「天帝の后」としての業務開始早々、リリアは途方に暮れていました。

 

それもそのはず、説明の時に提示された数値「数百億」と云うのも実は、「その時点」での数値であり、定まった数値など、どこにもなかったのですから。

 

つまり、コレの意味する処とは―――・・・

 

 

 

官:次、この書類お願いしますね―――

 

リ:(・・・)〜んがああ! ちょっと待てや―――ゴルァ!

  こっちが片付けて行く先から増やしてくこたぁないだろが?!

 

官:とは申しましても・・・そうしている間にも―――・・・

 

 

 

リリア自身が敬愛して()まないジョカリーヌの言葉が、ここにきてようやく理解し始めてきました・・・

確かに、天帝の業務の代理執行としての「内容」は、至極単純ではあったのですが、

その量の多さと云うのが、半端ないことこの上ない―――ながらも、次から次へと追加されてくる事に、ついにリリアは逆上(キ  レ)てしまったのです。

 

しかし、手を休めてしまえば、それだけまた増えていく―――と云う道理もあり、その事は、実際の話し・・・あのジョカリーヌでさえも、当初の内では軽視していた事実でもあったのです。

(つまりは、ジョカリーヌも、リリア同様・・・最初に提示された量をこなせれば、「それで終わり」だと思っていた節があった・・・と、云う事)

 

それに・・・少し気が落ち着いた処で、実際、自分が「璽」を押している書類に、目を落としてみると・・・

 

 

 

リ:(・・・な、なんなんだよ、これ・・・今まで、そんなに気になんかしちゃいなかったけど・・・)

  ・・・これって、一つの惑星の「死」に関する、「許可書」みたいなもんじゃんかよ・・・。

 

 

 

こんなにも重たいモノを、それを、自分が許可する(しるし)を押している事に、次第にリリアの内にも躊躇(た め ら)いが生じてきました。

 

けれど、こうしている間にも、リリアが決裁(さ ば か)なければならない書類の(かさ)は、増して行くばかりとなり・・・

すると、作業の進行度合いを見る為―――なのか、天帝ご自身が、リリアの(もと)に顔を覗かせ・・・

 

 

 

ダ:やあ―――どうだい。

リ:・・・ああ、お前か―――いや、その・・・

 

ダ:ふぅん、どうやら、自分がしている事の「重さ」と云うモノが、気になり出したのかい。

リ:(!)そうだよ―――それに、元々私は・・・

 

ダ:こう云ったモノはね、機械的に・・・淡々とこなして行くのが、一番なんだよ。

リ:(!)そうは云うけどさぁ・・・惑星には、そこに住んでいる人達とか―――・・・

 

ダ:なるほどね。

  だったら、これだけは理解しておいて貰おう。

 

  そうした決定を下した処はね・・・もう、生物なんて住めない―――文字通り、「死の惑星」なんだよ。

 

リ:(!!)そ・・・そんなこと―――って・・・

 

ダ:それにね、君は何か勘違いをしているようだけど―――

  だったらさ・・・君の住んでいた国で、人口が劇的に減ってしまった事はあるかもしれないけれど、それでも「誰もいなくなってしまった」事実はあるのかい。

 

リ:(?)どう云う・・・事だ? そりゃ―――

 

ダ:つまり・・・だね、お年寄りが寿命で亡くなってしまう―――若年層や、最若年層である「乳幼児」が、何らかの障害(ト ラ ブ ル)・・・「事故」「疾病」「戦争」等によって亡くなっても、

  「新しい生命が産まれてこなかった」事実など、ありはしないんだ。

 

リ:(・・・)ああ、そう云う事か!

  そう云えば確かに、ある集落で葬式があった反面、別の集落では赤ちゃんが生まれているのを、何度か目にしたことがあるなぁ・・・。

  そか、つまり・・・これは―――・・・

 

 

 

ダンテからの判り易い説明により、リリアも一定の理解を示し始めていました。

 

どんなに大きくとも、大きな括りでは「一つの生命体」・・・

動物や植物が死んで逝くのに、その大元である惑星が、死んで逝かないはずがない・・・

ただ、自分達は、(こま)かき・・・かそけき存在なので、少しの障害でさえ、生命を落としてしまう事にもなりかねない・・・

けれど、大きな存在である惑星は、余程の事がない限り、死に至る事は、ない・・・

 

つまり、その「許可書」にあったモノは、もうこれ以上、生命を(はぐく)めなくなった惑星の運命・・・

今までの、役割を果たしてきた者への、「感謝状」―――とも、とれなくもなかったのです。

 

確かにリリアは、それまで、そんな事は何一つ知らず―――または意識などしたりもせず、活きてきたモノでしたが、

こうした責任ある仕事を経由したお陰もあり、次第に「この世の(ことわり)」が判り始めてきたモノでした。

 

そしてこれは・・・そんな時に起こった出来事だったのです。

 

 

第二百一話;小さきも手強き存在

 

 

今日(こんにち)も、(そつ)なく業務の代理執行を(すす)めるリリアの下に、「クラウドマン」こと、ヨヴが顔を覗かせ―――・・・

 

 

 

ヨ:いかがです、(はかど)っていますか。

リ:なんだよ、お前か・・・

  いいのか、マリアさん放っといて。

 

ヨ:構いませんよ。

  それよりも、重要な頼みごとを、あなたにしたいのですが―――よろしいですか。

リ:あ゛あ゛?! まだこれ以上に、私の仕事を増やす―――てのか!?

  冗談も大概に・・・

 

ヨ:実を申しますと、天帝様の手が空いたので、幾分かこちらの業務を回す事が出来ましてね。

  その事の報告―――と、実はあなたに会わせたい人物がいるのです。

 

 

 

自分を又、茶化しに来たのではないか―――と、つい構えてしまうリリアでしたが、

存外に彼は、嬉しくなってくるような報告と、新たな出会いを持って来てくれたのです。

 

その事に、一通りは感謝の意を表し、業務を中断させて、今回自分に会ってみたいと願う人物の(もと)に出向いてみれば・・・

 

 

 

リ:(・・・)あれ? いねぇぞ??

  確か、(さき)に待ってる―――って、あいつは云ってたけどなぁ・・・

 

 

 

人を待たせてある場所に辿り着いてみた処、そこには人影さえも見えなかった・・・

ヨヴの言い様では、(さき)にその場所で、リリアの事を待っている―――そう聞かされていたのに・・・

ならばこれは、もしかするとヨヴに担がれたのかもしれないと思い、文句を云う為、そこから(きびす)を返そうとした処・・・

 

 

 

謎:おう―――こら、ちょい待ちないや。

 

 

 

ふと・・・背後で、自分を呼び止める声―――

だから、振り返って確かめてみても、やはりそこには誰もおらず・・・

―――と、思っていたら・・・

 

 

 

謎:失礼なやっちゃのう。

  そがいなとこ見ても、見えるわきゃなかろうが。

 

リ:(・・・え? 下??)

  ・・・つて、あんた誰?

 

謎:ち・・・やれんわいのう。

  今期の「后」ちゅんは、こがいに無礼な奴なんか。

 

リ:(う゛・・・)あはは〜〜こりゃどーも、まだなって日が浅いもんでして〜〜

  ・・・それより、誰なの?

 

謎:フ・・・まあええわい。

  わてはの、レヴェッカ=カストゥール=フェルナンデスっちゅうもんよ。

  ちぃと、今の「(あんた)」の力を借りとうてのぅ。

 

 

 

驚くほど小さき女性が、自分よりも荒々しい言葉を紡ぎながら、自分に迫ってくる・・・

リリアは、この少しばかりの接触で、既に気圧されてしまった感も否めなくなってしまったモノでしたが、

どうやら相手の方も、リリアでないと目的が遂げられないと感じていた為、「大事の前の小事」を取り、話しを進めてきたのです。

 

そして、先方の紹介が終わったことで、今度は自分の番・・・

 

 

 

リ:あ〜そっすか、じゃ、あんたが今回の依頼主ってことだな。

  私はリリア―――リリア=ディジィ=ナグゾスサール・・・ってんだ。

 

レ:(!)なに? 「ナグゾスサール」?!

  あんた・・・そりゃほんまかい―――

 

リ:(は?)いや・・・ほんまもなにも―――これが私の本名なんだけど・・・どうかしたのか?

 

レ:(・・・)いや、まあええ―――そこんところは、今回直接の関係はない。

  必要なんは、あんたが「今期の后」であることじゃ。

 

リ:(!)おい・・・ちょっと待てよ。

  なんだよ、そりゃ―――それって、なにか? あんたが必要としてるのは、「私」・・・じゃなくて―――

 

レ:おお、察しがええのぅ。

  わてが協力願いたいんは、「天帝の后」その人にあるんよ。

 

 

 

「小さき女性」―――レヴェッカが、リリアの名を聞いた時、少しばかり怪訝そうな顔になりました。

 

しかしレヴェッカが注目したのは、リリアの本名そのものではなく、「ナグゾスサール」と云う部位だけ、

リリア自身も、その「名」にどれだけの意味が含まれているのか知らない・・・

それに、そこまで気にする様な事でもなかったので、その時まで気にする必要などなかったのです。

 

ですがレヴェッカは、過去―――数百年ほど前に、自身が所属していた組織と、「ナグゾスサール」とが、何らかの関係(かかわり)を持っていた為、思う処となっていたのです。

 

 

それはそうと、早速本題に―――

しかし、今回レヴェッカが、直接会って何かしらの頼みごとをしたかったのは、「天帝の后」だと云う事に、

思わずリリアは触発されそうになっていたのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと