ワノナ国コクトー・・・後のクーナ国ジュウテツにて、世間を騒がせている拉致・誘拐事件を巻き起こしているカルマの意向を受けし者達に、
制裁を加えるべくマハトマ教の異端審問庁が、ついに動き出しました。
・・・が、しかし―――
騒動の鎮圧は思いの外進行したのでしたが、ある一人の・・・敬虔な異端審問員の身に降りかかった不幸までは、止める事は出来なかったのです。
エ:(あ・・・っ?)ぐぶっ―――・・・
し・・・審問長・・・こ・・・これ―――は・・・?
エルムには・・・現在自分が置かれている状況など、判るはずもありませんでした・・・。
つい今しがたまで―――カルマを懲らしめる為の正義の鉄拳を振るっていた、審問長のキュクノス・・・
その彼のすぐ側で、エルムもまた・・・正義の鉄拳を振るっていたモノでしたが―――・・・
まさか・・・キュクノスの標的が・・・カルマから、自分に向けられる事など、エルムは微塵にも思っていなかったのです。
けれどしかし・・・そう思っていなくても、この身を貫く衝撃と―――流れ出る熱き血潮を見て、徐々に自分の身に迫りくる災厄を実感して行くのでした。
それにしても・・・どうして―――
どうしてエルムが、こんな目に遭わなければならなかったのでしょうか・・・
それは―――・・・
第二百六十六話;変えられぬ過去
それは、事態がこうなる三日前、コクトーで暴れ回っているカルマ達を懲らしめる準備の為に、現地にあるマハトマ教の教会にて・・・
(因みにこの教会は、行き倒れていたリリアを搬送した先でもある。)
エ:シスターさん・・・それで、この度の事件の被害に遭われた方は、どちらになりましょう。
修:はい―――・・・
こちらが、ロデリック=ピエトロ=フェデラーと申す少年になります・・・。
エ:あなたね・・・
それで―――
聞けば…その少年は、親しくしていた異性の幼馴染と一緒にいた時、不意にどこからともなく現れた暴漢達に囲まれ、
幼馴染を攫われてしまった・・・と、云ったのです。
その暴挙のあり様に、「悪は赦しておけない」と云う、正義に燃える聖職者エルム・・・
そして、この度の事件に纏わる被害を、色々と調査して回っていた時に・・・
剣:よ〜う! エルムさ〜ん!!
エ:あら、あなたは・・・
その様子では、傷は快復したようですね。
剣:えへへ・・・まあね、丈夫なだけが取り柄だからw
エ:まあっ―――ウフフフ・・・
それで・・・そちらの方は?
剣:ああ―――こいつね・・・私の知り合い。
エ:そうだったのですか・・・お会いできたのですね、良かった。
エルムの前に現れたのは、エルムが介抱した剣士風の女性と、どうやらその女性が探していた、逸れていた相方の・・・女性―――
異国風の衣装を着こみ、どこか怪しげでもあり・・・また不思議な雰囲気を醸し出している―――魅惑的な女性・・・
この時には、これまでにお世話になったお礼と、探していた相方の無事を報告する為、態々エルムの前に現れた―――と、思われるのですが・・・
それはそうと、エルムの方はこれから自分が果たさなければならない使命がある為、剣士風の女性と別れたのですが・・・
実は、この「剣士風の女性」と、「魅惑的な女性」こそは・・・
リ(剣):(・・・)なあ―――どうだ・・・
玉(魅):ふぅむ・・・未だに信じられぬが、そうであると信じずにはおれんのう。
リリアと玉藻前―――この二人が、単にお礼を述べるだけの用向きで、当事者にあったものでしょうか・・・
いえ、彼女達は―――・・・
この前日、偶然の再会を果たしたリリアと玉藻前は、お互いが無事であることを、まず喜びましたが・・・
未だ自分達の置かれている状況が把握しきれていなかった為、すぐにその話題となった処・・・
リ:それよりさ―――・・・一体どこなんだ?ここ・・・
玉:ふむ、そのこともな、同時に探らせておいた。
じゃが・・・結果待ちなのじゃよ。
リ:はあ〜? なんだよそれ・・・もっと早くに―――
玉:焦る気持ちは、判る・・・
だからこそなのじゃ、わしの・・・この、式神を地球全体に張り巡らせたのじゃからな。
玉藻前は、自分の身に起こった不可思議な現象と、自分自身でも知らずの内に施していた封印が解かれていたこと・・・
そして、自分が現在、どこにいるのかを知る為に、この地球の各地に式神を飛ばし、色々と探らせていたのです。
その内の、割りと近くに飛ばしていた式神は戻って来たようでしたが、やはり遠くにあった地域・・・しかも、その内の一つが―――・・・
リ:へえ? 私達の・・・エクステナーに飛ばしてたヤツが・・・
玉:うむ、未だ戻ってきてはおらん。
それに、お主も感じている様に、わしらの居る地点から近く・・・ロマリア国やマグレヴ国に飛ばした式は戻ってはきたが、
北のトロイア国や南のテラ国に飛ばした式は、未だ戻ってはおらん・・・
しかし、そこから推察するに、現在わしらが居る地は、パライソ国―――と、そう見て間違いはなかろう。
リ:(・・・)でもさ―――本当にここって地球なのか?
玉:そこじゃ、わしもここが地球であって欲しいと願い、お主が会っていたエルム殿と思わしき人物に式を張りつかせておった処、紛れもないご本人様じゃったわ。
自分が放った式神の・・・戻ってくる時間差を計る事により、現在の自分達の位置を把握した玉藻前。
しかも自分達がいる場所が、地球の一地域である・・・と云う事を、リリアが会っていたと云うエルムと見られる人物の行動を鑑ることで、判明したと云うのです。
それよりも・・・肝心なのが、時間軸―――
この時代が、自分達が生きていた「現代」ならば申し分ないのですが・・・
しかしながら、そうした希望的観測は、脆くも打ち砕かれてしまうのでした。
それと云うのも、儚い期待を賭けた―――エクステナー大陸に飛ばした式神が戻ってきた時に・・・
玉:むぅっ?! うぅ〜む・・・
リ:(!)ど、どうしたんだ?たま・・・
玉:リリアよ―――悪い報せじゃ・・・
リ:はあ? なんだよ・・・その思わせぶりな〜―――
玉:思わせぶりなどではない。
今、わしらがここにこうしておる時代の事が判ったのじゃ。
リ:時・・・代??
玉:紛れもなく、「過去」―――
それも、このわしが存在し始めた3000年よりも、ずっと以前―――
リ:ウ・・・ウソ・・・だろ?
玉:わしも―――そうであって欲しい・・・と、どれだけ願った事か・・・
じゃが、これこそは曲げられようもない事実なのじゃ。
リ:で・・・でも〜〜いくらお前でも、間違ってる〜って・・・
玉:フフ・・・そうじゃな―――だからこそ、わしは式を飛ばしたのじゃ、故郷の常磐へと・・・な。
リ:(!)お前や・・・市子や蓮也の生まれ故郷―――・・・それじゃ・・・
玉:うむ、建物の設え・・・文化様式などは、わしが知っておるより遥かに旧式であった・・・。
だからこそ思うに、わしやお主を取り巻いておった、あの虹色の光・・・
あの光こそが、わしらを過去へと飛ばした要因と見られる。
そう説明したものの、実は玉藻前でも「半信半疑」・・・
それと云うのも、時間に作用させる術式など、所詮は夢物語ではあるし、もしその事が可能であれば、
自分がやり直したい過去の分岐点へと戻り、選択を違わせればいいまでのこと・・・
しかし・・・その事は同時に、「現在の自分」が、なくなってしまう―――と、云うこと・・・
「現在」、自分がここにこうしてあるのは、過去に自分が選択した事により得られた結果・・・
それがもし―――「過去」の選択をその時に違わせていれば、より良き結果を得られたかもしれない・・・
が、しかし―――・・・その結末の先には、「現在の自分」は、存在していないだろう・・・
「現在」とはまた違った結果を知りたい気持ちがある一方、「現在」もそう満更悪くはないと思っている自分がいる・・・
それを・・・一時の感情で、変えてしまうのはいかがなものか―――・・・
しかも、現在自分達がここにこうしているのは、自分達の過去ですらない・・・
自分達が存在していたよりも、遙かな過去・・・
それは・・・リリア達が生きている時代よりも、110万年も、前―――・・・
しかしリリアは・・・いや、リリアよりも過去の歴史に詳しい玉藻前ですら、知らない時代―――
それがもし、自分達がこの時代に作用してしまえば、彼女達が知る「現在」が変わる危険性がある事を、知らずにいたとしたら・・・?
それに今回、そんな彼女達が、自分達を救ってくれたお礼に―――と、「現在」でも自分達の知る「ある人物」に、また出会ってしまった・・・
それに、玉藻前は、エルムと会う事によって、エルムが近い未来に遭うであろう、不幸の事実を敏感に察知していたのです。
玉:それに・・・残念じゃが、あの方は近い未来、死を迎えるであろう・・・。
リ:あんだってぇ? そんな―――・・・
玉:しかし考えても見よ、わしらの知るエルム殿は、生きてはおらん・・・つまり「不死者」なのじゃ。
しかし―――今のこの時点で、わしらに会っておるエルム殿は間違いなく生きておる・・・
つまり―――じゃ・・・一つの可能性として考えられるのは、どうやらわしらは、エルム殿がヴァンパイアとなる、その前日に来てしまったのではないかな。
リ:それじゃ・・・どうしろってんだ―――そうなる前に阻止するのか?!
玉:いや、それでは拙い―――もし、わしらがその事を阻止すれば、エルム殿の未来・・・それと、わしらが知っておる「現在」そのものに、悪影響を及ぼすと考えられる。
残念じゃが・・・ここでエルム殿が死を迎えてしまう―――それはそれで、理に叶っておる事なのじゃよ・・・
非常にも、エルムを見殺しにする・・・そうしなければ、本来自分達がいた「現在」が―――つまり歴史が全く変わってしまう危険性を、玉藻前は説いたのです。
その事にリリアは反発―――いつものように、「そんな事は、知ったこっちゃねぇ!」・・・と、そうするであろう―――と、玉藻前は思っていました。
そう・・・以前に知る、リリアであったなら・・・必ずやそうした事でしょう―――
しかしリリアは―――・・・
リ:(・・・)そか、辛いな―――知っていて尚、それを見過ごす・・・ってのが、こんなにも辛いなんて・・・な。
玉:(?!)お主―――・・・
リ:ああ・・・知ってるんだよ、自分の都合だけで、歴史を簡単に変えようとした事のあるヤツがいる事を・・・
ま―――これも、あんまし有り難くもない事なんだけど、「天帝の后」をやってた時に、「ミリティア」って人経緯で聞かされたんだけれどな。
それに・・・どうやらお前をこんな事に巻き込んじまったのは、私の所為らしい・・・
そこんところは、悪かったな・・・こんな事につきあわしちまってよ。
思いの外素直だった事に、玉藻前は驚きの色を隠せませんでしたが、その後のリリアの独白を聞き、
自分達の身に起こってしまった事象の原因を知ることとなったのでした。
=続く=