「荘厳」「豪勢」にして、粛々とした雰囲気の中、まさに「美」の形容を現す言葉総てに相応しい女性が、

両者を祝福する為に訪れた来賓達の前に歩み出てきました。

 

そして皆・・・その晴れやかにして華やかなる態に、歓声や羨望の溜息などが漏れ聞こえてきたモノだったのです。

 

 

第百九十六話;天帝の后

 

 

しかし、この歓声の渦の中心にある、当のご本人様にしてみれば・・・

 

 

 

リ:な・・・なんなんだよ・・・これぇ〜!

  何が、どーなってやがんだぁ〜〜!!

 

ダ:おやおや、どうやら嬉しさの余り、気が動転している様だねぇ。

 

リ:するだろ! フツー!!

  だ・・・大体なんで、こんなことになっちまったんだ??

 

ダ:う〜ん、それはだねぇ・・・

 

 

 

現在の、自分自身のあり方に、つい懊悩(おうのう)としてしまっている―――

そんな自分の「相棒」を見つめ、「この世の天上の君」―――『天帝』ダンテは、微笑ましく思っていました。

 

いや―――それにしても・・・リリアの言にもあったように、「どうしてこんなことになってしまったのか」・・・

 

 

それは、リリアが、現在「春禺宮」のバルコニーにて、茫然自失しているほんの数時間前の話し・・・

 

その時には、震災に遭った自分の国を復旧させる為の手段を行っている最中ではありましたが、

訪れた二人の人物の仰天発言(サ プ ラ イ ズ)から、どうやらこの件は発生していたようなのです。

 

その一人である、大皇(おおきみ)ジョカリーヌは、自分が治める国である「パライソ」が、被災した国とは友好関係にある・・・と、云う事で、

復興支援のためにと、自ら現地入りしていたのでした。

 

そんな・・・彼女よりも速く、「彼」は―――現地入りをしていた・・・

 

自分が何者であるか・・・と、名乗るでもなく、ただ一人の、「ボランティア」として・・・

 

しかし、そんな「彼」の事を知っていたジョカリーヌは、直近に、自分の艦として復活を果たした「シャクラディア」をフル稼働させ、

どうにか「彼」のことが、他にも知れない様に手段を講じたのでした。

 

しかし・・・それにしても―――・・・

 

 

 

リ:な・・・なんだよ、それ―――・・・

  いかにも偉そうじゃないか・・・

 

ジ:偉「そう」じゃなくて、偉いんだよ・・・

  この私や、姉さん達をしても、この方の足下(あしもと)にも及ばない・・・

 

リ:(!!)そ―――そんな・・・な、なんかの悪い冗談だろ? そうなんだろ??

  そう云ってくれよ―――ジョカリーヌさん!!

 

 

 

リリアが叫ぶように云い寄っても、ジョカリーヌは沈黙を護り・・・首を横に振るしかありませんでした。

そして何より、リリアを落胆させてしまったのは、その場でジョカリーヌが・・・天帝ダンテに対し、「伏礼」をしてしまったこと―――

 

あんなにも・・・その行為を嫌い、周囲にも強制はさせなかった・・・

そんな自分が、敬愛して()まなかった人物が、率先して・・・畏敬の念を込めて、平伏(ひ れ ふ)している・・・。

 

そのことは、余りにもリリアにとっては大きな衝撃であり、脱力感と苛立ちとが織り交ざってしまった、複雑な感情がリリアを取り巻きつつあったのです。

 

それを見たダンテは―――・・・

 

 

 

ダ:ヤレヤレ―――誰もがそんな風にしてしまうから、おちおちお出かけも出来やしない・・・

  ボクがね、正体を隠したくもなるのは、一つには、「あそこ」にいないことがバレないように―――とした反面、実の処はそう云った処でもあるんだ。

 

リ:・・・るせぇよ―――うるせえよ!お前!!

  「天帝」かなんだか知らねえけど、他人を哀しませてまで、そうする理由がどこにあるってんだ!!

 

  帰れよ・・・帰ってくれ―――! そして二度と・・・私達の前に現れてくんな!!

 

 

 

知った風な口を利き、偉そうなことを云う、少しお茶らけた感じのする男性―――

そんな人物の事を、リリアは好きになれそうにはなれませんでした。

 

だからこそ、そこで怒鳴りもし、自分達の目の前から去るように云ったのです。

 

 

けれど・・・『天帝』が―――ダンテが、今、ここにこうしている理由・・・

それこそは―――・・・

 

 

 

ダ:君がそうしたいのなら、そうしないわけにはいかないけど・・・

  けど―――もう決めちゃったんだ・・・

 

  ボクが一度決めてしまった事は、変わりはしない・・・変わりようも、変えようもないんだ。

 

リ:ケッ―――なに格好つけてやがんだ!

  それに、お前が何を決めつけたかは知らねぇけど、私はそれに従うつもりはないからな・・・

 

 

 

「強制力」の籠ったダンテの言葉に、(かたく)なに反発をするリリア・・・

 

彼女は知らない―――又、知る由もない・・・

そして、知ろうとはしない―――・・・

 

そんな、「強制力」を行使してまで得ようとしているモノに、幸せは見えてこない事など知っていたから・・・

 

けれど、そんなリリアの価値観さえも、「取るに足らない事」である事を、なんと、あのジョカリーヌから聞かされることになり・・・

 

 

 

ジ:(・・・)申し訳ございません―――お赦しもないのに、私如きが口を差し挟む事を、どうかお赦しになられたい・・・

 

ダ:(・・・)いいよ―――

 

ジ:有難うございます・・・

  リリア、この方が現在、この地球へとお越しになって頂いているのは、君に・・・この方自身の「后」になって貰いたいからなんだ。

  そう云う事で、よろしいのですよね―――天帝ダンテ様・・・

 

ダ:そ・・・そう云う事―――

  でもね〜ボクとしては、もう少しじっくり・・・腰を据えて、未来の生活設計なんかの交渉を、彼女としようとしていたんだけどねぇ〜。

 

リ:・・・は? ちょ―――ちょっと待てよ・・・

  なんだよ、それ・・・私が―――「后」?? こんなヤツの???

 

   冗談だろ・・・厭だよ、「はい」って云えるわけがねえだろ?!

  それにだよ・・・私には、ちゃんと心に決めた(ヒト)が―――・・・

 

ジ:リリア・・・君のそうした気持ちも判らないではないが・・・もう、決められてしまった事なんだ。

  いくら私でも、どうしようも出来ない―――それに、この方の有する顕現(ユビキタス)が発現してしまえば、この私の次元隔壁でさえも無意味なモノとなってしまう・・・

  つまりは、私達の間には、それほどの実力の格差と云うモノが存在するんだ・・・

  それでも、今もって尚、私の隔壁が保たれていると云う事は、一つにはこの方の温情に他ならない・・・

 

  それに・・・もう―――・・・

 

 

 

秘事が漏れないよう便宜が図られた、ジョカリーヌが形成した固有空間と、通常空間とが同調(シンクロ)し始めた・・・

 

認めたくない現実と、通常(い つ も)の現実としての空間―――

そんな大いなる差異(ギャップ)の狭間に堕ち込んでしまったリリアは、しばらく・・・力無く・・・肩を落とし、その場へとへたり込んでしまった・・・

 

その事を、これ幸いと感じたのか、次にリリアが自分を取り戻した瞬間―――それこそが、今回のお話しの冒頭の部分だったのです。

 

 

自分達を祝福する、どよめきと歓声の中・・・リリアは我に返りました。

しかし、当のご本人様にしてみれば―――・・・

 

 

 

リ:(くっそ〜〜私が自分を見失っている時に、既にとんでもない事になってんじゃんかぁ〜〜!)

  きいてねぇよ・・・っとに―――誰か、今の私に、ちゃんと判るような説明をしてくれぇ〜!!

 

 

 

自分でも、こんな事になるとは思ってすらいなかった・・・

しかも、自分達を歓待する者達を見てみれば、実に種々様々な、顔・・・顔・・・顔・・・

 

その事にリリアは、またも卒倒しかけるのでしたが、気を利かせて―――なのか・・・

この度、自分の「配偶」となった女性を、「お披露目」はそこそこに・・・別室へと避難(エスケープ)させたのです。

 

そんな、自分の伴侶となった人物に、憤懣(ふんまん)やるかたないリリアは、(つい)ぞ声を荒げてしまうのでしたが、

新たなる「天帝の后」の、そんな一面を諌めるべく、現在リリアがいる部屋に入室してきた人物に、リリアは―――・・・

 

 

 

リ:〜っきしょ―――なんだか段々腹が立ってきた・・・

  誰か、あのヤローをここに連れて来い!!

 

ヨ:騒々しいですね・・・あなたと云う人は―――

  外まで丸聞こえですよ。

 

リ:(ん??)

  あら? なんだお前・・・・おま―――どうしてお前がこんな処にぃ??

 

ヨ:いてはいけませんか。

  しかし、いくら否定したくとも、出来ないモノなのです・・・。

  これが、「現実」なのですから―――

 

 

 

監獄惑星オンドゥの「獄長」である、マリア=ルヴィ=モルガン―――

その彼女の恋人(?)である「クラウドマン」―――本名を、ヨヴ=ベクター=マクドガル・・・

その彼が、自称「天帝」を名乗る存在の近くに、どうしているのか・・・

リリアには、見当すらつきませんでした。

 

しかし、ヨヴにしてみれば、以前からそうなのだから、今更その事に言及しても仕方のない事だとしていたのです。

 

けれど、そう・・・その事は、裏を(かえ)してみれば―――

 

今までは、謎めいた言動ばかり残してきたこの人物の、「真理」と云うモノが、垣間見えてきた瞬間でもあったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと