食料や物資を運搬する為の―――「橋」・・・
地域間の交流を促進させる―――「橋」・・・
けれど、国と国とが争い合う「戦争」ともなれば、「橋」の役割と云うものは殊更重要になってくるのでした。
そう―――他国に攻め入る為の・・・「経路」。
サライとプロメテウスの間に流れるイコン河に架かる四つもの橋―――
これらの橋を抑える事こそが、両軍にとっての最重要課題と云えました。
しかし―――・・・得体の知れない「何者」かによって、プロメテウス軍も・・・また、サライ軍も、その四つの橋付近に足止めをさせられていたのです。
それに・・・どうも報告の中では、その「得体の知れない何者か」の一人が、オデッセイア国のリリア―――ではないか・・・との噂が、実しやかに流れていたのです。
とは云え、オデッセイア国のリリアは、今回のプロメテウスとサライとの武力衝突は、自分達には関係のないことだとし、どちらにもつかないことを表明していたのです。
ならば・・・四つの橋の近辺に屯し、プロメテウスのサライ侵攻を妨げているのは―――誰・・・?
時は―――サライに齎された一報より、数時間前・・・
自分の部屋に戻ったリリアは、密かにオデッセイアの将軍―――ミンクスを呼んでいました。
第二十一話:未来に架かる橋
ミ:私をお呼びだとか―――
リ:ああ、そうだが・・・何だ、やはりお前も機嫌が悪いみたいだな。
ミ:当たり前でしょう!? 確かに―――不文律とは云え、サライとの協定はありましたが・・・それをなぜ今になって―――・・・
リ:フン―――それがどうしたんだ、小さいな・・・
第一、ミンクス―――お前の立場は何なんだ? オデッセイアの人間ではないのか、今の口の利き方を見てみるとサライの人間かと思えてしまうぞ。
オデッセイア軍の一将校であるミンクス=ウインスレット=レオニードは、リリアよりも5つ年上で、リリアにとっては兄貴分的存在でした。
それ故、彼自身も幼少の頃からリリアと交流があり、この国で数少ないリリアの理解者の一人でもあったのです。
しかし―――そんな彼でも、ここ最近のリリアの行動には疑問がありました。
謎の失踪をした直後から、情勢の先を見極める能力―――いわゆる「大局観」を備えている・・・
今回、サライからの救援要請を断ったのもそうであるように、自分達が出兵をしなくても、
プロメテウスの出師が徒労に終わるだろうことを予見するかのような言葉に、ミンクスは感服していたのです。
けれどリリアがわざわざミンクスを呼びつけたのは、何も彼に説教じみた事を云うのではなく―――・・・
リ:それよりも―――だな、実はお前には、この国の守備を任せて貰って欲しいんだ。
ミ:はあ? ですがそれは―――いつもと同じことなのでは・・・
それに、サライが攻め込まれたとあっては、彼の国に救援を向かわせる方が先決なのでは・・・
リ:判っていない奴だな―――だったら私が、今更そんな事を云う必要はない・・・
ミ:・・・なるほど―――つまりそこで、リリア様のお考え・・・と、云う事ですか。
その場でリリアがミンクスに与えた指令とは、「オデッセイアを守護せよ」―――・・・
ただ―――これが普通の・・・いつも通りの指令ならば、リリアが呼び出して殊更に云わなくてもいいのです。
そこの処の真意を汲み取り、ミンクスもリリアのこの考えに同調するのですが・・・
ならば、リリアの考えている事とは、一体―――・・・
リ:私は―――これからエクステナーを一つに纏める。
だが、それをするには、私達が争い合っていたんではダメなんだ・・・
リリアは―――いわゆる処の「平和主義者」ではなく、どちらかと云うと戦乱を好むタイプなのでしょう。
そんな彼女が、得てしてそんな事を云うのは、噴飯甚だしい事でもありました。
けれど、その部屋に呼び出された者は、嗤う事はありませんでした。
なぜならば・・・リリアの眸の奥に、これまでにもない真実の輝きを見ていたから―――
この女性は・・・これまでにない強固な意志の下、崇高な理念を掲げ上げ、邁進しようとしている―――
圧倒・圧巻―――その時のリリアの目には、それだけの気迫がこもっており、何人も彼女の理想を邪魔だてる者などいないとさえ思えた・・・
だからこそミンクスは、次なるリリアの言葉を期待して耳を傾けたのです。
しかし、その次の言葉こそが―――・・・
ミ:・・・え? また―――旅を?
リ:ああ―――だけど、今回の旅は蓮也・・・あいつを一緒に連れていく。
ミ:蓮也様を・・・それはまた、どうして―――
リ:なに、そう難しい話じゃない―――ちょいとイコンに架かってる四つの橋に用があるので・・・な。
そこで今回の発言の意図が語られたのです。
その中で、リリアはエクステナー大陸の全土統一を掲げるのですが、それにしては他国への侵攻の意思は見せないし、
だからと云って、また旅に出ると云うのも判らないのですが―――
するとまたそこで、旅の目的が語られたのです。
その目的こそ―――前回のお話しでも話題になった、イコン河に架かる四つの橋・・・
そう―――今まさしく、四つある橋の一つ「クレッシュ」の袂で、眼前にプロメテウス軍を見据えながら、リリアと蓮也とマキとラスネールは・・・
リ:一応―――この橋がユーニスに近いからな・・・ここさえ食い止めとけば、どうにか時間は稼げるだろ。
マ:にゃははは―――w リリアちゃんたらかっわいいんだ〜w
リ:―――ちょっと、マキさん・・・なに云いだすんだよ、急に。
ラ:フッ―――おかしくもなってくるさ、お嬢。
なんたってな、アンカレスに出張ったお二方は、未だもってシャクラディアには戻ってないんだとさ。
つまりだな、お嬢の受け売りでもないんだが・・・ここはワシらの出る幕でもなさそうなのさ。
リ:(ん?)あのお二方―――って・・・そう云えば、かわいらしい女の子と・・・マキさんの一族の方―――だったような・・・
マ:そ〜ゆ〜ことw アタシも最近知ったんだけどね、アタシのおかぁたまとそのお友達の人が、実はもう「オーレク」と「ベッシュ」にスタンバってるんですと。
初めにリリアは、自分達だけでプロメテウス軍を退けよう―――などとは少しも思ってもいませんでした。
その一軍だけでも、一国家の軍隊総てに匹敵する戦力をもつプロメテウス軍・・・
そんな軍に、配下の一兵卒すらつかない自分達が敵うわけがない・・・
だからこそ、サライの首都であるユーニスに一番近い橋梁―――「クレッシュ」にて、プロメテウスの本隊到着を遅らせよう・・・
そうすればまた、諦めて帰ってくれるかもしれない―――・・・
リリアの本心は、実はそこにあったのです。
けれども、そんなリリアの思惑を―――まだ更なる大国の主である、パライソ大皇・ジョカリーヌは知るでもなく、
リリアの故国であるオデッセイアの北部地方―――「アンカレス」救援のために派遣する時、部下にはこう云い含めていたのです。
―――「判っているね」・・・
果たして、この簡潔に過ぎた言葉がなにを意味していたのか―――
アンカレスが鎮圧されたのは、ある情報漏洩者によって知ることが出来た・・・
だけど、用件は済んだはずなのに、中々戻らない二人の部下―――
確かにあの時、ジョカリーヌはリリアにも聞こえるように・・・そして少し皮肉のこもった口調でこうも云っていたのです。
―――「ヤレヤレ、困った子達だ・・・一体誰に似たのやら・・・帰ったら、きっぅ〜いお灸が必要だね。」
何よりジョカリーヌは・・・アンカレスが鎮圧されたら、すぐに帰ってくるようにとは明言していない―――
それに、誤解を招かれぬよう、あの二人にはパライソの将軍であると云う証しを外させて出向かせた・・・
云わば彼女たち二人は、どこの軍にも所属していない、「未明の軍」だったのです。
しかも、帰国の期限を切られていないのだから、もしかすると・・・いや―――絶対に・・・
リリアの国オデッセイアに対抗している、プロメテウスの壊滅まで視野に入れていたのかもしれないのです。
=続く=