「人の皮を被った獣」―――その表現が、ピタリと尺で計ったように当てはまる者達だ・・・
そう「クレシダ」は、宛らに思いました。
普段は凡庸過ぎて、車椅子を押すしか能のない下僕―――だと思っていたのに、
主から発せられた命令により、忠実に獲物を狩る、手懐けられた狼―――・・・
折角、自分が有している特殊な能力で、この惑星の住人の男共を木偶に化え、ミリヤの誘拐を目論んだモノだったのに・・・
それが、たった一人の―――狂気をその眸に宿した、獰猛な獣に、阻まれてしまった・・・
しかし、実はその時点で、「クレシダ」ことプリン―――ナディア=リヘンツェル=プシーキンは、気付くべきだったのです。
なぜ・・・プリンの特殊能力が、この二人には効かなかったのか―――と・・・
ミ:フ・・・それは簡単なことよ。
なぜなら、既にあなたの特殊能力の正体など、判っている事なのですから・・・。
あなたの持つ特殊能力の正体・・・それは「フェロモン」―――
まあ、確かに、同性である私達には効き難いのでしょうけれど、
それでは、あなたのフアンの、女性が占める割合の説明が付かない・・・
そこで私は、こう推理をしたの。
もしかするとこの犯人は、両性に効く、強力な「フェロモン」を有しているのではないか・・・と。
ではなぜ、あなたの特殊能力が、私達にまで及ばないのか・・・
それも簡単、この私が、あなたよりも強力な導力を有しているから・・・
あなたは、まだ若いから知らないでしょうけれど・・・
今から3000年ほど前に、とある惑星の住人、総勢数十億人が、互いに殺し合いを始める・・・と、云う、大惨事があったわ。
そして、この大惨事の発生原因を確かめて行く内、奇跡的に助かった一人の少女がいたの。
そこでUPは、唯一の生き残りであり、大惨事の発生の瞬間を知っているモノと思われる、その少女について調書を取った処・・・
その大惨事の原因そのモノは、その少女であると断定をしたの。
そして・・・その大惨事は、後世に措いて、こう呼ばれることとなった・・・「サード・インパクト」―――と。
ク:(!!)あ・・・あの―――・・・!?
ミ:本当はね・・・私は、この世には存在してはいけないの―――
なにしろ、数十億の生命を剥奪したのだから・・・
けれど、私はのうのうと、この世に存在をしている・・・
あの忌まわしい導力、「サード・インパクト」を有したままで・・・
ク:く・・・くそっ―――!!
ミ:なにをしているの?クレシダ・・・もう遅いわよ。
この私の第三の眸、それはもう開眼しているのだから・・・
「七人の魔女」の一人である「クレシダ」には、他者を想いのままに操れる能力を有していました。
それが「フェロモン」・・・
しかし、「クレシダ」が有していた「それ」は、同性である女性にも効力を発する、強力なモノだったのです。
けれど・・・自分の能力を、より上回る能力を有した者により、須らく敗北を喫してしまった・・・
その場にいた、強力な導力の持ち主であるミリヤや、ミリヤのメイドであるメイベルは、
予めミリヤから、強力な自己催眠を掛けられ、「クレシダ」からの、フェロモンによる睡猥・催眠効果を抑えさせていたのです。
こうして、敗北を覚った「クレシダ」ではありましたが、逃亡を図ろうとも、自分の身体が思うように動かせない・・・
それに、自分の前には、額に開かれている第三の眸が、こちらを凝視している・・・
そして、近付いてくる―――その爪牙を、血で滴らせた「獣」・・・
こんな処で・・・こんな事で、終わりたくはない―――
そう思った「クレシダ」は、必死に抵抗をし、足掻きました。
すると、それが功を奏したのか、ある弾みで自由が利くようになり、どうにか九死に一生を得て、その場から逃走を図る事が出来たのです。
それにしても・・・どうして―――・・・
メ:(・・・。)
ミリヤ様、なぜワザと―――?
ミ:ウフフフ・・・不思議?
この私が、あの子に同情をしてしまった・・・そう思っているの?
あなたって、そう云う処が可愛いのよ・・・メイ。
私が、あの子を逃がしてあげた理由なんて、特別な意味はないわ。
だって、あの子ったら、ご丁寧に「自分は「七人の魔女」の一人だ」って云っていたのよ。
つまり、あの子を活かしておけば、必ずやあとの六人と連絡を取るはず・・・
あとは、寝て果報を待つ事と致しましょう。
本来ならば・・・現場にて、動かぬ証拠を抑えてあるのだから、すぐにでも逮捕・拘束し、自白を強要させればいいだけのこと・・・。
しかしミリヤは、プリンが「クレシダ」だと云う事と、
その「クレシダ」が、今現在は表面化まではしていないものの、水面下で活動をしている「七人の魔女」なる組織の一員だと云う事も知り得た事もあり、
今ここで彼女一人を逮捕してしまうよりも、七人集まった処を、全員纏めて―――と、云う、思惑があったようです。
第百八十三話;交錯する果てに見えてくるもの
それはさておき、話題を変えるとして―――・・・
ここ地球では、年に一度ある「評議会」が催され、東西南北の評議員達が、それぞれの議題を持ちより、討論をしていました。
その内には、今回、「七人の魔女」の最上位者と目されている存在を特定し、抹消するよう盟主より命ぜられているユリアの姿もありました。
大変な事を言いつかってしまった・・・と、云うのは、無理にでも押し籠めておいても、表情には出てしまうモノらしく、
評議の合間の休憩に、ユリアの「アレロパシー」であるジョカリーヌから・・・
ジ:どうしたんだい、ユリア・・・余り元気がないように見えるけれど―――
君さえ良ければ、今抱えている悩み、私に打ち明けて貰えないモノかな。
ユ:(・・・。)
いえ、大丈夫ですよ―――あなたに打ち明けるまでもない、些細な悩みですから・・・
するとジョカリーヌからは、「そうかい―――」と、返答があり、それからは何の変哲もない、四方山話へともつれこむのですが・・・
こんなことは、絶対に―――口が裂けても云うべきではない・・・
云った途端に、自分の「アレロパシー」であるジョカリーヌは、協力を申し出てくるに違いない・・・
今回ユリアが帯びた指令とは、ユリア自身が所有するアーティファクトの、「第五階層」の解除と云う、
一歩間違えば不安定に転がり込みそうな危険を孕んでいたモノだっただけに、
さすがにその事は、口に出す事は憚られていたのです。
ところが―――・・・そうした変化を、ジョカリーヌの方でも見逃そうはずもなく・・・
今回の評議会が終了した後、ジョカリーヌに呼ばれた、「北の評議員」イリスは・・・
イ:私に何か―――・・・
ジ:うん・・・ちょっと、私的に頼みたい事があってね・・・。
しばらく、「東の評議員」ユリアと行動を共にして貰いたいんだ。
イ:あの方と・・・私を? なぜ―――・・・
ジ:私は、彼女の友人の一人であるけれども、中々本心の方は語って貰えないモノでね・・・。
その事は、私の事を心配してくれるからなんだろうけれども・・・私としてみれば、そうした事も心配でならない・・・
丁度君が、リリアの事を心配しているように・・・ね。
イ:私が・・・姉さまの事を―――・・・
そうですよね・・・本心から語って貰えないのは、残念ですがよくあることです・・・。
斯く云う私も、余り重たい事は、姉さまにも打ち明けないようにしていますから・・・。
―――判りました、それでは、「北の評議員」としての役職と、「トロイア」の国主としての役目はいかが致しましょう。
ジ:その事は、タケルに頼むと善い―――どうせ、暇をもてあまし過ぎて退屈をしている処だろう。
気にしなくてもいい―――と、云われるほどに、気にしなくてはならなくなると云うのは、最早ジョカリーヌ自身の性分と云うモノであり、
そこでジョカリーヌは、自分達と同じく「アレロパシー」を持つイリスに、現在ユリアが抱えている悩みを探り出してくれるよう頼んだのです。
そして、然る後に、自分の至らない処と、知識を得る為、研鑽をして習得したい・・・との旨を、ユリアに申し出てみた処・・・
ユ:わたくしの下に・・・?
(・・・。)ウフフフ―――隠し通そうと思っても、隠しきれないモノですね。
イ:え? 私は、そんなつもりで―――・・・
ユ:あなたの所為ではありませんよ。
あの方の前で、わたくしが思い詰めた表情をしてしまったのが原因・・・
でも、そうね・・・わたくしの友人の想いを無下にしてしまっては、それこそ申し訳が立たないと云うモノ・・・
いいでしょう、同行を許可します。
そしてあなたも・・・現在この宇宙で、進行しつつある闇の事を、知っておいてください。
ジョカリーヌからは、ユリアの様子を窺って来て貰いたい・・・その様にイリスは解釈をしました。
しかし、ジョカリーヌからの心遣いに気付いたユリアからは、現在ユリア自身が抱える悩みこそは、
この宇宙の将来を、左右しかねない―――と、云った様な、重大なことである事を知ってしまい、
さすがのイリスも気後れをしそうになったのです。
そこをユリアは、イリスもこれからの地球を牽引していく重要な存在である事を認識しており、
これから種々様々な経験を積ませていくのも悪くはないと思い、
これから自分か赴こうとしている場所に、彼女の同行を許可したのでした。
=続く=