秘密犯罪取締捜査機関である「ディーヴァ」は、現在『ラクシュミ』であるミリヤ唯一人を除いては、その体を為していませんでした。
『カーリー』であるメイベルは、重傷を負って静療中―――
『サラスヴァティ』であるジゼルは、とある暗殺者からの依頼を受け、現在連絡もおぼつかないまま―――
『パールヴァティ』であるヘレンに至っては、本業である「賞金稼ぎ」の方に精を出し、こちらもやはり連絡が取れないまま―――
そして・・・『ドゥルガー』であるマリアは―――
かつての仲間を裏切り、「敵」として出現するようになっていたのです。
(尚、『シャクティ』であるバルディアは、不出来な部下の尻ぬぐいの為、各関係所への調整に奔走している。w)
そんな・・・現在の、自分が所属している組織の状況を鑑みても、ミリヤは―――・・・
ミ:(また私一人・・・でも、六人が揃うまでは、私とバルディアの二人だけ―――けれど、実質的には私一人だけだったようなモノですからね・・・。
それよりも、動向に注目しておかなければならないのは、「七人の魔女」の、残りの三人・・・『ロクサーヌ』『テレジア』『ヴィヴィアン』―――
彼女達が、次にどんな一手を打ってくるか・・・計り知れないわ。)
どこか・・・焦った様子もなく―――淡々と、現在自分が置かれている状況を分析していたのです。
それに現在は、『フロンティア』の一員である、ユリアと共に行動をしているのです。
それに、よくよく考えてみれば、「ディーヴァ」発足当初は、自分と『シャクティ』しか在籍しておらず、
その頃の実務も、現在取り扱っているモノから考えてみれば、そんなに「重たい」モノでもなかったのです。
だからか・・・こうも思うようにもなっていたのです。
ミ:(けれど―――長い目で見た処、現在はこの態がベストなのかもしれない・・・
互いに連絡を取り合わず、でも私達は互いが何をしようとしているかが判っている・・・
それに、連絡を頻繁に取り合っていたら、その内容を連中に気取られかねない・・・
ただ一つ―――気掛かりなのは、イレギュラーの存在・・・それがマリアなのか、全くの第三者なのか、私にはまだ判らない・・・。)
ミリヤが畏れていたのは、自分でも想定外の事が起こり得る事―――・・・
ただその一点に限っていました。
そもそも、「ミリヤの想定外」と云うのも、何も手薄になっている時分の身に、何者かの意思が働く―――だとか、
連続性のある犯罪が、各宙域に頻発するようになった―――だとか・・・
そんな些細なことなのではなく―――「何か」・・・
ミリヤでも予想し難い出来事が、進行中・・・或いは特異点に措いて表面化するのではないか―――と、云う事だったのです。
そんな物憂げな少女の姿を見ていた、この人物は―――・・・
ユ:新しい流行の茶葉を仕入れたのですが、いかがですか。
ミ:(・・・)いいわ―――・・・
ユ:そうですか―――では、早速淹れて参りましょう。
ミ:あの、私はそう云う意味で・・・
「何かお考え事の様ですね―――」等と、無粋な事をユリアは云いませんでした。
それにミリヤも、そうした意味で返事をしたわけではありませんでした。
けれど―――どちらでも取れる様な、曖昧な返答でしかなかった事に気付き、反論を止めてしまったのです。
恐らくは・・・この女は―――自分の思案顔に、随分と前から気付いていたに違いない・・・
けれども、そうした事を口に現すでもなく、気の利いた事を紡いでくれる・・・
ミリヤは、なぜジィルガが忌み厭い、畏れているのか・・・ようやく判った様な気になりました。
この女は・・・他の誰よりも、「聡い」―――
もしかすると、ジィルガ本人よりも・・・
そんな存在が、また「敵」として現れてくることのないよう、「死せる賢者」であるガラティアが、
自分の手元に置き、管理している・・・のではないか―――そうとも思えてくるのです。
けれども、結局の処は判らない・・・
ミリヤは、ジィルガ本人でもなければ、ガラティア本人でも―――況してや、ユリア本人でもないのですから。
それに・・・澄ました顔で、お茶を嗜むその顔の向こうで―――もしかしたら・・・
ミ:(・・・)なにも―――仰らないのね・・・
ユ:何か、仰って頂きたい事でもあるのですか。
ミ:判っているくせに・・・聡いわ―――
ユ:あなたの様な、「月詠」を持っていない身ですから・・・
その様な、他人の考えている事など、わたくしには判りません。
ミ:あなた―――!
『ですが・・・』と、その女は呟くと、そこにはまさに現在の事態が「停滞」しているのではなく、
ほんのごく僅かと云えども、動きを見せている事に言及をしていたのでした。
それを証拠に、或る惑星で起きた「事件」をファイリングしたモノを、ミリヤに提示したのです。
その「事件」の内容に、思わずミリヤは・・・
ミ:(!)これは―――!!
ユ:「宇宙会議」の大物議員、ロムスカ=コレサト=グーベルシュタイン―――
「ロイド保険会社」の会頭、メサイア=ウィルヘルム=ロイド―――
この二人の人物が、違う場所で・・・ですが、死亡推定時刻は、ほぼ同じ―――
ミ:それ・・・って―――
ユ:しかも、「死因」も自然死ではなく、明らかに「外的要因」・・・「殺害」されています。
それも―――全く同一人物による、「暗殺」・・・
ミ:(!!)
ユ:それと・・・こちらはわたくし共の方で調査した事なのですが―――
この二名は、「七人の魔女」の人のである、『ロクサーヌ』の―――・・・
ミ:(・・・)もう、いいわ―――
ユ:「いい」―――とは?
ミ:そこから先の事は、私の方でも把握している―――と、云う意味です。
それにしても・・・一体誰が―――もしかするとあなたが?
ユ:わたくしは、そこまで出過ぎたマネまで出来ませんわ。
それに、わたくしが思いますのには、恐らくはわたくしの盟主やジル―――それにジョカリーヌの方でも、この件に関してはノータッチでしょう。
ミ:(・・・)ならば―――
ユ:はい―――ですからわたくしは、この件は全くの第三者からの依頼で、ある優れた「暗殺者」が遂行に及んだモノ―――と、そう推測いたします。
その過程で、協力者が「いる」か「いない」かまでは、定かではありませんけれどね・・・。
ミ:(・・・)そこまで判っていて―――
ユ:「判って」いるのではありません・・・これは単なるわたくしの、「希望的観測」にしか過ぎないのです。
しかし・・・そうは云っても、その女の眸は、そうは云ってはいませんでした。
恐らくは・・・この女は、「破極点」を見据えている―――
「七人の魔女」が描く謀議の、その先を―――・・・
それに、「暗殺者」に協力をした者達も、恐らくはこの女の手の内にあるのだろう・・・
そして、それは―――・・・
第二百四十三話;トリスカイデカフォビュア
それよりも、少し時間を遡って―――・・・
この世間では、「遊興」の一つに「カード・ゲーム」と云うモノがありました。
その内でも、「トランプ」を使ってのゲームは、実に幅広く・・・遊び方も、単純ながらも極み尽くせば奥が深いモノでした。
そして更に・・・その内でも旧くから嗜まれて来ている遊び方で、『ポーカー』と云うゲームがありました。
このゲームの主旨は、相手よりも強い「役」を揃える処にあり、そしてそれは「運」も必要であり―――また同時に、駆け引きの巧妙さも必要となってくるのです。
(その内のテクニックの一つに、自分の「役」を気取られないようにする「ポーカー・フェイス」と云うモノがあるが、
こうしたテクニックは、得てして商人達の間でも広まり、特に「詐欺」を働く連中には、殊の外珍重―――かつ必須だとも云われている。)
そしてこの時も―――・・・一人のある富豪が、仲間の三人と共に『ポーカー』に興じていたのでした。
ロ:(・・・)フッフッフ―――「ダイヤのストレート・フラッシュ」・・・私の勝ちだな。
仲1:ええいっ―――くそっ! また持っていかれたか。
仲2:それにしても・・・今回はバカに付いているな―――
ロ:なにも、「ついている」のは「カード・ゲーム」ばかりじゃないぞ。
仲3:そう云えば―――例の・・・何と云ったかな。
仲1:三枚ベッドだ―――ああ、確か「成功者」とか云ったかな。
名前? そんなモノは知らんよ―――いちいち覚えていられるか。
仲2:では―――私は五枚だ・・・
しかしお陰で卿は、傾きかけた会社を持ち直したと云うではないか。
ロ:ふふ・・・まあな、それに、(保険)証券の原本自体は、私の手元にある様なモノだから・・・な。
いざとなれば―――・・・
仲3:おいおい―――私達のは、大丈夫なんだろうな?!
ロ:―――っはっはっは!
君達の様な上お得意様のには、手を付けてはおらんよ。
まあ・・・それも、これからの私との付き合い次第―――だがね。
「ロイド保険会社」会頭―――メサイア=ウィルヘルム=ロイド・・・
この人物は、無類のポーカー好きで知られ、この時も気の合う仲間と一緒に、10時間程度興じていたモノでした。
しかも、今回に限ってはバカに付いていて、負け知らず・・・
資金も、最初に始めた時よりも数十倍にも膨れ上がっていたモノでした。
けれど、こうした「賭け事」の妙とは、「勝ち」があるから「負け」がある―――・・・
また、その逆も然り―――・・・
今まで100回勝っていたとしても、たった一回の負けで、地獄を見る者も、そう少なくはなかったのです。
そして・・・実はロイドも、過去に、そんな「地獄」を体験した一人でした・・・。
そして今回―――
ロ:(!!)・・・悪いが、この勝負下ろさせて貰う―――
仲3:ほぉう―――今回はツキまくっている卿が、またどうして・・・
仲2:(・・・)ならば―――「役」のオープンを・・・
今まで勝ち続けていたロイドが、手元にあるカードをチェンジした時、次の事を考えずに即座に「下りた」のでした。
たしかに、優秀な「賭け事師」の条件の一つに、「引き際」と云うのがありますが、何よりロイドは「賭け事師」ではない・・・
しかし仲間達は、ロイドの「ある癖」を知っていたから、その時に「下りた」のも理解出来たのです。
では・・・「ロイドのある癖」とは―――?
仲2:「スペードのロイヤル・ストレート・フラッシュ」・・・
仲1:だが、「K」だけ違うぞ・・・
「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」とは―――
「同じマーク」で、「10」から始まる「ストレート」・・・
「役」としては、「ファイブ・カード」の次に強く、よほどの強運がないと中々揃えられないモノでした。
そしてそこで見たモノとは・・・「K」だけが、「マーク」が違う・・・
しかし、「役」としては、「ロイヤル・ストレート」・・・
現に、ロイドが「下りた」ゲームでも、彼の「役」が一番強かったのですが・・・
ならば、どうして―――・・・
ここで先程の、ロイド自身が過去に味わった「地獄」に関与してくるのです。
現在より、およそ15000年前―――ロイドもまだ駆け出しだった頃、やはり現在と同じ様に、彼は「ポーカー」に興じていました・・・
その時も彼は付いていて、資金の方も数百倍までに膨れ上がり、丁度キリの好い処・・・次のゲームで最後にしようとした時、「店」側が動きを見せてきたのです。
そう・・・彼をわざと負かすよう―――ディーラーに指示を・・・
そして―――まんまと「店」側の罠に嵌り、文字通りロイドは「地獄」を見たのです。
そのとき偶然にも、現在の「役」と同じ・・・
「K」だけが違う、「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」―――
けれど・・・勝負を申し出た「店」側のディーラーは、「ハートのロイヤル・ストレート・フラッシュ」・・・
まさか・・・自分が―――・・・
まさか、「K」だけが違うだけで、「地獄」を見る羽目になろうとは・・・
それ以来ロイドは、「13」と云う数字に恐怖を抱くようになりました・・・
他人から見ると、「些細な事」―――「莫迦げたこと」かも知れない・・・
しかし、たった一枚の「K」のお陰で、その後の人生を大きく狂わされた者にしか判らない、「恐怖」と云うモノが、そこにはあったのです。
=続く=