マリア=ルヴィ=モルガンは、今からほんの少し前までは、とある秘密犯罪取締捜査機関「ディーヴァ」の一員でした。

 

けれど「今」は―――「服従」を受け入れ、その組織を離脱しているのでした。

 

その事に憂慮した、同じ組織の『ラクシュミ』こと、ミリヤ=アゲット=ロックフェラーは、

自分のメイドであり、また・・・やはり同じ組織の『カーリー』にして「暗殺者・ウイッチ」でもある、メイベル=ヴァイオレット=フォルゴーレに、

マリアへ「ディーヴァ」に留まるよう説得と、そしてまた、手遅れにならないよう説得工作が失敗した時の事を考え、

マリアを仕留めるよう―――メイベルに云い含めさせたモノでしたが・・・

 

結果としては、事態は最悪の方向に向かおうとしていた―――・・・

 

つまり、説得工作も失敗し、メイベルも重傷を負ってしまったのです。

 

ここでミリヤは、この度契約を交わしたばかりの存在を頼るしか他はなくなり、今はその事についての話し合いがなされていたのです。

 

 

 

ミ:(まこと)にお恥ずかしいお話しですけれど・・・事態が思わぬ方向に動いてしまいました。

  本来ならば、私達があなた方の為に「護衛」をして差し上げる様なモノでしたけれど、

  一番の腕利きが私達の敵に回ってしまった以上、悠長な事は云えなくなってしまったのです。

 

  だから・・・この上は、契約の上では真逆の事になってしまいますけれど―――

 

ユ:ええ、判っていますわ・・・なにしろ、この大宇宙の事ですから、よくあることです。

ス:ま・・・そうだろうな、何よりお前は、そうした事を得手としていたから、説得力があると云うモノだ。

 

ユ:テヘw

  もう、大昔の事じゃないですか〜〜

ス:私は、根に持つタイプなのでな・・・

  私自身の恥を曝け出すようで何だが、大昔に、こいつに(たら)し込まれて、もう少しで主上に不忠を働く処だったのだ。

 

ミ:そんな事が・・・それでしたら、何か解決へと導く策でも―――?

 

ユ:残念ながら・・・それはありません。

  とは云っても、相手の「洗脳」の程度にもよるのですけれどね。

  それに、メイベルさんの聴取を行った処によると、どうやらマリアさんは、自我までも支配されているようではなかった・・・と、感じます。

 

ミ:それでは―――・・・

 

ユ:はい・・・つまりは、彼女自身の「本心」が、そうであったとしか―――・・・

 

 

 

しかし、そのユリアの言葉は、裏を返せば・・・自分達は、(いず)れ敵となる存在と、行動を共にしていた―――と、云うこと・・・

それだけ今回「ディーヴァ」内部で起こった出来事とは、深刻と云えたのです。

 

 

処変わって―――・・・

その「当人」である、マリアは・・・

 

 

 

マ:(ミリヤ様・・・怒っているだろうな・・・それに、勢いとは云え、メイベルを傷つけてしまった・・・

  それに―――「今」の私は、ザッハーク様に従わなければならない・・・と、云う事で頭が一杯―――・・・

  けれど、意識の(なか)では、「ディーヴァ」の仲間達には申し訳ないと・・・)

  ああっ・・・私は、どうすればいいの―――?

 

 

 

それは「葛藤」―――

所属していた組織から離脱し、楯つく様な事をしていたと云うのは、云わば「裏切り」・・・云わば「離反」であることに、

マリアは今自分がしている事・・・身を置いている処に(さいな)んでいました。

 

そしてそれは同時に、今自分が何をしようとしているのか・・・

世間で云う「悪事」に加担している事であると云う事を認知していた為、なおさら自責の念は増大していたのです。

 

それに・・・だからこそ、マリアは「なぜ今なのか」を考える様になりました。

 

今までに自分は・・・過去に、それもUPに所属するまでに「完全敗北」を受け入れ、肉体を嬲られ支配されてしまった・・・

しかもその記憶は、自分の(なか)に封印を施していただけに、それがどうして・・・「今」になって、鮮明に思い起こされてきたのか・・・

(ここで一つ―――マリアは、この記憶の封印を、自分でしたように思っているようではあるが、実はそうではなく、

マリアを、「自分の所有物」にしようとした「ザッハーク某」から、『そう思うよう』に仕込まされていたのを、マリアはまだ気付いてはいない。)

 

その事を深く考え込んでいた処に―――・・・

 

 

 

ザ:(・・・)マリアよ、何を考えている―――

マ:あっ―――ザッハーク様・・・

 

ザ:何かを物憂げに考えているお前も―――魅力的に感ずる・・・

マ:有難うございます・・・そう云って下さるのは、ザッハーク様―――あなただけです・・・。

 

 

 

マリアの現在の「所有者(あ る じ)」である「ザッハーク」―――・・・

 

実は、この人物が頂点に君臨している組織『アビス』は、UP内部の『指定犯罪組織リスト』の(なか)でもトップに挙げられており、

その事をUPの一員であるマリアも知らないはずはないのですが・・・

 

何を隠そう、この「ザッハーク」こそが、過去にマリアを完全敗北させ、いつの日か―――自分の役に立つよう「(しるし)」を付けておいた存在だったのです。

 

そして・・・その「いつの日か」が、「今」だった―――・・・

それまでの事を思うと、そうであるとも思えてくるのですが・・・マリアには、また一つ疑問とする処も浮かんでくるのでした。

 

 

 

マ:(・・・)あの―――ザッハーク様・・・一つお聞きしてよろしいですか。

ザ:(・・・)なんだ、マリア―――

 

マ:あの・・・ザッハーク様は、以前は私のことをとても可愛がって下されたのに、どうして今は―――・・・

ザ:(・・・)フフ・・・何をおかしなことを―――

  今も、変わらずお前の事を・・・こうして可愛がっていてやるではないか―――

 

 

 

以前には、今にも増して可愛がってもらっていた・・・それは勿論、感情的にも―――肉体的にも―――・・・

 

それが、今となっては・・・どこかモノ寂しさを感じており、その事を直接ザッハーク本人から聞いてみようとしていたのです。

 

けれど、本人からは―――・・・

以前と変わりなく―――マリアに愛情を注いでいると云ったのです。

 

その事に、マリアは大変嬉しく思い、また喜びました・・・

その「証拠」に―――と、「彼」の事を激しく求め、また「彼」も、その事に応えた・・・

熱く揉みしだかれ―――粘膜と粘膜は絡み合い―――汁はとび散り―――そして絶頂(ア ク メ)へ・・・

 

・・・ですが―――これらは総て、マリアの「脳内」で起こっている事だとしたら??

だとしたら、それは「妄想」の内―――

現実の世界で身悶えるマリアを横目に、「自称」を「ザッハーク某」だと名乗った人物は―――

 

 

 

ダ:(ふう・・・ヤレヤレ―――困ったモノだ。

  段々と「妄想」の方が激しくなってきている・・・なんてね。

  それに―――もうこれ以上は限界かもしれない・・・第一、そうそう誤魔化しきれるモノじゃないしね。

  「今」は、こんな事で何とかなっているけれど、いずれは・・・恐らくはあと二回くらいが限度―――かな・・・。)

 

 

 

なんと、マリアの「肉慾(よっきゅう)」を、「妄想」の内にて回避させていたのは、

現在のマリアの「所有者(あ る じ)」である「ザッハーク某」・・・なのではなく、「彼」に扮した「天帝ダンテ」だったのです。

 

そう・・・お判りでしょうか―――

 

「天帝」であるダンテが、今現在―――本来いなければならない場所・・・「春禺宮」の玉座にいない理由・・・

 

少しばかり以前のお話しで、マリアを「勧誘」し、現在彼女を「保護」している(かたち)となっている事を・・・

 

だとしたら、「天帝」自身が「保護」をしなければならないほどに、マリアは重要だった―――と、云う事になるのですが・・・

(ここでもう少し詳しく述べさせて貰えるならば・・・注目すべきは、前回のお話しでの、「ミリティア」と「クラウドマン」との会話に隠されている。)

 

それに・・・マリアの求めてくるモノは、日を追うごとに熱烈を極め、最早ダンテの有する「ユビキタス」でも限界が来ようとしてきたのです。

 

そんな折に・・・そろそろマリアの「本来の所有者」である、「(ザッハーク)」も気付く頃だと思っていた矢先に―――・・・

 

 

 

第二百四十二話:「アビス」よりの使者

 

 

 

誰:やはり・・・こう云う事でしたか―――

ダ:ああ、パクストンか、実に好い頃合い(タ イ ミ ン グ)だったよ。

 

パ:「だったよ」ではありません・・・。

  こちらの身にもなって下さい。

ダ:ははは、悪い悪い―――

  それで、「(ザッハーク)」は気付いちゃったんだね・・・。

 

パ:気付かないはずがないでしょう。

  元は、私の主が手を付けていた「所有物」を・・・私の主の思惑なくして、一人歩きをしているのですから。

ダ:ふぅん・・・それで?

  「(ザッハーク)」の「所有物」であるマリアを、好きにしている僕を―――・・・

 

パ:そう云う事が出来る筈がない立場である事を、お判りの筈なのに・・・

  全く、あなたと云い―――私の主と云い―――・・・

 

 

 

ダンテの前に現れたのは、「ミヤコン=グレビッチ=パクストン」と云う名の人物でした。

そしてこの人物こそ、現在ダンテが扮している「彼」・・・

犯罪組織「アビス」の事実上のトップである「ザッハーク」の「執事」だったのです。

 

それに、云わば自分とは対極に位置する存在の、側に仕える人物だと云うのに、

ダンテはその事に関しては無反応だったのです。

 

それもそのはず・・・彼は―――いえ、ダンテ「も」、そしてザッハーク「も」、目の前にいる彼「も」、

そこの処は判っていたのです。

 

なぜならば、「ダンテ」と「ザッハーク」は、今日(こんにち)に至るまでに、幾度となく無益な衝突を繰り返してきた・・・

そしてその無益な衝突を中断させる為、仲裁・仲介役を買って出たのが、かの「賢下五人」であり―――

「事後処理」の為、天帝側の補佐役として設置されたのが、「天帝の后」であり・・・またその「初代」を務めたのが、ミリティア=ミスティ=ミザントロープ―――その人だったのです。

 

 

それにしても・・・対極に位置するダンテとバクストンが、実際にこの場にて会っていたとはしても、何らかの衝突が起きなかったのは、どうして・・・

 

それこそが、「賢下五人」が、仲裁・仲介する際に決めた「約束事」―――・・・

 

「天帝」であるダンテと、「アビス」を率いるザッハーク―――

この両者本人同士が、直接に会わない限り、何事も生じない―――・・・

(つまりこの事は、「衝突」も「交渉」も、発生しないことを示している。

・・・と、云う事は、今回こうして、ダンテがパクストンに会ったとしたのも―――・・・)

 

そして、更に云うのならば・・・「アビス」は、「天帝」が有する「ある二面性」の、「一面」でもあるのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと