第二百二十話;予期せぬ内乱

 

 

 

その国の記録によれば、現在より約360年も前、或る大規模な「内乱」がありました。

 

しかし―――その国は、永らく(よしみ)を結んでいる「国家」と批准するくらい、

平和で・・・穏便で・・・安定した生活が約束された治世を、執り行っていたのですが・・・

 

そうした(なか)でも、何かしらの「不満分子」と云うのは、必ずいるようで―――・・・

 

人々が、「安心」だとか、「無事」と云う「微温湯(ぬ る ま ゆ)」に浸かりきっている・・・そうした間隙を突き、

当時の世相や、現在から(かんが)みても、到底取るに足らない・・・下らない理屈や理由を掲げ、立ち上がった者達がいたのです。

 

しかも間の悪い事に、この当時の「マグレヴ」に、そうした「反乱」を鎮めるだけの武力(ち か ら)はなかったのです。

 

そう・・・惜しむらくは、この当時より約140年ほど前―――「ランド・マーヴル」を統一できた当時の武力は、

現在の女王である、ルリ=オクタヴィアヌス=ガーランドによって解体され、治安の維持も、民間に委託してしまっていたのです。

 

 

『こうした背景には、権力(ち か ら)を付け過ぎた軍隊等は、往々にして政治に関与するきらいがある事を、女王であるルリ陛下が危惧し、

また、それに(なぞら)えるかのように、宮中の警護も、程度の護衛しか付けなかったのである。

しかし、そうした動きは、時が経つにつれ、緩慢に過ぎる処となり、こうした反乱時の反応も、「即座」の対処が出来かねた処を見ると、

やはり「常備軍」の必然性は、あるように思われるのです。』

                       「セシルの手記より」

 

 

上記の「レポート」は、当時、セシル自身の故郷である、パライソ国・チタ州・ノルブリンで、

農地開拓に精を出していた、セシル=ベルフラワー=ティンジェルが書いた「手記」の一部ではありますが、

まだ、この当時のセシルは、(ふる)くより知る友人が治める国家が、一大事となっている事など、露ほども知らなかったのです。

 

それが・・・ようやく知るきっかけともなったのは、この反乱が起きてから約一ヶ月後・・・

地元である、パライソ国が発行をしている、「報道紙」によって―――なのでした。

 

 

 

セ:(ふぅん・・・ここ一週間の予報では、まとまった雨は期待できない―――と・・・

  だったら、貯水池の水量を、確認しておかないと・・・)

 

 

 

この当時―――目立った戦乱が無くなってしまったこの世間(よのなか)に、「報道紙」が発表する記事と云えば、

農業に従事している者達にとっては、なくてはならない「天気」の「予報」や、有名人の「ゴシップ」―――と、云ったような、

在り来たりな・・・それでいて、レベルの低い内容のモノで溢れていました。

 

それにセシルは、そうした「ゴシップ」等には、さして興味を示さず、

目を通す記事と云えば、自分が必要としているモノだけに限っていたのです。

 

 

しかし・・・その日―――

何の気なしに、「ゴシップ記事」が掲載されている「面」に、目を通していると・・・

マグレヴでの反乱の事が、取り上げられていたのです。

 

 

 

セ:(―――・・・。)

  (・・・?)こっ―――これは?!!

  『先月13日未明に起きた内乱は、首都・アークゼネキス外縁の都市を、次々と陥落(お と)し・・・』

  なに・・・?これ・・・どうしてルリが治めている国が―――「内乱」??

 

 

 

セシルが目を疑うのも、無理ではありませんでした。

なにより、マグレヴなる国家は、友好関係を結んでいるパライソ国を手本とし、

女王であるルリも、自らが政治を主導しているとは云え、云うほどには格差のない社会を、目指していると云うのに・・・

 

それが―――そんな政治の、どこに不満があろうと云うのか・・・

いや、確かに、「不満がない」・・・と、云えば、それはそれで、嘘を吐いているのかもしれない―――

人は皆、何かしらの「不満」を、抱えて生きているのだから・・・

 

セシルは、或る時の、大皇(おおきみ)・ジョカリーヌが漏らしていた言葉を、思い出していました。

 

「そうだ・・・確かに私達は、皆、何かしらの不満を抱いて生きている・・・。」

「だけど、これは・・・そんなにまでして―――犠牲を出してまで、直接的な行動に、訴えるべき事柄なのだろうか・・・」

 

セシルの、そうした疑問は、すぐに彼女自身を立たせ、140年来着飾った事のなかった、「鎧」を身に纏うこととなりました。

そしてその足は―――140年前、自らが封印し、奉納をしていた「ある場所」に・・・

 

そう―――「聖剣・イクセリオン」の復活だったのです・・・

 

 

一方、抗えるまでの武力を持たず、既に落城が目の前にぶら下がっているアークゼネキスは、

それでも、ある一人の人物のお陰で、保てていたのでした。

 

そう―――女王ルリの、たった一人の護衛・・・

 

 

 

ナ:それ以上近付くな―――!

  それに、お前達の要求とは何だ!!

 

反:オレ達の要求とはたった一つ・・・「王制の崩壊」と、「女王ルリの首」―――それだけだ!!

 

ナ:なにを莫迦な事を・・・話しにならない!

  ルリが、お前達に何をしたと云うんだ!!

 

反:「なにをした」・・・だと?

  何も知らない、お前達富裕層には判るまい・・・オレ達、貧民の事を!

 

 

 

「何を云っているんだ・・・全く―――」

「現在のこの国(マ グ レ ヴ)に、貧民なんているはずがない・・・」

「なにより、国民がそうならないように、マグレヴ王家は尽力し、誰しもが平均の生活を、送れているはずなのに・・・」

「なのに・・・だとしたら、あいつが主張している事とは、一体何なんだ??」

 

今回の「反乱」を画策し、首謀した者が口にした要求を、ナオミは(かい)しませんでした。

 

そしてその事は、すぐに彼の野望であり野心である事が判って来たのですが・・・

如何(い か ん)せん火種は大きくなりすぎ、当時、マグレヴが保有していた武力では、到底鎮圧することが無理だと云う事を、ナオミは察知したのです。

 

そう・・・彼女に内蔵されている、「ノヴァ・ハーツ」が弾き出した、「シュミレーション・プログラム」によって・・・

 

だから、このまま―――・・・

そう―――「このまま」では、アークゼネキスが陥落するのは、時間の問題だと思われていたのです。

 

そしてそれは、ナオミ一人を(もっ)てしても、最悪ルリだけは、護り通さなければならなかった―――・・・

 

「その時」―――だったのです・・・

アークゼネキスを取り囲む、反乱軍の本営に、「何か」が飛来し、大騒ぎとなったのは・・・

そして、敵の本営に飛来した、「何か」こそ・・・

 

 

 

セ:・・・あら、ここは―――どうやら、敵の只中(ただなか)に降りてきたみたいね。

反:な―――何者だ!お前は!!

 

セ:あなたこそ、レディに対しての口の利き方がなっていない様ね。

  けれど―――判ったわ・・・あちらが私の味方で、あなた達は敵・・・と、云う事がね。

反:なにをおっ?!

  この国の、新たなる王を前にして、その様な態度・・・目にモノを見せてくれん!

 

セ:あらあら、フフフ―――もう地金が見えてきちゃったわね。

  そう・・・つまり、「それ」があなたの本音―――まだ、程度の低い野党連中の方が、「まだまし」な事を云うわ・・・。

 

 

 

その「鎧」の左肩と、羽織っていたマントには、不意に―――何処(い ず こ)からか、飛来して来た「女性騎士」が、元所属していた「騎士団」の紋章(エンブレム)が刻まれていました。

 

140年の昔・・・ガルヴァディア大陸の東方の地に存在していた「フレンスブルグ」なる国家・・・

その国家化保有していた軍隊の(なか)に、「雪」「月」「花」を冠する部隊がありました。

 

そしてそれは・・・その国家が、誇りとしていた「武」―――

 

そして奇しくも、この場にいたのは―――「花」の宿将・・・セシル=ベルフラワー=ティンジェル

 

反乱の名を(かた)った簒奪者は、セシルが振るった聖剣の錆と、変わり果ててしまったのでした。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと