今回、交渉すべき相手の機嫌を、大いに損ねてしまったリリアは、自分を恥じ入っていました。

しかしクラウドマンは、ミリティアの行動を別の角度で分析をしていたのです。

 

 

 

ク:ふぅむ・・・しかし、不思議な事もあるモノです。

リ:は?え?? 何がだよ―――

 

ク:いえ・・・先程のミリティア様の事です。

リ:あの人の―――? でも、あの人の何が・・・

 

ク:本当に、あなたの事を煩わしく思ったならば、すぐさま「瞬間(あ の)移動(能 力)」を行使すれば、早期にあなたから完全回避できたはず・・・

リ:(!)あ・・・っ―――そう云われてみれば・・・

  だとしたら―――・・・

 

ク:そうですね・・・恐らくは、試されているのだと思います。

  あなたが諦めず、根気よく続ければ、或いは・・・

  ですが、あなたにとっては辛い事だと思いますよ。

 

リ:(・・・)そう云えば―――

 

 

 

そう・・・ミリティアが、これまでのリリアの失態に業を煮やし、本当に顔も見たくない―――と、したならば、そう思った時点で「瞬間移動(テレポーテイション)」を使えば良かった・・・

けれど、そうはしなかった―――・・・

そうした矛盾点を、クラウドマンは・・・「もしかするとリリアは、今、試されているのかもしれない・・・」と、したのです。

 

しかし、それは「試練」―――

 

いくら自分が引き起こしてしまった不祥事とは云え、「伏礼」「土下座」に、そうは慣れていない人物が、赦されるまでそうした事を続けられるのか・・・

恐らくは、大抵の人間は、そうは出来るモノではない―――もし出来るとするならば・・・

 

 

 

リ:そう云えば、あの人が云ってたよ・・・「伏した顔の向こうで、我の事を睨みつけているのだろう」―――って・・・

  ハハハ・・・そう云えば、ジョカリーヌさんも同じような事を云っていたよ・・・

  「「伏礼」って云うのは、そんな事が多いから、私はするのもさせるのも嫌いだ」―――ってね。

 

ク:あの方がそんな事を・・・

 

リ:くそおっ! 私はなんてことをしちまったんだ!!

  ミリティアって人ばかりじゃなく、ジョカリーヌさんの顔までも泥で汚しちまった事になるじゃないか!

 

 

 

『伏した顔の向こうで、自分の事を睨みつけているのかもしれない』・・・

以前からジョカリーヌは、リリア達にその事を云って聞かせていました。

 

そしてその事は、『睨みつけている』・・つまり、怨みがましい感情も然ることながら、「自分に対しては心証を好くして貰いたい」などの、「太鼓持ち(おべんちゃら)」・・・

それに、「いつかは一矢報いてやりたい」などの、「報復」の意味も混ざっていた為、喩えそうした「念」を込めていなくても、「そう」間違われてしまった事は、

今までの自分の態度から推測されてしまったのでは―――と、リリアは思っていたのです。

 

それにリリアも、ならば「そう」した「念」が、全くなかったのか―――と云うと、「そう」だとは云い切れるでもなく、

ほんの少しながらも、「そう」思ってしまっていた事に、更に反省の色を濃くしたのです。

 

そこでクラウドマンは―――・・・

 

 

 

ク:しかし―――これ以外もう手はありません・・・

  それに、あなたも覚悟の上ならば、その事を続けるしかありませんでしょうな。

  それが喩え・・・あの方からどう見られたとしても―――です。

 

リ:ああ・・・そうだな―――

  もうこうなったら、あの人からどんな目で見られても仕方ない・・・

  だけど、あの人が私を赦してくれるまで、そうすることにするよ・・・。

 

 

 

第二百四十一話;試練の道程

 

 

 

いくらかは辛かろう・・・ジョカリーヌは、あの教訓と共に、こんな事を云っていたのをリリアは思い出しました。

 

『無闇に頭を下げるとね、私は、自分がとっても惨めな気持ちになってしまうんだよ・・・。』

 

そうだ・・・自ら率先して頭を下げてくるような連中は、皆、肚にイチモツを抱える者ばかり・・・

けれど、そうした意味ではない意味で、本心で頭を下げてくる者達もいる・・・

そうした者達は、現在の自分と、そうは変わりはないのだ―――と、リリアは理解するのです。

 

だとしても・・・リリアには、妄想する以外に手段は残されていない事を知ると、

ミリティアが自分の事を赦してくれるまで、ミリティアの屋敷に通い詰めるしかなかったのです。

 

 

そして・・・思いたったその日から―――雨の日も・・・風の日も・・・肌身凍える雪の日も・・・

リリアは、ミリティアの屋敷の門前に来て、ミリティアが自分に会ってくれるその時まで、座り込みを続けたのです。

(それに、窓からミリティアがこちらを見ていると感じると、すかさず「伏礼」を取ったり・・・と、実に涙ぐましい努力は、それはあったのですが・・・

依然杳として、向こうからの反応は、ないまま―――だったようです・・・。)

 

 

そんな事が数カ月続き―――ついに、ミリティアの方も折れてくれたモノと見え・・・

 

 

 

ク:リリア・・・ミリティア様が、お呼びだそうです―――

 

 

 

意外にも、ミリティア自身が会いたいとの意向を伝えに来たのは、あのクラウドマンでした・・・

それにしても、どうして彼が―――・・・

 

その事は、リリアに会う決心をしてくれた、本人の口から直接紡がれるのでした。

 

 

 

ミ:そこの者に感謝することだな・・・。

  (なれ)なぞ、もう二度と会う事などない―――と、思っていたモノを・・・

  そこを、この者が、あの時以来我の耳元で囁くのでな・・・仕方なく会ってやると云うのだ。

 

リ:(あ・・・)それじゃ、お前―――

 

ク:云っておいたはずです・・・この方に会わんとしている事は、避けられない事情でもあるのだ―――と・・・

  ですから、無理を承知の上で、会って頂いた次第であるわけなのです。

 

 

 

ミリティアにしてみれば・・・「リリア」とか云う、小娘の存在など、どうでも良かった―――

けれどそれでも、「会ってやろう」とした理由が、その時には漠然としてあったのでした。

 

そして・・・ミリティアに、そこまでの決断を促した人物こそ、誰あろうクラウドマン―――・・・

 

そう、彼は・・・リリアに誠意を見させる一方で、水面下でミリティアに交渉していたのです。

 

 

 

ミ:ヨヴ―――・・・あの者は、まだ見えておるが・・・

ク:いかが・・・です?

 

ミ:フッ―――いつまでもつモノやら・・・

  己が、卑屈にはなって来ぬモノなのか・・・

ク:それにつきましては、「致し方のない事だ」―――と、云っております。

 

ミ:然様・・・か―――

  (・・・)それにしても、あのような娘を「天帝の后」などと・・・あの「小僧(ガ キ)」は、まだ甘ったれていると云うか。

ク:フ・・・それを云われては浮かばれませんかなぁ・・・。

  それに、レヴェッカ様も、同じような事を仰られていましたよ・・・。

 

ミ:ほう・・・彼奴めが―――

  だが、もう少しばかり様子を窺わせてもらおう・・・それでも、遅くはないから・・・な。

 

 

 

云わずもがな―――この二人は、互いを知り過ぎている位に知っていました。

それに、リリアが「(現在の)天帝の后」であると云う事も―――

そして・・・どんな内容で、自分に会わんとしていたか―――と、云う事も・・・

 

その事を、ミリティアは理解していましたが、ならばなぜこのような事を―――?

 

それは、その内容自体にあったのでした。

 

 

 

ミ:それで・・・状況はどこまで進んでいる。

ク:(・・・)どうやら、「ツクモ」が動き出している様です。

 

ミ:(!)あの「存在」が―――

ク:はい・・・それを抑制する為、「我が主」は―――・・・

 

ミ:なるほど・・・「近い」と云うのか―――

ク:ですが、「いつ」かまでは断定はできておりません―――

 

ミ:しかし・・・ならば、あの「小童(クソガキ)」も、己の所有物を勝手にされたら気付きおるはず―――

  全く・・・「あの二人」はいつも「そう」だ、己の都合ばかりで動きおって、周囲(ま わ)りの迷惑も考えもせぬ―――

  あの「存在」の、「覚醒(め ざ め)」も「近い」と云うのに・・・

 

ク:「13兆5千億」―――・・・一瞬でしたからなぁ、あの時は・・・

 

ミ:「数」だけでモノを語るな! その「数」の意味が、何を意味しているのか判らないではあるまいが!!

ク:失言でした・・・ですが、これは事実そうなのです。

 

ミ:(は・あ・・・)だからこそだ―――尚更性質(た ち)が悪い・・・

  あの「存在」を退けて後、安定してくるかと思えば、「同じき存在」で争いを始めおるし・・・

  その仲裁役として、我ら「賢下五人」が調停を申し出たモノであったが―――・・・

  当時、新しく制定した「天帝」の業務遂行に支障が出た為、我ら「五人」のうちの一人が「后」として就いたのが、その始まり・・・

  その「初代」には、この我だったのだが―――それを、あの「小僧(ガ キ)」・・・我ら「五人」では飽き足らず・・・

  あの娘で、都合何人目になるのだ。

 

ク:私が覚えているだけで―――10人目にはなろうかと思われます。

  それに、今までで永く務められてきたのは、「女禍=ユピテール=アルダーナリシュヴァアラ」様・・・

 

ミ:(・・・)確か―――ガラティアとジィルガの妹・・・だったな・・・。

  苦労をかけたであろう・・・

 

ク:100期務められました。

(*1期=1000年)

 

ミ:(・・・)それは、本当に、苦労をかけたモノだな。

  だが・・・まあよい、取り敢えずは機会を窺おう。

  そして(な れ)は、もう一人の「小童(クソガキ)」―――ザッハークに、何か動きがあったならば、すぐに我に報告せよ。

  あの娘に会うと云うのは、それからでも遅くはない・・・

 

 

 

そう・・・この度クラウドマンが、「天帝の后」であるリリアを、ミリティアに会わせようとした「内容」が、その会話中に存在したのです。

 

そして、その内容を、ミリティアは良く理解していたのです。

 

それでも・・・「天帝の后」であるリリアに、すぐに会おうとしなかったのは、「まだ時期尚早」だからなのでした。

 

 

それに・・・彼女達には判っていたのです―――

いえ・・・彼女達二人だけに拘わらず―――153億の昔より、ある「特定の二人」のことを知っている者達ならば、全員・・・

 

そして、はずみにクラウドマンが口にしてしまった「数」も―――

例の「特定の二人」の作用によって、「喪われてしまった生命」―――それであることを・・・

 

かつて宇宙では、その開闢以来、消滅してしまう危機が一度だけありました・・・

その原因が、ある「特定の二人」の作用によって―――と、した時に、その「仲裁役」「調停役」を買って出たのが、「賢下五人」だったのです・・・。

 

そして、この「危機」が去った後、新たに設立されたのが「天帝」であり、

彼の執務や業務の代行―――更には、「危機」の後の「事後処理」を担当したのが、「天帝の后」の始まりでもあるとされたのです。

 

しかし、「后」は常時必要ではなく、ミリティア達「賢下五人」は、自分達五人が交互に替われば、後は必要ない―――と、してはいたようなのですが・・・

現実としてはそうではなく、現にリリアも・・・「天帝」の執務・業務の代行をさせられている―――と、云う処を見ると、確かに「甘え」は存在したようなのです。

 

しかも―――歴代の「后」の内で、最も永く勤めあげたのが、「女禍」(=ジョカリーヌ)だったとは―――・・・

 

それに、そうなってしまったのにも、やはり「裏」は存在しているようで―――・・・

 

 

 

ミ:然様・・・か―――

  それにしても―――フフフ・・・なんとも皮肉な「(えにし)」よ・・・

  まさか、あの「じゃじゃ馬娘(女        禍)」が、「小僧(天 帝)」の「后」となるとは―――な・・・

  (・・・)それで―――なのか・・・? 「覚醒(め ざ め)」の時期が、予定より早まっていると云うのは・・・

 

ク:そうなのかどうかまでは、判ってはいません―――

  ですが・・・興味深い(お も し ろ い)事には、リリアが「后」に選ばれた時、ジョカリーヌ様は泣く泣く手離した―――とも聞いております。

 

ミ:ほぉう―――そのような事が・・・

  ならば、これからが見物(み も の)と云うことか。

  この我に、「竪子」とまで云わせた娘が―――いずれ、宇宙の運命すら左右する存在となるのだから・・・な。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと