惑星ラハタにある「EYC宙域連合」本部に勤める「シェリル=ナサローク=ドルネーズ」は、この連合を取り仕切る「会長」の秘書でした。
とは云え、取り立てて美貌に優れているわけではなく、なればこそ、シェリルが実務に長けているものと認識できるのです。
それに・・・会長の「性欲を充たす者」は、他にいたからでもあるのですが―――
実務等の「地味」な事は、やはり「地味」な人間こそが似つかわしい・・・と、云ったところでしょうか。
けれど、そのお陰もあってか、シェリルは、「連合」の取引相手の海千山千連中とも互角以上に渉り合えるまでになり、
そうした意味では、「損をして得を取る」と云っても、差し支えなかったのです。
そんな中・・・「地球からの交渉相手」との接触を担当していた者が、「地球からの交渉相手」である二人を伴い、「本部」である建物を訪れた時・・・
シ:(!!)
―――・・・・・・
交:あ・・・ああ―――別に気にしなくていい・・・
こ、この方々は、お客様・・・なのだよ。
今・・・「会長」は、おいでなのかな―――
「普通」に、来客として現れてきたのならば、緊張などしなくてもいいモノなのに・・・
シェリルは、入室してきた交渉係の顔色を窺うと、「地球からの交渉相手」であるユリアとイリスの二人が、「普通」ではない事を察しました。
それに―――・・・
「明らかに私達は、あなた方に害意を持たない」と云った具合の頬笑みを、ユリアが見せてはいても、どこか気の置けない感じがする・・・
そうしたシェリルの「直感」は、見事なまでに中っていました。
そんな「連合」側の反応を、敏感に覚ったユリアは、愛想の好い相好を崩さないままに・・・それでいて、厳しい言葉を・・・
ユ:このわたくし達を襲わせるよう指示した人物に、会わせて頂けませんか・・・
その一言は―――何かを物語っており、また、何かを知っているかのようでした・・・
しかしシェリルは、自分が勤めている「連合」の、不利益にならないように働きかけようとはするのですが・・・
ユ:(・・・)
健気なモノですわね―――あなたが、その痩せぎすな身体を張ってまで、護ろうとするモノが「連合」にはあるのですか・・・
いえ、だからなのでしょうね―――わたくしには判ります・・・。
ですから取り敢えずは、ここの「会長」にお取次を・・・
今回はそれで、手を打ちましょう。
一見―――筋の通っていないかのような、ユリアの言葉・・・
事実、その場にいた「連合」側の交渉係や、イリスなどは、ユリアが述べた言葉の重要性の意味が判らなかったのです。
しかし―――・・・
彼らには判らなくとも、現実としてユリアとイリスは、「連合」の会長と面会し、大譲歩をさせての契約を締結させる事が出来たのです。
その後にでも・・・冷や汗の止まらなかったのは―――・・・
「なぜ・・・バレてしまった?」
「なぜ・・・襲撃犯を出撃させたのが、私だと判ってしまった?」
「今までは、巧く行っていたと云うのに・・・」
「襲撃に失敗したとしても、その矛先は、私には向かなかったのに!?」
この女の弁は、今回の襲撃の件の手筈を、「誰が」指示したのかを恰も知っていたかのような口調でした。
そして・・・確証を得たかのような、余裕―――・・・
だからこそユリアは、今回は「敢えて」会長に詰問するだけで済ませ、襲撃の件に関しては、深い処までは言及しなかったのです。
けれど、どうして―――ユリアは、今回の襲撃の黒幕の事が判ったのでしょうか。
その事は、次の目的地に向かう途上での、イリスとの会話に盛り込まれていたのです。
イ:それにしても―――あの秘書の方・・・終始顔色の方が優れませんでしたよね。
ユ:ウフフフ・・・どうしてだと思います。
イ:えっ―――?
ユ:なぜならば・・・彼女こそが、わたくし達を襲うよう指示した張本人なのですから。
イ:(・・・。)
ええ〜〜っ?! あの・・・いかにも―――
ユ:「そんな事をしなさそうな」、或いは・・・「そんな事をする度胸などなさそうな」―――・・・
イリスさん、あなたも覚えておくといいですわ。
わたくし達が、これから交渉して行こうとする連中の真の姿を・・・。
地球にいる、ジョカリーヌ達の様に、素直なだけの存在ではない・・・と、云う事を。
「他人の寝込みを襲わせる」―――と、云った様な、肚の黒い策が出来る様な人物だとは、外見上では見えない・・・
そうした人間ほど、実は肚の内が真っ黒なのだと、ユリアは説きました。
「表」では善人を装って近づきながらも、その実「裏」では、悪人宛らに悪事を働ける者・・・
ではどうして、ユリアがそうした偽装を、見破る事が出来たのか・・・
するとユリアは、ゆっくりと・・・自らの出自と、自分達が相対しようとしている「真の敵」について、明らかにしたのです。
ユ:わたくしは・・・あなた達が生まれる以前の大過去に、さある重犯罪組織の頂点に君臨していた事がありました。
だから、彼女の事も判ったのです。
そして、これからわたくしが話す事を、頭の片隅にでも置いておいて下さい。
実は今回―――わたくしの盟主であるガラティアから、次の主旨の任務を授かりました。
『出来る限り「七人の魔女」全容を解明し、そして潰せ』―――と・・・
イ:「七人の魔女」?!
ユ:ここ最近、世間を騒がしつつある犯罪組織の事です。
その内の、四名の構成員の事が判明いたしました。
「クレシダ」「モルドバ」「ジルドア」―――そして、今回直接お会いした・・・「カサンドラ」です。
第百九十五話:三人目の魔女
イ:(!!)あ―――あ・あ・・・
ユ:言葉になりませんか。
しかし、これは事実なのです。
最初はね・・・わたくし一人で、どうにかしようとしていたのですけれど・・・
生憎、今回の任務の事が、わたくしのアレロパシーであるジョカリーヌに知れてしまって・・・
イ:それであの時―――・・・
(・・・)実は私も、今回の事を請け負う時に、あの方からあなたを―――
ユ:「監視する様に」・・・フフ―――あの方らしいわ。
イ:怒らないのですか?
ユ:どうして・・・わたくしが、あなたやジョカリーヌに対し、怒る道理がどこにあると云うのですか。
あの方はああ見えて、わたくしの事を心配して下さっているのです。
ああした云い方は、不器用なまでの、あの方自身の・・・わたくしへの愛情の示し方―――そうは思いませんか。
イリス自身、耳にすら及んだ事のなかった、その存在―――「七人の魔女」・・・
その内の、実に四人もの構成員の存在が、露わにされていた・・・
しかも今回、実際に会っていた「連合」の会長秘書・・・シェリル=ナサローク=ドルネーズこそが、その内の一人「カサンドラ」であると云うのです。
また、そうした事実は、宇宙の諸事情すら知らないイリスにとって、衝撃でもありました。
・・・が、同時に、そんな者達の危険性を逸早く察知し、自分の配下であるユリアをして、鎮めようとしていた人物がいたとは・・・
そこでイリスは、実は自分も、ジョカリーヌからの依頼によって、ユリアに随伴したのだとの真相を話すに至ったのですが、
ユリアにしてみれば、こんな自分を心配してくれている「存在の共有者」に、感謝の念すら現していたのです。
しかし―――・・・
ユ:しかし、本当に注意を払わなければならないのは、このわたくしですら明らかに出来なかった、「残りの三人」・・・
その三人こそが、「七人の魔女」の中でも、真の実力者であるとも云えるのです。
なぜならば・・・彼の四人の様に、易々と存在を明らかにされなかった―――・・・
この事自体が、彼の者達を隔てる実力の差だと、あなたは思いませんか・・・。
本当の意味での、油断できない存在がいる事を、ユリアから示されたとしても、ようやくイリスは、その理解の入口に立った程度でしかありませんでした。
いくら地球レヴェルでは、物分かりがいい方だ―――とはしても、広大に広がる宇宙からすれば、ほんのちっぽけなモノに過ぎない・・・
存在自体が、知れて「いる」のと「いない」のとでは、その考え方の根底からして違う事を、未だイリスは知らずにいたのです。
=続く=