その「躯体」に潜まされていた「罠」―――それは、本来の目的とは違う、別用途で組まれていた「プログラム」・・・

「それ」そのモノ自体を、専門用語では「Bug(バ グ)」と呼んでいました。

 

そう・・・「バグ」―――

その躯体、本来の目的である、戦闘用に特化した「プログラム」ではなく、どちらかと云えば全く(もっ)て「人間臭い」・・・

情緒もあり、感情までも備わった・・・云い換えるならば、「機械的な判断」ではなく、状況や精神の状態で判断が左右されてしまいがちな、

そう云った「人間臭さ」が、この「プログラム」に組まれていたのです。

 

では・・・一体、どこの誰が―――

 

お判りではないでしょうか、この「躯体」を、つい最近まで所有し、「ナオミ=サード=アミテージ」と云う固有名詞まで付けて愛でていた、「天才プログラマー」の存在を・・・

 

そして、紛れもなく現在この場に存在していたのは―――・・・

 

 

 

ナ:ちょ・・・ちょっと眩暈(め ま い)がしてきた・・・

  大体あんなの相手に、どうしろってんだよ!

リ:そんなん私が知るかよ!!

  第一あんたは、その為に―――云わば最後の切り札として呼ばれたんじゃないのか?

 

ナ:はあ〜? 誰に・・・私が呼ばれたって??

リ:あいつだ、あいつ―――

ル:ほむ・・・わっち なりにけり―――

 

ナ:(・・・)誰だ?こいつ―――・・・

  大体、私のマスターは、ルリしかいねえっての!!

リ:ルリさんの?

  あの人・・・そんな事一言も云ってやしなかったけどもなぁ。

 

ナ:ン〜なはずあるかよ!

  第一ルリとあんたとは、仲良かったじゃないか!

リ:ん〜〜まあ―――確かに・・・あの人とは仲良くさせて貰ってるけどもさぁ・・・

 

ト:―――立て込んでいる処の様だか、ちょっとよろしいかな。

リ:なんだよ―――今お前の相手してやってるバヤイじゃねえっての!

 

ト:その事ではない。

  目下の処の問題は、「アレ」をどうするか―――なのだが・・・

リ:「アレ」・・・って―――・・・

  げええっ!? 私の「晄楯」にヒビ入ってるじゃんよう!!

  なあ〜んでぇ? どうして〜〜? 「アレ」出たら、無敵じゃなかったのかよ!!

 

ル:ほむ されば やるかたなし(仕方の  ない事)・・・

  ひとえに おまえさんが しゅうちゅうして(この現象を 維持するのに 集中して) おかせらるるを(いなければ ならないものを) おろかにせり(なおざりに しているから なのですが)

  うつつの(今  の) おまえさんは かのものとの(この者  との) もんとうに(口論  に) ふしんせり(集中を しておる)・・・

 

ナ:―――つて、呑気な事云ってる場合かよ!

  ま・・・(まず)いってえ〜〜これ・・・

 

 

 

全く(もっ)て、「人間臭い」事を云ってのける―――人間の・・・それも女性の(なり)をした「機械仕掛けの人形」が一体・・・

 

そう、確かに・・・紛れもなく現在の、その場に存在をしていたのは、

現在より360年程前に実働をしていた「プログラム」―――『ver3』だったのです。

 

では―――なぜ、マグレヴで起こった叛乱が原因で、動かなくなってしまった「躯体」が、この現在に甦ってしまったのか・・・

 

その真相とは、ルーシアが発信した「コード・ナタラージャ」・・・それが原因なのでした。

 

ではなぜ、「それ」が、眠っていた「ナオミ」の人格を、再び呼び起こしてしまったのか・・・

それは―――・・・

 

 

「天才プログラマー」であるルリは、「ナオミ」に組まれていた「プログラム・ソース」を総て解読(よ み と)き、

元々の「プログラム」である『ver1』が、人―――並びに「生物」を殺傷せしむる能力を備えている、極めて危険な存在である事を認知していたのです。

 

そしてルリは、この「躯体」を手に入れたのと、ほぼ同時期に・・・全く「人畜無害」な「プログラム」―――『ver2』を構築、

ゆくゆくの後に、「倫理性」と、内蔵してある兵器の有効活用が出来るよう、『ver3』にアップ・ロードし直し、

自分の「(プリンセス)護衛(ガード)」として、常に側に置いていたのです。

 

 

ところが・・・例の契機(クーデター事件)により支障を来たしてしまい、(つい)には完全停止してしまったのですが―――・・・

かかる現在、元々この「躯体」を創造した本人であるルーシアが、自身最高傑作として自負して已まないこの「躯体」を探し当て、

そして「初期化(フォーマット)」をしてしまった―――・・・

 

それに、未曽有の混沌に陥ろうとする現場を纏める為に、「コード・ナタラージャ」・・・

つまり、この「躯体」が持てる最大最強の破壊兵器―――『アポカリプス』の始動コードを唱えた時、

『アポカリプス』を悪用させてはならないとしたルリの思惑が働き、ついでメモリー内に僅かに残っていた「ナオミ」としての残留人格までもが呼び起こされてしまったのです。

 

しかし―――「呼び起されて」しまったまではよかったのでしたが・・・

その「人間臭さ」が災いしてしまい、先程の・・・冷静な判断をする「機械」ではなくなってしまった・・・

しかも、「晄楯」を出していたリリアは、「ナオミ」との口論に集中する余りに、本来集中していなければならないことに集中できなくなってしまい、

結果―――無敵であるはずの光の盾に、破綻を生じさせるきっかけを作る羽目になってしまったのです。

 

そして・・・とうとう―――・・・

 

 

 

リ:あ・・・あ゛・あ゛〜〜!! や、破られちった・・・

  どぉ〜するよ! おい!!

ナ:そ・・・そんなの・・・私に聞くんじゃないよ・・・

 

リ:頼りにならねえなぁ〜〜おい・・・

  それより―――ちょっと!ルーシアさんよ!! あの人、こっちの云ってる事が聞こえてねーようなんだけど??

  つて・・・なにニヤケてんだよ!

 

 

 

巨大化して、理性まで無くなってしまい、周辺を破壊しまくる「破壊神(エ リ ー ゼ)」―――・・・

おまけに、こっちで話している事が全く耳に入らない様子で、まさにやりたい放題だったのです。

 

そんな事に―――エリーゼと一緒に来たルーシアに、解決策を求めようとした処・・・

何とこの人物は、自分達がこうもオロオロとしているのに、全く(もっ)て冷静沈着そのもの・・・

(あまつさえ)、どこか口元には笑みを湛えているかのようだったのです。

 

この・・・斯くも不謹慎な表情に、思わずリリアは非難をするのですが―――

当のルーシアと云えば・・・

 

 

 

第二百二十六話;(ほんとう)の切り札

 

 

 

ル:ほ・ほ・ほ―――これが わらわれずに・・・ いや めでたきにしもあらずなり(喜ばずに   おれようか)

  とほきむかしに(随分な昔  とは云え) 「天才」のなをしむる(欲しいままとした) わっちの「作品」を 「辺境」といわしむところのものが(云っても 差し支えのない処の 者が) こうもまつろわせる(自分のモノと している)とは・・・

  いと あはれ(ああ・・・ いや) 「辺境」とは うるさけり(云い過ぎだな)・・・さればとて、おまえさんなる「人格」を つくりせしものは いずこや―――あいたくまほし(一目会って  みたいモノよ)・・・

 

ナ:はあ? ルリに??

  アーク・ゼネキスに行けば、好きなだけ会えるよ!

  それより〜〜こいつなんとかしてよ〜〜

 

 

 

リリア達がオロオロしている様子を見て、面白がっていた―――の、ではなく・・・

遙かな過去とは云え、自分が創った「作品(プログラム)」を、こうまで(しの)ぐ「人格(プログラム)」を作成した人物に興味が湧き、また称讃(しょうさん)さえしていたのです。

 

それに、ルーシアにしてみれば、まだ文明も未開な処があり、技術のレヴェルとしても決して高くはない「辺境」としてのこの地球で、

自分の作品をも凌ぐ「技術者(プログラマー)」がいたものとは・・・

 

だからルーシアは、現在直面しているこの窮地よりも、心は既に、その「技術者(プログラマー)」に会ってみたい・・・と、云う処に飛んで行ってしまっていたのです。

 

 

ですが、しかし―――・・・

 

 

実は、現在のこの状況は、ルーシアにしてみれば「窮地」でも何でもなかったのです。

けれども・・・状況の証拠と云うモノは、余すことなく揃えられてしまっていた・・・

 

だとすれば、ルーシアが求めた打解点とは、どこにあるのでしょうか―――・・・

 

 

 

ル:ほむ あらじなりにけり(心配なら ご無用 ですぞ)―――

 

 

 

その一言は、まさに「万が一(こんなこともあろーかと)」の為に、用意されていたモノでした。

 

それと云うのも・・・あれだけ暴走するのに、見境のなかった「破壊神」が―――・・・

 

 

 

?:『くぉらあ〜! エリーゼ!!』

エ:『にょほ? お・・・おねい・・・ちゃん?』

 

リ:・・・え? 止まった―――・・・?

  て、云うか・・・今の声―――・・・

 

レ:『わりゃあ、なにしでかしちょるんなら!!

  リリアちゃんに迷惑かけちゃ、いけんゆうちょろうが!!』

エ:『ほ?? か―――かけちょらせんよ?

  うち・・・リリアちゃんの為を思うて・・・』

 

レ:『ほなら・・・なんでリリアちゃんが困った顔をしちょるんなら・・・。』

エ:『ほえ?? こ・・・困った? 困った顔―――しちょらせんよ・・・ね??』

 

リ:・・・え? あ・・・いや―――・・・

 

レ:『ほお〜〜嘘吐いたの・・・われぇ・・・

  このわてに、嘘吐いたらどがァな目に遭うんか・・・忘れちょりゃあせんよぅのう・・・。』

エ:『ひよえぇ〜〜あにょう〜〜そにょう〜〜』

 

レ:『われも、わての妹じゃったら、肚ぁ括ってモノを云わんかいやあ!

  よう〜判った・・・わりゃあ、あとでしごうじゃ―――』

エ:『あ゛う゛、あ゛う゛〜〜ごべんな゛じゃ゛い゛〜〜』

 

 

 

なんとも・・・拍子抜けるほどに、事態が収まるのは呆気なかった・・・・。

 

ルーシアは、「万が一」・・・エリーゼが暴走した時の事を考え、携帯式の超空間通信機を所持していたのです。

 

そして、機会を見計らった処で、「雷鳴一喝」―――

 

すると途端に、先程まで見境なく暴れ回っていたエリーゼが、途端に止まってしまい・・・

おまけに、泣きだしながら平蜘蛛の様に謝る始末・・・

 

全く、怖い者知らずばかりだと思われていた巨人の女性の弱点とは、

自分とは驚くほどに身長差のあった、小さな自分の姉―――だったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと