侵攻された自分の国を救援して貰う為、サライが隣国であるオデッセイアに送り込んだ使者―――

その使者に会い、何の要求かを訊く為、リリアは玉座の間に赴きました。

 

確かに―――サライが、今回のプロメテウス侵攻で、オデッセイアを頼ってくる事をリリアは判っていました。

 

それと云うのも、()の国からの「侵攻」沙汰は、今回が初めてなのではなく・・・

云うなれば、この問題は二国間が長年共有し、頭を悩ませている問題でもあり、

そこには―――不平等な条約を締結させられたこともあり、時としてソフィアも人質の話しが浮上してきたくらいなのですから・・・。

 

だからこの時もソフィアは、自分達が共有するこの問題を解決するため、今回の使者の人選も細心の注意を払ったのです。

 

そう・・・ソフィアは、今回の人選には余程の気遣いをしました。

サライ救援の要請はリリアでも判っているはず、ならば・・・誰が、この顔を(しか)めたくなる様な事を伝えてくれるのか―――

 

そして選ばれた人間とは―――・・・

 

 

 

リ:―――市子・・・。

市:お久しぶりにございます・・・リリア様―――

 

 

 

なんと―――ソフィアが今回の使者に抜擢したのは、リリアと面識のある市子・・・なのでした。

それにしても、何とも懐かしい顔に、リリアの胸には差し迫ってくる何かが湧いてくるのですが・・・すぐに気持ちを切り替えし、

今回何の用件で市子が訪れたのかを、知りつつも訊いてみると―――・・・

 

 

 

リ:また、随分と久しぶりだな、息災だったか。

市:はい―――次代のオデッセイア王になられるリリア様に置かれましては、恙無(つつがな)きか・・・と。

 

リ:はは・・・まだ王位に就いてもいないのに、そう云われてもな。

  ところで、市子が今、私の前にいると云う事は―――・・・

 

 

 

()ずは、相手の心の内を探るため、軽い挨拶と定まり切った言葉の応酬が成されました。

それからリリアは、結論を急ぐ為に市子の目的を引き出させようとしたところ、市子の方でも用意していたソフィアからの手紙を差し出すのでした。

 

そして・・・リリアがソフィアからの手紙を読んでいる間、市子の胸の奥では―――

恐らく今回の侵攻沙汰に関しては、両国間で結ばれている協定などがあるのだろう・・・

だから、今回の使者の目的も、ある程度リリアも理解を示し―――すぐに良い返事がもらえるのだとばかり思っていました。

 

しかし―――リリアが下した判断は、そんな市子の予測を裏切り、また、居並ぶオデッセイアの諸官達にも動揺と衝撃を与えたモノだったのです。

そう・・・なんとリリアは―――

 

第十九話;陰謀 渦巻く

 

リ:残念だが―――私は、お前達を救ってやろう・・・と、云う気は起こらない。

市:(!)そんな・・・リリア様―――それは本気で申されているのですか?!

 

リ:ああ・・・本気だとも―――

  それに、帰ったらあいつに伝えておいてくれ―――

  私達の国は、私達の力だけでプロメテウスの連中を退けた・・・

  だから―――私達に出来て、お前達に出来ないはずはないだろう・・・と、な。

 

 

 

リリアは―――サライからの救援要請を・・・断ってしまいました。

それに市子も、ここに来るまでに知らないでもなかった、この国の最北端・・・アンカレスと云う地で、武力衝突があった事を引き合いに出された時、

どちらに言い分があるのかをすぐに悟り、この時は素直にサライへと一時戻ったのです。

 

けれど・・・サライからの使者が本国へと戻ったのと同時に、色めき立ってきたのはオデッセイアの諸官達でした。

いつもは、プロメテウスからの侵攻があった場合には、どちらもお互いを(たす)け合っていく―――

その事を今回は、リリアの一存のみで反故にしてしまったことに、両国間の関係に(ひび)が生じはしないかと、心配し始めたのです。

 

ところが、リリアはそんな連中の言葉には意にも介さないと云った具合に、自身はさっさと自分の部屋へと戻って行ったのです。

 

そんな・・・今までの様子を傍から見ていて、リリアは本当は何を考えているのかを知る為、彼女の後を追った蓮也は―――・・・

 

 

 

蓮:リリア殿―――お待ち下され。

リ:どうした、蓮也・・・何か私に訊きたい事でもあるのか。

 

蓮:いかにも―――なぜそなたは、市子殿からの要請に・・・

リ:勘違いをしては困るな―――そもそもあの要請は、ソフィアの奴から出されたモノだ、市子からのモノではない・・・。

  それに、(あなが)ち間違いではあるまい―――事実、アンカレスは蓮也たちの活躍もあって、護り抜く事が出来たんだからな。

 

 

 

「しかし―――」と、蓮也が云いかけると、そこから次の言葉は失ってしまいました・・・。

それと云うのも、何かしらの強い意志が、既にリリアの眸には宿されていたのだから・・・。

 

やはり―――自分が認めた女性は、姿を見なくなった期間に驚くべき成長を遂げてきたのだ・・・と、蓮也はそう思うのでした。

 

 

そしてこの一報は、三日遅れでサライに(もたら)され・・・

今回の使いの要であると見られた人選が、失敗に終わった事を知ると―――ソフィアの落胆は誰が見ても明らかとなる処でした。

が・・・

そんなソフィアを救ったのは、今回の使者に抜擢された市子でもあったのです。

 

それに市子は、盲目であるが故に―――鋭敏な感覚を身に着けていました・・・

だからあの時、リリアと対面をした時に感じたことを述べてみると―――・・・

 

 

 

ソ:なにか・・・考えがあってのこと―――?

リ:はい・・・私が今回、あの方と接見した折―――そのように感じました。

  それに・・・云い(にく)いのですが、あの方はどこか成長しておられるように見受けられたのです。

 

 

 

リリアが、サライからの救援要請を断った時、本来は義に篤い人間がそうしないのには、リリアにまた別の考えがあるのではないか・・・と、市子はソフィアに自分の考えを述べてみたのです。

そして、市子が導き出した推測の根拠として、接見した当時リリアから受けた心象(インスピレーション)も、同時に伝えたのです。

 

 

それはともかくとして―――サライはこれから、オデッセイアからの援助もないまま、南下してくるプロメテウス軍と拮抗し合わないといけないのですが・・・

実を云うと、そうした反応(リアクション)がいち早かったのは、当事国であるサライよりも、むしろ―――・・・

 

 

 

リ:ふふ・・・さて―――と・・・

  おい、これから私は、またしばらく国を空けるぞ。

 

官:はああ? リ―――リリア様、またこんな時期にどうして・・・

 

リ:こんな「時期」だからこそ―――なんだ。

  それに、今回は私一人じゃない・・・一緒に来てもらう人間に―――蓮也、あんたの力を貸して欲しいんだ。

 

 

 

なんと、サライからの救援要請を断ったはずのリリアが、隣国が他国に攻められていると云うのにも拘らず―――また旅に出る・・・と、云い出したのです。

そんな非常識な申し出に、オデッセイアの諸官達は呆れ返りもするのですが・・・

 

今回のリリアの旅は、いつもとはどこか―――何かが違ってきていた・・・

 

「いつも」は、こう云った時のリリアは、必ず一人―――だったのに対し、この時だけは蓮也を伴に選んだ・・・

それに、この時のリリアの居出立(い で た)ちも、「いつも」の傭兵仕様―――ではなく、オデッセイア王家秘伝の、「ドレス鎧」・・・とでも云うのだろうか。

 

リリアが城にいる間は、いつも着ている「プリンセス・ドレス」の上から直接―――鋼鉄製の「肩当て」「プレート・アーマー」「ブリガンティン」「腰鎧」などを着装させる様式に身を包み、

 

誰がどう見ても「いつも」の旅とは違う・・・これから「戦」に赴かんとしている戦士の「装備」が、そこにはあったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと