前のお話しで―――自由奔放且つ、破天荒なお姫様との出会いと、その彼女と一緒の旅路から戻ってきた市子は、
自分が落ち着ける場所を求めて、この度居住権を獲得した、オデッセイアの隣国である「サライ」にいました。
そこで―――都心ではないながらも、自分が思い描いていた・・・まさに理想の地を見つけ、早速そこでの生活を始めたのです。
そして人心地ついたところで、あの自由奔放で破天荒なお姫様経緯で知り合う事になった、この国の女王様に、今回の旅の報告をするため、
サライ国の王都である「ユーニス城」へと赴いた市子は・・・
第二話;女王と女座頭
ソ:―――あら、あなたは・・・
市:この度より、ご厄介になります―――ソフィア女王陛下・・・
忙しい政務の合間を縫い、人工湖の畔にある庭園で小休止をしていたサライ国の女王に面会を申し出てきたのは、
先頃この国を訪れた隣国のお姫様と一緒に旅をしていた、盲目の女性―――女座頭の市子なのでした。
彼女が旅をしていた目的の一つに、身体の不自由な者でも何不自由なく生活が出来る環境を求めてのことであり、
それが、旅先で噂に聞いていた、この国に定住出来れば―――と、云う、希望を持っていたからなのです。
ところが・・・ひょんな成り行きから、知りあう事になったある女性―――
初めは、「女傭兵アルディナ」と名乗っていたのですが、所用でこの国に来た時―――幼馴染だと云う、この国・・・サライ国の女王陛下からの取りなしで、
サライの隣国―――「オデッセイア」と云う国の、次代の王を担う姫君だと云う事を知らされ、大変驚いたものだったのです。
それから―――あれよあれよという間に、お話しは展開していき・・・
万事丸く収まったところで、市子はサライへと戻ってきていたのです。
ともあれ、今はその時のお礼を述べようと、サライ国女王の「ソフィア=エル=ホメロス」と面会を果たした市子は・・・
ソ:それより―――あの人との旅はいかがでしたか・・・
市:はい、大変貴重な体験をさせて頂きました。
あの方といると、毎日が退屈なんかしなくて―――・・・
ソ:そうでしょうね・・・私も幼少の頃、あの人と仲良くさせて頂きましたが―――
当時の私は、既にサライの当主となるべく、帝王学を学んでいた時期でもあったのです。
その時に・・・あの人に会った印象は―――自由奔放そのもの。
民達の着るモノを着―――食べるモノを食べ―――民達が喋る言葉で話す・・・
そんなモノは、当時の私にとっては卑俗なモノにしか映りませんでしたが・・・同時に憧憬れの念を抱いたのも事実―――
そして次第に交わって行く内に、私の内の価値観も次第に変わって行ったのです。
ソフィアは、初めてリリアと会った時の感想を市子に話して聞かせました。
あれはまだ―――ソフィアもリリアも幼かった時代・・・
同じ、一国の姫君としての立場で出会った時、両者の違いは歴然としていました。
ソフィアは、サライ国に相応しい当主となるよう、父王から英才教育―――「帝王学」を学び、
まさにどこに出しても恥ずかしくないように仕立て上げられていました。
片や―――リリアは・・・そんなソフィアとは好対照・・・
丁度この時、父である「前オデッセイア国王」に連れられサライ国を訪問した時でも、
同伴していたリリアの格好は、これが一国の姫君か―――と、疑いたくなるような・・・云うなれば、この界隈で流通している庶民の服を召していたのです。
それに・・・自分のように、お淑やかな言葉遣いではない―――他人を呼びつける時でも「おい」だとか「お前」だとか・・・
剰、自分の父親を「親父」―――などと・・・少々荒っぽい、俗な言葉遣いで周囲りをハラハラさせていたモノだったのです。
そんな自由奔放なリリアを見て、ソフィアの幼心にも、ある種の憧憬れが芽生え始めてきたのです。
自分も・・・一日―――いや、一度でいいから、彼女のように奔放に振舞ってみたい・・・
そう思い、思い切ってリリアに相談を持ちかけてみたところ―――
リ:はあ? そんなもん自分で決めなよ。
あたしは、親父の奴が「お前の好きなようにしていい」って云われてるから、町のガキ共を集めて遊んだりもするし、それに野宿をすることだって少なくない・・・
それにな、あと―――・・・
彼女は―――何者にも縛られない・・・
かと云って、躾がなっていないか―――と、云えば、必ずしもそうではない・・・
節度ある処はきちんと弁え、その範疇で自由奔放に振舞う―――・・・
ソフィアの目には、そんなリリアが羨ましくも―――また、眩しくも見えました。
そしてそこで、決定的な事に気付いてしまうのです。
市:あなた様との―――違い?
ソ:そう―――どこをどう取っても、私は結局の処・・・お父様の敷いたレールの上でしか動く事が出来なかった・・・動く事を知らなかった。
でもあの人は、既にあの当時―――私と同じ年頃だった時に、自分で何もかもを決める事が出来ていたし、その事によって発生する「責任」がある事を自覚していた・・・
つまり、「自立心」を身に付けていたのです。
決められた枠の中で、決められた事しか出来ない・・・それも立派な能力―――
けれども、臨機応変に思考が出来る者と比べると、それはどうでしょうか―――・・・
型に嵌り、「法」と云う決まった枠組みの中でしか行動できない―――
そんな窮屈な考え方で、果たして自分が治める国が繁栄するのだろうか・・・
確かに―――「法」で守られている以上、それなりの幸せは保証されるだろう・・・
けれども、それは所詮―――「それなり」・・・
その事が果たして、万民にとって幸せなことなのでしょうか。
「法」によっては、言論でさえも統制―――縛る事が出来るし、また万民から税を搾取する事も出来る・・・。
厳しい法律が出来れば、当然その法律の網を掻い潜り、悪い事をしようとする連中が輩出してくる・・・。
その事が悪い循環を産んでしまい、法律を施行する前よりも治安が悪化してしまった、悪い事例すらあると云う・・・。
それに、結局の処・・・法律を整備しても、甘い汁を吸っているのは官ばかりではないか―――と、彼女から皮肉られたのは、そう遠くない過去に・・・だったのです。
ソ:けれど・・・あの人もそんな事を云っていられなくなってしまった―――
市:・・・それは、三年前に崩御されたと云う、前のオデッセイア国王のことでしょうか。
ソ:そうね・・・あなたも、あの人が次期オデッセイア国王であると知った時、ならば今は―――と、思った事でしょう。
けれどそれは、過ぎたる心配―――誰も、あの人を差し置いて自分が国王に・・・と、云う者は、少なくともあの国にはいないのですよ。
サライ国女王のその言葉の内には、それがどれだけリリアが国民達に慕われているかを象徴していました。
そしてその事実を知り、市子はある兵学書の一節を思い出していました。
『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方』・・・
どんなに堅固な城塞を国に持つ者でも、人がついてこなければ、それは裸も同然・・・
けれども人情の繋がりがあれば、譬えどんな肋屋な砦に構えていたとしても、それはどんな難攻不落の城塞にも勝るものとなる・・・
事実リリアは、恐らく彼女ですら気付かないうちに、培ってきた国民達の信頼の下に、新たなオデッセイアの国王になろうとしているのだ―――
そう市子は信じていたのですが・・・
ところが―――・・・
ギ:残念ですが―――私はそうは思いませんね。
ソ:ギル―――・・・
市:ギルバートさん・・・でも、どうして―――
ギ:確かに、あの人の治世力、他人を惹き付ける力―――などは、あの人のお父上に勝るとも劣らないと思います。
けれど・・・あの人に関して、最も忘れてはならない重要な項目―――それはですね、あの人は「大」の「面倒臭がり屋」なのです。
市:では―――・・・
ギ:恐らく、今もって尚―――そうされていないのは、何よりもの証拠だと思いますよ。
二人の会話を、いつから聞いていたものか―――サライの「鉄腕宰相」ことギルバートから・・・
少なくとも容易には、リリアは玉座に収まらないとの見解が成されていたのでした。
その事を聞くなり、ギルバートは戯れ半分に―――と、市子も思っていたのですが・・・
よくリリアの性格を考慮していく内に、当てはまり過ぎるピースが多い事に気が付き、反面リリアを信じている者達に同情してしまうのでした。
=続く=