不思議な体験はしたものの、どうにか自分なりに納得して、(はぐ)れた仲間を探し出す為、取り敢えず近場を散策するリリア。

 

しかし―――こんな状態の時の人間は、往々にして周囲に注意が行き届くモノではなく、それは現在のリリアにも云えた事でもあったのです。

 

考え事をしながら歩いていると・・・自分の前を歩いていた者が急に立ち止まったりすると、ぶつかってしまうと云うのは割とよくあった話しで―――

 

 

 

リ:ぅわっぷ!?

  あいちちち―――・・・わ、悪ぃ、ちょっと考え事してたんで、前をよく見て・・・

 

 

 

すると―――ぶつかってしまった方から、尻もちをついて地べたに座り込んでいるリリアに対し、手が差し伸べられてきたので、

反射的にその手を掴んでみると・・・?

 

 

 

誰:フフ・・・どうした、わしの手が掴めんほど、衰弱しきっておるようには見えんのじゃがのう・・・。

 

 

 

第二百六十五話;再     

 

 

 

自分の身を引き起こす為に、差し伸べられた手・・・

その手の主を見ると、リリアは固まってしまいました。

 

どこかで見た事のある―――・・・いや、以前のリリアが知る姿ではなくなってきている「探し人」を目にしたリリアは・・・

 

 

 

リ:た・・・たま?? お前・・・たまなのか??

  いや・・・でもその姿―――

 

玉:フ・・・ぬしもさぞ驚いたじゃろうな。

  斯く云うわし自身も、気が付いた折に既にこうなってしまっておる状況を、把握しきれんでおったのじゃからな。

  まあ・・・今はその事はよい、取り敢えずは落ち着いて話し合える場所を求めねばのう・・・

 

 

 

以前まで―――リリアが知っていた姿・・・「幼き女児」の姿ではなく、以前にたった一度だけ敵を退ける為に晒した、その人本来の姿・・・

 

頭には「白金」を思わせる御髪を頂き、黄金の眸―――豊満な軆つき・・・

なにより、常磐に蔓延(は び こ)る「妖」の長者にも番付された事のある、存在感を醸したる者こそ―――

『金毛白面九尾・玉藻前』

なのでした。

 

それにしても・・・ならばどうして―――玉藻前が、幼き形態ではなく、成体の形態を取っているのか・・・と、云うと―――

 

 

 

玉:(・・・)ふむ―――その事なのじゃがな・・・

  どうやらわしに施しておった「封」の効力が、失せておるようなのじゃ。

 

リ:「封」?? ああ・・・そういえば、確かお前のあの(幼女の)姿、封印をされた姿だ―――って云ってたよな・・・。

  それにしても、どうしてなんだ?

 

玉:(・・・)そこのところは、わしにも判らん。

  第一、ぬしの巻き添えを食う様な(かたち)で、あの現象に遭うた時、ぬしの手を掴んでおったからこそ、今はぬしと一緒になる事が出来ておる・・・と、

  わし自身は斯様に解釈をしておる。

 

リ:はあ゛〜〜・・・なんだかややっこしい事になりまくってやがんなあ・・・面倒くせ―――と、云ってもられないか・・・

 

 

 

今までにも自分達が経験をした事のなかった事だからか、度が過ぎる慎重を期して行動をすることにする、リリアと玉藻前・・・

 

それにしても、不可解過ぎる出来事ばかりでした・・・。

 

現在、自分が目にしている仲間の本来の姿―――も、(さなが)らに、先程まで会っていた「ある知人」の存在・・・

それに―――・・・

 

 

 

リ:それより・・・ここは一体どこなんだ??

  今のお前の姿もそうだけど―――さっき・・・あのエルムさんによく似た人と会ってたんだよ。

  しかもさ、名前まで同じだったんだぜ? これ・・・って、どう云う事なんだよ!?

 

  それにさ・・・だったらどうして、お前は私のすぐ目の前にいたんだ??

 

玉:ふむ、それについての応答は実に簡単じゃ。

  ぬしのことは・・・「こやつら」に探らせておったのじゃよ。

 

リ:「こやつら」・・・って、紙??

 

玉:「式神」―――と、云う・・・

  現在わし自身が置かれておる状況を探らせておった時に、偶々ぬしらしき人物を見かけた―――との情報を掴んでの。

  そこでわし自身が、その真偽のほどを見極めておったのじゃ。

 

リ:は・・・それじゃ―――

 

玉:うむ、ぬしのその間抜け面・・・見紛うはずもないぞw

 

リ:うるへえ〜! こっちもな―――何が何やら・・・さっぱりなんだから・・・

  それに・・・私の一番最初の質問に、まだ答えて貰ってないんだぞぅ。

 

 

 

すると玉藻前からは、「その事については、未だ調査中―――」とだけ云い置かれ、

未だ自分達が、どこに身を置いているのか、悶々としなければならなかったようです。

 

 

そんなリリア達とは変わって―――・・・

とある場所・・・ガルヴァディア大陸は「ワノナ国」の、「コクトー」と云う地域に措いて、カルマの意を汲む悪党どもが横行するのを聞き、

その報告を、マハトマ教の総本山がある「サライ国」の首都・ヴェルフィオーレに戻ってきたエルムは、

自身が所属する「異端審問庁」に出庁し、彼女の直属の上司であるキュクノスにしてみた処・・・

(「ワノナ国」とは、後の「クーナ国」の前身の国家)

 

 

 

キ:なんだ、エルムか・・・どうしたのだ。

 

エ:はい―――実は・・・

  以前より報告に上がっていました、「コクトー」での、カルマらしき者達の横行について―――なのですが・・・

 

キ:なに? カルマ―――だと??

 

エ:はい―――その虚実を確かめよ・・・とのことでしたが、事実でありました。

 

キ:ふぅむ・・・そうか―――・・・

 

エ:キュクノス様―――いかが致しましょう。

 

 

 

当時のキュクノスは、エルムと同じくマハトマ教に仕えており、教会内でも「枢機卿」と云う身分にあり、それなりの権限を有していました。

 

それに、彼が務める「異端審問庁」でも、他の異端審問員達を纏める「異端審問長」の立場にあり、

日々、マハトマ教の教化に応じない者達への取り締まりをしていたのです。

 

 

ですが―――・・・

 

 

そんなキュクノスを取り巻く「黒い噂」が、ここ数ヶ月間囁かれ出してもいたのです・・・。

 

けれどもエルムは、マハトマ教に入教してから、キュクノスの持っている矜持や、彼の講義を拝聴していた事もあってか、

自分が尊敬する人物に纏わる「黒い噂」など、きっとキュクノスの優れた一面を知る者の、(ねた)ましい行為であるモノだと思っていました。

 

だからこそ・・・そんな、敬愛をして已まないキュクノスの、身に不釣り合いな「噂」を払拭させる為に、

今回の「カルマの噂」を持ちかけてきたのでしたが・・・

 

エルムとしては、一刻も早く上司からの下命(オーダー)を待っていた―――

 

早く・・・「彼の地にてのさばる悪魔どもを、このワシと一緒に討伐しよう―――」そう云って欲しかった・・・

 

けれど、そんなエルムの期待とは裏腹に、長い沈黙を保つキュクノス・・・

 

そこで―――流石のエルムも、不審に思ってきだしたのです。

 

「まさか・・・この人が―――??」

 

 

 

エ:あの・・・審問長? どうされたと云うのです―――・・・

 

キ:うん? うむ―――・・・

 

 

 

「まさかあ奴らめが・・・こうも早く行動(アクション)を起こすモノとは―――な・・・思ってもみなんだわ。」

「ふぅむ・・・すると、決行の(X − デイ)は近い―――と?」

「それで早く―――このワシに、裏切れ・・・と?」

「ククク・・・栓無き事よ―――それに、お誂え向きの「生贄の子羊」もおる事だし・・・なぁ?」

 

 

なんと・・・キュクノスについて、ここ最近で囁かれ出していた(くだん)の「噂」とは・・・真実なのでした。

それに、例の地域に措いて、カルマらしき者達の横行が目立つ―――と云う「噂」も、

カルマからキュクノスに対しての、「早く裏切れ」との、いわば「催促」の信号(サ イ ン)だったのです。

 

そして今回・・・自分の事を敬愛して已まない部下からの報告により、行動を起こす決意を固めるキュクノス・・・

 

しかし彼は―――彼自身が今まで信奉していた宗教の為に・・・ではなく・・・

これからの、彼自身が身を寄せる処となる国家への心証を良くするため・・・

つまりは、自分自身の身の栄達の為に、お誂え向きの「生贄の子羊」を伴って、出撃の号令を下したのです。

 

 

 

キ:よし! あい判った!! このまま奴らの思い通りにはさせん!

  (あまね)くカルマの奴らめにらは、神の鉄槌を・・・制裁を加えてやるのだ!!

  ()くぞ―――エルム・・・お前は・・・このワシだけの役に立ってさえくれればよいのだ・・・。

 

エ:はいっ―――! なんなりと、この私をお使い下さい、キュクノス審問長!

 

 

 

「フ・フ・フ・・・()い奴よ―――エルム・・・」

「そうだ・・・お前は―――」

「お前こそは・・・このワシの、新たなる栄光の、踏み台に過ぎんのだ・・・」

 

 

エルムは・・・知らない―――・・・

その純粋さ故に―――・・・

 

自分の身に・・・これから降りかかろうとしている、不幸の事など・・・

 

自分自身が―――カルマの「魔皇」に捧げられる・・・「生贄の子羊」だったことなど・・・

 

 

それにしても―――どうしてキュクノスが、カルマへの転身を図ろうとしていたのか・・・

彼もまた、マハトマ教に入教した時には、高潔な信人の人ではなかったのか・・・

 

しかし・・・そう―――・・・

彼は、余りに気高き理想であったが故に、皮肉にも道を外れてしまったのです。

 

その・・・余りにも純潔で―――穢れる事を知らない「白」は、どんな色にも染まってしまう・・・

それは―――どんな色に染めようとも、決して染まる事のない「黒」に侵食された場合・・・

 

どうなってしまうのか―――は・・・想像の域を超える事はなかったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと