リリアには―――以前から親しくしていた人物がいました。
ちょっぴり小生意気で、ちょっぴり無愛想な・・・それでいてお互いが困っている時には、共に助け合った間柄・・・
そんな「彼女」と、容貌・・・特に服飾の嗜好や、立ち居振る舞いなどが殊の外よく似ていたので、
「彼女」もまた、自分が訪ねに来た人物に所用があったモノだと思っていたのです。
それに・・・久方ぶりの再会でもあった為、実に親しげに―――よもすれば慣れ慣れしげにしてしまった感じは、どうしても否めなかったのです。
だから・・・なのか―――
付き添いで来ていたクラウドマンは、複雑な・・・とても複雑な心境―――と、同時に、表情に至るまでになり、
その事に気付き始めたリリアは・・・
リ:(・・・ん?)どーしたよ、おい―――折角ミリヤさん来てんだぜ?
お前も知らないわけじゃないだろ・・・
ク:(〜〜・・・)
リ:(?)それより―――あれだな。
今回はメイベルと一緒じゃないのか? 珍しい事もあるもんだよな〜〜。
あんたが、あの人と一緒じゃない時―――って、あるもんなんだ・・・。
ミ:(・・・。)
リ:(ん〜?)アレ・・・? なんか今日は、いつにも増して無愛想だよな―――
恐らくは・・・現在の状況を、判っていないのはリリア唯一人―――
だからこそ、失礼なことばかりを放言するこの人物に、クラウドマンは最早弁解の余地すらなく―――
また、リリアの知人の一人である「ミリヤ某」に、とてもよく似た「誰かさん」も、交流の余地すらない―――と、思っていたのではないでしょうか。
だからこそ、耳障りな事ばかりを吐く、この世間知らずに、この人物は、こう云ったのです・・・
第二百四十話;竪 子
誰:(・・・)竪子めが―――
リ:・・・え?何?? 今なんつったの?
誰:(・・・―――)
リ:ああっ・・・おい!
何なんだよ―――急に・・・
それより・・・おい! なんで私を無視しやがんだ!
何かを呟き、その人はその場から去って行きました。
その様子も、どこか自分に怒りもし、また呆れ返っているかのようだった・・・
それに、付き添いで来ている筈のクラウドマンに、どうして自分の云っている事に反応しないのか―――と、問いかけると・・・
ク:全く・・・あなたと云う人は―――・・・
いきなりの初見で躓いてくれましたね・・・。
リ:はい? ナニ云ってんだよ―――
ク:あの方こそが、今回あなたが会うべき人物・・・ミリティア=ミスティ=ミザントロープ―――その人なのです。
リ:ミリティ・・・つて―――・・・
ええ〜〜っ!? あの人、ミリヤさんじゃねえのかよ!!
嗚呼―――これが、コメディアンのライヴなどであったなら、間違いなく大爆笑必至の「ネタ」だったことに、間違いはないのでしょうに・・・
哀しむべきは、この場合は「そう」ではなく、全くと云っていいほどに「真剣」だったのです。
だから・・・そこには―――「笑い」など全くなかった・・・
喩えあったとしても、そう云うモノは実に「冷やか」であり、また、引きつったモノこそが似つかわしくあったのです。
とは云っても―――例の彼女・・・「ミリティア某」に、何事かの交渉を取りつけるのが、今回のリリアの仕事であって、
どうしてもこの道は通らなければならない行程だと判っているクラウドマンは、頭を痛めながらも・・・
ク:仕方がありません―――・・・この上は、もう一度、何としてでもお会いして頂ける機会を設けないと・・・
リ:悪かっ・・・たよ―――
ひとしきりに反省をするリリアの姿に、クラウドマンも一定の理解を示してくれたらしく、
早速、先程の「彼女」・・・ミリティア某と、折衝を取ろうとするのですが―――・・・
ク:ちぃ・・・やはり、こちらだと判っているからか、容易には出てはくれませんな。
あたら自分達だと云う事が判っている為、ヘソを曲げてしまった人物は、その事には応じようともしない・・・
そうした事実に、自分のした軽率な行為を、改めて省みたリリアは―――・・・
リ:ああっ・・・チキショウっ―――なんて私は莫迦なんだろうな・・・
一人で勝手に勘違いをして、挙句に全くの他人を傷つけちまった・・・
それに、ミリヤさんにも―――・・・
ク:(・・・)もう―――そのくらいにしておきましょう・・・
いずれ、何らかの機会が芽生えるはずです・・・。
リ:そう云って貰えると、有り難いよ・・・。
それよか、一つ気になってる事があるんだけど?
ク:なんでしょう―――
リ:あのさ・・・さっき、あの人が云ってた―――「竪子」?? ・・・って、なんのこと?
その質問を受けた途端、クラウドマンは硬直してしまいました―――
出来るなら、その事は・・・知らないままで聞き流してくれれば良かった―――
それと云うのも、彼はその語句の意味を、知り過ぎる位に知っていたのですから・・・。
しかし―――今その事を、果たしてこの人物に教えて良いものなのだろうか・・・
結果は、目に見えている―――・・・
自分で、自分を卑下する位に反省はしていても、超えてはならない一線がある―――・・・
その事は良く心得ていました―――が・・・
どうにも今教えないと、禍が自分に降りかかってきそうだったので、つい―――我が身可愛さに教えてしまったのです。
リ:(・・・?)おい―――なんとか云えよ。
それとも何か? 私に云えない事なのか・・・
ク:(・・・)仕方がありません―――心を落ち着けて、決して怒る事のないよう・・・
リ:な、なんだよ・・・私は落ち着いているし、怒ったりなんかはしない―――
ク:(・・・)あの語句の意味する処とは、『小僧』『若輩者』『未熟者』『総てを判っているかのようで、その実、全く何も知らない大莫迦者』―――
まあ得てして、あまり褒められる場合に使われる言葉ではないのです。
それは・・・罵詈雑言の重連鎖―――
全く精神が弱い者ならば、立ち所に心がへし折れてしまいそうな・・・そんな言葉の力に、さすがのリリアも挫けそうになってしまいました。
それに、先程の場面をよく思い返してみると、なんだか・・・自分の今までの人生をも全否定されたかのような態度―――・・・
確かに、人違いをしてしまった事は、自分に落ち度がある・・・とはしながらも、あの時のその態度は、そうして然るべきだったのかと云うと、全くそうではなかった―――
すると段々・・・リリアの奥底で、沸々と湧きあがってきた「何か」は―――・・・
リ:くっ・・・そぉお〜っ!!
ク:あ、あっ―――ど、どこへ?!!
やはり・・・予想は、当たってしまった―――
この直情的な人物は、この語句の意味を知ると、必ずやこの行動に至るに違いない・・・
そう判っていたのに―――・・・
クラウドマンは、実力行使に訴え出たリリアを止める為、彼女を追いましたが・・・
怒りで我を忘れている人物の潜在能力とは、斯くも驚かされるモノで、彼がやっとの思いで追いついた時には―――・・・
ク:ああ―――あっ・・・遅かった・・・のか??
いつもは冷静なクラウドマンが、思わずも息を呑んだ瞬間・・・
それは―――移動が遅いミリティアに追いつき、息せき切らせながらも、対峙していたリリアにありました。
「これ以上・・・何も間違いがなければ良いが―――」
そうした心配をクラウドマンはしたモノでしたが、どうやら今回は、無事―――事なきを得たようでした。
その代わりに・・・
クラウドマンは、今回―――幾度驚かされた事でしょう・・・
一度目は、全く見ず知らずの人物に、非常に慣れ慣れしい態度で、無礼極まりない事をしてしまった・・・
二度目は、直情的な感情に任せ、実力行使に及ぼうとした・・・
そして今まさに、例外にない行動を起こした、「天帝の后」に―――・・・
そう・・・「例外」―――
クラウドマンは、今までにも、リリア自らが頭を下げた事は、目にした事がありませんでした。
そんな人物が、ある特定の人物に対して、「土下座」をした―――その事に・・・
ですが、ミリティアからは―――・・・
ミ:(・・・)そこを、退け―――竪子。
リ:(・・・)いや―――退かない・・・退きません!
先程よりの無礼や非礼、失礼の数々・・・大変申し訳なく思って―――います・・・。
ですから・・・
ミ:(・・・)―――・・・
リ:あ・・・待って―――下さい!!
どうか、お話しだけでも・・・
ミ:(・・・)離せ―――竪子が。
リ:(ぐ・・・っ―――)いいえ・・・離しません!
私達の話しを聞いてくれるまで、退かないし離しません!
哀願・・・懇願・・・喩えどんなに卑下されようとも、リリアは一歩として譲りませんでした。
ですがミリティアは、そんなリリアに対しても、最初からの態度を覆さないまま・・・
ミ:フ・ン・・・そうか、判った―――
リ:(あ・・・)では―――
ミ:汝が退かぬなら、この我が退くまでだ―――
リ:(!)あ・・・っ―――そ、そんな・・・
リリアも相当に強固な意志を持っていましたが、この人物はそれにも増して―――いや、最早ここまでくれば、『頑固』と云うしか他はないのですが・・・
リリアが掴んで離さなかった服の袖口を、無理矢理に離させると、今度はミリティア自身が、自分の行く手を阻んでいるリリアを迂回する象で、避けて通ろうとしたのです。
ですが、殊「移動」に関しては、圧倒的にリリアに歩がありました。
それと云うのも、ミリティアは―――リリアが勘違いをしていたミリヤと同様に、下肢に問題があるのか・・・
云ってしまえば、「亀」や「蛞蝓」並みに、移動が遅かった―――・・・
だからリリアは、自分が早く移動できる点を利用し、素早くミリティアの前に回り込み、ひたすらに「土下座」を繰り返すのですが・・・
一度犯した間違いは、収まり様―――収め様がないらしく、その度毎に進路を変えるミリティアがいたのです。
そのお陰もあってか、通常ではそんなにはかからない道程でも、五倍もの所要時間を費やす羽目となり、
そしてついには―――・・・
ミ:いい加減にせよ、最早付き纏うな!!
リ:いいえ―――っ・・・ちゃんと、お話しを聞いて下さるまで、いつまでも付き纏って見せます!!
ミ:(・・・)フ・ン―――どうせ、その伏した顔の向こうで、我の事を睨みつけているのであろうが。
リ:(!)あ―――っ・・・き、消えた・・・?!
ク:あの方の持つ能力の一つ、「瞬間移動」です・・・アレを使われては、最早なす術がありません。
リ:(・・・)ちっくしょうっ―――!!
なんて私は莫迦なんだ・・・! お陰で、取り返しのつかない事をしちまった!!
いい加減、「追い駈けっこ」「イタチごっこ」にも似た行為に、鬱陶しくなり始めてきたミリティアが、
自らの持つ能力の一つ―――「瞬間移動」を使って、リリアからの追っ手を完全回避してしまったのです。
そしてこれで・・・今まで「移動」に関してならば、完全にリリアに優先権があったモノでしたが、
この能力を使われては、是非もない―――・・・
最早リリアには、弁解の余地すら与えられず―――ただ・・・自分の愚かさに、泣いて悔やむばかりだったのです。
=続く=