イコン河に架かる四つの橋のうち三つまでは、プロメテウス軍からの侵攻を食い止める事が出来ました。
そしてこれから最後の一つ―――これが、今回の防衛戦で最も激戦区になると思われている「クレッシュ」・・・
では、どうしてここが、そうなるのかと云うと・・・実は、この「クレッシュ」こそは、四つの橋の内でも最も大きく、
プロメテウス側から二方向―――そして、河の中ほどで一つにまとまり、サライ側に一方向なって行くと云う・・・丁度「Yの字型」に橋が成形されていたのです。
それに・・・流通や交通の面からしても「要衝」であり、この橋をどう攻め切るか・・・または防ぎ切るかが、この度の戦の要ともなっていたのです。
だからこそ、この橋の袂に陣取り、プロメテウスの行く手を阻んでいたのは、今回の作戦立案者でもあるリリア―――と、その彼女の良き理解者である蓮也・・・だけなのかと、思いきや。
蓮:見渡す限り皆敵兵とは―――なんともやり甲斐のある戦でござろうな。
リ:フフ・・・ご機嫌だな、蓮也―――斯く云う、私もだけどな。
それにしても―――・・・
マ:ほほ〜い♪ 私とバルちゃんも手伝っちゃうにょ〜ン♪
ラ:とは云っても・・・こちらは総勢で四人しかいやしねえ―――さて、どうする・・・お嬢。
リ:はっ―――上等じゃないか! たった四人しかいなくてもなぁ・・・やる時にゃ、やらなきゃならない―――譬え一人たりとも、サライの地は踏ませやしねぇぜ!!
実は、彼女達の他に・・・任意でこの戦に参加した「侯爵」と「その従者」がその場にいたのです。
そして目の前を見渡せば・・・これまでの中で一番多い、総勢20万はいようかと云う大軍―――
ざっとこの規模を見ただけでも、プロメテウス側の今回の意気込みと云うモノが判って来ようと云うものです。
けれど・・・喩えそんな大軍を前にしても、怖じず―――狼狽えず―――武芸に秀でた姫君は、小気味よい啖呵を口にしていたのですが・・・
しかし―――・・・
見誤ってはならないのは、「侯爵」達がこの戦に参加した、その目的―――
お気付きにはならないだろうか―――・・・
侯爵・マキと志を同じくし、また同じ国の出身である者達が、どのようにして今回の戦の展開をなしたかを。
そう・・・それは、紛れもなく―――
第二十五話;防って勝つ戦
各戦線の状況が報告されていく中、クレッシュの攻略を任されていた将軍は、ならばせめてこの橋だけは―――と、一気呵成に攻め立ててきました。
その意気たるや、たった四人の防衛線を併呑込んでしまえるほどに・・・
そんな者達の意気込みを肌身で感じたリリアに蓮也は、否が応でも敵愾心を奮い立たせるのですが―――・・・
リ:よぉ〜し、来るなら来い―――! ・・・って、ま・マキさん? ちょと・・・なにを??
蓮:バールゼフォン殿までも―――ナゼに拙者達の邪魔立てを・・・
マ:ニャハハ〜ン♪ いやぁ―――悪い悪いw
けどさぁ・・・リリアちゃん達、血気に逸ってるっしょ?
ラ:そいつじゃダメなんだな―――それに・・・だからワシらがこの戦を取り仕切らにゃならんのさ。
それに・・・「あの方」からも、「呉々も―――」と、云われてるこったしな・・・。
リ:はあ? なに云ってんだよ―――それに元々、ここは私達の土地だ、だから私達が護らなきゃならない・・・それでもまあ協力してもらえるのは感謝してっけど・・・
それを「取り仕切る」って云うのはちょっとアレだな―――
それに・・・「あの方」って、ジョカリーヌさんのことなんだろうけど、あの人の云い含みで動いてるんなら、私達の意見を尊重してだなぁ・・・
マ:ああ〜ン、違う違う―――変な方向に取らないで?
あの方の云いたいことってさぁ―――判り易く云っちゃうと、リリアちゃんもあの人達も、同じ「商品」みたいなもんなんだよ。
リ:はああ? なんか益々判んないんですけど―――大体、人をモノ扱いするって・・・
ラ:やれやれ―――ま、あんな説明をした侯爵さんにも否はあるが、そこんところを掘り下げすぎたお嬢の方にも否はある・・・
まあ、その説明は、とっくりと後でしてやるさ・・・こいつら全員、生かして追い返した後で―――なあ!!
なんと意外なことに、既にやる気満々―――臨戦態勢に入っているリリアに蓮也の前に立ちはだかったのは、マキとラスネールの二人なのでした。
そんな二人の意外な行動に、疑問ばかりが残るリリアは、ある質問をぶつけてみたのです。
すると彼方からは・・・耳を疑うかのような、衝撃的な答えが返ってきたのでした。
それが・・・なんと彼らは、彼ら自身の主である大皇・ジョカリーヌから、この大陸の人間を商品化―――つまり、奴隷として売り出す為に、一切傷つけてはならない・・・と、云われていたのです。
けれど、その事は全くの真実ではなく―――そうした誤解を招くような説明をした侯爵・マキにも責任があるとした一方で、捉え方の飛躍をしてしまったリリアの方にも責任があるとしたのです。
そこでラスネールは、目前に敵兵が迫りつつあったので、誰にでも判りやすい説明を、戦を終わらせた後にしてやる―――と、云ったのです。
そう・・・敵強兵、プロメテウス総勢20万もの大軍を、「全員生かして追い返した」あとで―――・・・
・・・「全員生かして追い返したあと」―――?
リリアの理解力が幼児の「それ」と同じか、また或いは聞き違えでなければ、そう聞こえた―――
けれど、確認の意味でもう一度、老兵に訊き返したところ・・・やはり彼は同じ口調で同じ言葉を述べたのでした。
それは、何かの冗談か―――?
リリアがそう思いたくなるのも無理がありませんでした・・・
何しろ、彼女がこの世に生を受けてから23年―――いや、それよりもずっと以前から、自分達の国は北の強国の脅威に晒されてきたと云うのに・・・
それが・・・どうして・・・そんなに自信たっぷりに云える事が出来るのか―――
すると―――・・・
マ:さぁ〜てっ・・・と―――ほいじゃ、ぼちぼち始めちゃいましょ〜かね〜♪
リ:無茶だ・・・いくらなんでも、マキさんが強いと云っても、こいつら相手に「生きたまま追い返す」なんて―――・・・
ラ:ガッハハハ! そいつがそもそもの間違いなのよ―――お嬢。
それに・・・やつらも、またお嬢達も、ワシらは四人しかいない・・・と、思っているだろう。
蓮:(!)もしや―――伏兵の存在が??
ラ:ん、な―――気の利いたもんじゃねぇ・・・って。
見るも・・・聞くも・・・また知るもおぞましい―――まさに「闇の軍団」がいるのよ・・・
確かに―――その戦場では、見る者が見た限りでは「20万vs4」と云う、判り易過ぎる構図でした。
しかしこの時、ラスネールがとても奇妙な事を云い出したのです。
それが・・・リリア達が、四人「だけ」―――ではない・・・と、云う事を。
その事を聞くなり、すぐさま蓮也は「伏兵」の事が頭に浮かんだのですが―――
それでもラスネールは「違う」と云ったのです。
そして老兵はまだ更に―――「そんな気の利いたモノではない」・・・
出来れば、見たり聞いたり知ったりしない方が良かったとさえ思えるほど、不気味で・・・おぞましい「闇の軍団」だとさえ云ったのです。
それに・・・実はこの現象は、既に以前のお話しに出てはいたのです―――
そう・・・同じ闇の眷族の血を引く―――「公爵」の、あの「術式」・・・
――〜我が影に組まれし 従う者共よ〜――
――〜盟約の主の声により その責務を果たす礎となれ〜――
侯爵・マキの行使した術式を見るなり、リリアも蓮也も息を呑みました・・・
いや―――彼女達のみならず、総勢20万ものプロメテウス兵達も・・・
それもそのはず、なんと侯爵・マキの影から、彼女の呼び掛けに応じて這い出てきた者達の数―――凡そ100万・・・
一体・・・これだけの数を、その幼くも小さな身体のどこに収納させていたのか―――
しかし、それこそがヴァンパイア一族だからこそ成せれる業―――
過去に、自分達に抗ってきた者達を屈服させ、その者達の血を奪う事で自分達に従属する下僕を創る・・・
而してその原理は、ラスネールも同様でした―――
そう・・・彼もまた、過去にはマキに抗っていた存在。
それが―――経緯はどうあれ、マキに屈服し・・・命の等価としての血を奪われてしまった・・・
ただ、ラスネールが単独での行動に制限を課せられていないと云うのは、或る意味で彼はマキの「お気に入り」だったからではなかったのだろうかと、判断する材料になるのです。
それはともかく―――100万vs20万では、圧倒的な数の利であり、立ち所にして勝負の方はついてしまったのです。
そこでよく見てみれば―――負傷したプロメテウスの兵などいなかった・・・
そしてそのあと、彼らを追い返し・・・ラスネールから、大皇の意図を聞くこととなったのです。
ラ:―――まあ、なんだわ・・・侯爵さんが云ってたことも一理はあるんだがな・・・。
そこでお嬢達に一つ聞くが―――もしお嬢達が商品を扱う商人だったら、そいつをどう扱う?
リ:ん〜〜まあ・・・商品は大切に扱う―――よ、な?
ラ:もう答えは出てるじゃねえか。
それにお嬢は、あの方がこれからやろうとしている事を知ってるんだろ。
蓮:そう云えば・・・先程、「大皇」とか「ジョカリーヌ」とか・・・それがもしや―――リリア殿が会ってきたと云う御仁の事では・・・
その蓮也からの問いに、リリアは応える事はありませんでしたが―――その事が逆に、リリアが行方知れずになっていた間に会ってきた人物であることを、蓮也は察知したのです。
そして、その人物からの多大な影響により感化されたリリアは、その人物と交わした約束の下、こうして動いているのだと理解もしました。
それにリリアも・・・ジョカリーヌが抱いている大いなる意思―――地球と云う惑星の意志を一つに纏める・・・その為に、
五つに分かれている大陸に、それぞれの大陸の住民達の意思を反映することが出来る「評議員」を置き、
そして更に自らがその「評議員」の「長」として、一つに纏めた意見を「地球全体の意思」として反映させ、外宇宙の各方面に理解をして貰う・・・
そのことは、「武力」による解決方法ではなく―――どちらかと云えば緩やかな・・・穏健的な解決方法であり、決して血の気の多いリリアに理解するのは難しいと思われたのですが・・・
なぜか奇跡的にリリアから共感を得―――リリアはリリアのやり方で、ジョカリーヌが抱く大いなる意思に協力をしていこうとしていたのです。
=続く=