイドルの人気にも、さして興味があるわけでもなく―――

 

そんなに・・・お世辞にも「(うま)い」と云える様な歌唱力でも、振り付けでもないのに・・・

なぜ、この会場に来ている者達は、自分とメイド以外は、全員が熱狂的に、アイドルを支援しているのだろう・・・

興味は、どちらかと云えば、そちらの方にありました。

 

そして、今日のステージも終わり、アイドルの楽屋に挨拶に伺った時・・・

 

 

 

ミ:(・・・。)

  どうかされたのです?

マネ:(現在、プリン担当の新しいマネージャ)

   あっ・・・ああ―――すいません・・・。

   えっと、どちら様でしょう?

 

ミ:特に、「関係者(ス ポ ン サ ー)」と云うワケではないのですが・・・

マネ:そうですか、それではお引き取りを・・・

プ:あっ!ミリヤさん―――・・・待って、その人は関係者よ!

 

 

 

ミリヤとメイベルが、プリンの楽屋に入るなり、驚愕したかのようなアイドルの叫び声―――・・・

これで、何かしらの問題がなかった―――と、思う方が無理なので、行きずり上、どんな問題が発生したのかを訊こうとした時、

現在、プリンを担当しているマネージャから、今回のステージのスタッフの「関係者」なのかを問われたモノでした。

(つまり・・・今回のお話しでの「彼」「彼女」は、以前のプリン担当の人物とは、「同一人物」ではない)

 

確かに―――そう云った意味では、ミリヤ達は全くの部外者であるわけだし、

偶発的に発生した「厄介事」に巻き込まれるのは、面倒なことだと思い、そのマネージャから云われるでもなく、現場から立ち去ろうとした処・・・

引き留めたのは、意外にもアイドル自身だったのです。

 

それに・・・「トップ・アイドル」ともなれば、その「人気性」を妬むライバル達が、その人気に比例するが如くに数多(あ ま た)おり、

「いやがらせ」等の妨害工作を、してくるモノなのだろう・・・

それに、そうされる事が、「トップ」に君臨する者の宿命であると受け入れ、

同じ業界の人間からの、そうした行為には、耐えうる事が出来たモノでしたが―――・・・

 

ならば・・・「それ以外」では―――?

 

だから、プリンは、藁にもすがる思いで、今回、自分あてに届けられた「脅迫文」の事について、ミリヤに相談を持ちかけるのでした。

 

 

第百八十話;abduction(誘        拐)

 

 

それにしても、この「脅迫文」―――

 

 

 

ミ:(「文面」は―――まあ・・・月並みの様ですけど・・・)

  なんなのです―――この・・・「クレシダ」と云うのは。

マネ:判りません・・・ただ、判っているのは、同じ人物と思われる者から、うちの事務所あてに、こう云った(たぐい)の文書が送り付けられていまして・・・

 

 

 

「近日、歌姫に吾からの無上の愛を、捧げるべく参上(つかまつ)る―――クレシダ」

 

狂気・・・まさに、行き過ぎた愛情―――とでも云うのだろうか。

それに、ミリヤが目にした時、文面自体に、さほど問題性はないモノと思われたのですが・・・

この文書が、「そう」だと受け取れなくもない、「問題性」が・・・

 

()ずは、その「媒体」が、白い用紙―――なのではなく・・・「黒い用紙」・・・

しかも、綴られた文字は、僅かに「血」を思わせる、「色」に「臭い」が・・・

 

つまり、「これ」は―――自分が持っている、歪んだ「無上の愛」を、無理矢理にでも受け止めて貰うべくの、意思表示の証しであり、

もし、受け止めて貰えない場合―――こうした偏執狂の(やから)の取りそうな行動は、推して知るべし・・・だったようです。

 

その事が判っているからなのか―――・・・

 

 

 

プ:もおぉ〜・・・いやあぁっ!

  この人怖いし・・・気持ち悪い―――!

 

  そうだ・・・ミリヤさんは、この前、私を救って下されたのですよね。

  だから、私の一生のお願いです―――この「クレシダ」って云う人から、私を護って下さい!

 

ミ:以前・・・あなたを救ったのは、私なのではないのだけれど―――・・・

  それに、依頼に関しても、正規の手続きから外れていますし・・・

 

プ:そ・・・そんなあ〜〜・・・

  ・・・もう、いやっ―――! 私・・・この世界で生きていたくなんかない!!

 

ミ:(・・・。)

  はあ〜・・・判りました。

  そこまで云われるのならば、私も薄情者ではありませんし。

  それに・・・「一生のお願い」なんて、そんなに簡単に云うモノではありませんよ。

 

 

 

世間からちやほやされ、現在でも、周囲(ま わ)りの人間が、自分の為に動いてくれる・・・

だからこそ、世間体にも甘えた事ばかりを口にするアイドルに、半ば呆れてしまいながら、

ミリヤは、プリンからの要望を、聞き届けてしまったのでした。

 

その事について―――プリンの楽屋から出た後、苦言を呈するメイベルが・・・

 

 

 

メ:ミリヤ様・・・なぜあのような―――

ミ:この件・・・私達だけで、解決しますよ。

 

メ:(!)何か・・・お判りに?

ミ:今回の件・・・その発端を覚えて?

 

メ:正規の手続きからではない―――依頼・・・

ミ:そう・・・。

  あの事が、どうにも引っかかっていたのですが・・・

  私の予測に、一分の間違いがなければ、今回の件は、「ディーヴァ」創設以来の大事件に発展する可能性を秘めているわ。

  だからこそ、度々集まって、話し合ってしまっていては、埒が明かない・・・そう私が判断したまでなの。

 

  それに・・・フフフ―――ジゼルも、その事が判ったら、例の報告を、私ではなく「シャクティ」に・・・

  そして、各々が個別にて、動かざるを得なくなるでしょうね・・・。

 

 

 

またもや、正規の手続きからではない依頼を、自分の主は受けてしまった・・・

そのことが、「ディーヴァ」事実上のトップである「シャクティ」に知られれば、今度こそ厳しいお咎めを受けるのは間違いない・・・と、し、

メイベルはその事で、ミリヤに意見をして見るのですが。

 

やはりそこには、ミリヤの思惑があったモノと見え・・・

それというのも、()ずミリヤは、今回の発端ともなった、「最初の依頼」について疑問を深め、検証しようとしていたのです。

そして今回は、朧げながらに見えてきた存在・・・「クレシダ」―――

 

しかもミリヤは、その事についても、事前にジゼルに調査を依頼しており、

ジゼルも事の重要性が判れば、結果を「ラクシュミ」であるミリヤではなく、「ディーヴァ」の長である「シャクティ」にするはず・・・

 

 

そして―――このミリヤの予測は、寸分も違わず、外れていなかったのです。

それと云うのも・・・「シャクティ」である人物が、元・自分の後輩であった、マリアに―――

 

 

 

マリ:あっ?! 先輩―――バルティア先輩ではありませんか!

   それにしても・・・どうしてこんな処に―――?

 

バ:―――ッハハ・・・それにしても、久しぶりだな。

  それに、なんだ―――可愛い後輩の顔を見に来るのが、そんなにも罪なことなのか。

 

マリ:いえ・・・そういうつもりでは―――・・・

   でも、今や本庁の刑事部本部長ともあろう方が、曲がりなりにも、「はき溜め」とさえ云われている、こんな処に・・・

   それが喩え、「非番」であったとしても―――・・・

 

バ:ハハハハ―――そこの処は、ちっとも変わっちゃいないな、安心したよ・・・。

  まあ今回は、建前(おもてむき)ではそうなっているが、本音(ほんだい)は―――・・・

 

 

 

現役UP本庁の幹部である人物が、身分を隠して、こっそり自分に会いに来てくれた―――・・・

と、まあ、その事は建前である事が判ったのですが、その本音を聞くなり、まさにこの人物・・・パルディア=ヤーデ=ロスチャイルドは、

これから自分達が関わろうとしている、ある事件の重大性と、注意点を促しに来てくれた・・・

 

それに、パルディアがそうするに及んだ経緯も、先般、ミリヤから調査を依頼されていた、ジゼルからの報告・・・

 

つまり、事の推移は、やはりミリヤが予測していた通りに動き、その事を他の「ディーヴァ」達に伝える為、

「ディーヴァ」の長である「シャクティ」自身が動いた・・・

 

早い話し、そこであったのは、明確なる「ディーヴァ」の長からの指令(オーダー)・・・

それと同時に、今回の一連の事象に関わる、「ある問題性」も指摘されたのでした。

 

 

そうしている内に、例の「近日」が訪れ・・・

次の、自分のライヴがある会場に着くまでの間、アイドル本人と、彼女と共に行動をしていたミリヤ達の前に、

明らかに「そう」であろうと連想される者達が取り囲み・・・

 

 

 

プ:いや―――いやあぁっ・・・こ、来ないで〜!

  あ、あなた達・・・自分がこれから何をしようとしているのか、判っているの―――?!!

 

 

 

アイドルは・・・叫ぶ―――

こういった状況に似つかわしく、(あたか)も自分が、悲劇のヒロインであるかのように・・・

 

そして、筋書き(シ ナ リ オ)通りに、誘拐犯達に(かどわか)されて行くアイドル―――・・・

その場に残されていたのは、足の不自由な、ゴシック・ロリータをこよなく愛する、車椅子の美少女―――と、

その美少女のメイドである女性の二人・・・

 

けれど、考えようによっては、彼女達二人こそが、今回の標的(ターゲット)のようにも思われるのでした。

 

なぜならば―――「歌姫」とは、別の意味で・・・「Diva(ディーヴァ)」と、読み替えられるのだから・・・

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと