惑星・クーレに住むミリヤの日常は、朝食と共に早刷りの朝刊に目を通すことから始まるのでした。

 

そんなある日・・・朝刊の一面に載っている、一つの記事に目を落としたミリヤは、しばらく考え込む様に動かないでいるのでした。

 

そうした主人の癖を良く知っていた、メイドのメイベルは―――・・・

 

 

 

メ:ミリヤ様・・・? いかがなされたのですか―――

 

 

 

自分のご主人様は、気にかかる事があると、すぐに考え込む癖をお持ちである・・・

そしてその時は、大概にして空間の「ある一点」を見つめ、こちらが話しかけても反応すらしてくれない・・・

けれど、思慮・思案・思索がまとまると、必ずやひらめきと同時に、こう仰るのだ・・・

 

 

 

ミ:・・・フフフ―――そう云うこと・・・

  これから面白くなりそうだわ、メイ・・・

メ:はあ・・・何が―――でしょう・・・

 

ミ:まぁ、取り敢えずは、この記事をよく読んでごらんなさい。

メ:(・・・。)

  これは、普通に、賊の討伐を報じたモノではありませんか?

 

ミ:そうね―――「普通」・・・ならばね。

メ:(!)つまり、「そう」ではないと?!

 

ミ:問題は、「場所」よ。

メ:(・・・)「487系星域」とまでしか―――・・・

 

ミ:それまでに私達は、「ある人物」が、その方面に逃げ込んだ事を、知っているわ・・・

メ:(!!)(レェラァ)―――!!

 

ミ:そう・・・あなたの師匠筋である彼女(フランソワ)が、「ある人物(ユ  リ  ア)」からの依頼で、彼の宙域に措ける賊を討伐した・・・

  この推測も、「普通」よりかは「良くできるレベル」・・・私達の内では、マリアまでがそうなのだけれどね・・・。

メ:・・・違うのですか?

 

ミ:あなた・・・仮にも自分の師匠が、たったそれだけのことで、彼女(ユ リ ア)からの依頼を請け負うと思って?

  それでなくとも、「ピース・メイカー」にしては、「らしからぬ」お粗末さだわ。

メ:・・・と、云いますと―――?

 

ミ:あなたも知っての様に、裏稼業を生業(なりわい)とする者は、「表」に出てしまえば「死に体」も同然・・・

  その事は勿論、私達「ディーヴァ」にも同じ事が云えるでしょうね。

 

  けれど・・・あなたの師匠は、敢えて「それ」を容認した・・

  つまりこれは、「メッセージ」なのよ。

 

  あの人の依頼主であるユリアと、私達と・・・そしてあと、「メイトーク」に逃げた、『本当の標的』に()てた・・・ね。

 

メ:(レェラァ)が狙っていた、獲物の事までお判りなのですか!?

 

メ:ええ・・・逃げた場所「までは」すぐに判りましたが・・・肝心の「何者か」までは判らなかった・・・

  でもね、この前ジゼルから提出された、「ある者達」のリスト・・・その(なか)に、「元軍人」の肩書を持つ者の事を思い出してね・・・それで判ったの。

 

  そうよ―――この「メイトーク」に逃げた者こそ、「七人の魔(セヴン・シスターズ)」の一人、『ジルドア』―――

  本当の名を、ヨルダ=フィヴォルグ=ツヴェルクリンと云うらしいわ。

 

 

 

足の不自由な美少女の、聡明にして的確な推理に、メイベルは息を呑みました・・・。

 

そして何より、自分の師の戦略性の高さに、今更ながらに感銘したのです。

 

本来の標的に逃げられ・・・小さな賞賛を浴びるのは、本来プロとしては恥ずべき事―――・・・

しかし、敢えてそれをしたと云う事は、相手を()らせ・・・(おび)き出す為にしている事なのだ―――

そしてそれは、ここしばらく続く事だろう・・・相手を執拗に追い、寸での処で逃がし・・・精神も耐久力も限々(ギリギリ)のところまで追い詰める・・・

そうすれば、相手がいくら一流のプロと云えども、正常な判断ができなくなり、やがては自滅してしまう・・・

 

しかし、何の為に―――?

 

自分(メイベル)の師である「ピース・メイカー」―――フランソワ=エヴァ=ベアトリーチェは、自他共に認める「超一流」・・・

それが、どうして一撃で仕留めてしまわないのか―――・・・

その理由でさえも、ミリヤには判っているモノと見え・・・

 

 

 

ミ:(・・・)そんな事は簡単なことよ―――

  良く考えてごらんなさい、今回、不運にもあなたの師匠であるフランソワに、狙われてしまう事となった『ジルドア』・・・

  また彼女(ヨ ル ダ)は、あなた達の業界(せ か い)では「レリック」と呼ばれているようじゃないの。

 

  けれど今回、あの女(ユ リ ア)より依頼されたのは、「レリック」としてではなく、「七人の魔女(セヴン・シスターズ)」の一人として―――なら、判り易いと思うんだけど・・・

 

メ:・・・違いが―――判り兼ねるのですが・・・

 

ミ:(・・・。)全く・・・あのね、最低でもこれだけは理解をしておいて。

  ヨルダは、フリー・ランスの時には「レリック」だけれど、「七人の魔女(セヴン・シスターズ)」と云う、組織めいた処に所属していれば、また別の名―――『ジルドア』と呼ばれている・・・

  つまりフランソワは、今回あの女(ユ リ ア)より、「七人の魔女(セヴン・シスターズ)」の壊滅を視野に入れた依頼をされた・・・違うかしら?

 

 

 

そこまでの説明で、メイベルはようやく理解に至り、またしても息を呑んだのです。

 

しかし・・・同時に思っていた事もありました。

 

今までの「七人の魔女(セヴン・シスターズ)」の(なか)で、本来の名前まで明かされているのは、『クレシダ』のナディアと、『ジルドア』のヨルダの二名だけ・・・

そして、ジゼルから提出されたリストを照合すると、計四人・・・つまり、あと二人までが、本来の名前まで明かされている事になるのです。

 

けれど・・・残りの三人―――これはつまり、恐らくは・・・「七人の魔女(セヴン・シスターズ)」の(なか)でも、主要・中核を担い、

名を明かされている四人よりも、実力は別格・・・そう思うのが妥当なのです。

 

・・・と、云う事は、ユリアは、名の判っている四人だけでも、「せめて今の内に・・・」と、考えているのかもしれない―――

ユリアを評価しているミリヤは、そう思うのでした・・・。

 

 

第百九十二話;欺き欺かれ

 

 

一方その頃―――・・・

ジョカリーヌの意向を受け、宙外の勢力との交渉を任されたユリアとイリスでしたが、

相手からの不興を買い、宿泊施設で就寝している処を襲われ・・・無様にも囚われてしまったのでした。

 

そして、襲撃者の依頼主の前に連れ出されるまでにも、哀れそうに・・・また、悔しさを(にじ)ませているかのように、潤んだ眸で同情を訴えかけていたかのようにも見えたモノでした。

 

それに・・・何かを云いだけでも、恐怖の余りなのか・・・咽喉元でくぐもっているようにしか聞こえなかった―――・・・

それは、そうした趣味(せいへき)の持ち主には、堪らないモノがあるようでしたが―――・・・

 

不思議に思うのは、前回のお話しの状況(シチュエーション)とは、どこかが違っている・・・と、云う事。

 

前回は、あれだけ交渉相手がどう出てくるかを、的確に推察していたようにも見受けられたのに・・・

こんなにも、むざむざと囚われの身になってしまったのは、どうしてなのか―――・・・

 

彼らは・・・知らない・・・

ユリアが、何をして、ユリア自身の盟主から、ある任を承っていたかと云う事など・・・

 

 

 

襲:ホレッ―――さっさと歩けや!

 

ユ:うぐっ・・・うぅぅ〜〜・・・

イ:ん゛ん〜・・・ん・ぐぅ〜〜・・・

 

襲:連れてきやしたぜ―――旦那・・・

  それにしても、世話を焼かせやがる・・・

 

  旦那のお云いつけ通り、この女達を始末しようとしたら、抵抗して噛みつきやがったんで―――

  ん、で、一つしばき回したら、ご覧の通り・・・大人しくなりましてね―――

 

  それに・・・良く見りゃ、すぐに殺しちまうにゃ、勿体ねえ軆付きしてやがるもんでね・・・

  ―――で、皆で「味見」してからでも遅くはない・・・と、思いまして・・・

 

ユ:う゛! う゛っ・・・ん゛・ぐうぅぅ〜〜!!

イ:ん゛ん゛・・・んぅううぅ〜〜!!

 

襲:やかましい! 黙ってろぃ―――

  へへへ・・・どうです? 旦那―――・・・

 

 

 

見るからに、そそる軆付き・・・

就寝時に付ける、程度の薄衣(ネグリジェ)を身に纏い、(さわ)られる事さえも拒むかのような仕草に、つい(いや)らしい目つきをしてしまう、襲撃者の依頼主・・・

(因みに・・・手足は荒縄で拘束されている)

 

無様にも囚われた、ユリアとイリスが通された部屋は、灯りと云えば(ろうそく)が一つのみ・・・

だからこそ、当初は、襲撃者の依頼主の顔などは、暗闇で見え(にく)かったのですが・・・

次第に、暗がりに目が慣れてくると、昼間に会っていた、醜い小太りの男性・・・例の交渉係である事が判ってきたのです。

 

そこでユリアは、見苦しくも、生命を助けてくれるよう、縋りつくように懇願するのですが・・・流石に煩わしく思ったのか―――

 

 

 

イ:(!!)ん゛・・・んうぅぅ〜〜・・・

 

交:・・・ふん―――(うるさ)い・・・

  もう少し可愛げのある女だと思っていたが・・・しつこく云い寄って来るから、撃ち殺してしまったよ。

 

  それにしても・・・こちらのお嬢さんは、少しは可愛げがある様だ・・・

  この女の()られ様を、ただ見ていたわけではない。

 

  それに、屍体にしても、すぐには朽ちる事はない、まだしばらくは、生身の肉体が味わえようと云うモノ・・・

  しかも、屍んですぐは、(あそこ)の締まりも格別と云うからなぁ〜〜!

 

 

 

しつこく助命を云い寄ってくる(ユリア)を、交渉係(こ  の  男)は、所持していた銃で、撃ち殺してしまいました・・・

それを直視してしまったイリスは、自分達のしている些細な抵抗が、無駄なことである事が判ると、途端に大人しくなってしまったのです。

(しかも、恐怖の余りに、失禁(おもらし)をしてしまって・・・)

 

それにしても、まだおぞましきは―――交渉係(こ  の  男)趣味(せいへき)・・・

それは、「屍姦」と云う、死んですぐの状態の女の軆を、犯すと云う行為―――・・・

 

常識では考えられない・・・下衆の行為・・・

 

 

すると―――思いも掛けない処から、笑い声が―――・・・

それも、たった今殺した、昼間・・・聞き馴染んだ、この女(ユ  リ  ア)の声が??

 

 

 

?:ウ・フフフ・・・ご覧なさい、云った通りになったでしょう?

?:・・・こんな連中と、交易する道理など―――・・・

 

?:あるのですよ・・・少なくとも、あなた以外は―――ね・・・

 

交:(!)なに?! あの女・・・いや―――この女の声だ?!

  いやしかし・・・一体どうなっているのだ??

 

 

 

すると・・・ユリアとイリスを連れて来た、襲撃者のリーダーとサヴ・リーダーの像がぼやけ、

そこには、ユリアとイリス本人の姿が・・・

 

そして、逆に囚われ、依頼主に殺されてしまった、襲撃者のリーダーと、口を粘着テープで塞がれてしまっている、サヴ・リーダーの姿が・・・

おまけに―――その部下達は、手薬煉(あやつりいと)が切れた傀儡(く ぐ つ)の様に、その場に崩れる始末・・・

 

この・・・自分が用意していた台本(シナリオ)以外の出来事が、頻発してしまったお陰で、交渉係は言葉を失ってしまい・・・

自分がしでかしてしまった事の重大さに、悔やむばかりだった・・・の、ですが―――

 

 

実は、ユリアが描いていた策謀(プロット)は、これで終わりではなく―――

この「事実」を武器に、まだ更なる策を・・・

 

そしてその事は、やはり、「あの組織(セヴン・シスターズ)」が関わり合っていたのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと