静かな館内に・・・響き渡る一発の銃声―――
そしてそこには、小型の拳銃を口に銜え、引き金を引いた・・・と、見られる女性の遺体が―――
こうした状況が揃えられ、衆目に晒されてしまった時、嬌声を上げない女性はいなかったことでしょう。
しかし・・・何食わぬ顔で、この美術館から去ろうとしていた人物がいました。
そこで警備員は、この・・・館内で起きた異変に関係あるモノとみなし、
去ろうとしていた人物―――修道服を纏った修道女に声をかけ・・・
警:失礼―――! あの・・・シスター、今お帰りになることはできません。
修:あら・・・どうして?
警:今、館内が騒然となっております。
それもどうやら、一人の女性が、自らの所持品にて、命を絶ったものらしいのですが・・・
修:それは可哀相に・・・お気の毒ですわね。
警:(?)あの・・・そこで、ついでと云っては何ですが、自殺者の慰霊と・・・あと、事情聴取の方を・・・
警備員は、その修道女が、館内から出る以前に引き留めることが出来ていました。
が・・・その態度のあり方に、疑問を感じずにはいられなかったのです。
人一人が死んだと云うのに・・・今その事で館内は騒然となっているのに・・・
なぜこの人物は、こうも冷静でいられるのだろう―――・・・
いや・・・これは「冷静」などではない・・・。
まるで、「我が事に関せず」―――と、云った様に、「無関心」を装っているかのよう・・・
それに、何より・・・聖職者でもある修道女の一人でもあるのだから、こうした現場に出くわした場合、何をすべきなのかは判っているはず・・・
なのに・・・
どうして対処しようとはせず、この現場から離れようとしたのか―――
そこの処の事情を訊こうとするのですが・・・
これがどうしたことか、全く当てが外れてしまい、自殺者の慰霊も―――事情聴取の方も―――滞りなく済まされてしまったのです。
そして・・・解放された修道女は―――・・・
修:(フ・フ・・・とんだトラブルに巻き込まれてしまったけれど、そんな事はいつもの事だものね―――
さて・・・それにしても、今回の依頼―――200年前に騒がれていた「あの事件」が、今になって持ち上がって来ようモノとは・・・
それも・・・遺族の人間の手によって―――ね・・・)
果たして「修道女」であり、今回の依頼を受けた者こそ、『ピース・メイカー』・・・フランソワ=エヴァ=ベアトリーチェその人でした。
それに、フランソワも、あの当時・・・突如引退宣言をし、そのすぐ後に命を絶った「成功者」の事は、気にはなっていたようでしたが、
こうした陰謀めいた事案は、なにもこうした事件だけではなく、それだけに、またいつものように・・・頭の片隅の方に留めておくだけにしておいたのです。
それが・・・今回は、そう云った意味では、当事者の一人と云っても過言ではない、「成功者」の「妻」からの依頼・・・
そこでフランソワは、自分が培っているコネクションを動員し、この事件の裏の背景を知ろうとしたのですが・・・
程度以上の情報は、何も得る事が出来なかった―――・・・
事実、今回の件でフランソワが雇い入れた「情報屋」は、
あの当時・・・と、それから数年後に特集として組まれた「ドキュメント番組」で公開された情報―――
そして、それに加える補足程度の情報しか得られず、
フランソワが知りたい・・・もっと深淵の―――この陰謀の大元となった原因までを引き出すまでには至らなかったのです。
そこでフランソワが考えあぐねた末、辿り着いた結論とは―――・・・
第二百三十一話;ジゼル災厄の一日
その日、ジゼル=ぺルラ=オーチャードは、いつものように家路への帰途についていました。
そして・・・いつからか、自分が後を尾けられている事を感じたのです。
そうした不安が、彼女を一層足早にさせ、人通りの多い歩行者天国へと紛れ、なんとか自分への尾行をまこう・・・と、したのですが・・・
ジ:(・・・まけた・・・かな?
それにしても誰なんだろう・・・この私の・・・後を尾けるだなんて・・・。
はっ! もしかすると・・・ハッキングの件で、捜査機関が??
でも・・・その事は、マエストロ様が、問題のないようにしてくれた―――って・・・)
ジゼルは、全く―――と、云っていいほど、端末に触れると触れないとでは、人格が異なってしまう性質をしていました。
そう・・・「普段」の彼女は、どこか不安げで―――どこか天然で―――どこかいぢめ易くて―――・・・
そんな・・・どこにでもいそうな、引っ込み思案な女性の一人―――だったのです。
だから、突然―――背後にて―――・・・
誰:・・・もう―――逃げないのかしら・・・
ジ:(ぴやっ?!)
だっ・・・誰―――・・・
(!!!)あっ・・・あっ・・・あ゛―――あなた・・・は!!
確かに・・・「普通に」暮らしをしてさえいれば、そこで「彼女」と「彼女」の接点は、有り得なかったのでしょう・・・。
けれど、現在のジゼルは、裏や闇社会で暗躍していると云う、ある「秘密機関」の一員でもあるのです。
だから・・・この時でも、彼女を尾行していた存在が、何者であるかを判ってしまった・・・
自分達「ディーヴァ」の内でも、メイベルやヘレンが一目置く存在・・・
『暗殺者:ピース・メイカー』であることに・・・
だから当分、モノも云えない位に驚いている始末・・・だったのですが、
今回フランソワがジゼルを選択をしたのは、それなりの理由があり・・・
フ:そんなに怯えなくてもいいわ・・・
だって私は、今回あなたに頼みたい事があるのだから・・・
ジ:(は・・・)私・・・に、頼み―――「依頼」・・・と、云う事になるんですか?
フ:そうね―――そう受け取って貰っても好いわ。
それで・・・と、云ってはなんだけど、これから先の話し―――環境の整った場所で・・・と、云うのはどうかしら。
そう・・・ジゼルの、「ハッカー」としての能力は、同じ「ディーヴァ」のミリヤも保障するまでに認められており、
その能力の高さを、今度はフランソワが買ってきたのです。
それに・・・そうした事には、「環境の整った場所」―――つまり、簡易的にでもネットに接続できる場所に移り、そこで改めての話題となった時に・・・
フ:紹介の方は―――もうお互い知っている・・・と、云う事で、いいわね・・・。
それで・・・今回あなたに頼みたい事なのだけれど・・・
ジ:あ・・・あの・・・そ、その前に―――い・・・いいですか・・・
フ:なあに―――
ジ:あの・・・私―――と、あなた・・・とが、こんな場所で会っている〜〜なんて・・・
そのこと自体、あまり好くない事だと・・・思うんですよ。
だって―――あの・・・わ、私は・・・その〜〜・・・
フ:「秘密」の機関、「ディーヴァ」の一員だから、時と場合によっては敵対しなければならない・・・
だから、私と今、こうしているのは気が引ける・・・と?
ジ:ごっ―――ご免なさいっ!!
それにっ・・・だから・・・あなたの事をよく思っていないヘレンさんに―――こんな事が知られたら・・・それこそ私・・・
フ:フフフ・・・困った人よね、ヘレンも―――
ジ:そんなあ〜〜他人事のように云わないで下さいよぉ〜〜
フ:けれど、まあ―――あの人の事ならば、どうにかなりますけれど・・・
一番重要なのは、ミリヤさんがこの事を、どう思うか・・・
そこで始めに云っておきたい事は、今回の件は、どちらにもメリットがある―――と、こう仰っておいて下さい。
ジ:(・・・)メリット―――? それも・・・「どちらにも」??
フ:ええ・・・それで、「依頼の内容」になるのだけれど・・・
たどたどしいながらも、現在の自分の立場と云うモノを、フランソワに説明をするジゼル・・・
それはそれで道理にかなっている事なのですが、ジゼルにしてみれば、ヘレンからの「八つ当たり」の方が怖く、しかも迷惑甚だしかった事でもあったわけであり、
なにより―――ミリヤが、密かに「敵対者」と会っている事を赦してくれるはずもないモノだとし、どちらにしても心配事は尽きなかったのです。
そこで・・・フランソワが提示してきたのは、自分にも・・・そしてもちろん「ディーヴァ」にも、損にはならないモノだとし、
そうした損得勘定の駆け引きで、ミリヤからの黙認を取り付けようとしていたのです。
そうした上で、改めて依頼の内容を聞かされた時・・・ジゼルは―――・・・
ジ:(!!)これは・・・!
フ:そう・・・かつての、「成功者」の―――
ジ:(―――・・・)あの・・・真相を暴いていたとされる、「企画番組」でさえも、開示出来なかった情報を・・・この私に?
ククク―――フフフ・・・よく判っているじゃないですか、あなたがこの私を選択した判断・・・間違ってはいませんよ。
それに―――この「事の真相」・・・ネットでも一時期騒がれた事がありましてね。
「企画番組」で放映されたモノは、「ネットの住人」にしてみれば、誰もが知っている「子供だまし」みたいなモノでしたよ。
それなのに―――フッフフフ・・・何をそんなに隠したがっているのか、「ネットの住人」には、知り過ぎている嫌いさえあると云うのに・・・ねえ!w
先程の、弱々しい・・・それでいて怯えていた表情はどこへやら・・・
情報端末に触れた途端、ジゼルの人格は一変したのでした。
名うての「暗殺者」を前にしても、対等な態度でわたり合おうとする、強硬な姿勢―――
その事に、一時はフランソワでも驚いたモノだったのでしたが、自身が思っていたよりも、ベスト・パートナーを得た事に、
内心ほくそ笑むのでした・・・。
=続く=