存外にも、大変な依頼を請け負ったモノだ―――と、ビリーは後になって後悔していました。
しかし、約束した事は約束した事―――依頼された事は依頼された事―――と、割り切り、今回の依頼内容を、どうやってこなすか・・・を、思案した時、
「やはりあいつに頼むしかないか・・・」との結論に至ったのです。
第百九十八話;紛い物
ビリーはまず、滅多と「相棒」を組んで、仕事はしていませんでした。
・・・が、ビリー一人では手に余りある場合、「相棒」を択んで、組んで仕事をこなしていたのです。
今も―――彼はそうした、今回の依頼に適任である「相棒」に、今回の依頼の話しを持ちかける為、とある惑星の、とある教会に足を運んだのでした。
そう・・・「とある教会」に―――・・・
その惑星の、厳正なる入星管理審査をパスし、目的地である「教会」を目指すビリー・・・
そして、「教会」に着いて、「ある人物」を訪ねる為、近くにいた児童に訊ねてみると・・・
孤:あ〜〜っ! ビリーのにぃちゃんた〜〜! おかいり〜♪
ビ:いゃ〜っはは・・・「お帰り」つったって、ここはオレのホームじゃないんだがなぁ・・・
孤:えへへへ・・・あっ、ヘレ〜ン! ビリーのおにぃちゃんきたを〜?!
ヘ:よく来てくれましたね・・・。
それにしても、いつ以来になるでしょうか―――
ビ:は―――ははは・・・悪いのな、御無沙汰をしていたわけじゃないんだが・・・
まぁオレも、事情―――ってなモノがあるのさ。
この「児童」―――「教会」に併設されてある「孤児院」の「孤児」は、ビリーの事をよく知っていたようで、
彼が孤児院に来る度に、孤児たちによくしてくれているので、ビリーに懐いていたのです。
そして・・・この「孤児院」を運営・管理していたのが―――なんと、あの・・・「ハタルドゥーミ教会」のシスターである、「ヘレン=サピロス=カーネギー」だったのです。
しかし・・・??
このお話しでのヘレンの実態は、最早説明無用―――誰もが御承知のはず・・・
なのに・・・?
なぜ、この時ばかりは、愛想の好い笑みを浮かべ、淑やかな言葉遣いだったのか・・・
ここで一つ面白い事を述べるに、普段ハタルドゥーミ教会にて務めている時のヘレンは、ご覧の通り・・・
つまり、ここにいる孤児たちは、一人として、ヘレンの裏の顔を知らずにいたのです。
そしてそれは、ビリーとて同じこと・・・彼もまた、自分達によくしてくれる、「気前の好いお兄ちゃん」くらいの認識しか、なされていなかったのです。
けれど・・・「彼」が「彼女」の下を訪れた理由・・・それこそは―――・・・
その為に、孤児達が近付かないように、告解部屋を利用した処・・・
ヘ:―――はっ! 「オレにも事情てのがある」んだと〜。
面白い事を云う様になったもんよねぇ・・・あんたも。
ビ:皮肉を云うもんじゃねぇ。
お前を頼りにしてるから、こうして来てるんじゃねえか。
ヘ:またその「殺し文句」ダヨ・・・
云われ慣れてくると、案外白けてくるもんよねぇ・・・
ビ:全く・・・お前って奴ぁ―――・・・
じゃ、どうすればいいってんだよ。
ヘ:・・・そんなの―――判ってるじゃない・・・バカ
全く持って、「女」と云う「生き物」は、判らない・・・
先程、孤児達と一緒に自分を出迎えた時には、聖職者然としていたモノだったのに・・・
それが、場所を一変させた途端、自分の、最良の「相棒」である、「賞金稼ぎ」に早変わり・・・
しかも、ヘレンとは永い付き合いである事もあり、ある一面では、照れ隠しのように振る舞っている処が、彼女の可愛らしさでもあると、再認識できるのです。
ともあれ・・・ヘレンを訪ねた理由を述べると―――
ヘ:はああ?! あんた・・・今―――自分が云った事が判ってんの??
ビ:ああ、充分過ぎるほどに・・・な。
ヘ:・・・たくぅ―――・・・
レヴェッカと云えば、ここ数百年前までは、「現役」だったって云うじゃない・・・。
それが、後任に跡目を譲って、隠居生活を送ってる―――って、噂には聞いてたけど・・・
まさか、今更になって、頂上に返り咲こうってしてるんじゃ―――・・・
ビ:さぁて、な・・・オレとの話の時にゃ、そんな素振りなんざ見せやしなかったが・・・
お前が云うからには、案外そうなのかもなぁ・・・
ヘ:「私が云うからには」・・・って―――あんた、コレの、事の重大さ・・・判ってんの?
あいつは・・・レヴェッカは、宇宙広域指定暴力組織「マシロヒ会」の会長だった女よ・・・。
あの女が「現役」だった時代、宇宙には心休まる時間も場所もなかったって云うわ・・・
いつもどこかで、血で血を洗う抗争が繰り返され、裏切りや恐喝は日常茶飯事―――
あの女が引退する・・・って聞いた時、誰もが安心して喜んだそうじゃないの。
それが・・・なんで今になって―――・・・
聞けば、泣く子も黙る―――そんな組織の頂点に君臨していた事のある「女」・・・
「宇宙広域指定暴力組織」と云えば、云わば「ヤクザ」や「極道」と云った連中の集まりで、
UPも、彼らを「反社会的勢力」としてみなし、厳しい取り締まりの対象に措いていたのです。
そんな女性が・・・コトの理由は如何とはしても、また再び、頂点に返り咲こうとしている・・・
コレの意味することは、やはり再び、宇宙に安息の日は訪れはしない・・・また皆が、彼女の影に脅えて暮らさないといけない・・・
そうヘレンは認識するのでしたが―――・・・
一方の、そんなレヴェッカからの依頼を受けたビリーは、また違った捉え方をしていたのでした。
ビ:う〜ん、そうは云うがなぁ・・・オレが今回会った印象は、そう云うのとはまたどこか違っていたように見えたぜ。
その証拠によ・・・コレが、今回の荷のサンプルなんだが―――お前もひとつ試してみろよ。
ヘ:はああ? なんで私が、「麻薬」―――・・・
ビ:まあいいから・・・
それに、オレもこいつを試したんだぜ―――この・・・数時間前に・・・な。
ヘ:(!)・・・判ったわよ―――
その事を判らせるためには、手っ取り早い方法が一つ・・・
それは、ヘレンにも、今回の依頼の荷である、「新薬のサンプル」を、試用させること・・・
その事にヘレンは、当初抵抗したモノでしたが、気心の知れ会っている彼が、直近に使用し、何ら異状が認められていないことを前提に、自分も試すことにしたのです。
すると―――・・・
ヘ:(・・・?)
なんともないじゃない―――これ・・・
ビ:だろうな。
そいつは至って、普通の「栄養剤」なんだそうだ―――・・・
ヘ:(・・・)はああ? 何それ・・・益々やること判んないし―――それに、こんな事がバレたら、あんただって無事には・・・
ビ:そこは推して知るべし―――だろ。
だからこそオレは、お前にこの話しを持ちかけてきたのさ。
それにな・・・あの人も云っていたが、こいつは、あの人なりの「けじめのつけ方」なのさ。
そこでビリーは、今回の依頼を受けた経緯を語り始めました。
可愛がっていた姪っ子を、麻薬漬けにされた挙句に殺されてしまった・・・
けれどそうした事は、今までにも自分が他人にしてきた業の深さゆえに―――だけども、やはり姪っ子の無念さを汲み、
姪っ子を不幸な目に遭わせた奴らに、同等か・・・またそれ以上の目に遭わせてやりたい―――
なぜなら・・・姪っ子は、自分がどうしてこんな目に遭わなければならないのか・・・その理由すらも判らずに死んでしまったのだから・・・
そうした詳細を知るに、人情の脆さが露呈してしまったヘレンは、二つ返事で返してしまい、
彼女自身もまた、「賞金稼ぎ・クルセイダー」の装束に身を包んだのです。
これで、こちらの態勢は整いました・・・が―――
大事なのは、「紛い物」を利用して、麻薬の取引を主な生業としている・・・そんな処を、如何にして信用させるか・・・
いや―――そもそも今回の依頼は、むしろ「バレる事」が前提だったらば・・・
だからこそレヴェッカは、ビリーに依頼をしたのだ・・・そう勘繰れなくもないのです。
そのビリーとヘレンも、今は、「運び屋」と「その助手」になり済まし、そうした組織との、取引の現場に立ち会っていたのでした。
ビ:―――で、こいつが今回の「新薬」だ・・・
取:ふぅむ・・・それで? 効き目の方は―――?
ビ:一応、「サンプル」ってなもんを試さされたよ。
そしたらすげえのなんの―――あっという間に、天から地へ・・・てな具合に、トリップ出来る代物さ。
取:ふぅん・・・しかし、口ばかりでは、信用できんな。
ビ:おいおい・・・こちとら、身体張って実験台になってるんだぜ?
そのオレの証言を、信用できねえって云うのかい・・・。
取:―――・・・
ビ:なら、しゃあねえなぁ。
この取引は、なかった話し―――てなことで、「あの人」に報告する市かねぇ・・・
さあて、どんな返事が返るか―――愉しみってなもんだ。
オレぁ、知らねえぜ・・・なんせ、あんたも知っての様に―――
取:(〜〜)判った判った―――「あの人」に逆らえば、この業界じゃ生き残って行けやしない・・・
ビ:―――じゃ、取引成立・・・って事で・・・
口八丁―――手八丁―――とはこのことで、巧みなビリーの話術に引き込まれてしまった、今回の取引相手でしたが・・・
この「新薬」の出処を知っていたがため、程度以上に拒む事も出来ず・・・
とうとうビリーの云うがままに、その「新薬」が「紛い物」とは知らず、取引を成約してしまったのです。
直後―――どんなモノかと、組織内で試した処・・・
「紛い物」である事がすぐに知れ、取引の破棄を申し出たのですが・・・
当の「出処」からは、「知らぬ存ぜぬ」―――また、取引現場に来ていた「運び屋」と「その助手」についても、
本人照会を行った結果、提示されていた証明書類が、偽造のモノだと云う事が判り・・・
そこで初めて、「麻薬取引組織」は、自分達が騙されていた事に気が付いたのでした。
=続く=