この度のプロメテウス軍侵攻―――

そのこと自体はプロメテウス側の全軍撤退と云う(かたち)で決着がつきました。

 

しかし・・・問題はこれから―――

本来この問題は、サライとプロメテウス二国間のモノであり、そこにオデッセイアが関与する余地は全くなかったのです。

なのに・・・ならば今回のリリアの行動は一体何を意味するものなのか―――その事は内外から問われることは必至だったのです。

 

では、この窮地を―――どうやってリリアは切り抜けたのでしょうか。

 

 

 

リ:ほぉう―――ソフィアの奴はプロメテウスの連中を退ける事が出来たと云うのか。

  それは全くもってめでたいことじゃないか。

 

官:ですが、おかしな風聞も巷には溢れております。

官:いかにも―――なんでも(くだん)の防衛戦に、リリア様・・・あなたのお姿を見たと云う者もおります。

 

リ:私が? ―――どうして他国との争いに口を出さなきゃならない。

  それに、その防衛戦に出撃()てた謎の人物が、この私である―――と、確証を持てる証拠でもあるのか。

 

 

 

オデッセイア内政官達からの厳しい問責に遭うも、リリアは「知らぬ」「存ぜぬ」を貫き通しました。

その事は、やはり当事国の一つであるサライからの使者にも、同じような質疑応答で返していたのです。

それに・・・同じ時期、リリアと同伴をしていたと見られている蓮也にも、同様の質疑応答がなされたようなのですが・・・

得られた結果も、大してそう違いはなかった―――

だからこのことに関しては、リリアも蓮也も・・・疑われはしても、限りなく「白」に近いと判断されるしかなかったのです。

 

第二十六話;動機不明

 

こうして・・・何者かの策によって、今回の侵攻を阻まれてしまったプロメテウス―――

それに、いくら()の国が軍事的に強大な国家と云えども、敗戦から立ち直るのは時間を要することであるとし、ここに暫定的ながらも平穏は取り戻せていたのです。

 

しかし―――ここで裏を返すならば、こうした平穏な時間だからこそ気を抜いてはいけない・・・注意や警戒を怠ってはならないのです。

そうした油断や隙を伺っているのは、なにもプロメテウスばかりではないのだから・・・。

 

 

その証拠として、ある日の早朝に・・・サライ国女王ソフィアは、家臣達から、ある耳を疑いたくなるような報告を受けていたのです。

 

その報告とは・・・「侵攻」―――

 

すると、またもや、先般侵攻してきた国家ではないのか―――と、疑ってはみるのですが、なんとこの度侵攻してきたのは、長年同盟関係にあるはずの国家から・・・と、云う事でした。

 

それにしてもどうして―――・・・

 

女王ソフィアは、居城―――ユーニス城前に(ひるがえ)る、オデッセイアの軍旗を見ながら、()の国の姫君であるリリアが、どうしてこのような行動に踏み切ったのかの動機を模索していました。

 

しかし・・・思い当たらない―――

いや、もしかすると―――彼女は愈々(いよいよ)もって、この大陸に覇権を唱える為に動き出したのか・・・

 

確かに、リリアの気性は、リリアの実父が惜しんだほどに「男勝り」であり、もし彼女が男児に産まれてきたのなら、一国の当主としてこれほど相応しい人材はいないとさえ云われていた・・・

けれど―――産まれてきたのは女の子・・・

そうした事実に、前オデッセイア国王は落胆することしきりでしたが、「草鞋は履かせてみないと判らない」・・・

その姫君は、成長するに伴い―――将の将たる・・・王の王たる気質を、充分に兼ね備えてきたモノだったのです。

 

 

ともあれ―――ソフィアはまず、どうしてリリアがオデッセイア軍を動かせたのか・・・その動機を知るため、彼女の(もと)に使者を立ててみることにしたのですが、

その程度では駄目なのか―――その使者はリリアに会うことすらなく、追い返されてしまった・・・

では―――と、云う事で、次は「鉄腕宰相」と呼ばれているギルバートをリリアの下に送ってみたのですが、

やはり彼も・・・リリアに面会することまでは出来たのですが、主題には全く触れられず戻されてしまった・・・

 

そこでソフィアは、考えあぐねた末―――リリアとはここ最近で非常に親しくなった市子を送り込んでみることにしたところ・・・

なんと、彼女も以前の使者たちと同じだったのか―――と、そう思えば・・・

 

 

 

ソ:私に・・・直接会いたい―――?

市:はい―――それにリリア様は、「だから偉くなった奴は嫌いなんだ」・・・と、そう申されておりまして―――

 

 

 

なぜ―――国家の一大事の時に、国家を代表する者とではなく、その代理の者と話し合わなければならないのか・・・

 

リリアが、(いま)だもってオデッセイアの王位を継ぐ事を(かたく)なに拒んでいた背景の一つに、「いつしか人間は、偉くなり過ぎると、周囲(ま わ)りの人達の恩義や仁義を忘れがちになってしまう・・・」

現在のソフィアも、実際の処はそうではないのか―――と、(あん)に皮肉られたものだと感じたソフィアは・・・

一大決心をして、ユーニス城を包囲しているオデッセイア軍の本陣を訪れることにしたのでした。

 

すると―――そこで待ち受けていたのは・・・

 

物々しい陣立てばかりで、そこには戦特有の殺気ばったモノは、なにもなかった―――・・・

 

それにしてもまさか―――リリアほどの、武芸や軍略に秀でた人間が、こんな張りぼてで戦を始めようなんて・・・

 

ソフィアは、リリアが自分の前に出てくるまでの間にも、色々な思考を重ねました。

 

しかし・・・今回の様な戦の様式を、それまでに知る機会がなかったので、戸惑いばかりが先行してしまうのは否めない事ではあったのです。

 

そんな中・・・ようやく見せた顔に―――

 

 

 

リ:よう―――待たせたな。

ソ:リリア・・・あなたって人は―――!

 

リ:そんな怖い顔すんなよ・・・泣いちゃいそうだ。

ソ:〜・・・それはそうと、どうしてこんなことを―――

 

リ:ま・・・なんだ、丁度暇を持て余していたものでな―――

ソ:暇を持て余していた―――って・・・サライとオデッセイアとの間で戦争があったとすれば、一番喜ぶのはプロメテウスなのよ? そんな事は考えもしなかったの??

 

リ:うるっさい奴だなぁ・・・

  それを云うんだったらな―――こっちだって云う事があるぞ・・・

  どうして、オデッセイアの王になろうとしている私が来ていると云うのに、サライの王たるお前自身が―――出て来なかったんだ・・・。

ソ:そ―――それは・・・

 

 

 

そのリリアからの問い掛けに、ソフィアはすぐに答えることが出来ませんでした。

確かに今回、一国を代表する人間自身が来ているのだから、やはり原則としてはサライを統治するソフィア自身が出てこなくてはならない・・・

とは云え、こうした物々しい態様(たいよう)では「開戦布告」とも捉えられなくもなかった為、一概(いちがい)にソフィアの方ばかりに否があるとは言い切れないのです。

 

それにしても・・・少しばかり、ソフィアは奇妙な感覚に陥っていました。

その理由の一つに、ならばなぜ―――リリアは物々しい陣立てをして、ユーニス城を包囲しなければならなかったのか・・・

それに、これから一国の王となろうとしている人間が、世間的にも誤解を招きやすい行動を取ってしまったのか・・・

それとあと―――どうしてリリアは、こんな時期に・・・オデッセイアの国王になろうとしていたのか・・・

 

総ての謎は、これから解明してゆくこととなるのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと