「シャクラディア城地下」にあったモノとは、「現存する、地球上の、あらゆる生物の、標本」―――『剥製』なのでした。
然しながら、どうして・・・「現在、存在する」―――などと云う、云い回しをしたのか・・・
リリアにしてみれば、そこの処のジョカリーヌの意図が、判り兼ねたモノでしたが、
次第に・・・そう―――「今まで」は、そこまで詳細に語られていなかった「真実」と云うモノが、リリアを包み込もうとしていたのです。
リ:どこへと・・・行った―――だって??
な・・・なんなんだよ、それ―――・・・
ジ:その前に、予備知識として、知っておいてもらいたい事がある・・・。
云うまでもなく、「100万年前の地球」の有り様だ。
その当時の出来事を、詳らかに語っても構わないが、それでは、いくら時間があっても、足りるモノではない・・・
リ:そ・・・そんなに―――?
ジ:ああ・・・だから、掻い摘んでの語り口になってしまうけれど、いいかな・・・
確かにリリアは、ジョカリーヌが推進している事業を支援する上で、大まかな「地球の歴史」と云うモノを、聞かされてはいました。
その中でも、「100万年前」の出来事に関しては、その年代を境に、地球の環境等が激変した・・・と、云う事実までは聞いてはいましたが、
それが、何が原因でそうなったか―――までは、伝えられてはおらず・・・
しかしその事を、「今回が機会だ」と、そう捉えたジョカリーヌによって、実に重々しい口調で語られることとなったのです。
ジ:それより・・・リリアは、「100万年前の地球」が、どんな状態だったか・・・想像がつくかい。
リ:うん? 「想像」・・・するだけなら―――
いつしかジョカリーヌさん達が話していたのを聞いた時、現在よりかは随分と「豊か」・・・だったって印象だなぁ。
ジ:うん・・・確かに、そうだね―――
確かに・・・あの時代は、豊か・・・「だった」。
リリアは、ジョカリーヌ達と親しくなっていくに従い、彼女達の懐古録を耳にして行く内に、
嘗ての地球・・・「100万年前の世界」―――と云うモノの、「概要」だけは想像がつくようになっていました。
それは・・・
現在とは違い、ある程度安定した世界―――
雑多な人間達があふれ、巨大な都市が、地上の至る所に存在した世界―――
現在の、数千倍の規模を持つ巨大国家が、数多形成されていた世界―――
そのことは・・・一言で尽くしてしまえば、「豊か」―――
しかし・・・
ジ:だけど・・・この地球にとっては、どうだったんだろう―――
リ:(・・・え?)
ジ:数限りある資源を採り尽くし、自分達の暮らしぶりを良くする上での技術は向上・・・進歩していくけれど、
その際に出てくる、リスクやデメリットの対処は、いつでも後回し・・・
それに、なにより、利権を求める上での意思の対立は留まる事を知らず、いつもどこかで、何かしらの「紛争」「武力衝突」「反政府デモ」「テロ」等が横行をしていた・・・
果たしてその事が、本当に「豊か」・・・だったと云えるのだろうか。
ジョカリーヌは・・・知っていました―――
一部の人間の、醜い感情によって、地球の環境は悪化の一途を辿って行くばかり・・・だと云う事を。
そして更には―――
ジ:そう云えば、私は・・・「100万年前の地球」にも、生物が存在していた―――と、云ったね。
そして、彼らが「どこへと云った」・・・とも。
その事はまさしく、「現在」とは「別の」生態系があった事を、示している―――
リ:(!!)「現在の」―――?!
ジ:そう・・・嘗て、この地球上には、確たる生物の進化の歴史があり、
「100万年前」の、その時が来るまで存在していた事は、曲げられようもない事実なんだ。
そこでリリアは、初めて知る事になりました・・・。
それが、「地球在来の固有種」の存在と、「その進化の過程」―――
だとすれば、この「地下の博物館」の剥製達は、「違うのか」―――とも、思いたくもなるのですが・・・
(リリアがそう思わざるを得なかったのも、実際に展示されてある剥製達は、「現在の」リリア達がよく見慣れていたモノだったから。)
そこでジョカリーヌは、「地球在来の固有種」について、次のような見解を述べたのです。
ジ:あの当時での最大の生物と云うのはね―――地球の重力が及び難いとされる水中でさえも、30mを超えるモノではなかったんだ・・・
況してや、「竜」のように、巨大で・・・尚且つ人間より知能の高い「高等生物」など、存在してはいなかったんだ。
リ:(?!!)え?? ちょ・・・ちょっと待った??
それ・・・って―――
ジ:まだ更に云ってしまえば、この地下に展示されてある剥製達は、100万年前の地球上には、一種たりとて存在せず、
また、100万年前の生物達も、厳密に云ってしまえば、一部の菌類や微生物・・・そして、「人類」を除いては、一種たりとて存在してはいないんだ!
それこそは衝撃・・・
なんと、その「100万年前」と云う時代を境に、それまでの生態系が激変してしまったと云う事実が、ジョカリーヌによって語られたのです。
しかしそれでは・・・「誰」が、一体「何のため」に・・・と、云う事になってくるのですが―――・・・
ジ:この事実を知ってしまって、相当ショックだろう・・・
だけど、敢えて云わせてもらう。
生物の進化と云うモノは、一朝一夕に成せれるモノではない・・・
現に、地球は現在に至るまで、何十億年もの時間を紡いでいる・・・
それが、確かに「100万年」という単位も、短すぎるとは云えないけれども、
在来種がここまで進化するには、理論上的にも合わないんだ!
リ:(・・・。)それ・・・って、つまり―――・・・
ジ:そう云う事だ・・・「一部の人間」―――つまり、私がこれまで、他の宙域で採取して来た生物達を、地球上に根付かせた・・・
そして、寿命と云う「役目」を終えた者達の一部を、こうして「剥製」として、地下の「ラボ」に展示してあるんだ。
リ:・・・それって、やる意味があるのか―――
ジ:100万年前当時、起こってしまった大きな戦争で、それまで地球上の各所に所蔵されてあった、多くの「標本」達が失われてしまった・・・
残念ながら、いくらこんなに私が熱くなって説いたとしても、物的証拠としての「標本」がない限りは、証しが立てられるモノでもない、
「剥製」と云うのは、得てして野蛮な行為に映るかもしれないけれども、死して尚、彼ら自身の事を伝える「手段」としては、優れたモノでもあるんだ。
シャクラディア城地下に存在する「ラボ」に、「現存する、地球上の、あらゆる生物の、剥製」が存在している理由は、リリアもどことなく理解してきました。
それに、その事を必死になって説いているジョカリーヌの表情が、どことなく切なげでもあった・・・
「もし・・・私が―――ほんのもう少しだけ、至りさえしていれば・・・」
その想いは、リリアにも犇と伝わってきているモノと見え、先程よりかは、幾分か大人しくなったリリアが見受けられたのです。
しかし―――・・・
実は、未だテラ国で起こった出来事の解明は、なされていなかったのです。
そして、ようやく―――・・・
第百八十六話;復活の兆し
ジ:それではどうして、地球在来の固有種が、絶滅してしまったのか・・・なのだけれど、
実はこの事が、君の国であるテラ国で起こった災害と、密接な関係があるんだ。
リ:(!)ん、だって・・・密接な関係!?
なんだって、生物の絶滅・・・と、「災害」??
ジ:先程も・・・それに、今までにも云ってきた事がある様に、「100万年前」にあった、「大きな戦争」―――それが原因でもある・・・。
その大きな戦争によって、生物は勿論・・・実は、この地球自体も死に絶えてしまう処だったんだ。
衝撃・・・それは、今までにも受けた事のない、大きな衝撃―――
本来ならば、地球は・・・例の「100万年前」を境に、生物の住める環境ではない惑星―――「死の惑星」になる、一歩手前だったと云うのです。
いや・・・だとしたら、宇宙から見た、この自分でさえ魅了した、あの「蒼き水の惑星」は、
自分達の眼をくらます為の、「紛い物」だったのか・・・と、そう思いたくもなるのでしたが―――・・・
ジ:それは違うよ―――
アレは、紛れもなく、「地球」そのものさ・・・
いくら私が、「らしく」見せようとしても、「本物」には勝てやしない・・・
だけどね、「現在」の地球があるのは―――・・・
現在の地球のあり方を知り、リリアはようやく理解に至るのでした。
そして・・・ジョカリーヌが、あんなにも喜んだ理由も―――・・・
そう・・・「現在」の地球は―――・・・
リ:(!)「シャクラディア」・・・って、この城の名前―――・・・
ジ:そう・・・で、あると同時に、私がこの地球に辿り着くまでに、乗って来た「艦艇」でもあるんだ。
確かにね・・・地球は、あの戦争によって、滅亡の手前まで行ってしまった・・・
そこで私は、最後の手段として、自分の艦である「シャクラディア」と、地球の「核」を同化させる事によって、
どうにか今まで保たせる事が出来ていたんだ。
そう・・・云わば、地球は、明日をも知れぬ重症患者で、生命維持装置がなければ、本当にいつ死んでもおかしくはない、危うい存在でもあったのです。
それを・・・「生命維持装置」としての役割を、こうなってしまった原因の一人と責任を感じ、自分が乗っていた「艦艇」に担わせ、
どうにか現在まで、存続させる事が出来ていたのです。
だ・・・と、するならば―――
今回のテラ国での出来事と云うモノも・・・
ジ:地球は、「ようやく」、自分で活きて行けれるまでに「快復」できた・・・
その予兆こそが、今回君の国で起きた「地震」なんだ。
地球は・・・活きている―――
それは、自分達人間や、動植物達と、同じように・・・
その事は、至極当然の様に思われますが、意識すらしないほどに重要な事とは、得てしてそんなモノなのだと、改めてそう思ったモノでした。
そして同時に、その証である「地震」と云うメカニズム―――
「地震が起こる」・・・と、云う事は、「核」が「正常に」流動し、これからまた、永い時間をかけて、地球自身が活きて行こうと云う証し―――
そして・・・ジョカリーヌの艦である「シャクラディア」を、生命維持のために使用しなくてもよいまでに、「快復」したと云う証し―――
だからこそジョカリーヌは、最初にリリアからの「地震」の一報を聞いた時、不謹慎にも頬が緩んでしまった・・・
それは、なによりも・・・地球の事を、他の誰よりも愛おしいとした人の、切なる願いでもあったのですから―――
=続く=